本編
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ナマエの家に向かうまでに雨は小雨へと切り替わっていた。ただまだゴロゴロ空はうなっている。大丈夫かと先ほど電話をくれた人物を心配する。
『ナマエさん? どうしました?』
『……今ひまですか』
『時間は空いてますけど……というか元気なくないですか』
──ドオオオオン!!!
その音と共に電話越しからドタバタガシャン! と音が鳴り、続いて「いたっ!」と声がした。そしてしばらくして電話先の音が止んだ。無言が続く。
『ナマエさん』
『…………』
『雷ダメなんですか?』
『………………敵だと思ってる』
壮大な敵である。勝てないだろうな、と適当なことを思いつつ上着を手に取る。
『今どこですか? 行くから教えてください』
『大丈夫、電話だけで気が紛れるから。出来れば台風一過のような清々しい会話を心がけてほしい』
謙虚なのかどうなのか。一応遠慮してるようだが無茶ぶりはするらしい。ただ弱っているときに頼られた男は一切気にならなかった。
『家ですか? 返事しなかったら勝手に行きますよ』
『…………雨降ってて危ないから大丈夫』
『ナマエさんが大丈夫って言うときは大丈夫じゃないときです。だから行きますね』
待ってて下さい、と残して電話を切った。本当は電話しながら行きたかったが、風も吹いていて傘をさしながら電話するには少し危険だった。
そうこうしてるうちにナマエの家にたどり着いた。外からみて明かりはついていなかった。チャイムを鳴らして数秒後。ガチャリと扉が開いた。そこにいたのは、
「ハロウィンの真似事ですか」
「防御体勢といって」
シーツにくるまったナマエだった。顔だけひょこりと出してて少し間抜けだった。烏丸には可愛く見えるオプションがついていたが。
外が見えるのも怖いだろうと部屋の中に入り込む。タオルをシーツのお化けから渡されたので遠慮なく借りて身体を拭いた。拭いてる最中にまた雷が鳴って目の前のお化けはびくりと跳ね上がった。
「ナマエさん」
招き入れようと腕を広げる。ナマエはうぅと唸り、しばらく葛藤した後に烏丸の腕をちょこんと掴んだ。残念。
ベッドを背にして隣同士に並んで座る。雨の音と風の音が響き渡る部屋。ピカリと外が光る度に肩を揺らす身体を抱きしめたくて仕方なかった。
「……来てくれてありがとう」
「いえ、呼んでくれてよかったです。いつもはどうしてるんですか?」
「同期とバカ騒ぎしてる。今日は突然だったから」
「急に天候変わりましたからね」
雑談をしつつ仲のいい同期よりも優先されたことに仄かな優越感を覚えた。バカ騒ぎというならバカ話でもしたほうがいいだろうか。そんなボキャブラリーはないな。一瞬にして諦めた烏丸は当たり障りのない雑談をしていく。食堂のメニューが変わったとかレイジのご飯は変わらず肉まみれだとか玉狛第二のメンバーの選抜試験の話だとか。色んな話をした。
そしてふと思った。魔が差したとも言える。今なら聞けると思ったのだ。
「二宮さんと何があったんですか」
異常なまでの仲の悪さ。気に入らなければ無視するような性格を互いにしているのに、それをせず毎回律儀に突っかかりあっている。烏丸がボーダーに入ったときからそうだったから気にもしていなかったが、ある時小耳に挟んでしまったのだ。
『ナマエも懐いてたんだけどね、二宮さんに』
『今は静観しておくべきだろう。特にナマエは』
迅とレイジの会話。それを聞いてわき上がったのは嫉妬だった。どうしようもない。何か関係があると知ってしまって自分の狭量な心が理由を聞けと騒ぎ始めたのだ。
だが聞けなかった。迅とレイジがナマエの為にならないことをするわけがない。そう言い聞かせて心を宥めた。しかしここにきて魔が差した。頼ってもらっていることに胡座をかいたのだ。
「……………」
「……………」
ナマエはピタリと口を閉ざした。話さないと決めているのか迷っているのか。後者だと助かるが、と思っていたときだった。ナマエが口を開いた。
「二宮さん、が」
「はい」
「…………唐揚げのレモン勝手にかけるから」
「はい?」
「……だから勝手にかけるの」
「ナマエさんそれが理由って知ったら色んな人が怒りますよ。というかナマエさんもかけるじゃないですか」
身体をナマエの前に引き出してほっぺたを摘まんだ。誤魔化されたのだ。これくらいの報復はいいだろう。不服だったのだろう。ナマエは意義あり! という顔をした。
