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インターンの説明から一夜明けた1年A組の教室では、無事爆豪も加わった中で担任である相澤の声が淡々と響いていた
「1年生の
バッサリと切り捨てられた後で上がるのは、不満と納得の声
「ざまァ!!」
「が、今の保護下方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として"インターン受け入れの実績が多い事務所に限り実施を許可する"という結論に至りました」
爆豪が嬉々として放ったすぐ後で出た言葉に、それぞれが沈みがちな気分から一縷の望みを見出す
「クソが!!」
「相澤先生、ちょっといいかしら」
「なんだ蛙吹」
「朝から怜奈ちゃんの姿が見えないのだけれど…先生達と一緒にいるのかしら?」
「寮でも見かけてねえもんな」
「お部屋にも既にいらっしゃいませんでしたわ」
怜奈が居ないことに気付かない訳が無い相澤が何も言うことなく淡々と話を進めていたのに、蛙吹は彼は何か知っているのだろうと確信しその所在を問いかければ教室の中の全ての視線を奪う彼はああ、となんてことなさげに手元の学級簿をパタリと閉じた
「怜奈は今日からインターンだ」
「へえ、インターン」
「なるほど、だからかあ…………………って、」
「「「ええええええええええええ?!!!」」」
自身が在籍する教室で悲鳴が上がっていることなど知る由もない怜奈は、最近ヴィランによる犯罪が多発しているという市街地にて、その内の一つである窃盗集団を警察へと引き渡していた
「引き継ぎお願いします」
「はいっ!ありがとうございます!」
「助かりました、
「今日のお昼過ぎまで、この区間のパトロールを任されているので…」
これからの人生を嬉々として考えていた窃盗集団は、この街1番の富豪から持ち出した宝飾品や現金を抱えて飛び出そうとした矢先に怜奈に捕らえられ、短すぎた夢心地にその表情はなんとも言えないものであった
「くそうっあと少しだったのに…!!」
「さよなら俺の富豪生活…」
「いや、俺は悔いなんてないぜ」
「ああ、俺もだ…まさか怜奈ちゃんに捕まえてもらえるなんて」
「一生の思い出だぜ、宝石眺めるより俺は怜奈ちゃん眺めてたい」
「それが正解だわ」
「我が人生に一片の悔いなし」
「(晴れ晴れとした顔してる…)」
護送車に乗り込むヴィラン達の後ろ姿に、駆け付けてくれていた警察官達は揃ってため息を吐き出し、苦渋を塗した顔のまま同色の声を響かせた
「いつもこの区間をパトロールしていたヒーローが地方出張の際にヴィランとの交戦で負傷、その他ヒーローも例の事件で現在も入院中…我々もパトロールは行っていますが、只でさえここは街の中心地で犯罪件数も前よりさらに増えています」
「ヴィランの動きが活発になってきてどこも人手不足なんですが、貴女のように強く知名度の高いヒーローに見回りを行ってもらえるのはとても心強いです!」
「ありがとうございます、まだ仮免の身ではありますが…皆さんのご期待に応えられるよう精一杯努めさせて頂きます!」
頑張りますっと大輪の花を咲かせる天使のような魔女に全員がその輝きに目を潰されつつも、その脳裏には瞬時にヴィランを拘束した光景が蘇っていた
「(こんなに華奢で可愛いのに…)」
「(通報があった時にはもう捕まえてたんだもんなあ…)」
「(kawaii…)」
「(好きだ…)」
「では、私はパトロールに戻りますね!お疲れ様でした!」
「「はいっ!お疲れ様です!!」」
「
浮き上がるカードを召喚し杖に翼を纏わせ上昇する怜奈の脳裏には、昨日の出来事がまるでさっきの事のように鮮明に蘇っていた
男子生徒との接し方という幼稚園でも行われないような注意(?)の後、相澤はオールマイトと共に場所を仮眠室へと移し怜奈を呼び出した本題へと話を再開させる
「…怜奈のインターン参加について、校長、並びに教師全員に通形との戦闘Vを確認してもらった」
