MHA中心
大切な人
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
教師寮から戻り、来慣れた寮の玄関を音を立てず慎重に開き自分達以外誰もいないことにほっと息を吐き出してから後ろ2人に入るように促す
「2人とも、汚れちゃったよね…お風呂入る?沸かそうか?」
「う、ううん!大丈夫!」
「朝入るから、いい」
「そう…」
怜奈の赤らんだ目元に、どうしても後ろめたさが優りまともに彼女の姿を見れなくなっている両者に、怜奈は一瞬考えてからふ、と瞳を歪める
「もうっ!しっかりしなさい!2人とも!!」
「うえっ?!」
「っ、」
「…"
桜色から紡がれた音に、瞬く間に視界は白で覆われあっという間に3人を包み込む1つの空間が創り出された
「こ、これ…」
「"ワン・フォー・オール"」
「「!!」」
「…その反応だと、やっぱりオールマイトに話されたんだね…勝己くん」
「それ…は、」
「安心して?この空間にいる限り、音や衝撃が外に漏れることは無いから…音量や衝撃にもよるけどね?」
爆豪の表情と空気で全てを察した怜奈は、焦りよりもどこか納得したように瞳を細めてみせると、彼らを纏う雰囲気が幾分か和らいでいく
「初めての戦闘訓練の後…かな?あの時のみっちゃん、顔が強ばっていたし…勝己くんとお話する為に飛び出して行ったもんね」
「………お前、本っ当にクソだな」
「うぐっ…怜奈ちゃんの推測通り、です…!」
「ふふ…お説教はもう終わっているんでしょう?私からはもう、必要ないかな…けど、知ってもらったのが、勝己くんで良かった」
「…怜奈とオールマイトが秘密にしようとしてたことを、俺ァ絶対言わねェ」
彼であれば、そのリスクを考え外部に漏らすこともないだろうし、機転が利くためそれとなく上手く立ち回ってもくれるだろう
「…なあ、怜奈」
「ん?」
「なんで……っなんで怜奈は、"ワン・フォー・オール"を………貰わなかった」
そして行き着くは、緑谷と同じ言葉
その知識を知っている。つまりは彼女がオールマイトの後継者候補であったことに爆豪勝己が気付けないはずもなかった
真っ直ぐに向けられた"疑問"と"戸惑い"に、怜奈は瞳を逸らすことなく彼らの鼓膜を揺らす
「…私は、"与えられていた"から」
「「!」」
「パパの力も、私自身の志も…その時には既に、私には"揃っていた"…だから私は、
初代から今にまで、先代が紡いできた力の結晶である"ワン・フォー・オール"と同じく、長い年月を経て同じく力を培ってきたものが、怜奈の持つ"魔法"
「この世に生を受けたその日から…私はこの力と共にあるんだと、"あの日"に理解して、目標になって───
胸元で眩い光を放つ義勇の心の結晶を握り、ただひたすらに強い光をその瞳に宿す
「私には既に、曲げられないたった一つのものがあった…ただ、それだけなの」
あまりに強い輝きに、目眩がする
"真のヒーロー"の素質を持つ光
自分達の目指すべきものがどれほどのものなのかを実感して、どちらともなく傷だらけの背筋が伸びる
「そうか…」
「………それにね、何だか…ダメなような気がして…」
「?だめ、って…何が?」
「分からない…けど、それは私が受け取るべき力じゃないって
心の奥底で、静かに促されるような不思議な感覚を思い出して…こちらを見つめる翡翠色に光を映りこませた
「あの時から、どうしてだが漠然と…私でも、誰でもなくて…みっちゃん
「えっ…」
「ある意味では私の魔法も、大きな力の結晶…同じように紡いでこられたからこそ、なのかな…何かを感じとったのかもしれない」
どこか困惑したような、納得がいっていないような顔をする幼馴染達に向き直り、これまでの空気を引き裂くように小さな両手で音を響かせる
