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大切な人
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1年A組が仮免試験に挑むのとは別の場所で、それは行われていた
「教育に専念するものだと思っていたが…僕に何を求める?」
────つい最近までこの世に君臨した、絶対的な正と悪があの時とは違いガラス越しに対峙する
特殊な素材で特別に作成された分厚いそれは、永遠に交わることの無い2人を比喩している気さえする
あくまで平素に、世間話をするかのような悪の声の抑揚に…つとめて冷静に、サファイアが僅かに燃える
「ケジメをつけるだけさ、オール・フォー・ワン」
タルタロス…通称"奈落"を意味する神の名が付けられた日本屈指の監獄施設
ここに収容された犯罪者達は地下深くに収監され、考えるだけで気が遠くなるようなセキュリティに覆われている
それに加え、バイタル、脳波も常にチェックされ、万が一に備えて銃口も向けられた状態となる…
それはつまり、個性を発動しようとした時点で己の命を脅かす行為となるのだ
「それで?何を求めてる?グラントリノは?独断か?」
くるくると回る舌をオールマイトが指摘すれば、オール・フォー・ワンは喜々の色を混じらせながらすぐ傍らに存在するであろう看守達を皮肉るかのように端的に答える
"会話が成り立つ"ことが、嬉しいのだと
「貴様は何がしたい、何がしたかった」
死柄木の情報を期待できないことを悟ったオールマイトは、純粋かつ永遠に終わらない疑問を壁にぶつける
案の定、場違いな笑い声が1人分響き渡る
「君が正義のヒーローに憧れたように、僕は悪の魔王に憧れたシンプルだろう
──理想を抱き、体現出来る力を持っていた。永遠に理想の中を生きられるならその為の努力は惜しまない」
────例えこの命が、"最も愛した人のものであった"としてもね
最後に加えられた言葉の節には、彼自身にしか分からないような1つの感情がこもっていたのかもしれないが…
彼とは正反対の正義を掲げるオールマイトがその色に気付くはずもなく、オール・フォー・ワンの言葉にも強い嫌悪感と自身に対するやるせなさしか感じさせなかった
(っ…ふざけたことを…!!)
胸の痛みと怒りで綻びが生じたオールマイトを追い詰めるかのように、オール・フォー・ワンは少ない残り時間に畳み掛けるように己の予想するシナリオを披露する
全て的外れだ。残念だったな。
現役時代のような高笑いを響かせながらそう言い放ってやりたいのに、身体は素直に動揺し額からは汗が滲む
楽しそうに、所々に笑い声を交わらせる目の前の存在が不快でしょうがない
しかしそれでも…示さねばならない
少しばかり長生きしているだけの貴様は、全知全能の神ではないのだと
「お師匠の血縁である死柄木に私……あるいは私と少年を殺させ
───私から娘を奪う。それが筋書きだな」
「で?」
ああ本当に、腹が立つ
「私は死なないぞ、死柄木に私は殺させない」
こいつが息をしているだけでも…"あの人"の力で悪の道を、人を…作り上げてきたのだと思うと溢れ出る怒りで溺れてしまいそうになる
「私は殺されないぞ!私の娘は絶対に渡さない!!
──貴様の思い描く未来にはならない!」
もし、もしも…いや、そんな考えはいらない
あの子を、1度両親を失ってしまったあの子に、二度とそんな思いはさせてなるものか
最後に己の栄光をはためかせながら頭上から聞こえてくる音声に促されるままに入口に向かったオールマイトの背に、耳障りな低音がぶつかった
「ああ、そうそう…1つヒントをあげよう」
「…何を、」
「おかしいと思わないか?一目見て、彼女にあんな風に執着するなんて…もちろん、あの子には怜奈くんのことは知らせていない。正真正銘、一番最初の襲撃が初のコンタクトだった…信じてもらえるかは別だがね」
「……………あの子の名を、気安く口にするな」
薄々、感じてはいた
なぜ初対面であった怜奈を、死柄木は自身が撃たれてまでも必死になって連れていこうとしたのか。緑谷達からも言われるほど子供っぽい…つまりは飽きやすい気質がある彼だから尚のこと、疑問に思わずにはいられなかった
そしてそれから今に至るまで、異常なほどの執着と寵愛の対象となっているのか
人は自身にないもの、手の届かないものに様々な感情を抱く。
憧れ、嫌悪、羨望、欲…そして時には、恐ろしい感情をも生み出す