「…それは、私のインターン方法が特殊であるから…ですか?」
「その通りだ。怜奈はあくまで雄英からの派遣、つまり"チームアップ"として事務所には在籍せずインターンへと参加するのが第一条件」
「君は幾度となく"その場"に直面し、数々の苦難を持てる最善を尽くし乗り越えてきた…しかし、」
「…生半可な実力では、現場に出てもお荷物になるか…最悪の場合、犬死するのがオチだ」
「………はい」
「教師全員の判断と、数名の教師陣と校長が議論した結果…怜奈、」
両者からの重みのある言葉の圧と、真っ直ぐな眼光に卓上の緑の水面の揺れを感じつつ臆すことなく光を向ければ…数秒の後に、一筋の橙がその場を引き裂いた
「─────"明日より、神風 怜奈のインターンへの参加を許可する"」
「─────、」
「現雄英のトップであるビック3にも引けを取らない戦闘力と全力の戦闘パフォーマンスを行える精神力…そして何より、人々を救うことの出来る多種多様な怜奈の能力は実践に出ることで更に未知な力を引き出すことが出来る」
「…本当は、もっと時間をかけて我々が指導していくべきなんだが…将来を担う新たなヒーローがいることを、世間へと知らしめなければならない
……怜奈、君にはその先駆者となって欲しい」
「私、が…?」
「…誠さん…フェアルズとオールマイトと同等に、怜奈には人々を導き、照らすことの出来る圧倒的なカリスマ性とセンスがある」
「君の光で、今の日本を…世界を照らして欲しい」
彼女を誰よりも近くで見守ってきただけでなく、師として、また平和の象徴から見た嘘偽りのない評価
この子には…怜奈には、それだけの能力と人を心酔させてしまうと言っても過言ではない溢れ出る力がある
──────そしてそれは、諸刃の剣
師と師からの言葉に、全てを受け止めた光は一際大きく輝く宝石を一度隠してから、再度世界を映し出す
「────"
彼らに息を飲ませる姿はあまりに優美で、あたたかい
それと同時に感じる揺るぎない強さは、自分達の心配が杞憂であったことを確信させて、どちらともなく張り詰めていた緊張を無意識に吐き出した
「…ああ、もう……言うことは無さそうだ」
「(あまりに曖昧…それなのに壮大過ぎる言葉だ。普通なら尻込みするか、最低でも戸惑ったりするもんだが…)」
恐ろしいほどの理解力
だがそれは決して過剰な自信や慢心の表れではない
"自分の個性"で、"今は何ができて" 、"何を求められているか"のかを瞬時に判断した結果であるのだろう
「(怜奈は彼ら同様圧倒的な"光"……基盤が緩みつつある今、求められているのは強く眩い魅力あるヒーロー)」
─────典型的、且つ砂漠の中にある金を見つけるかのごとく、奇跡的な逸材
「(この活動が吉と出るか凶と出るか…怜奈の場合、本当に予測が出来ないからなあ…)」
今までの娘の行動の数々と共に、自身の後継者も同じようなことしてる気が…と己の目にかけている者達が段々と師匠が言う"悪いところ"、に少なからず影響されてしまっていることに何となく苦笑が漏れる
しかしそれでも、怜奈が行ってきたそのどれもは…その先が明るく照らされていると感じたのも事実
「…けど、きっとすぐに私はお役御免になってしまいますね」
「うん?」
「……どういう意味だ?」
「だってもう…すでに光は、生まれています」
芯のある声音と輝く瞳の中で黄昏が揺れて、自然と視線が彼女と同じ先に動かされれば…二つの翼が高い校舎の遥か上を飛び立っていくのが見えた
「ここは、"最高のヒーロー達"が師となってくれる場所だから」
「「!!」」
「…今こうして言ってもらえる私があるのは、未成熟なヒーロー見習いである私達を"見てくれる"先生達と、共に戦い、学び、信頼し合い前に進む力をくれる"仲間がいたから"です」
「怜奈…」
「みんなは…私達は、必ず最高のヒーローになります…この国を照らす光に
その中でも、私に先陣をきることを任命してくださるのであれば…私は、私のできる全てを持って全力で取り組ませていただきます」
