本編
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電話を切った烏丸は口元を押さえた。なんだあれは。破壊力がすぎるだろう。とくべつで大切。それが今の烏丸の位置。まだそこから紐解く過程は残っているが関係は変わってきている。烏丸と話すだけで緊張してる姿が可愛くて仕方なかった。
「兄ちゃんなにニヤニヤしてんの?」
「ほっといてくれ」
「ご機嫌だなー」
弟はそう言ってリビングの方へ行った。「なんか兄ちゃんがひとりでニヤニヤしてるー!」家族全員にバラされたが今の烏丸には屁でもない。ある意味最強なので。
ふう、と息を吐く。ここで攻め立てたいがまだそれは早い。相手は恋愛初心者マークがついてる上に、思考が常人の斜め上を真っ直ぐ突き進む人間なのだ。あれ? 気のせいだった? とか言い出す可能性がゼロじゃないのが恐ろしい。ちゃんと烏丸を意識させ続けなければ。無理をさせない程度で。そう思いながら我が玉狛支部のボスの顔を浮かべる。少し前のことだった。
『恋愛音痴? ナマエさんが?』
『というか避けてきたというか……まあ音痴でもいいか』
ちょっといいか、と連れてこられたのはボスの部屋。そこでいいとこのどら焼きをご馳走になりながら話の焦点になったのは烏丸の最愛について。もうここまで話が進んでいるのかと思いながら聞いていると、なにやらナマエの悪癖について語られた。そんなの山ほどあるがと思いつつ訊くと、
『恋愛はまた別なんだ。あいつの生まれに関係しててな』
と少し深刻な表情を浮かばせた。
曰く、幼稚園のときの話らしい。ナマエの周りには優しい人も普通な人も心無い人もいたという。そしてその心無い人物が余計なことを言った。子どもは父母の愛情で生まれるのだと。だから子どもは愛される存在なのだと。その言葉自体はなんの問題もない。問題なのはそれを幼子を傷つける言葉として使ったこと。
ナマエは思ったらしい。子どもは愛の結晶。じゃあなんで自分に親がいないのか、と。それを訊ねられた若かった林藤達はうまく答えてやることが出来なかったという。おまえは俺たちの子どもだと言ってもナマエが訊きたいのは肉親の話。捨てられたと子どもに話すのも憚られる。
割合さっぱりした性格のナマエでもしばらく悩んだという。悩んで悩んで悩みぬいて結論したこと。いないもんはいないんだ、と。
『……それで納得したんすか、ナマエさんは』
『納得させたってのが事実に近いだろうな。ナマエに嫌み言ったのは同じ幼稚園に通う園児のママさんでな。そいつに言ったんだよ。「おばちゃんの言うことむずかしいけどわたしは最上さんたちがいるから大丈夫だよ」って。まあそこからナマエに嫌がらせしていたのがバレて夫婦仲はうまくいかなかったみたいだが』
親の顔も知らない子どもが同じ園に通ってるなんて気にくわない。そんな気持ちからやっていた。迷惑な話である。
『で、ここから話がややこしくなるんだが、その夫婦離婚して子供は父親に引き取られたんだが……その子供がナマエをやっかんでな。きっかけは確かにナマエが関わってるが悪いのは悪意を向けた大人だ。だが、そんなこと子供には伝わらなくてなあ。「ナマエちゃんのせいでお母さんがいなくなったんだ」って泣いちまってな』
いやぁ泥沼だったよ。当時のことを思い出したのか林藤の口調は重々しかった。
『その件があってからナマエがおままごとでお父さんお母さん役しなくなっちゃってな』
『……トラウマってことですか?』
『ああ。幼稚園の先生方も協力して対応してくれたんだがうまくいかなかった。ナマエもしたくないっていうのに無理やりさせるのも違うしな。……あいつ初恋とかまだだろう? 多分この一連のことが原因で無意識に線を引いてると思うんだよな。あとは……小四のバレンタインか。そのときもなんかあったらしくてな。それは詳しく聞いてないんだが』
