本編
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山原ナマエは二宮にとってシューターの先輩であり、学年上の後輩であり、厄介者であり、出来の悪い犬であり、放っておけない存在だった。
ボーダーに入隊したとき、トリオン能力の高さからガンナーかシューターを進められた。そこで引き合わされたのがナマエだった。
「器用だったらシューター。ぶっ飛ばしたいなと思ったらガンナーがいいよ」
説明になっていない説明を受け、なぜこれを進めたとボーダー職員に苦言を言いたくなった。人材不足にもほどがある。結局どちらも体験した結果、シューターを選ぶことになったのだが、先輩があれになるということに頭を悩ませた。バカだろあれと思ったのだ。残念ながら初対面の印象は間違っていなかった。
しかし指導の際の助言は意外にも的確で二宮は元来の起用さからみるみる成長していった。途中で実力でナマエを追い越してもナマエは変わらずアホで嫉妬や虚栄心など全くない人物だと知った。それはそれでどうなのかと思わないこともあったが、面倒に巻き込まれないならよかった。
「ニノさんニノさん、パンケーキ食べにいこ」
「ひとりで行け」
「フルーツましましかダブルクリームましましかで悩んでるの」
「話をきけ」
なぜか仏頂面の自分に懐いたときは疑問符がわいた。しかし、ネイバーに固執する三輪や強面の城戸といった人間たちにも臆することなく関わっていくのをみて、元来人懐っこいのだろうと思った。懐かれるのは悪い気分にはならなかった。年も一つ違い、ポジションも同じとなると関わることが多かった。
「ニノさん防衛任務一緒じゃん。よろしくね」
「ニノさんニノさん、反省文渡されたんだけどちょっと書いてみない? 書いたことないでしょ? 体験って大事よ」
「ニノさん一緒に遊んで。小南が反抗期。さびしい」
「ニノさん! かくまって! 諏訪さんが怒ってる!」
面倒ごとも持ってくるが、いつも騒がしく笑いながら過ごしている姿をみて、自分でも絆されているのを感じていたのだ。
「ナマエ」
「うん?」
「……違う山原」
「いや違わないよこんにちはナマエです」
下の名前で呼ばれることの多いナマエにつられていつもと違う呼び方で呼んでしまったのも、気を許し始めている前触れだったのだろう。
「ナマエでいいよニノさん。別にどっちでもいいけど」
「どっちだ」
適当な言葉に呆れた。呆れたが、結局下の名前で呼び始めた自分にも呆れた。あら? 特別扱い? と笑う加古の言葉は無視した。自覚はあったのだ。バカな子ほど可愛い。誰が言い出したのか分からないそれにまんまと引っかかった。山原ナマエは二宮の庇護する相手になった。そんなに弱くもないのに。
そのときはそう思っていたが、そうじゃないと知ったのはしばらく経ってからだった。
ナマエの様子が変わったのだ。アホ面で笑うことが少なくなり、本部職員と関わろうとしなくなった。厳密に言えば新しく入った本部職員だ。もちろん二宮もそこに含まれていた。ナマエは玉狛支部に入り浸るようになった。
悩みがあったらすぐさま発散するような性格をしてるくせにいっちょ前に悩み続けるとは何様だ。嵐山辺りは様子を見ようとしていたが、二宮はすぐさまナマエを捕獲した。吐け、と。
最初は拒絶されたが、こちらも無視され続けて腹が立っていた。悩みも相談されない間柄ではないと二宮は思っていたからだ。ナマエもそう思っていたのだろう。しどろもどろに話始めた。重い過去と理由を。
『またみんないなくなったらどうしよう』
弱った子どもそのものだった。実際にナマエはまだ中学生だった。背負いきれなかったのだろう。そう感じていたのに二宮が感じたのは理不尽な怒りだった。
研鑽した日々も、トリガー向上の為の開発に勤しむ技術者達の努力も、ネイバー侵攻を少しでも抑えようと隊員達を増やす上層部達の日々を。こいつは知らないはずがない。何より簡単に消えてしまうと思われているのが業腹だった。二宮もそのときは高校一年生。感情が抑えられなかったのだ。
『俺達と死人を比べるな。不愉快だ』
言った側から後悔した。かける言葉はこうじゃない。一瞬揺らいだナマエの瞳に気づいてすぐに謝ろうとした。しかしナマエの動きのほうが早かった。