キラキラと、何者にもなれる美しい輝きはあの頃から一切褪せる事無く自身達を照らすのに、二人は顔を見合わせてからおそらく同じ形に表情筋を歪ませた
「HAHAHA!!これは…1本取られたなっ!」
「…ま、全員がそうなるにはまだまだ課題が山積みだけどな」
確固たる自信と無条件の信頼は、容易く彼らの心を震わせる
「(そういう、ところなんだよ…)」
個性だけじゃない、怜奈の存在と彼女から生み出される言葉の数々は人々を導く大きな光となる
「(きっと君は、無意識だろうけどね)」
だからこそ、どんな者の心にも深く突き刺さる
幼い頃から見守ってきたからこそ…その成長に緩みそうになる感情を抑えながら、照れたような笑みを浮かべる怜奈に再度向き合いインターンの概要と依頼内容を伝えるため口角を引きしめた
─────────────────
─────────────
────
昨日のエンドロールが流れるのを横目に、頬を撫でる金の風に瞳を細めれば、自身の守護獣が本来の姿で大きな翼を自身のものと連動させるように羽ばたかせていた
「ケロちゃん…」
「昨日のオールマイト達の言葉、ほんまはあんま納得してへんのやろ?」
「、え…」
いつもの姿と違い透き通る黄金の瞳と落ち着いた声音が、自身でも気付かなかった核心を突いてくるのに大きな瞳が丸く輝く
「…ケロちゃん達ってば、私より私の事知ってる気がするね」
「あったりまえやろ?ワイらは怜奈の心の一部みたいなもんや…だからこそ主を支える守護者としてこれ以上の適任はおらん」
どこか鼻高々にも見える横顔に自然と笑みがこぼれて、次いでその核心と向き合うようにして瞳を伏せ胸元に真珠のような指先をそっと添える
「正直…驚いてるの」
「…」
「私に、オールマイトや…フェアルズのような、人々を照らす"光"のような存在になる事が出来るのかなって…」
「怜奈…」
「あっ…でもね、もちろんすっごく嬉しかったの!パーパ…オールマイトとイレイザーヘッドからの直々の言葉だったし…私の力が、皆の救いになれるんだって…」
「……おん」
「けど…少しだけ…ほんの、ちょっとだけ…」
胸の内の纏まらない思いもわかってくれているであろう守護獣は何も言わずに、ただ黄金が優しく波打つ姿がざわつく心を落ち着かせてくれる
「…それでも…自分に務まるのかって、考えてまうんやな?」
「…………だって、私ってばまだまだ未熟で…何よりも、"私が私に"、まだ合格を出せていないんだもの」
──────ホンマに、主はすごいなあ
薄々感じていた自身の主から出た声音に、黄金をさらに優しく細めて、わざとらしく一声を吐き出す
「何言うてん、」
「だから決めたの」
広く自由な空に、響く音色
「未熟な私が完成する最高の瞬間を、みんなに見せるんだって」
「、」
「あの時……そう、決めたんだ」
光のような笑顔で
花のような可憐さで
風に揺れる虹色は女神を連想させるように美しいのに、子どものように純粋で誰よりも強い芯を掲げる姿は、網膜を強く刺激した
「応えたいって思っちゃうんだから…私も、"わがまま"かな?」
─────俺は、誰よりもわがままに生きるだけだ
「…………ああ、最高にな」
懐かしく美しい友の姿と目の前の宝石が重なって、長く生きてきてもなれることの無い僅かな痛みと…それ以上に溢れ出る愛しさが自身の深いところまで優しく満ちていく
「みんなのこと、思いっきりびっくりさせちゃおうね?」
「っ…それでこそ、ワイらの主やな!」
「…えへへ」
水を啜るような音に気付きながら、怜奈は誰よりも自分を理解してくれる守護獣に無意識に慈愛の瞳を向けたところで、もう一人の守護者の声が脳に直接響き渡る
『主』
「!…報告を」
『西に100m、銀行の前で強盗犯が人質を盾に逃走を図っている。最近暴れている強盗犯と特徴が一致する、"例の個性"で警察やヒーローも迂闊に近づけないんだろう。野次馬も多く集まっているから、奴らにとって都合もいい。このままでは逃げられるのも時間の問題だな』