『…………』
『だからナマエがおまえの気持ちに対して鈍感なところとか出てくると思うんだが、少し様子を見てやってほしいんだ。今年で二十歳の奴に言う事じゃないかもしれないけどな』
そういった林藤は親の顔をしていた。
「無意識のトラウマ、か」
あの年で初恋もまだ。嫉妬もしたことありませんでした。恋愛のことは分かりません。……これだけ並べるとえらくナマエが純粋培養の純粋無垢人間のように思えてくるのが不思議だ。事実を陳列しただけなのに。実際は真逆だ。幼い頃から実の親はいない。その親代わりの人は中学生のとき二度と会えなくなってしまった。そのとき心を許した仲間たちも失う。辛酸を舐め続けているような人生だと言う人もいるだろう。本人がそう思っていないからその考えは侮辱でしかないが。
こうも波乱万丈な人生を送っていたら恋なんて考える暇もなかったのかもしれない。特に幼稚園から嫌な記憶として植え付けられてしまったのなら。
まあ、やること変わらないんだけどな。
烏丸は開き直った。だって教えればいいだけの話だ。これまでみたいに。実の親の愛情は知らないだろうけど、ナマエは最上をはじめとするボーダー上層部の面々を親だと思っている。そこから伝えられた親愛をちゃんと知っている。恋愛のれの字も知ろうとしてなかったのなら烏丸が一から伝えればいい話だ。現にそれを行っている真っ最中である。ナマエにも変化が出てきた。経過は良好だ。出来た傷は塞げばいい。……まあ二宮の一件では泣かせてしまったので全部うまくいっているわけではないが。
烏丸はどこまででも待つ所存だった。ナマエのペースでいい。最終的に烏丸の腕のなかにいるのならば。
「……でも最近可愛くて勝手に手がでるんだよな」
自制、はできるだけするつもりだがどこまで我慢できるか。……ナマエさん早く落ちてきてくれ。さっきとは真逆のことを考えつつ就寝の準備に入る烏丸だった。
「兄ちゃんなにニヤニヤしてんの?」
「ほっといてくれ」
「ご機嫌だなー」
弟はそう言ってリビングの方へ行った。「なんか兄ちゃんがひとりでニヤニヤしてるー!」家族全員にバラされたが今の烏丸には屁でもない。ある意味最強なので。
ふう、と息を吐く。ここで攻め立てたいがまだそれは早い。相手は恋愛初心者マークがついてる上に、思考が常人の斜め上を真っ直ぐ突き進む人間なのだ。あれ? 気のせいだった? とか言い出す可能性がゼロじゃないのが恐ろしい。ちゃんと烏丸を意識させ続けなければ。無理をさせない程度で。そう思いながら我が玉狛支部のボスの顔を浮かべる。少し前のことだった。
『恋愛音痴? ナマエさんが?』
『というか避けてきたというか……まあ音痴でもいいか』
ちょっといいか、と連れてこられたのはボスの部屋。そこでいいとこのどら焼きをご馳走になりながら話の焦点になったのは烏丸の最愛について。もうここまで話が進んでいるのかと思いながら聞いていると、なにやらナマエの悪癖について語られた。そんなの山ほどあるがと思いつつ訊くと、
『恋愛はまた別なんだ。あいつの生まれに関係しててな』
と少し深刻な表情を浮かばせた。
曰く、幼稚園のときの話らしい。ナマエの周りには優しい人も普通な人も心無い人もいたという。そしてその心無い人物が余計なことを言った。子どもは父母の愛情で生まれるのだと。だから子どもは愛される存在なのだと。その言葉自体はなんの問題もない。問題なのはそれを幼子を傷つける言葉として使ったこと。