『そんなん分かってるわばーか!』
怒りの表情と声。当たり前だ。死人を愚弄するような物言いをしたのだ。大切なものほど人は固執する。ナマエにとってまだ旧ボーダーの人間たちは過去になっていない。二宮の言葉などただの刃でしかなかった。
それからはとんとん拍子に関係が悪化していった。積み上げてきたものが崩れるのは簡単だった。
***
「なんで抱きつくの……?」
「安心したいんで」
「???」
何を見せられているのか。
ナマエと烏丸の抱擁シーン。いや、抱擁というには一方的にナマエが包まれているだけだが。
烏丸がナマエのことを気にしていたのは知っていた。よく視線をやるし関わりにも行っていた。なにより目が愛情を伝えていた。何故か他のボーダーの面々にはほぼ伝わっていなかったが。何故だあんなに分かりやすいだろ。二宮はそう思っていた。張本人であるナマエは気づきもしていなかった。……はずだった。
「このくらいくっつくのは俺だけにしてください」
「えっ小南とかも?」
「小南先輩や宇佐美先輩は別です。他の女性隊員は…………オッケーです」
女でも制限をかけようとしてぎりぎりやめた烏丸に眉が寄った。とんだ束縛男だ。そもそもおまえの距離はいいのか。どんどんツッコミ所が出てくる。
ナマエも嫌なら反抗しろと言おうとした。言おうとして止めた。二宮の知っているバカ犬はやなことは絶対にやらない性格をしているのだ。つまり今の状態を許容しているということは…………、
「返事は?」
「わ、わかった……?」
「うん」
うん、じゃねぇ。おまえも流されるな。そう言いたいが今まで距離があった仲で「その男とんでもなく狭量だから目を覚ませ」とは言いにくい。二宮は少しだけナマエとの関係がトラウマになっていた。
『……………ニノさん』
だからこの一言で仲直りしなければならないと思ったのだ。ナマエが歩み寄ってきたのだから。次はこちらが歩み寄る番だと。そして仮にも仲立ちしてくれたこの狭量男を二宮は認めなくてはならない。問題点が今の段階で見えていたとしても。
「二宮さんでよくないですか? 呼び方」
「ううん、ニノさんがいい」
「そうですか……」
ナマエが戻ってきた。二宮のバカ犬が。
納得していない狭量男に内心口角が上がった。
ボーダーに入隊したとき、トリオン能力の高さからガンナーかシューターを進められた。そこで引き合わされたのがナマエだった。
「器用だったらシューター。ぶっ飛ばしたいなと思ったらガンナーがいいよ」
説明になっていない説明を受け、なぜこれを進めたとボーダー職員に苦言を言いたくなった。人材不足にもほどがある。結局どちらも体験した結果、シューターを選ぶことになったのだが、先輩があれになるということに頭を悩ませた。バカだろあれと思ったのだ。残念ながら初対面の印象は間違っていなかった。
しかし指導の際の助言は意外にも的確で二宮は元来の起用さからみるみる成長していった。途中で実力でナマエを追い越してもナマエは変わらずアホで嫉妬や虚栄心など全くない人物だと知った。それはそれでどうなのかと思わないこともあったが、面倒に巻き込まれないならよかった。
「ニノさんニノさん、パンケーキ食べにいこ」
「ひとりで行け」
「フルーツましましかダブルクリームましましかで悩んでるの」
「話をきけ」
なぜか仏頂面の自分に懐いたときは疑問符がわいた。しかし、ネイバーに固執する三輪や強面の城戸といった人間たちにも臆することなく関わっていくのをみて、元来人懐っこいのだろうと思った。懐かれるのは悪い気分にはならなかった。年も一つ違い、ポジションも同じとなると関わることが多かった。
「ニノさん防衛任務一緒じゃん。よろしくね」
「ニノさんニノさん、反省文渡されたんだけどちょっと書いてみない? 書いたことないでしょ? 体験って大事よ」
「ニノさん一緒に遊んで。小南が反抗期。さびしい」
「ニノさん! かくまって! 諏訪さんが怒ってる!」
面倒ごとも持ってくるが、いつも騒がしく笑いながら過ごしている姿をみて、自分でも絆されているのを感じていたのだ。
「ナマエ」
「うん?」
「……違う山原」
「いや違わないよこんにちはナマエです」
