本編
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薄く目を覚ますと温かいものに包まれていた。部屋は暗い。布が顔にほぼくっついている。頭に何かが回っていてそれがどことなく落ち着いた。
「うーん……」
温かい何かにすり寄る。いい匂いがした。自分の腕が何かに回って掴まる。落ちつく。ベストポジションだと思った。しかしこれは何だろうか。
目をゆるゆると開けるとぼやけた布が視界に入る。布団ではない。なんだこれ。自分が掴まっているものをじっと見つめると服だと気づいた。服。人間が着るやつ。
少し目が冴えて顔を上下に動かす。すると頭の頂点にやや固いものが当たった。
「んん、」
「!?」
すぐ上から低い良い声がして心臓が飛び跳ねる思いがした。視線を上にやると喉仏がみえた。喉仏。……人間だ!? というかこれ烏丸!!
回っていない思考を必死に回らせる。近すぎる。というか一緒に寝てる。というか抱きしめられてる。頭に回ってたの腕か。近い近い近い。ナマエは混乱状態だった。何故か起こしてはいけないと思い、ゆっくりゆっくりとばれないよう腕の外へ出ようと動く。空き巣魔のような心境だった。
腕から脱出してベッドの下に降りたナマエは5kmぐらい走ったような気分だった。つまり酷く疲れている。はあ、と音を立てないようにため息をついた。
「昨日どこまで話したっけ……」
口から素直に吐露した言葉達。あそこまで何の飾りもなく話したのは久しぶりだったのではないか。いや、普段好き放題言っている質なのは自覚しているのだが、昨日のは明確に違っていた。まるで小さい子どもが大人に対して何の憂いも邪気もなく真正直に話しているかのような心情。実際はナマエは烏丸の三つ上。もうすぐ二十歳。事実はナマエの上に重くのしかかる。率直に言って恥ずかしい。
「~~~~っ」
噴火しそうになる顔と口をクッションで押さえながら悶える。迅にだってあんなに甘えたりしない。というか涙腺が死滅していた。ぼろぼろぼろぼろと泣いてしまっていた。いくら弱いところを突かれたといってあんな醜態を晒すとは。普段なら取り繕うことができる。茶化すこともできる。でも出来なかった。理由は明確だ。烏丸だから。
とくべつは厄介である。
身に染みて感じた。
「とくべつ……」
小南もレイジももちろん迅だって特別だ。仲間に区別はしないが死線をくぐり抜けてきた古い友人達だ。カテゴリーがやはり違ってくる。迅は家族。小南は妹のような友達。レイジは兄のような友達。どれも大事で特別。そこに乱入してきた烏丸京介という男のカテゴリーはなんなのか。まだナマエは分かっていない。ただとくべつだと理解したばかりである。
「人の気も知らずにのん気に寝てやがる」
静かに寝息を立てる烏丸を観察する。おでこが出ていていつもより幼く見えた。それが何の陰りもならずにいつも通り美形なのだから神様というのは不公平だ。こちとら出水辺りに不細工な寝顔と評して写真まで撮られた身である。見られるのは憚られる。出水に見られても屁でもないが。
「……先に起きてよかった」
ナマエは安堵していたが、先に寝たのはナマエでベッドに運んだのが烏丸であるという事実に気づくのはしばらく後になる。
「ん、」
「!!」
「ナマエさん……どこ……ああいた。なんでそこにいるんですか」
「と、トイレにいってました」
「そうですか」
寝起きのかすれた声で迷子のような声を出す烏丸にどぎまぎさせられるナマエ。なんだ寝起きも完璧かこの男。そんなことを思っていたらベッド下に降りてきて隣に腰を落ち着けた。そして、
「目、ちょっと腫れましたね。冷やせばよかった」
「大丈夫、です」
両頬を包んで親指で目元を優しく触られた。悔やんだように言う姿に疑問符が浮かんだが、そういえば泣いたときに謝罪されたことを思い出す。別に烏丸に泣かされたわけではない。ナマエが放っておいた過去のせいだ。そう思い、両手を烏丸の両手に重ねて再び「大丈夫」といった。
「それより泊まらせてごめんね」
「あのときのナマエさんより優先することなんてありませんでしたよ」
「うぐ、そ、うですか」
「そうですよ。大事なんです。自覚してください」
「……風間さんも似たようなこといってた気が」
「は? いつ? どこで? なんで?」
「怖い怖い怖い。ちがう! ニュアンスがちがう! 自分を大事にしろ! ってかんじだった!」
