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「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど!!すみませんね女性陣!!」
訳も分からずに対戦した全員がただ鳩尾に的確すぎる程の衝撃を与えられただけの状態に、A組は初めよりも回復はしているもののその威力によって明らかに顔色が悪かった
「俺の"個性"強かった?」
「強すぎッス!」
「ずるいや私の事考えて!」
「すり抜けるしワープだし!怜奈ちゃんや轟みたいなハイブリットですか!?」
「うん?」
「お」
怜奈と轟が揃って首を傾げるが、芦戸達の疑問に我慢が出来なくなったのか波動が通形の個性を答えれば相変わらず背を向けたままの天喰がそんな彼女を軽く嗜める
「いや一つ!!「透過」なんだよね!君たちがワープと言うあの移動は推察された通りその応用さ!」
波動の不機嫌そうな表情に謝りながら緑谷の質問にトン、と地面を踏みながら返した言葉に全員が驚きに目を見開く
「あっ…じゃああれ……落っこちてたってこと…!?」
そしてそこからは怜奈の予想通り、質量が重なり合うことによる反発が彼を地上へと弾き出し、結果それがワープのような現象を引き起こしているのだった
その答えに芦戸はゲームのバグのようだと比喩するも、話を聞いて実際に見ていた限りでは全ての攻撃をスカせる上に、自由に瞬時に動けるように思える個性はやはりとても"強い個性"だと蛙吹が呟いた言葉に、通形は静かに瞳を伏せる
「いいや…」
「─────強い個性に、されたのではないでしょうか…?」
「!」
「えっ…」
「怜奈ちゃん…それって…?」
「どういう意味だ?」
「元から強固性じゃん?」
「……その個性は、扱うにはデメリットが
バッと顔を上げる通形と、驚いた様子で目を見開く天喰だが、全員の視線を独占する怜奈は逆に瞳を伏せ口元に細い指先を落ち着かせながら、桜色に己の推測を乗せる
「透過……これはあくまで私の予想ですが…全身にそれらを発動される際には、酸素や…光も全て、透過してしまうのでは?」
「「!!」」
「………その通り。同様に鼓膜は振動を、網膜は光を透過する」
─────あらゆるものがすり抜ける世界
何も感じることはできず、ただ質量を持ったまま落下の感覚だけをその身に感じる
全てを透過してしまっては沈んでしまうが為に、簡単な動き一つでもいくつもの工程を乗り越え、ようやく成功する
「急いでる時ほどミスるな俺だったら…」
「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねー…」
「そう案の定俺は遅れた!!ビリっけつまであっという間に落っこちた、服も落ちた」
それに対して彼は落ち込むよりも先に考えた、この個性で、上に行く方法を模索した
「予測!!周囲よりも早く!!時に欺く!!何より「予測」が必要だった!そしてその予測を可能にするのは経験!経験則から予測を立てる!」
「…!(予測…もしかして、先輩は……)」
"予測"…その言葉に、怜奈の脳裏に彼の声が過る
『すまない怜奈…私はまだ、受け入れられそうにないんだ………』
やるせなさを含んだ、悲しい声音に無意識に胸元を握りしめる
「(先輩が……ナイトお兄ちゃん、の………)」
「長くなったけどコレが手合わせの理由!言葉よりも"経験"で伝えたかった!インターンにおいて我々は「お客」ではなく一人のサイドキック!
自分達が一度ヒーロースーツを纏い街へと赴けば、"一人のヒーロー"として活動をする資格があるという事実が、まだ未成熟な肩にのしかかる
しかし、そこで感じる恐怖も辛さも、それら全ては"学び"として学校では得ることの出来ないもの…それが、一線級の経験
「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」
強さ────ただそれだけでトップに立つのではなく、努力という強さを併せていたからこそその称号を得た彼の言葉は、自然とその場に尊敬の音を響かせた
「「ありがとうございました!!」」
「そろそろ戻ろう」
「あっ!ち、ちょっと待って欲しいんですよねイレイザーヘッド!!」
「なんだ」
体育館に背を向ける黒い猫背にかけられた声に、相澤はまだ何かあるのか?と言いたげな目を通形に向ければ、彼はおほん!と一度整えてから目的へと向き直る
「俺、是非とも神風さんと手合わせさせてもらいたいんだよね!!」
「…え?」
「「「!!!」」」
通形からの名指しでの指名に、指先を向けられた怜奈は大きな瞳にたっぷりの光を映しこんでからさらりと絹糸を靡かせて彼を見上げてみせる