「はい、この話はこれでおしまい…という事で、私から一言!今後、2人だけで…どうしても拳を交えたくなったら、ちゃんと私のところに来ること」
「…え?」
「
「!」
「あっ…」
音も衝撃も吸収する壁を叩いて見せながら片目を瞑る小悪魔に、頬が赤くなるのを感じながらもいつの間にか口元は弧を描いていた
「怜奈ちゃんは、凄いなあ…」
「ふふっ今気付いたの?」
「ぶっ…ふふ!じゃあ、その時は…よろしくお願いします!」
「怜奈、これどれくらいまで耐えられる」
「うーん、衝撃や攻撃の種類にもよるけど…爆発なら耐えられると思うよ!」
「よし」
「待ってなんの確認それ?」
絶対物騒なこと考えてるでしょ?!と顔を青褪めさせる緑谷と鼻で笑う爆豪に、こっそりと安心する
「(ほんとに…らしく、なれたなあ…)」
まだまだ2人の乗り越える壁はありそうだが、それでも入学から少しづつ変化している彼らの関係性にもう一度だけ目を向けてから、包囲を解除する
「じゃあ、もうそろそろお部屋に戻って休もうね。疲れたでしょう?」
「そうだね…ありがとう、怜奈ちゃん。君には本当に…助けて貰ってばっかりだ」
「…"これから"、たくさん助け合うでしょ?」
「!…っうん!」
丸い瞳が前を向く姿にじんわりとした温かさが体に伝わる感覚で、自分も緊張していたのかと静かに驚く
と同時に感じた腰元の違和感に目を向ければ、赤い瞳が俯いているのに気付いて…手が、伸びる
「勝己くん…?」
「怜奈」
縋るような赤に、いつの間にかしっかりと、その手を握った
「怜奈ちゃん…?かっちゃん、どうし」
「デク」
抑揚のない声音 鋭い眼光
緑谷は直感で感じた
「(────ああ、これは…止めちゃ、だめだ)」
絶対に譲れない時の顔
「うん、わかったよ…勝己くん」
そしてそんな状態の彼を、怜奈が放っておけるはずがないことも…わかる
「……今回だけ、だからね」
「誰に言っとんだてめェはさっさと行けやクソが」
「ぐぬ、ぬ…!!怜奈ちゃん、かっちゃんをお願いね、でも何かあったらすぐ呼んで!!止めに行くから!!」
「だァからはよ行けっつってんだろうがこのクソナードォ!!!」
「大きな声はダメだよ〜」
何度もこちらを振り返りながらエレベーターにようやく乗り込んだ緑谷に、怜奈は振っていた手を下ろし隣にいる幼馴染を見上げる
「勝己くん、ここでお話する?」
「……俺の部屋」
「はーい、じゃあ行こっか」
いつもと同じ声で、当たり前のように繋がれた手はそのままに緑谷の部屋がある階に止まったままのエレベーターをボタンで引き寄せる
着いたあとも、全員が眠っていることがわかって…まるで2人だけが存在しているかのような錯覚に陥る
怜奈が入室してすぐ、続けて入った爆豪は後ろ手で扉を閉めると片腕で彼女の体を抱き込んだ
「…大丈夫?」
「……………こっち」
抱き締められた体が名残惜しげに解放されると、ベットへと誘導され怜奈がそこへ腰かけた瞬間
ドサッ…
シーツいっぱいに、星が広がる
「わあ…びっくりしたあ」
「…警戒心、ないんか」
「ふふ…くすぐったいよお勝己くん」
首筋にかかる吐息と、頬をくすぐる金色に笑いを零す警戒心皆無の幼馴染に、呆れた吐息をもう一度浴びせてやる
怜奈に体重がかからないように肘を立てて調節しているのも、きっとお見通しなんだろう
「…なあ……このままで、いいか?」
なんて、こいつが断るはずなんてないと分かっている癖に、一丁前に逃げ道を用意してやる自分は本当に甘い
「…勝己くんの、好きにしていいよ」
…その言葉がどれだけ俺をかき乱すのかは、さっぱりわかっていないのだろうと思うと少しだけ腹が立ったが、その言葉の羅列だけは脳内でロックをかけて保存する
俺の邪心に気付きもしない怜奈は、優しい声と共に白く華奢な腕とは似ても似つかない腕を撫であげるから…もう少しだけ、とスプリングを深く沈めた
「夢を……見る」
「…ゆめ?」