「じゃあ人数は変わらず3人?」
『ああ。人質は5歳〜7歳の女児。捕まった恐怖でか個性を使うどころか暴れられる様子でもない、女児の母親らしい女は混乱からか今にも飛び出しそうだが警察に抑えられてる』
「ヒーロー達の個性は」
『集まっているヒーローの中で拘束に有利な個性は持っていないようだ…もうそろそろ強盗犯の車の用意が完了しそうだ』
「了解。ありがとう」
【風】・"
風のカードは情報の伝達を得意とする
何か街に異変があったり、事件が起これば彼女の見たままの情報が瞬時に伝えられる
今はユエがいる為直接脳内に伝えてくれているのだ
「ケロちゃんは周囲の警戒と誘導を!」
「 おうっ!」
【翔】・"
「──────音を、置いていけ」
───────その頃、数分前の地上では
「ままぁ…ままッ……!!」
「いやっ!離してっ私の、私の娘をっ!!!」
「奥さん離れて!」
「危険です!」
「でもっ…!!」
「そう心配しなくても返してやるよ、まあ生きているかはわかんねえけどな」
「っやめろ!これ以上の横暴はっ」
「おっと、それ以上近付くのはおすすめしねえなあ?」
踏み込むヒーロー達に向かい伸ばされた敵の手の内にある黒い球体は、熱くなりかけた彼らの動きを容易く止めて見せた
一見ただの黒いボールに見えるが、よく見ればそれは表面ではなく中で渦巻く煙の色
「お前達が近付けば俺の毒が辺り一面を毒の海にする!そうなった場合の被害を考えてから動くんだなぁヒーローさんよ」
「クソっ…!!」
「周りの奴らも動くんじゃあねえぞ!!」
一昨日、この個性により強行突破へと踏み込んだヒーロー、付近にいた一般人数十名は現在も入院中
人通りが多い時間帯を狙った犯行、毒を使われてしまえばどれだけの被害をもたらしてしまうかも分からない
それこそがまだ犯人を捕獲できていない最大の理由
「おい、早く乗れっ」
「おら大人しくしろ!!」
「いやっ…やだあ…!」
「近付いたら即ばら撒くからな」
ナンバープレートを持たないオープンカーから響き渡る少女の悲痛な声音が周囲の人々の口内を苦く滲ませる
鳴り響く荒いエンジン音と細く上がる悲鳴が遠ざかって行くのに、母は神に祈るかのごとく、
「─────娘を、誰か救けてえ!!!」
─────────────キンッ
天高く突き抜けた願いと共に駆ける僅かな音
下卑た笑い声を乗せる真っ赤な車は、僅かに遅れた後に
二つの鉄塊となった
「…はっ?」
間の抜けた声より先に現状を理解した車体は突然変形した形状に為す術なく機能を停止させ、重い車体はそれぞれ分断し部品をばらまかせながら誘導により誰もいなくなった車道を勢いよく滑って行った
「────怪我はない?お嬢さん」
「…え…?」
春の日差しを思わせる柔らかな声音、自身を包む熱は温かで、花のように甘く鼻腔をくすぐる香りは恐ろしさとは最も程遠く
涙で潤む視界のまま見上げた先には
数多の光を詰め込む、光の魔女
「、あ…」
「娘さんをお願いします、見たところ外傷はありませんが念の為病院へ」
「、あ……はっはい!!ありがとうございます、ありがとうございます!!」
「そんな、当然のことをしただけです。誰か救急車の手配を」
「は、はい!すぐに!!」
「…天使、さん………?」
一瞬の出来事と突然の展開に周囲が別のざわめきを起こす中で少女から出た呟きに、光は一度大きな瞳を丸くしてからゆるりと月を描く
「…いいえ、」
「なっ…んだこりゃあ?!」
「誰だよこんなことしやがったのは!!」
「俺たちに楯突くなんざ…何もんだてめえ!!」
「──────貴方達を倒す、ヒーローよ」
白く輝く翼が、美しく舞う
怒るヴィランに向かい強く乱反射する存在は、周りの人々の瞳を全て惹き付けるほどの圧倒的な引力で、一瞬で五感が支配されたような心地になる
「ヒーロー………って、あいつ……まさか、」
「神野の事件でオール・フォー・ワンを吹っ飛ばした…!!」
「オールマイトの娘の、」
「余裕ね、お喋りなんて」