ナマエは思ったらしい。子どもは愛の結晶。じゃあなんで自分に親がいないのか、と。それを訊ねられた若かった林藤達はうまく答えてやることが出来なかったという。おまえは俺たちの子どもだと言ってもナマエが訊きたいのは肉親の話。捨てられたと子どもに話すのも憚られる。
割合さっぱりした性格のナマエでもしばらく悩んだという。悩んで悩んで悩みぬいて結論したこと。いないもんはいないんだ、と。
『……それで納得したんすか、ナマエさんは』
『納得させたってのが事実に近いだろうな。ナマエに嫌み言ったのは同じ幼稚園に通う園児のママさんでな。そいつに言ったんだよ。「おばちゃんの言うことむずかしいけどわたしは最上さんたちがいるから大丈夫だよ」って。まあそこからナマエに嫌がらせしていたのがバレて夫婦仲はうまくいかなかったみたいだが』
親の顔も知らない子どもが同じ園に通ってるなんて気にくわない。そんな気持ちからやっていた。迷惑な話である。
『で、ここから話がややこしくなるんだが、その夫婦離婚して子供は父親に引き取られたんだが……その子供がナマエをやっかんでな。きっかけは確かにナマエが関わってるが悪いのは悪意を向けた大人だ。だが、そんなこと子供には伝わらなくてなあ。「ナマエちゃんのせいでお母さんがいなくなったんだ」って泣いちまってな』
いやぁ泥沼だったよ。当時のことを思い出したのか林藤の口調は重々しかった。
『その件があってからナマエがおままごとでお父さんお母さん役しなくなっちゃってな』
『……トラウマってことですか?』
『ああ。幼稚園の先生方も協力して対応してくれたんだがうまくいかなかった。ナマエもしたくないっていうのに無理やりさせるのも違うしな。……あいつ初恋とかまだだろう? 多分この一連のことが原因で無意識に線を引いてると思うんだよな。あとは……小四のバレンタインか。そのときもなんかあったらしくてな。それは詳しく聞いてないんだが』
『…………』
『だからナマエがおまえの気持ちに対して鈍感なところとか出てくると思うんだが、少し様子を見てやってほしいんだ。今年で二十歳の奴に言う事じゃないかもしれないけどな』
そういった林藤は親の顔をしていた。
「無意識のトラウマ、か」
あの年で初恋もまだ。嫉妬もしたことありませんでした。恋愛のことは分かりません。……これだけ並べるとえらくナマエが純粋培養の純粋無垢人間のように思えてくるのが不思議だ。事実を陳列しただけなのに。実際は真逆だ。幼い頃から実の親はいない。その親代わりの人は中学生のとき二度と会えなくなってしまった。そのとき心を許した仲間たちも失う。辛酸を舐め続けているような人生だと言う人もいるだろう。本人がそう思っていないからその考えは侮辱でしかないが。
こうも波乱万丈な人生を送っていたら恋なんて考える暇もなかったのかもしれない。特に幼稚園から嫌な記憶として植え付けられてしまったのなら。
まあ、やること変わらないんだけどな。
烏丸は開き直った。だって教えればいいだけの話だ。これまでみたいに。実の親の愛情は知らないだろうけど、ナマエは最上をはじめとするボーダー上層部の面々を親だと思っている。そこから伝えられた親愛をちゃんと知っている。恋愛のれの字も知ろうとしてなかったのなら烏丸が一から伝えればいい話だ。現にそれを行っている真っ最中である。ナマエにも変化が出てきた。経過は良好だ。出来た傷は塞げばいい。……まあ二宮の一件では泣かせてしまったので全部うまくいっているわけではないが。
烏丸はどこまででも待つ所存だった。ナマエのペースでいい。最終的に烏丸の腕のなかにいるのならば。
「……でも最近可愛くて勝手に手がでるんだよな」
自制、はできるだけするつもりだがどこまで我慢できるか。……ナマエさん早く落ちてきてくれ。さっきとは真逆のことを考えつつ就寝の準備に入る烏丸だった。