「……………… 怜奈が………遠ざかって行って………、俺の、目の前で……砕けちまう、夢」
小さく、息が詰まる音
────ああ、言ってしまった
けれど、一度出た言葉は戻れなくて、理性とは裏腹に止まらない恐怖を心が吐き出してしまう
「何度も手を伸ばすんだよ…けど、それでも届かねェ。砕けちまった怜奈を、見下ろすことしか出来ない…俺の体は、何かに縛られてるみたいに動かなくて…冷たくて、硬い、"怜奈"だったものに叫び続けて…目が、覚める」
まるで己に課せられた罰のように、幾度となく繰り返される終わらない悪夢
朝、怜奈の姿をこの目に映す…そこでようやく、自身は形だけの安堵を感じ、それでも終わらない罪悪に襲われる
あったかもしれない"最悪"を、考えさせられる
「勝己…くん……」
「っ本当は!!…、ほんと、は……こんなこと、言いたくなかった…!」
こいつに負担をかけさせることなど、死んでもしたくないのに
この体温に、甘い匂いに、怜奈の全てを見透かすかのような瞳に…己にかけられた戒めが解かれてしまう
内側にかかっている醜くどうしようもない感情の鍵を、一つ一つ至極丁寧に…優しく開けていく
「ああ…くそッ…どう、して…」
怜奈の顔の横で震える腕は冷えきっていて、吐き出される息はガキのように苛立ちとやるせなさが込められていた
「勝己くん」
鼓膜を揺らす声と共に、熱が己の腕から伝播する
息を飲むと同時に、視界が開けて
景色が、変わる
「こっち」
気付けば二人一緒に向き合うかのようにベットに横たわっていて、久方ぶりに目線が同じになり…揺らめくダイヤの中で、鈍く光る赤が覗いた
月明かりに照らされる怜奈は、言葉にできない程美しい
「怜奈…」
「言ったでしょう?全て…受け止められるって」
小さな掌が、自身の頬を包み込む
温かくて、柔らかい
怜奈が、いる
そのあまりの甘さに、体は一度強ばるが…熱を求めるかのように、受け入れた
昔から、怜奈だけだった
怜奈だけに見せてしまう、"己の弱さ"が浮き彫りになる瞬間は何よりも嫌であるはずなのに、堪えることはもっと出来なくて
怜奈に、溺れていく
「っ俺が…俺が、もっと強けりゃ、怜奈をあんな目にあわせることもなかっ」
「私の大切な人を…もう、責めないであげて」
「、」
悲しげに、けれど強い星を宿す瞳に見惚れているといつしか流れ出していた感情を小さな指先が拭って、目を見開く
「れ、」
「ごめんね、勝己くん…たくさん悩んで、悲しませちゃった…貴方は誰よりも、"感じてしまう"人なのに」
重なり合った額に、先程よりも肺を満たす強い甘さに、体は支配されて力が抜けて、ただ熱を求めた
この手に触れられたら、だめなんだ。こいつが触れたところ全てが心地よくて、その柔らかな笑顔に安心して、ずっと傍で見ていたくなって…自分だけを見ていて欲しいと、願ってしまう
「勝己くんは…忘れちゃった?」
「何を…」
「確かに私は、1度生死をさ迷った…それは、間違いないよ」
「っ…!」
彼女の口から出る事実は誰よりも重く、"現実味"を帯びていてただ苦しくて、息の仕方を忘れそうになる
「でも…でもね、私はその時………彼らに…両親に、会うことが出来たの…」
「、あ…」
「伝えられなかった…全部、間に合わなくって…もう、だめだと思ってた…けど、伝えられた…っ力の在り方を、その使い方を…教えてもらうことが出来た、」
私も一緒なんだ。私の判断と行動が伴っていれば…2人で逃げ出せたかもしれない。
能力がもっと高ければ、上手くいけば、魔力がもっと多かったら……もっと、強かったのなら
あの時捕まることなんて、なかったのかもしれない
「勝己くんだけじゃないよ…私も……後悔ばっかりなんだ」
怜奈から出た音は、雨のように切なくて水溜まりに静かに沈んでいくような…確かな懺悔
「(同じ………だったのか、)」