「は」
ヴィランが瞬きを開いたと同時に目に映った光景は、彼女の足元で平伏すように倒れ込む2人の仲間の姿
「えっ…な、……なん、っで………?!!」
「人々を巻き込み私利私欲の為に暴れる貴方達を、私はヒーローとして止めるわ」
「っうるせえ!!!!これでも喰らいやがれっ」
何が起こったのか理解しきれずとも、本能が危険を察知し今出せる最大限の力を込める
「全員くたばっちまえぇぇぇぇっ」
「!まずい!!逃げろォッ」
一面に舞う黒い球体が、弾ける
ボシュウウウウウウウウッ
螺旋状を描く毒に誰もが絶望を垣間見た
「────────あらあら」
ただ、一人を除いて
「随分と可愛らしいのね」
人一人を覆う程の銀の壁から聞こえてくる声は、あまりに柔らかく優しげで
「けど残念…私には、効かないようね」
圧倒的な強さを纏う
「"
銀の壁が歪み、更に大きくその身を変えた瞬間…辺り一面に漂う黒い霧はそれに誘われるようにして瞬く間に吸収され、驚く間もなくその脅威は影も形も失っていた
最後銀の壁が手のひらサイズの球体へと変化すれば、美しい深紅を纏わせるその人は労わるようにその球体へと優しく桜色を押し当てる
「シンシャの前で、毒は厳禁よ」
「ひっ……ひいいいい!!!」
シンシャ…辰砂へと変幻した怜奈に己の個性が効かないことがわかった憐れな男は、無意識に反対方向へと駆け出した
「往生際が…悪いわね」
その言葉を吐き出した時には、敵は彼女の足元で無様に倒れ伏していてあっという間の出来事に誰もが唖然としていたが、いち早く現状を理解したヒーロー達が変幻を解いた怜奈と犯人達に駆けつけてくる
「は、犯人の確保!!」
「え、あ、はい!!!」
「すみません、引き継ぎお願いします」
「あなたは…」
「本日この区間をパトロールさせて頂いています、雄英高校1年ヒーロー名"
「君が…いや、それよりも助かった!ありがとうっ」
「まさか……一瞬で鎮圧してしまうなんて…」
「これでまだ学生だなんて、信じられない」
「素晴らしい動きだった!」
「そんな、敵との相性が良かったのもあります」
謙遜の笑みを浮かべる姿は誰よりも可憐で見惚れてしまうほどなのに、戦う姿は誰よりも気高く美しい
「あの子、神風 怜奈ちゃんだよな?オールマイトの娘の!」
「肉親はフェアルズだろ?」
「どっちもそうだけど、本物めっちゃ可愛くね?!そこらの芸能人なんて目じゃねえよッ」
「っていうか美しいって感じだな…」
「てかさてかさ!!見たかさっきの?!超強えの!!」
「見た見た!!あの変身も初めて見たッ」
「戦ってる姿、超かっこいいじゃんね?!」
「ヒーロー名ジュエルウィッチって言うんだ…」
「もうヒーロー活動してるんだなあ」
「同い年とは思えないよね〜次元が異次元」
「マジそれな?つかオーラから違うわ」
「憧れる〜…」
「まだ若いのにねえ」
誰もがその魅力とカリスマ性に充てられ平和にざわめく中で、怜奈の脳内に再び守護者の声が響く
『主、北に2km敵の姿を確認』
「!わかった」
「?ジュエルウィッチ…?」
「すみません、後のことはお任せしてもよろしいでしょうか?」
「え?あ、ああ大丈夫だよっ」
「こっちは任せてくれ!」
「すみません、ありがとうございます!」
笑顔を向けてくれるヒーロー達に背を向けようとしたところで、高い声が空間を引き裂いた
「てっ…天使のお姉ちゃんっ!!」
瞳を向けた先で、自身のスカートを握りしめ顔を真っ赤にした少女が空に高く舞うような声で叫びに近い声を吐き出す
「助けてくれて、ありがとう!!」
キラキラとした瞳が、ダイヤを撃ち抜いた
「───────またね、お嬢さん」
ふわりと、軽やかに浮かぶ魔女が指を鳴らせば
少女の腕の中いっぱいに春の花が満開に咲き誇る
「まじ…………やべえ…………………」
それと共に落とされた微笑みは、その場にいる者の心全てを攫って行った
「なあおいどうなると思うよっ?人にさあ、至近距離で思いっきり電流流したら…どうなるかなあ?」