下の名前で呼ばれることの多いナマエにつられていつもと違う呼び方で呼んでしまったのも、気を許し始めている前触れだったのだろう。
「ナマエでいいよニノさん。別にどっちでもいいけど」
「どっちだ」
適当な言葉に呆れた。呆れたが、結局下の名前で呼び始めた自分にも呆れた。あら? 特別扱い? と笑う加古の言葉は無視した。自覚はあったのだ。バカな子ほど可愛い。誰が言い出したのか分からないそれにまんまと引っかかった。山原ナマエは二宮の庇護する相手になった。そんなに弱くもないのに。
そのときはそう思っていたが、そうじゃないと知ったのはしばらく経ってからだった。
ナマエの様子が変わったのだ。アホ面で笑うことが少なくなり、本部職員と関わろうとしなくなった。厳密に言えば新しく入った本部職員だ。もちろん二宮もそこに含まれていた。ナマエは玉狛支部に入り浸るようになった。
悩みがあったらすぐさま発散するような性格をしてるくせにいっちょ前に悩み続けるとは何様だ。嵐山辺りは様子を見ようとしていたが、二宮はすぐさまナマエを捕獲した。吐け、と。
最初は拒絶されたが、こちらも無視され続けて腹が立っていた。悩みも相談されない間柄ではないと二宮は思っていたからだ。ナマエもそう思っていたのだろう。しどろもどろに話始めた。重い過去と理由を。
『またみんないなくなったらどうしよう』
弱った子どもそのものだった。実際にナマエはまだ中学生だった。背負いきれなかったのだろう。そう感じていたのに二宮が感じたのは理不尽な怒りだった。
研鑽した日々も、トリガー向上の為の開発に勤しむ技術者達の努力も、ネイバー侵攻を少しでも抑えようと隊員達を増やす上層部達の日々を。こいつは知らないはずがない。何より簡単に消えてしまうと思われているのが業腹だった。二宮もそのときは高校一年生。感情が抑えられなかったのだ。
『俺達と死人を比べるな。不愉快だ』
言った側から後悔した。かける言葉はこうじゃない。一瞬揺らいだナマエの瞳に気づいてすぐに謝ろうとした。しかしナマエの動きのほうが早かった。
『そんなん分かってるわばーか!』
怒りの表情と声。当たり前だ。死人を愚弄するような物言いをしたのだ。大切なものほど人は固執する。ナマエにとってまだ旧ボーダーの人間たちは過去になっていない。二宮の言葉などただの刃でしかなかった。
それからはとんとん拍子に関係が悪化していった。積み上げてきたものが崩れるのは簡単だった。
***
「なんで抱きつくの……?」
「安心したいんで」
「???」
何を見せられているのか。
ナマエと烏丸の抱擁シーン。いや、抱擁というには一方的にナマエが包まれているだけだが。
烏丸がナマエのことを気にしていたのは知っていた。よく視線をやるし関わりにも行っていた。なにより目が愛情を伝えていた。何故か他のボーダーの面々にはほぼ伝わっていなかったが。何故だあんなに分かりやすいだろ。二宮はそう思っていた。張本人であるナマエは気づきもしていなかった。……はずだった。
「このくらいくっつくのは俺だけにしてください」
「えっ小南とかも?」
「小南先輩や宇佐美先輩は別です。他の女性隊員は…………オッケーです」
女でも制限をかけようとしてぎりぎりやめた烏丸に眉が寄った。とんだ束縛男だ。そもそもおまえの距離はいいのか。どんどんツッコミ所が出てくる。
ナマエも嫌なら反抗しろと言おうとした。言おうとして止めた。二宮の知っているバカ犬はやなことは絶対にやらない性格をしているのだ。つまり今の状態を許容しているということは…………、
「返事は?」
「わ、わかった……?」
「うん」
うん、じゃねぇ。おまえも流されるな。そう言いたいが今まで距離があった仲で「その男とんでもなく狭量だから目を覚ませ」とは言いにくい。二宮は少しだけナマエとの関係がトラウマになっていた。
『……………ニノさん』
だからこの一言で仲直りしなければならないと思ったのだ。ナマエが歩み寄ってきたのだから。次はこちらが歩み寄る番だと。そして仮にも仲立ちしてくれたこの狭量男を二宮は認めなくてはならない。問題点が今の段階で見えていたとしても。
「二宮さんでよくないですか? 呼び方」
「ううん、ニノさんがいい」
「そうですか……」
ナマエが戻ってきた。二宮のバカ犬が。
納得していない狭量男に内心口角が上がった。