あの子には… 怜奈は、人を惹きつける才能と欠点がある
「まあ、怜奈くん自身にそれほどの魅力があるから彼女に惹かれてしまうのも可能性としてはあるが…それはあくまで一般人の例えだ。死柄木弔はもっと本質、根本から…心から怜奈くんを求めていた
それは何故なのか、気にならなかったか?」
嫌な、音がする
無機質な、極めて抑揚の少ない音声が退室の言葉を知らせてくるが…オールマイトの体は足から根が生えてしまったかのように、その場から離れることが出来そうになかった
『オールマイト…物語はずっと前から始まっているんだよ
──────ずぅっと、前からね』
強制的に遮断された扉の音は、敏感になりすぎた耳の奥で響いて…いつしか耳鳴りに変わった
悪が、扉の奥で笑っている気がしてならない
───────────
─────
───────
サァッ───
「パーパ」
「!怜奈、ごめんよ…疲れているだろうにこんな時間に…眠たいだろう?」
「ううん、いいの。パーパとお話する方が、何倍も大事だもの」
涼やかな銀の風が2人の隙間をぬけ上空へと浮かんで消える
あの日、この子を引き取った時から…胸がざわついて仕方の無い日は、いつだってこの子がそばにいてくれた
ただ静かに…月のように寄り添い星のように純粋な言葉をくれるのが、オールマイトにとって何よりの支えだ
緑谷からのメールが届き、彼と一緒に写っていた怜奈の顔を見て直ぐに今夜会えないかな。とメッセージを送ってしまっていた
普段であればどうしたのかと聞くところを、彼女は2つ返事で了解の意をくれた
聡明で心優しい、世界で1番愛しい子
敷地内の道の至る所に設置されているベンチのひとつに腰を下ろした後も、怜奈は何も聞かずオールマイトの体に寄り添うように身を任せていた
「仮免許取得、お疲れ様…相澤くんから聞いたよ、1番の成績だったって!おめでとう、怜奈っ」
「えへへ…ありがとう!パパとパーパのおかげね、2人が私に…ヒーローとはどんなものか教えてくれた」
「いいや、君自身の頑張りさ!私も鼻が高いっ」
「あははっくすぐったい!」
左手で薄い肩を抱いて逆の手で星屑を撫でるとキラキラと鈴が辺りに舞い、己の心が満たされていく
────ああ、なんて愛おしいのだろう
この子と話しているだけで、それこそ見ているだけでこんなにも幸せになれるなんて…何度幸福を彼女から貰ったのか、それは最早数えることも出来ない
絹から徐に手を離し、白く細い膝裏に右手を差し入れ横向きに己の膝へと案内すると、天使は何も言わずに静かに収まり小さな頭をすっかり薄くなってしまった胸に落ち着かせた
「…今日、タルタロスに行ってきたんだ」
「…うん」
「ケジメを、つけるために………」
己の身体の強ばりを感じたのだろうか
それでも怜奈は何も言わず、大きく骨ばった手を雪のように撫でてくれる
「…正直、奴の言うことは正しかった。ぐうの音も出ないほどに…その読みは当たっていた」
「…」
「悔しくて……恐ろしくなった」
返事の代わりに、柔らかな熱が冷たい指先を握る
その仕草に目の奥が痛んで、縋るように小さな光を抱き込んだ
この温もりが消えてしまうのが…ただ、恐ろしかった
今は柔らかく温かいこの子が…冷たく、固くなってしまうことが、何よりも………
「おかえりなさい、パーパ」
「っ」
「ありがとう、会いに来てくれてとっても嬉しい」
柔らかな果実が、コケた頬に触れる
きっと今の自分は、とっても間抜けな顔をしているに違いないと…ドーパミンが溢れる脳の片隅で思うと共に
"おかえりなさい"の言葉で、己の足が漸く地に着いた感じがした
ふ、と体の力が抜け可愛らしいリップ音を耳の奥で再生させる余裕があることに驚きながらも視線を下に向ければ、頬を薄く染めて…とろりと、幸せを溶かしこんだ天使と視線が合わさる
「ふふ…やっと、目が合った」
「!」
再び、白くまろい頬が胸元に寄せられると自身の鼓動のリズムが耳元で動いているかのように存在を示してくる
ああ………生きてる、この子も…私も…
──────"生"の、証明
「今日は、とっても疲れたんでしょう?」
「…うん」
「パーパは、頑張りすぎてしまうから少し心配かな」
「…それは、君もだと思う」
「ふふ…そうよ、"親子"だもの」
いつもよりほんの少しだけ大人びた口調はじわじわと、冷たくなっていたからだに血液を巡らせる
「パーパが抱えてるもの、悩んでることも…きっと沢山あるんでしょう?」
「…」
「…話さなくてもいいの」
「──!」