「お母さん!!!」
「ッ来ちゃダメ!!逃げなさい!!」
「下がって坊やッ」
「人質を解放しろ!!」
「俺の実験の邪魔するなよォ?わかってるよなぁ?」
女性を拘束しながらブツブツと呟く男は誰の声も届いていないのか、叫ぶ周囲の姿には目もくれずバチバチともう片方の手でスタンガンを起動させている
「俺の個性は"電力操作"…通常であれば微々たるもんだが、最近貰った薬でこの辺り一帯の電力ぐらいなら操れる……最高の気分なんだよ…一度でいいから思いっきりぶっぱなしてえんだよ…!!」
「ッそんなことをしてもなんの意味もないぞ!!大人しく投降しろ!」
「黙れェ!!!俺の欲の邪魔すんじゃねぇ!!!」
血走った眼と冷や汗は彼の状態が正常では無いことを表していて、これ以上の刺激は逆効果かと思っていた頃小さな影が走り出した
「お母さん!今っ助けるよ!!!」
「あっダメだ戻りなさい!!!」
「ダメ!!逃げなさッ」
「まずはてめぇからだクソガキ!!!!!」
母を助けるために飛び出した小さな少年の瞳に、火花が散る
「───────君、最高にかっこいいね」
「………え?」
目前まで迫った火花が弾けていないことに気付いたのは、浮いた両足と自身の横で同じように目を丸くする捕らえられていた母の姿が目に映ったから
まさしく時が止まったような感覚にどこか夢心地のまま足が地面に着くも、自分と母は先程まで周囲で敵の牽制を行っていたヒーロー達の前に移動していることに頭の理解が追いつかない
「何で…」
「もう大丈夫─────私がいる」
風で揺れる光があまりに美しくて、瞳の奥でパチパチと弾けて溶ける
「おい…おいおいおい、何してくれてんだよ…人の実験台に!!」
「笑わせないで、そんなこと許されるはずない」
「分別だよ!!!!!弱くて何も出来ねえくせに飛び出してヒーローに迷惑かけるようなクソガキをこの俺が処分してやろうってだけだ!!!!」
その言葉に今更ながら恐怖がぶり返して、自身を強く抱きしめる母親の腕の中でテレビの中でしか見た事のない悪に足がすくみそうになる
「ッ…ぼ、僕………」
「あなた、何を見てたの?」
「あ"ぁ?」
「人を傷つけることでしか自身を認めることのできない"臆病で弱い貴方"に……この子を侮辱する資格なんてないわッ!!」
光り輝く杖が一層強く輝くのに、胸の内に風が通ったかのように恐怖がすり抜けて
ただ強いその存在に、惹かれる
「俺をっ馬鹿にするなあああああああ!!!!」
激昂した男はスタンガンを媒介にするようにバチバチと己に雷を纏わせると、周囲にある電柱や街灯の電力を吸い取っていく
「焼けちまえええええッ」
「危ないッ…!!」
「大丈夫」
振り向き微笑む姿に、目を奪われる
降り注ぐ電流の先で、ダイヤが弾けた
ブォンッ
剣舞の如く、優美に、それでいて軽やかに彼女の手によって舞う杖にまるでじゃれるように雷が纏っていく様は、誰の目にも美しくその光景を焼き付けた
「──────爆ぜろ」
ビュッ
バチバチバチィッ
全ての雷を纏わせた直後上空に向かい槍のように真っ直ぐに打ち上げられた杖に、その言葉と共に雷が光の粒子となり花火のように散る
傷一つつけることなく主に向かい垂直に降下する杖は、何事も無かったかのように怜奈の手で遊ばれると何度か回転した後に再びその切っ先を敵に向け直した
「言ったでしょう?大丈夫って」
ふわりと微笑んだ天使は、その数秒後敵の上に君臨しその場に居た全員の声までも奪ったのだった
事件後、溢れんばかりの野次馬と報道陣が当たりを囲む中ヒーローや警察への引き継ぎを行った後にかけられた声に怜奈が視線を下に向ければ、先程助けた少年が救護用の毛布にくるまりながらこちらを見上げていた
「大丈夫?怪我はなかった?」
「うっうん!大丈夫!お姉ちゃんが、助けてくれたから…」
「そっか、よかった」
「お、お姉ちゃん、体育祭とか…テレビで、どっ動画でも見たことある…!」
「わあ、そうなの?嬉しい!」
「ひ、ヒーロー名とか、あるのっ?」
「うん!"