「私はかける前に聞くもん! かけていい? って。二宮さんは聞かないんだよ!?」
「そこの真偽はどうでもいいです。本当の理由はなんですか」
「…………二宮さんが」
「はい」
「死人と比べるのやめろって」
ぎゅっと眉を寄せたナマエにああ、失敗したと心のなかでナマエに詫びた。これは自分が聞いちゃいけない話だ。まだナマエの中で燻っている話だ。そう思うのにもういいと口には出来なかった。
「旧ボーダーの皆があのとき死んで、新しい仲間ができて、最初は新しい仲間嬉しかったけど、また失ったらどうしようって、思った」
普段とは違うたどたどしい口調に胸が痛んだ。旧ボーダー。玉狛支部の元の形態をした組織。ナマエの居場所だったもの。半数以上がこの世を去ってしまった。
「怖くなった。そしたら小南たち以外の接し方が、分かんなくなったときがあって、それが二宮さんにバレて、理由吐けって言われて、言ったら、そう言われた。うるせーばかって思って、むかついて、」
「でも二宮さんはまちがってない」
「ナマエさん」
両頬を包んで涙を拭う。唇を噛み締めるナマエ。何か我慢するように泣くナマエ。泣かしたのは自分だ。ナマエの弱いところを自分の欲で触れてしまったのだ。好きな相手にしていいことじゃない。
「すみませんナマエさん。すみません」
「烏丸のせいじゃない……」
「俺のせいです」
「ちがう。もう分かってるのに、皆とみんなは違うってしってるのに、二宮さんに八つ当たりするのが悪いって知ってる。でも二宮さんも言い方悪くてむかつく……あのはげ」
「ハゲてはないんじゃ」
「せいしんてきなはげ」
「精神的なハゲ」
散々な言われようである。しかし確かに二宮の主張は分からなくはないが、絶望的に言い方が悪い。それはナマエもムキになるだろう。失ったものが大きすぎたのだ。簡単に死人と片付けられたら烏丸だってたまったものではない。
「…………仲直りしたほうがいいかな」
ぽつりと呟いた声色は迷子のような色をしていた。たまらず腕の中にナマエをしまい込む。ナマエはぐりぐりと烏丸の胸に頬を押してきた。
「ナマエさんはどうしたい?」
「……今のままだとダメだと思ってる。……遠征あるし」
「そうか」
「でもむかつくのもほんと」
「うん」
「…………ニノさんってまた呼びたいのもほんと」
「うん」
ぽんぽんと背中を叩く。安心できるように。本音が全部零れるように。
雨がやんでもそうやって二人で話し続けた。
『ナマエさん? どうしました?』
『……今ひまですか』
『時間は空いてますけど……というか元気なくないですか』
──ドオオオオン!!!
その音と共に電話越しからドタバタガシャン! と音が鳴り、続いて「いたっ!」と声がした。そしてしばらくして電話先の音が止んだ。無言が続く。
『ナマエさん』
『…………』
『雷ダメなんですか?』
『………………敵だと思ってる』
壮大な敵である。勝てないだろうな、と適当なことを思いつつ上着を手に取る。
『今どこですか? 行くから教えてください』
『大丈夫、電話だけで気が紛れるから。出来れば台風一過のような清々しい会話を心がけてほしい』
謙虚なのかどうなのか。一応遠慮してるようだが無茶ぶりはするらしい。ただ弱っているときに頼られた男は一切気にならなかった。
『家ですか? 返事しなかったら勝手に行きますよ』
『…………雨降ってて危ないから大丈夫』
『ナマエさんが大丈夫って言うときは大丈夫じゃないときです。だから行きますね』
待ってて下さい、と残して電話を切った。本当は電話しながら行きたかったが、風も吹いていて傘をさしながら電話するには少し危険だった。
そうこうしてるうちにナマエの家にたどり着いた。外からみて明かりはついていなかった。チャイムを鳴らして数秒後。ガチャリと扉が開いた。そこにいたのは、
「ハロウィンの真似事ですか」
「防御体勢といって」
シーツにくるまったナマエだった。顔だけひょこりと出してて少し間抜けだった。烏丸には可愛く見えるオプションがついていたが。
外が見えるのも怖いだろうと部屋の中に入り込む。タオルをシーツのお化けから渡されたので遠慮なく借りて身体を拭いた。拭いてる最中にまた雷が鳴って目の前のお化けはびくりと跳ね上がった。
「ナマエさん」
招き入れようと腕を広げる。ナマエはうぅと唸り、しばらく葛藤した後に烏丸の腕をちょこんと掴んだ。残念。
ベッドを背にして隣同士に並んで座る。雨の音と風の音が響き渡る部屋。ピカリと外が光る度に肩を揺らす身体を抱きしめたくて仕方なかった。
「……来てくれてありがとう」