「優しい貴方は、1人で抱えることに慣れてしまっていると思うから…だから、無理に話そうとしてくれなくていい。私を守るための…秘密もあるんでしょう?」
「ッ気付い、て……」
「私はいつでも、そばにいるよ」
ああ、どうして、君は───
「もしこぼれてしまいそうになったり、預けたくなった時は、私がいるよ」
この子はいつも、己を孤独から拾い上げてくれる
トップに君臨するのが長すぎた己の中で根付いた厄介な茨を、淡く優しく解いて…陽だまりのような心地を思い起こさせる
「けど!私も誰かさん達みたいにお節介が大好きだから…パーパの重いもの、勝手に持っちゃったりしてしまうかもしれないけどね?」
「…本当に敵わないなあ、怜奈には」
「…だって私は、最高のヒーロー達がついていてくれてるんだもの」
強いんだから、と星屑を細める姿はとても美しくて…無性に泣きたくなった
「私の娘が男前すぎる」
「もう、パーパまでみんなと同じこと言うの?」
「あっそうだ相澤くんに聞いたよ!?誠の換装術習得したんだって?」
「習得だなんて…まだ完璧とは言えないよ?」
「それでもすごいじゃないか!めちゃくちゃCoolだったって聞いたぜ?」
「ええ〜?」
「今度私にも見せておくれよ!」
「ふふ、どうしようかな〜」
「何っ?!お、お願いだよ〜!!」
「きゃあっ、あははっ!」
いつかのように怜奈の体を抱えて左右に自身の体を揺らせば、無邪気な笑い声が静かな夜に散って、見かねた銀の風が二人を心地よく包み込む
空高く浮かんだ星が、きらりと輝いた
─────────────
────────
─────────
仮免試験で行われたことや新しい友人ができたことを怜奈が嬉しそうに報告していた時だった
「それでね、結局治療も出来なくて…」
『─────怜奈』
頭の中で深海のような心地いい低音が響く
「───ユエさん…?」
「ユエくん?どこに…」
娘の口から放たれた第三の名にオールマイトは目を丸くするが、ユエの声音を聞いて眉を顰める怜奈の姿に咄嗟に口を結ぶ
基本睡眠を必要としない彼は、夜になると時々怜奈の体から出て"月"に属するカードの統率を行っている
それが今日であった為、ユエは今怜奈の近くにはいない
しかし、体が離れていたとしても怜奈と強い主従関係を結んでいるユエとケルベロスはどちらかが望めば脳内でお互いの声を伝えることが出来るのだ
『たった今散歩から帰ったウィンディから聞いた話なんだが…爆豪と緑谷が2人で寮を抜け出し訓練所に向かっていったらしい』
「!勝己くんと、みっちゃんが?」
『ウィンディが言うには…あまりいい雰囲気ではないようだ』
「…!」
『早く主に伝えるために、俺に伝言を頼んだんだろう……主が巻き込まれるのは、俺としては不服だがな』
「…ありがとうユエさん、ウィンディ」
無理はするな、何かあれば必ず呼べと言う優しい言葉を最後に、ユエの声は途切れる
「怜奈?ユエくんがどうかしたのかい?それに緑谷少年と爆豪少年も…」
娘の険しくなった表情と雰囲気に、只事ではないと理解したオールマイトが問いかければ
優しい少女の瞳が歪む
───2人を、止めなきゃっ…
悲痛が込められた瞳に、いつの間にか白い手を引き駆け出した
『責任問題叱ッテ来イ!』
「まじかよ」
『マジマジ』
夜、割り振られた教師寮の自室にて事務作業を行なっていた相澤の耳に届いたのは、自身の受け持つA組生徒の時間外活動の報告
そして瞬時に脳裏に浮かび上がったのは、自身が受け持ってきた中でも屈指の問題児2人組…報告でも2名と上がっていたため、その線は濃厚であった
動くことを拒否している重い腰を何とか持ち上げ、苛つきを誤魔化すかのようにたいして痒くもない頭部を掻いてみる
が、登ってきた血圧は簡単に下がるわけもなく、諦めて溜息として吐き出した
掻いていた手はそのままに教師寮の玄関から出た所で、目の前に現れた気配に僅かに目を見開く
「怜奈…と、オールマイトさん。2人で話していたんじゃ…」
と言った所で、怜奈の顔が悲しみに歪んでいるのを確認し、知っているのか…と勝手に眉間に力が入る
「…知っているんですね、
「、ウィンディからユエさんが聞いて…私に、伝えてくれたの…おにいちゃん、」
「怜奈はここにいなさい」
「!でもっ」
「相澤くん、私はあの2人については入学前から知っていて…思う所がある。私に任せてくれないか…?」
次いですぐに連れてくるよ。と続けたオールマイトは未だ納得をしていない娘の身体を相澤の前へと寄せた
「っ私も!」
「…だめだ」
「っ…どう、して…!」