「う、ん…」
心からの安堵を含む笑みはやっぱり綺麗で、思わず熱くなる体と赤みを増す頬に、せっかくヒーロー達も気を使って離れてくれているのに自身の中で浮かぶ文字が上手く言葉にできない
それでも、自身が何かを伝えようとしているのに気づいているのか、目の前の天使のようなヒーローはただ優しく、美しい瞳を細めてくれている
「あっ…あのっ、」
「どうしたの?」
「ッ………ぼっ僕も!ひ、ヒーローに……ジュッエ、ウィみたいなっ、かっこよくて凄いヒーローに、なれるかな…?」
噛み噛みでひどい言葉の並びに更に顔が赤くなって、言い直そうにも再度喉で言葉が引っかかって、何よりもあんな風に無謀に飛び出した己の行動は褒められたものじゃないだろうとどこか冷静になってきて、咄嗟になんでもないと言おうとする前に優しく言葉が降り注ぐ
「君は、わかってないんだね」
「っえ…?」
「誰がなんと言おうと、あの時の君は…お母さんにとって誰よりもカッコよくて強いヒーローだったよ」
「………!!」
優しく握られた掌はとても温かくて、自然と肩の力が抜けていく
「確かに、とっても危なかったし君も無事ではすまなかったかもしれない…褒められる行動ではなかったかもしれない……けどね、君の行動はヒーローの本質とも言えるものだった」
「ヒーローの……本質……?」
「"考えるよりも先に体が動く"…それは立派なヒーローの素質だよ」
「!」
「言ったでしょう?最高にかっこいいねって」
トン、と胸に向けられた指先に心臓が跳ね上がるような感覚がして、感じたことの無い感情が体中を巡っていく
「それにね、私もまだまだ半人前なんだ」
「そう、なの…?」
「うん、だから…もし君もヒーローになりたいって思ってくれるのなら…私ももっと頑張って、強いヒーローになって君を待ってる」
約束ね?
差し出された小指に無意識に自身のものを絡めれば、彼女はやっぱり誰よりも美しく笑った
「う、ん…うんっ!!僕、頑張る!」
「ふふっ…あ、さっきジュエウィーって言ってくれたよね?」
「あっ…え、えっと……」
「すっごくいいなあって思ったの!よかったら、また呼んでくれる?」
「いっいいの…?」
「もちろん!嬉しいよっ」
するり、と離れる温度がどこか寂しくて思わず握りしめた掌に彼女はふわりと笑みを落とす
「君が頑張れるように、おまじない」
一瞬小さな光が自身の周りを旋回して、胸元に感じた重みに目を向ければ輝く国花のブローチが咲き誇っている
「こ、これっ…」
「またね、ヒーロー」
ダイヤの杖に翼を纏わせた魔女は、宝石の花にも負けないぐらいの笑みを咲かせるとそのままあっという間に上空へと姿を消した
彼女のこの行動達が世間に瞬く間に広まるのは、もう数分後のことであった
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