「いえ、呼んでくれてよかったです。いつもはどうしてるんですか?」
「同期とバカ騒ぎしてる。今日は突然だったから」
「急に天候変わりましたからね」
雑談をしつつ仲のいい同期よりも優先されたことに仄かな優越感を覚えた。バカ騒ぎというならバカ話でもしたほうがいいだろうか。そんなボキャブラリーはないな。一瞬にして諦めた烏丸は当たり障りのない雑談をしていく。食堂のメニューが変わったとかレイジのご飯は変わらず肉まみれだとか玉狛第二のメンバーの選抜試験の話だとか。色んな話をした。
そしてふと思った。魔が差したとも言える。今なら聞けると思ったのだ。
「二宮さんと何があったんですか」
異常なまでの仲の悪さ。気に入らなければ無視するような性格を互いにしているのに、それをせず毎回律儀に突っかかりあっている。烏丸がボーダーに入ったときからそうだったから気にもしていなかったが、ある時小耳に挟んでしまったのだ。
『ナマエも懐いてたんだけどね、二宮さんに』
『今は静観しておくべきだろう。特にナマエは』
迅とレイジの会話。それを聞いてわき上がったのは嫉妬だった。どうしようもない。何か関係があると知ってしまって自分の狭量な心が理由を聞けと騒ぎ始めたのだ。
だが聞けなかった。迅とレイジがナマエの為にならないことをするわけがない。そう言い聞かせて心を宥めた。しかしここにきて魔が差した。頼ってもらっていることに胡座をかいたのだ。
「……………」
「……………」
ナマエはピタリと口を閉ざした。話さないと決めているのか迷っているのか。後者だと助かるが、と思っていたときだった。ナマエが口を開いた。
「二宮さん、が」
「はい」
「…………唐揚げのレモン勝手にかけるから」
「はい?」
「……だから勝手にかけるの」
「ナマエさんそれが理由って知ったら色んな人が怒りますよ。というかナマエさんもかけるじゃないですか」
身体をナマエの前に引き出してほっぺたを摘まんだ。誤魔化されたのだ。これくらいの報復はいいだろう。不服だったのだろう。ナマエは意義あり! という顔をした。
「私はかける前に聞くもん! かけていい? って。二宮さんは聞かないんだよ!?」
「そこの真偽はどうでもいいです。本当の理由はなんですか」
「…………二宮さんが」
「はい」
「死人と比べるのやめろって」
ぎゅっと眉を寄せたナマエにああ、失敗したと心のなかでナマエに詫びた。これは自分が聞いちゃいけない話だ。まだナマエの中で燻っている話だ。そう思うのにもういいと口には出来なかった。
「旧ボーダーの皆があのとき死んで、新しい仲間ができて、最初は新しい仲間嬉しかったけど、また失ったらどうしようって、思った」
普段とは違うたどたどしい口調に胸が痛んだ。旧ボーダー。玉狛支部の元の形態をした組織。ナマエの居場所だったもの。半数以上がこの世を去ってしまった。
「怖くなった。そしたら小南たち以外の接し方が、分かんなくなったときがあって、それが二宮さんにバレて、理由吐けって言われて、言ったら、そう言われた。うるせーばかって思って、むかついて、」
「でも二宮さんはまちがってない」
「ナマエさん」
両頬を包んで涙を拭う。唇を噛み締めるナマエ。何か我慢するように泣くナマエ。泣かしたのは自分だ。ナマエの弱いところを自分の欲で触れてしまったのだ。好きな相手にしていいことじゃない。
「すみませんナマエさん。すみません」
「烏丸のせいじゃない……」
「俺のせいです」
「ちがう。もう分かってるのに、皆とみんなは違うってしってるのに、二宮さんに八つ当たりするのが悪いって知ってる。でも二宮さんも言い方悪くてむかつく……あのはげ」
「ハゲてはないんじゃ」
「せいしんてきなはげ」
「精神的なハゲ」
散々な言われようである。しかし確かに二宮の主張は分からなくはないが、絶望的に言い方が悪い。それはナマエもムキになるだろう。失ったものが大きすぎたのだ。簡単に死人と片付けられたら烏丸だってたまったものではない。
「…………仲直りしたほうがいいかな」
ぽつりと呟いた声色は迷子のような色をしていた。たまらず腕の中にナマエをしまい込む。ナマエはぐりぐりと烏丸の胸に頬を押してきた。
「ナマエさんはどうしたい?」
「……今のままだとダメだと思ってる。……遠征あるし」
「そうか」
「でもむかつくのもほんと」
「うん」
「…………ニノさんってまた呼びたいのもほんと」
「うん」
ぽんぽんと背中を叩く。安心できるように。本音が全部零れるように。
雨がやんでもそうやって二人で話し続けた。