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大切な人
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時と場所が、少しだけ切り替わる
クラスメイトが寝静まる中で、緑谷は先へと進む爆豪に制止の言葉をかけるも何も言わない静かな背は止まることなく演習場へと辿り着いた
「オールマイトから貰ったんだろ。その"個性"」
疑問でも問いかけでもない。確信だった
スラスラと並べられる仮説と筋書きは的確で、彼女と同じく人一倍理解能力と情報処理能力に秀でている彼に、緑谷のあの時の一言が確信へと繋げてしまったのだ。
元々嘘をつくのも得意でない上に、相手が相手なだけに誤魔化すことも叶わず黙り込むもう1人の幼馴染に短く悪態をついた爆豪は、嵐の前の静けさを思わせた
「てめェの何がオールマイトにそこまでさせたのか、確かめさせろ」
───一緒だったはずだ
初めの原点は、お互い一緒で…憧れと決意に違いなんてあるはず無かった
けど
辺り一面に爆発音と煙幕が立ち込める
「った…!!」
思考で判断が遅れた緑谷の右足に痛みが走る
監視ロボットから担任へ今の状況を知らされていることにも気付かずに、再び煙が舞い上がり僅かな血が滴る
緑谷のシュートスタイルを避けた際にバランスを崩した爆豪に、傷だらけの手が伸びた瞬間
記憶力のいい彼の脳裏に蘇る光景
拒絶と戸惑いの叫びが、辺りに悲痛に響く
明確な、痛みを纏って
「なんで俺はっ───俺は……オールマイトを終わらせて、怜奈を殺しかけちまってんだ」
言葉が、出ない
初めての戦闘訓練後の彼の表情は、まだ上を目指そうと…赤い瞳はただひたすらに強く前を向いていた
けれど、今の彼の瞳は…戸惑いと、恐怖と…憤りで溢れていた
「俺が強くて、敵に攫われなんかしなけりゃ…あんな事になってなかった!怜奈だって俺を助けようとして攫われることもなかった!!!」
痛い、イタイ、いたい
逸らすことの出来ない、目に見えぬ激しい痛みを纏う深い傷
「オールマイトが秘密にしようとしてた…誰にも言えなかった!」
まだ齢16の少年が抱えるには、あまりに深い
「っ…遠ざかる怜奈の姿を…砕け散る姿をっ今でも夢に見る!俺が一瞬迷ったせいで、手を伸ばすことが叶わなかったせいで… 怜奈を殺しかけて泣かせた!!考えねえようにしても…フとした瞬間湧いて来やがる!
───どうすりゃいいか、わかんねんだよ!!」
爆豪勝己という男は、誰よりもストイックで強さに貪欲で、人に弱さを見せることを何よりも苦手とする
そんな彼にとってたった一人、弱音と本音を吐き出させる心の拠り所は生涯護ると誓った、愛しく大切な天使
けれどそれこそ…彼女に言えるはずなどない
こんな胸の内を零してしまえば、心優しいあの子は自分を責めるに決まっていると、直感した
「(悩んでたんだ…考えてたんだ…!!)」
どうして忘れてしまっていたんだろう
全てを器用にこなす爆豪も…自身と同じく、悩みを抱えることのある一人の人間であったと
────みんなと一緒に、頑張りたいよっ…!!
同じには、させない
─────赤い瞳と同じ色が、口元から流れ落ちた
ごめん、怜奈ちゃん
でも、かっちゃんのこの気持ちを受け止めるには
君じゃ、綺麗すぎるんだ
────だから、僕が…
「やるなら…全力だ」
─────────
──────
───
思えば、奇妙な関係であった
幼稚園、小学校、中学、高校…
親と同等の長い時間を過ごしてきた
お互いいつでも心をさらけだして話せたのは、もう1人の幼馴染に対してだけだった
「見下ろしてるような、本気で俺を追い抜いて行くつもりのその態度が、目障りなんだよ!!!」
───けれど、ここから先は、これから先彼女にも明かされることの無い
先を進む怜奈と、後ろから来る得体の知れない
前を向くことに全力を注ぐ爆豪勝己として、遥か先を歩む怜奈の姿に焦りと憧れを
───心配したでしょ!!