そう思えたら、先程までどこか遠くに感じていた怜奈の体温が…蹲っていた俺の心を優しくすくい上げた
「忘れないで、勝己くん」
自身の憧れが────強く、弾けた
「勝己くんが、私を成長させてくれた────パパとママに会わせてくれて…ありがとう」
水溜まりから一粒、優しい雨が溢れて…その時の光景を思い浮かべる瞳はどこか悲しげで、温かかった
気付いた頃には、その身を抱きしめていた
怜奈が息を飲むのも構わずに、ただ強く、その存在を噛み締めるように
怜奈の体温を、匂いを、柔らかさを
ただ強く、求める
そんな俺の行動に戸惑う訳でも、ましてや咎めることもせず…ただ静かに、寄り添うように俺の背中に華奢な腕を回す怜奈の仕草に、喉の奥で音が潰れて溶けていく
どこまでもお人好しで、甘い、麻薬のよう
「もう、絶対ェ……負けねえから…!」
もう二度と、離さないから
「そばにっ…いて、くれ…!!」
本当に、情けないったらねェ
こんな風に小さな怜奈に縋り付いて、声を震わせながら獣のように荒く必死になる姿なんて…この先一生、誰にも見せることなどないと思っていたのに
怜奈といると、俺は、俺でも気付かなかったような醜く濁った感情に驚かされる
他の誰にも渡したくない。自分だけにその笑顔を向けて欲しい。その声で、手で、俺の全てを満たして欲しい。
なんて、濁流に飲み込まれかけた俺を、甘い声が包み込む
「そばに…いさせて」
了承でなく、懇願で返されて…感情で溢れ返った自分の瞳がめいいっぱい広がるのをダイヤに映しながら、皆が皆求めてやまない甘さを持つ怜奈が、耳元で囁きかける
「仲間として、ヒーローとして…これからも貴方と、頑張らせてほしい」
その言葉で、頭の中を覆っていたモヤが一斉に晴れていく
"己のなりたい姿"が、形を表す
そんな俺を見て、全てを見透かしたであろう怜奈は、もう一度柔らかな笑顔を浮かべると俺の頭部を撫で上げた
「勝己くん」
「怜奈…」
「
痺れるような甘さが頭からゆっくりと全身に伝わっていくのが心地よくて、いつしか瞬きの間が長くなっていく
「今まで助けに行けなくて、ごめんね…でも、もう大丈夫」
私がいるよ…だから、安心して
瞼が閉じきる寸前、額に感じた柔らかさと熱に
どうしようもなく、泣きたくなった
─────────────
───────
────────
黒い
永遠に続く、広い闇
──────夢だ
そう直感でわかる程にまで繰り返された闇
ここで俺はいつも、後ろを振り向かされて
───パキンッ
僅かな音に、無理矢理にあの日の光景と衝撃が蒸し返される
ガラガラと音を立てながら崩れ落ちる怜奈の体
遠くで叫ぶ、平和の象徴
そんな怜奈を見下ろす、自分
上手く呼吸ができない中で、砕けた怜奈がしっかりとこちらを見上げながら小さな唇が開く
『かつきくんが つかまらなければ こうならなかった』
嫌な、音
『あなたさえ いなければ』
嫌だ、いやだ、イヤダ
『あなたが よわいから わたしは』
やめろ、やめろ、やめろ
怜奈はそんな事言わない
あいつの顔で、声で、瞳で
「俺を────否定しないでくれ」
いつの間にか崩れ落ちた膝と、大量に流れる汗は夢であるはずなのに、それとは感じさせてくれない程鮮明で、痛みを伴う
────俺が、弱いせいで
だから今夜も、この闇にのまれるんだ
「勝己くん」
幼い日の、記憶
絶望の光景から顔を上げて、目を見開く
「こっちだよ、勝己くん」
眩い程の光を背負う姿は、あの日と同じく目の奥が痛むぐらい輝いていた
────昔の最低な記憶には、続きがある
小川に落ちた俺と、俺に手を伸ばすデクにかけられた高い声
「勝己くん!みっちゃん!」
危ないとわかっていた道を進むから、怜奈には言わなかった秘密の探検
どうやって居場所がわかったのか、結局今も聞けていない
「怜奈っ」
「怜奈ちゃ」
バシーンッッ!!!