一気にハイライトを消した烏丸に言い訳を連ねる。そういう妖怪かと思った。
妖怪扱いされた男は「まあ……風間さんなら言いそうだな……」と一旦納得したらしい。ナマエは一息ついた。浮気調査みたいだったなと同時に思った。ずいぶん圧迫感のある浮気調査である。
「風間さんがライバルだったら勝ち目が薄くなりそうなので普通に嫌ですね」
「自慢じゃないけどモテないんですよ」
「犬飼先輩とか生駒さんとかいるじゃないすか」
「あれらはそういう生態の生き物だから……」
というか恋愛的に好かれているのではないだろうどちらとも。特に犬飼。あれは茶化してるだけである。思い出したら腹が立ってきた。
ちなみに生駒はなんでもカワイイ病なだけである。
「烏丸だけだよ」
「……それ違うニュアンス入ってたら最高の言葉でしたね」
「?」
「まあいいか。朝飯どうしますか? どこか食べにいってもいいですし、作りますよ」
「面倒かけたお詫びに私が作りますよ」
「…………」
「烏丸?」
「ちょっといいなこのシチュエーションって思っただけです」
なんか知らないが喜んでいるらしい。朝ご飯ぐらいでお手頃な男である。
ご飯を炊いて冷凍していた鮭を焼き、豆腐と玉ねぎの味噌汁と明太子の賞味期限が切れそうだったので明太子の玉子焼。常備してあったほうれん草のお浸しも出した。よくある朝ご飯の風景である。
「……ナマエさんって普通に料理する人ですよね。なんでよく玉狛に来てるんですか」
「一人ご飯さびしいじゃん」
「だったら玉狛帰ってきてくださいよ」
「ノーコメント」
「そこだけは強情ですよね」
「なんとでも言いたまえ」
本部所属は自分が決めたことだ。覆す気はなかった。
「それよりもうすぐ選抜試験始まるけどなんか準備した?」
「まあA級も審査される側なんでそれなりに」
「私も審査されるのかなぁ」
「ナマエさんは未知数すぎて分かりません」
「悪口ですか?」
「ただの本音です」
つまり悪口じゃねーか。
ローテーブルの上から手を伸ばして手の甲をデコピンする。満足した。するとクスクス笑い出す烏丸。なにゆえ……とナマエが引いていると、楽しげに口を開いた。
「同棲してるみたいで楽しいなって」
「…………ノーコメントで」
誤魔化すように味噌汁を飲んだ。わかめいれるの忘れた。
「うーん……」
温かい何かにすり寄る。いい匂いがした。自分の腕が何かに回って掴まる。落ちつく。ベストポジションだと思った。しかしこれは何だろうか。
目をゆるゆると開けるとぼやけた布が視界に入る。布団ではない。なんだこれ。自分が掴まっているものをじっと見つめると服だと気づいた。服。人間が着るやつ。
少し目が冴えて顔を上下に動かす。すると頭の頂点にやや固いものが当たった。
「んん、」
「!?」
すぐ上から低い良い声がして心臓が飛び跳ねる思いがした。視線を上にやると喉仏がみえた。喉仏。……人間だ!? というかこれ烏丸!!
回っていない思考を必死に回らせる。近すぎる。というか一緒に寝てる。というか抱きしめられてる。頭に回ってたの腕か。近い近い近い。ナマエは混乱状態だった。何故か起こしてはいけないと思い、ゆっくりゆっくりとばれないよう腕の外へ出ようと動く。空き巣魔のような心境だった。
腕から脱出してベッドの下に降りたナマエは5kmぐらい走ったような気分だった。つまり酷く疲れている。はあ、と音を立てないようにため息をついた。
「昨日どこまで話したっけ……」
口から素直に吐露した言葉達。あそこまで何の飾りもなく話したのは久しぶりだったのではないか。いや、普段好き放題言っている質なのは自覚しているのだが、昨日のは明確に違っていた。まるで小さい子どもが大人に対して何の憂いも邪気もなく真正直に話しているかのような心情。実際はナマエは烏丸の三つ上。もうすぐ二十歳。事実はナマエの上に重くのしかかる。率直に言って恥ずかしい。
「~~~~っ」
噴火しそうになる顔と口をクッションで押さえながら悶える。迅にだってあんなに甘えたりしない。というか涙腺が死滅していた。ぼろぼろぼろぼろと泣いてしまっていた。いくら弱いところを突かれたといってあんな醜態を晒すとは。普段なら取り繕うことができる。茶化すこともできる。でも出来なかった。理由は明確だ。烏丸だから。
とくべつは厄介である。
身に染みて感じた。
「とくべつ……」