後ろから追いかけてくる緑谷の姿は、その心におそろしさを感じさせた
「僕にはないものを沢山持っていた君と怜奈ちゃんは…オールマイトより身近な"凄い人"だったんだ!!」
強烈な個性を持ち、圧倒的なセンスを光らせていた2人の幼馴染は、緑谷にとってあまりに眩しく、あまりに遠かった
───必ずなろう、ヒーローに
「だから、ずっと君を追いかけていたんだ!」
どんなに嫌なことをされたって、馬鹿にされても追いかけていたのは、"彼女の隣"を目指す中で最も近く目標になったのが、"爆豪勝己"だったから
身近な"勝利"の姿が、彼だったから
勝たなきゃならない。と思った時に咄嗟に口が悪くなってしまうのも、きっとそのせい
「───一番っ怜奈ちゃんの隣を歩けるのに近かった人だから!!!」
───数分のぶつかり合いで地面に伏したのは、緑の髪
彼を抑え込む赤い瞳が歪んだ瞬間に降り注いだ声は、かつても、そして今も2人で憧れたものだった
「緑谷少年が爆豪少年の力に憧れたように、爆豪少年が緑谷少年の心を畏れたように……
───みっちゃん、勝己くんっ
「互いに認め合い、まっとうに高め合うことができれば───救けて勝つ、勝って救ける最高のヒーローになれるんだ」
正反対の瞳の色が交差し
あの子の笑顔が、光る
同じだ。
どちらも怜奈を護りたいと、相応しくなりたいと思うのだけは…これからも、変わらない
拍子抜けしたとでもいうように腰を落とし、膝を抱えた爆豪はその聡い頭で次の説明を端的に促す
「デクとあんたの関係知ってんのは?」
「リカバリーガールと校長…生徒では、怜奈と君だけだ」
「怜奈も、知ってたのか…」
「…あの子を、どうか責めないであげて欲しい」
「するわけねえだろそんなこと…バレたくねェんだろオールマイト。怜奈とあんたが隠そうとしてたから、どいつにも言わねえよ」
───────────
───────
─────────
「っとに… 怜奈が抱えて誰にも言ってねえことを、何でバラしてんだクソデク」
「うぐっ…」
3人の秘密が4人のものとなり、大きなしこりの1つが無くなった2人は真っ当なライバルらしさがでたものの
現実はそう甘くはないと、締め付けられる上半身と般若のような顔で自分達を見下ろすクラス担任を捕縛布の隙間から見つめながら思う
治療をきっちりと施されてからやるところが、何だかんだで面倒見のいい彼らしい
しかしあまりにも容赦のない締め付けにオールマイトはそっと耳打ちでフォローを入れる
「爆豪少年は私の引退と怜奈が砕けてしまったことに負い目を感じていたんだ…そのモヤモヤを抱えたまま試験に臨ませ…結果彼の劣等感が爆発した」
オールマイトの言葉で思うところがあった相澤は、たっぷりの間の後で僅かに唸り、然るべき処分をいつもよりも感情の籠った覇気と声音で言い放った
「以上!寝ろ!……と、言いたいところだが…」
呆れの籠ったため息の後で絞り出された声はどこか気遣わしげで、オールマイトもハッと空気を揺らす
大人2人の様子に爆豪と緑谷が縛られていた箇所を擦りながら疑問を浮かべていると、相澤は後ろをゆっくりと振り返る
「…何より今回お前らが反省すべきなのは…この子を悲しませたことだ」
次いで入室者を知らせる音に、赤と緑がそれぞれ見開かれる
「怜奈…」
「怜奈、ちゃん…」
「……………」
唖然としたような、焦ったような声音に、怜奈は確信する
この2人は、この夜のことを決して自分には明かそうとしないでいたことを
今まで抱いたことの無い感情が怜奈の中で湧き上がり、周りも俯いていることでその表情もわからず、オールマイトと相澤も彼女から発せられるオーラにいつの間にか冷や汗が頬を伝う
スタスタと幼馴染に近付く怜奈に前に居た相澤がオールマイトの隣に立つことで、自然と未だ椅子に腰かける2人の前に彼女が歩みを止め見下ろす状態になる
「れ、怜奈ちゃん……えっと、その…」
「… 怜奈、俺は、」
────パシンッ
渇いた音と、頬に走る熱
座り合う2人が見つめ合う光景に、オールマイトと相澤は目を見開き固まった
この子が感情的に人を叩くところを、初めて見たから
見つめ合っていた両者は、熱を持った頬をそれぞれ押さえ、彼女を見上げて…
ポタッ……ポタ、ポタ
胸の内側が、跳ね上がる
白い頬に幾つも流れる光と、悲しげに歪んだ顔にヒュッ、と息を呑む
「怜奈、ちゃ………」
「だめ、なの…どうしても、できないの……!」
堪えるような、震えた声
「2人だけでぶつかり合った理由も、私を傷つけない為だっていうのも…
────"理解"は、できても……っ"納得"が、できないの…!!」
溢れ、零れ出す涙は、どんなものよりも彼らの心を痛めつける
握りしめられた小さな掌は、色が変わってしまうほど強く握りこまれていて…彼女の心の内を表しているかのようだった
───ああ、自分は……怒っているのか
ストンッと、腑に落ちた
「ふざけないで…馬鹿に、しないでよっ……!!」
虹が、光る
「痛みだって、弱さだって…全部、受け止められるんだから!私は…っ神風 怜奈は、強いんだから!!」
剥き出しの子どものような言葉は、あまりに不器用で、真っ直ぐだった
「怜奈…」
「っ昔から!危ないことする時は私に知らせもしないところ、本当に変わってない!!」
「ご、ごめんなさい…!」
「心配するし、怒るに決まってるでしょ!!大切な人が自分の知らないところで傷ついてたら!悲しいんだからっ!」
「悪い…」
「私をっ泣かせたくないって…悲しませたくないって、思ってくれるのなら…!