「君は、ここで彼らを迎えてあげてくれ」
「、」
目を合わせることなく告げる、重く、厳しい声音
どうしても譲れない時の
彼女の瞳に弱い、
「それが、
それだけ言って背を向け歩き出したオールマイトに白く細い腕が伸ばされるが…その手が、彼を掴むことはなかった
「… 怜奈」
「…」
「中に入ろう、体を冷やす」
「─────、」
薄い肩に手を添えた瞬間、弾かれたように彼女の細い体は相澤の胸にしがみつくかのように収まっていた
その際光ったダイヤモンドと、足元に映った染みに気付きながらも小さく震える背に己の熱を分け与えるかのように腕を回し、頭部を優しく抱える
「っ、消太、お兄ちゃん…!」
「うん」
「私、どうして…っいつも、大事な時に…!何も、出来ないの…!」
「… 怜奈のせいじゃないよ」
「っ…わかってるの…私に、負担を…心配をかけないように2人だけでぶつかってることも、守ろうとしてくれてるんだってことも…全部、ぜんぶ…私、っわかってるのに…!」
僅かに濡れる胸元の感覚に、抱き込む力が無意識に強くなる
「っでも!でも…胸が、苦しいの…溺れてしまいそうな程、悲しいの…!」
────この子に、汚れたものはあるのだろうか
穢れを知らない、美しい彼女には…こんな感情は、似合わない
あの2人に何があったのかは、自身にはわからない
けれど、聡明で人一倍人の弱さに敏感なこの子のことだ…少なからず自分が絡んでしまっていることに、気付いてしまっている
自分が原因で大切に思っている人達が傷つき合っているのは…怜奈にとっては、どんな罰よりも美しい心を傷つけるのだろう
そしてきっと…自分が止めることも得策ではないことにも、気付いている
彼女に止めてもらった所で、根本な解決にはならないのかもしれない…
揉めているのは…
「ぅっ…ごめんな、さ…お兄ちゃ、ごめっなさい…!私が、もっと…やれていたら…!お兄ちゃ、も…怒ら、れ……!」
ああ、ほらこんな時にまで…この子は、
「怜奈」
「、お兄ちゃ…」
丸く柔らかな額に、短く一つ、熱を重ねた
「シー…大丈夫」
「、っ…」
「迷惑かけろって言っただろう?それに、今迷惑かけてんのはあの2人だ。怜奈じゃない」
「け、ど…」
「例え何が原因であろうと、決定するのはそいつ自身だ。それに…何となく、わかるんだよ」
もし仮にこの子が関わっているのならば…それはきっと、譲れないものなのだろうと確信してしまっているのは、自分も一緒だから
「止める勇気もあるが…待って迎えてやるのも、立派な勇気で、救いになる。怜奈なら…それがわかるだろう?」
「…う、ん…」
「いい子」
ずび、と小さく鼻を鳴らす天使に小さく笑いを零しながら、大きな器にたっぷりと注がれた水を擦らないように丁寧に、至極優しく拭き取り
また一つ、今度は頭の頂に熱を添えて冷たくなってしまっている小さな手を握ってキッチンに向けて扉を開ける
彼女の好きなミルクたっぷりの紅茶と保冷剤はそこにある
「…お兄ちゃんに、こんなにいっぱい甘やかされちゃったら…わたし、何もできなくなっちゃいそう…」
「なんだ、まだそんな心配してたのか?早く諦めなさい」
「…お兄ちゃん、」
「ん?」
「………だ、抱っこ…だめ…?」
ぎゅう、と 心臓が掴まれたかと思った
申し出が恥ずかしかったのか、耳まで桃色に染めて床に視線を落としながらも両の手で相澤のスウェットの裾を掴む仕草の…なんといじらしいことだろう
甘え下手な天使の、精一杯のおねだり
可愛いがすぎないか?それ
「駄目なわけないだろう?おいで」
「ん…」
おずおずと手を伸ばす彼女の両脇に手を差し込み、横抱きにして細い体を大事に抱き込む
「紅茶、砂糖と蜂蜜どっちがいい?」
「は、蜂蜜…」
「ん。特別にホイップも入れてあげる」
「!」
「ちゃんと歯磨きするんだぞ?」
「うんっ」
ぱぁっ、と鼻の先を赤らめたまま瞳を輝かせて、自身の首元にぎゅっと抱きつかれれば、剥き出しの首筋に柔らかな頬が擦り寄せられて肺にまで幸せが溜まっていく
弱った女の子にがっつくのは十代まで
大人はこうして、隙をついてたっぷりと甘やかすのが得意なのだ
この子は甘やかされすぎて、と言っていたが…自身がいなければ何もできない彼女に甲斐甲斐しくお世話するのも悪くはないな、と
現実では程遠い考えをしながら、甘い香りに目を細めてみせた
(これぐらいの報酬は、あってもいいだろう?)
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