小南もレイジももちろん迅だって特別だ。仲間に区別はしないが死線をくぐり抜けてきた古い友人達だ。カテゴリーがやはり違ってくる。迅は家族。小南は妹のような友達。レイジは兄のような友達。どれも大事で特別。そこに乱入してきた烏丸京介という男のカテゴリーはなんなのか。まだナマエは分かっていない。ただとくべつだと理解したばかりである。
「人の気も知らずにのん気に寝てやがる」
静かに寝息を立てる烏丸を観察する。おでこが出ていていつもより幼く見えた。それが何の陰りもならずにいつも通り美形なのだから神様というのは不公平だ。こちとら出水辺りに不細工な寝顔と評して写真まで撮られた身である。見られるのは憚られる。出水に見られても屁でもないが。
「……先に起きてよかった」
ナマエは安堵していたが、先に寝たのはナマエでベッドに運んだのが烏丸であるという事実に気づくのはしばらく後になる。
「ん、」
「!!」
「ナマエさん……どこ……ああいた。なんでそこにいるんですか」
「と、トイレにいってました」
「そうですか」
寝起きのかすれた声で迷子のような声を出す烏丸にどぎまぎさせられるナマエ。なんだ寝起きも完璧かこの男。そんなことを思っていたらベッド下に降りてきて隣に腰を落ち着けた。そして、
「目、ちょっと腫れましたね。冷やせばよかった」
「大丈夫、です」
両頬を包んで親指で目元を優しく触られた。悔やんだように言う姿に疑問符が浮かんだが、そういえば泣いたときに謝罪されたことを思い出す。別に烏丸に泣かされたわけではない。ナマエが放っておいた過去のせいだ。そう思い、両手を烏丸の両手に重ねて再び「大丈夫」といった。
「それより泊まらせてごめんね」
「あのときのナマエさんより優先することなんてありませんでしたよ」
「うぐ、そ、うですか」
「そうですよ。大事なんです。自覚してください」
「……風間さんも似たようなこといってた気が」
「は? いつ? どこで? なんで?」
「怖い怖い怖い。ちがう! ニュアンスがちがう! 自分を大事にしろ! ってかんじだった!」
一気にハイライトを消した烏丸に言い訳を連ねる。そういう妖怪かと思った。
妖怪扱いされた男は「まあ……風間さんなら言いそうだな……」と一旦納得したらしい。ナマエは一息ついた。浮気調査みたいだったなと同時に思った。ずいぶん圧迫感のある浮気調査である。
「風間さんがライバルだったら勝ち目が薄くなりそうなので普通に嫌ですね」
「自慢じゃないけどモテないんですよ」
「犬飼先輩とか生駒さんとかいるじゃないすか」
「あれらはそういう生態の生き物だから……」
というか恋愛的に好かれているのではないだろうどちらとも。特に犬飼。あれは茶化してるだけである。思い出したら腹が立ってきた。
ちなみに生駒はなんでもカワイイ病なだけである。
「烏丸だけだよ」
「……それ違うニュアンス入ってたら最高の言葉でしたね」
「?」
「まあいいか。朝飯どうしますか? どこか食べにいってもいいですし、作りますよ」
「面倒かけたお詫びに私が作りますよ」
「…………」
「烏丸?」
「ちょっといいなこのシチュエーションって思っただけです」
なんか知らないが喜んでいるらしい。朝ご飯ぐらいでお手頃な男である。
ご飯を炊いて冷凍していた鮭を焼き、豆腐と玉ねぎの味噌汁と明太子の賞味期限が切れそうだったので明太子の玉子焼。常備してあったほうれん草のお浸しも出した。よくある朝ご飯の風景である。
「……ナマエさんって普通に料理する人ですよね。なんでよく玉狛に来てるんですか」
「一人ご飯さびしいじゃん」
「だったら玉狛帰ってきてくださいよ」
「ノーコメント」
「そこだけは強情ですよね」
「なんとでも言いたまえ」
本部所属は自分が決めたことだ。覆す気はなかった。
「それよりもうすぐ選抜試験始まるけどなんか準備した?」
「まあA級も審査される側なんでそれなりに」
「私も審査されるのかなぁ」
「ナマエさんは未知数すぎて分かりません」
「悪口ですか?」
「ただの本音です」
つまり悪口じゃねーか。
ローテーブルの上から手を伸ばして手の甲をデコピンする。満足した。するとクスクス笑い出す烏丸。なにゆえ……とナマエが引いていると、楽しげに口を開いた。
「同棲してるみたいで楽しいなって」
「…………ノーコメントで」
誤魔化すように味噌汁を飲んだ。わかめいれるの忘れた。