っこんな風に、傷つけあうようなことしないで…私の知らないところで、2人だけで無茶しようとしないでよ!ばかあっ」
言葉と共に注ぐ痛い程の抱擁は、"あの日"と変わらず温かく、柔らかくて…愛しかった
彼女の小さな肩に押し付けられるような体勢が、自分たちの心を感傷に浸らせて…気付けばどちらともなく、縋り付くようにその背に腕を回して熱を求める
「(もう…本当に、変わってないんだから…)」
それぞれの熱にもう一つ感情を零し、顔を埋めていた両肩から顔を上げ消毒塗れの幼馴染を見下ろす
「ほっぺ…叩いちゃって、ごめんね」
「謝んな、怜奈は何も悪くねェ…」
「本当に…ごめんなさい、怜奈ちゃん」
「…今回みたいなことは、2人だけじゃなくて先生達にまで迷惑をかけることになるの。だから!こんな風に、他の人にまで"心配"をかけちゃ、だめ」
「「はい……」」
罪悪で瞳を伏せる両者の頬を撫でた天使は、ふ、と空気を緩め、視線を上げた彼らに光を零す
「───
「「……!!」」
「
キラキラと輝く愛しい人に、いつの間にか両腕を回していた
腰元に2人が抱きついている状況に一瞬だけ目を丸くするも、怜奈は柔らかくダイヤモンドを細め、お互いに譲らないとばかりに腕に力を込め鼻を啜る幼馴染達の頭を撫でる
「しょうがないんだから、もう」
「ズッ…おいデクァ…手ェ離せや…!!」
「ぐずっ…かっちゃんこそ、離れてよ…!!」
「2人ともだ馬鹿」
睨み合う両者に再び捕縛布が巻き付けられ、心做しか先程よりも力が込められギリギリと体が悲鳴を上げる
「ったくお前らは…!あんま調子にのんな問題児っ」
「ごめん私も庇えない」
「「あだだだだだっ!!!」」
「パッパーパ、消太先生、落ち着いてっ」
私情のこもった捕縛と上がる悲鳴に怜奈が慌てて助け舟を出せば、大人気ない大人は渋々捕縛を解いてくれた
「っとに…あんまり怜奈を困らせるんじゃない。いつも誰がお前らのフォローしてやってくれてんのか忘れんな」
「ぐっ…」
「はい…」
「こうして自分を真剣に叱ってくれる人が身近にいてくれるってことも、忘れちゃダメだぜ」
彼らの声音はこれ以上怜奈を悲しませれば容赦はしない、といった気迫も込められていて、爆豪と緑谷は先程の涙を思い出し大人しく首を縦に振った
「先生方、本当にありがとうございました」
「怜奈は悪くないって言ったろ?それより、目元もう一度冷やそうか」
「いえ!じ、自分でできますっ……!」
「…抱っこもいいの?」
「〜〜しっ消太先生!!」
「はははっ」
「待って???抱っこって何???ねえ怜奈、パーパに説明して?!!」
「もっもう!私パーパにもちょっと怒ってるんだからね!」
「ええっ?!そ、そんなあ怜奈!!待っておくれアレは本当に仕方なくてっ」
「やっ!」
「ああん!!ごめんよお怜奈!!パーパが悪かったから可愛いお顔を見せてぇ!!!」
「……いつもこんなんなのか…?」
「(やっ!って可愛い…)」
「慣れろ爆豪」
迷いなく床に膝を着き頬を膨らませる娘に縋り付くオールマイトに、先程とのギャップに思わず確認を取れば、呆れたように担任がため息を吐きその身をこれまた慣れたように引き剥がす
「ほら、夜も遅い。明日に備えて今日はもう寝なさい」
「うおああああああああぁぁぁ相澤ぐんんんん弁解をぉぉおおおおおっ!!」
「めんどくさいんで明日にしてください」
「Holy shit!!!!」
魚のように飛び跳ねる元平和の象徴に冷めた視線を向け怜奈達を寮へと促す相澤に、怜奈は心配そうにその光景を見つめつつ寝る前の挨拶を伝えてから、爆豪と緑谷を振り返る
「帰ろう、2人とも」
「「───っ、」」
────一緒に帰ろう?
あの日よりも大きくなった手を重ね合わせて、3人は教師寮を後にした
「全く…あいつらは、怜奈じゃないと素直に言うことを聞かないんですから…困ったもんですよ」
「いててて…でも私、怜奈があんなにも怒るところ、初めて見たかも…」
「…ええ、俺もです…それだけ、あいつらを大切に思っているんでしょう」
「ぐぬぬ…妬けちゃうなあ………」
その言葉に、心の中で小さく同意したのは…言わないでおこう
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