「「ブッ!!?」」
生まれて初めて、同い年の女子に叩かれた
「何してるのっこんな所で!!危ないから入っちゃダメって書いてあったでしょ!!」
初めて見る、彼女の怒った顔と震えていた怒鳴り声
「────心配、したでしょ!!」
零れ落ちていく宝石が、スローモーションに見えた
本気でこちらを見つめる瞳は、どこか恐ろしく、どうしてだか嬉しかった
「帰ろう、勝己くん」
少しも色褪せることの無い輝きに手を伸ばした瞬間に光が差し込んで…暗い闇が青空となって一面に広がった
砕け散った怜奈も、恐ろしい闇も、全てが空に塗り替えられた世界でいつの間にか大きくなった怜奈が、無邪気に微笑んでいた
「大丈夫、ぜったいに…大丈夫だよ」
怜奈の、無敵の呪文
ああ、そうか…ここは、怜奈の心の中なんだ
伸ばした手をすり抜けて、己の頬に手を添える際に感じた熱は確かに温かくて…奥底で根付いていた恐怖が確かに削がれていくのを感じた───
ふと、目元にかかる光で目覚めを促される
未だ覚醒しきらない頭は、自分とは別の熱が腕の中に収まっているということで完全に意識を取り戻す
「ん、ぅ………」
あまりに無防備な寝顔と肌蹴た白く柔い胸元に、相手は眠っているというのに思いっきり視線を逸らす
「(、あの後………帰らず、ずっと………)」
守って、くれたのか
ただその事実に、ぶわりと感情が溢れていつからか湾曲している口元を硬い手のひらで覆い隠した
「…っとに、お前は…夢の中でも、助けに来るとか……反則だろ」
腕の中に収まる愛しい存在を確かめるように甘い香りが一層漂う首筋に顔を埋める
人の欲しいものをただ与えて、微笑む魔女
「…………好きだ」
絞り出した声は少し掠れていて、その声色の甘さと重さに我ながら拗らせてんな。と呆れていれば、もぞりと腕の中で熱が身動ぐのに首筋から顔を上げる
「悪ぃ、起こしたか」
「ふ、ぁ…かつきくん…?」
「ん」
速度の遅い瞬きを何度かした怜奈は目の前の俺を見て少し考えるように静止した後で、昨日のことを思い出したのかとろりと、大きな瞳を蕩けさせる
「おはよお、勝己くん」
「…はよ」
いつもより水分を含んだ眼差し、乱れた柔らかな髪、早朝の光を僅かに浴びて輝く身体に胸が痛いぐらいに締め付けられて、幸せが自分を満たしていく
それに少しだけだと心の中で言い訳して、ぎゅう、と自身の心音に合わせるように柔らかな体を抱き込めば怜奈はくふくふと小さく笑いながら優しくその手を俺の背に回す
「んふふ…勝己くん、あったかいねえ」
「ったりめえだ。鍛えてるからな」
「そっかあ…勝己くんは、頑張り屋さんだもんね」
いい子、いい子、とガキにやるみたいに頭を撫でられるが、不思議と怒りは沸かず逆にその掌に押し付けるように擦り寄ると、鈴のような心地いい声が鼓膜を揺らす
「ごめんね、私も一緒に寝ちゃった」
「…怜奈なら、いい」
「ふふ…ありがとう」
最後にもう一度力を込めてから、体を起き上がらせればこちらを見上げる怜奈と目が合って……その構図に今までの流れを改めて思い返してぼっ、と顔に火が点るのを自覚して、ベットから飛び退くようにして床に足をつける
「勝己くん?どうかし」
「フッ!!」
「ふ…?」
「…ロ、に…行ってくる」
「あ、そっか!そうだったね」
「…今ならあいつらも起きてねえだろ」
「うん、私もお部屋戻るね。傷は痛む?」
「こんぐらい平気。怜奈が治すまでもねェよ」
「痛み出したら言うんだよ?」
「ん」
「ふふ、よろしい」
お邪魔しました、と扉に手をかける怜奈の後ろ姿に誤魔化しきれない名残惜しさを感じ思わず手が伸びそうになったその時
ふわっ
視界いっぱいに、虹が広がる
「痛くなくても、一緒にいるよ」
「──」
「勝己くんは、私の大切な人だもん」
どうして、わかるのか
迷いなく自分の中で測りかねていたものの壁を壊してくる怜奈は、"あの日"と変わらず眩しくて、愛おしい
「…んな事言ってっと、言わなきゃよかったって後悔すんぞ」
「やだなあ、勝己くんが頼ってくれるなら、後悔なんて一生しないよ?」
「…ほんとに、甘えちまうぞ……」
「…勝己くんは、もっと知らなきゃ」
そうしたら、あなたはもっと強くなれるから
頬を撫であげる手は、あまりに優しくて緩みそうになる感情を力任せに押し込んで撫でる手を捕まえる
「…ぜってェ、追いつく」
「ふふっ…私も、もっと頑張るね」
今度こそ、と少し時間をかけてからその手を離せば、じゃあ、また後でね。と手を振る怜奈にまるで秘密の逢瀬のようだと高揚する気分に単純だな、ともう一人の自分がどこかバカにしたように囁きかける
その声になんとでも言え、と一蹴してから着替えを取り出すかと振り向いたところで
「随分といいご身分だな、小僧」
「ッッッ!!!?どっから湧いたテメェ!?」
「主は本当に甘すぎる」
宙に浮きながら自身を見下ろす怜奈の守護者の内の一人に爆豪は速くなった動悸を押えるが、当の本人は全く甚だしいと眉間に皺を寄せながらこちらを睨みつけてくる
「何だァテメェは?朝っぱらから喧嘩売りに来たんか」
「俺が貴様なんぞを相手にするわけないだろう。全く、主はどうして貴様らを甘やかすのか…理解出来んな」
「覗き見かよ…悪趣味だなァおい」
「黙れ。俺は主の守護者、何かあれば直ぐに駆けつけるのは当然だ」
本当は、爆豪の部屋に入るのも止めたかった。彼が眠った瞬間にユエは部屋に戻ろうと怜奈に伝えようとしたが、主の中で感じたあまりにも優しく、深い慈愛に…ついに声をかけることが出来なかった
しかしそれを伝えればこいつらは調子に乗るだろうと、それらはユエの口から伝えるつもりは無い
「俺は貴様が途中で起きて主に無体を働かないように監視していただけだ」
「しっ…………ねえわくそが!!!」
「その間はなんだ貴様」
ぎろり、と鋭い眼光に後ろめたさから半歩だけ後退ると、そのさらに距離を縮めたユエは相変わらず見下ろす形で自身の眉間に長い指先を突き立てた
「小僧。俺は貴様らが傷つこうがどうしようが一向に構わない…だが、主が関わっているとなれば話は別だ」
「…随分とデケェ執着だな」
「貴様に言われる筋合いはない。いいか小僧、主に何かあれば例え誰が危険に犯されようとも、俺は迷わずお前らを切り捨てる。主を傷つけようものなら必ず報復する…それだけは肝に銘じておけ」
「っで?!!」
バチィッと額に放たれた衝撃に軽く吹っ飛べば、仕掛けてきた本人はフン、と嘲笑に鼻を鳴らした
「っにすんだやんのかゴルァ!!!」
「せいぜい力をつけておくことだ小僧……決して主を悲しませるようなことをするな」
興味は失せた、とばかりに冷たい温度を宿す瞳を流してから一瞬で姿を消した嵐のような守護者に、少しの間その場に立ち尽くしてから熱を持つ額に拳を突き立てた
「上等だ」
決して、忘れぬように
刻みこもう
fin.
3/3ページ