「通形先輩と、1対1で…ですか?」
「先手必勝ってか…!!」
「へ…?」
「「ダメだ/ダメだよー!」」
「まさかの他者から断られるパターン!!それは予想してなかったよね!!」
膝から崩れ落ちた通形と怜奈の間を隔てるように立ち塞がった相澤、天喰、波動の3人に通形の背後にわかりやすくショックを現す擬音が浮かぶ
「何故ですかイレイザーヘッド!!」
「うるせえ言わせんな理由なんぞ一つしかないだろが、この子とやりたかったらまずヒーロースーツ持ってこい。ちょっとでも怜奈に汚えのみせてみろ、潰すぞ」
「何を!?」
「ミリオ、こんなところで怜奈にトラウマを残すべきじゃない。彼女には輝かしい未来がある」
「重い!!」
「ダメだよ通形ー、怜奈ちゃんに変なの見せちゃ!ダメなんだよ、知ってた!!?」
「うーん近年稀に見る圧倒的プレッシャー!!」
「相澤先生一応他の女子達はちょっと目に入っちゃってたんだけども…」
「いや、怜奈ちゃんが見るより全然いいわ」
「そうね、怜奈ちゃんの情操教育に支障が出たらいけないもの」
「まったくですわ」
「梅雨ちゃん達の中の怜奈ちゃんはいくつなん…?」
「怜奈ちゃんにはまだ綺麗でいて欲しいんや…!!変なの見せたらアカン…!!」
「(変なの…)」
「それなら将来俺が「轟」
何考えてんだ?と言わんばかりに眉間に皺を寄せNGを出す相澤を筆頭に天喰と波動も手で大きなバツを作りNO!!と首を横に振るのに、通形は思い当たる節がありすぎて再度ショックを背後に纏わせる
「ヒーロースーツ…スーツの着用時には服が落ちてしまうことはないんですか?」
「ん?ああ!俺のコスチュームは自身の髪の毛から作られてるから、透過しても脱げないようになってるんだよね!」
「なるほど…なら通形先輩、もしよろしければなんですが…」
「ん?何?」
「えっと…少しだけ、先輩の髪の毛を頂くことって出来ますか…?」
「……………………………えっ?」
───────────
─────
────────
可愛すぎる上目遣いにほぼ反射で自身の毛髪を勢いよく毟り取り怜奈に差し出した通形と周りの面々は、改めてその意図に首を傾げながら毛髪をハンカチに乗せて受け取る彼女を見つめる
「す、すいません…こんなに抜いていただいてしまって」
「それは全然構わないんだよね!でも、それどうするの?」
「怜奈ちゃんが先輩の髪の毛持ってる…」
「中々の衝撃映像だぞ…」
「新たな境地開拓…ってか」
「黙って峰田ちゃん」
「初めての試みなので上手くいくか分からないんですが…」
頑張ります!と意気込む天使に全員が可愛いからまあいいか〜、と思わず破顔するのを横目にダイヤが静かに細く歪む
「
その言葉と鍵が弾けるのはほぼ同時で、その直後光の粒子が彼女の髪とともに舞い上がり金色の陣と虹色に輝く杖が姿を現す
「…コレが……怜奈の、個性……!」
「綺麗…」
「通形先輩、こちらへ」
「!う、うん!」
自身に伸ばされる白く華奢な指先に通形は見惚れていた瞳にハ、と意識を戻しどこか高揚にも似た感覚を抱きながら怜奈の前に立つ
「どうかそのまま楽にしていてください、絶対に痛いことはしないとお約束します」
「わ、わかった!」
「────我の望みを叶えしカードよ」
そう呟いたと同時にどこからともなく一枚のカードが彼女の目の前の宙に姿を現すのに目を見開くより先に、無数の輝きが強く光る
「我の望みし形を、かの者に闘争の鎧とし授けよ
─────【
カードに杖が振り上げられた瞬間、水音のような鈴の音が辺りに響き渡ると銀の風が通形の毛髪を巻き込みながら彼の周りで旋回する
「うおおぉ?!」
「ど、どうなってんだ!」
「ミリオ…!」
通形の体が持ち上がり光と風が絡み合い、強い光がその身を包んだかと思うと
─────フワッ
一瞬だけ光が弾けた後、彼の浮き上がっていた体は再び重力を宿し何事も無かったかのように元の位置に戻されていた
「…お?」
「あれ…?」
「なんも変わってない?」
「通形先輩、個性を使ってみてくれませんか?」
「え?そ、それはいいけど…」
「待て怜奈万が一に備えて目を閉じなさい」
「わあ」
「NEXT真っ暗」
「早いっすね相澤先生」
「いやここは俺が」
「いやいや僕が」
ブォン!!!!!
ズシャアッ!!!!!
「「片手で!!!」」
「すっげえ跳ねたぞ!?」
シャッ、と怜奈の前に飛び出し再び目を塞ぐ相澤に周りはもう何も言うまいと静かに見守るが、轟と緑谷はその役割を代わろうとして走り出すも間合いに入った瞬間に容赦なくぶん投げられ床に転がった
「怜奈、勘違いはしないでほしいんだが決しておまえを信用していないとかそんなんじゃないぞ。もしもの可能性を考えてだからな(万が一見せてしまったら誠さんに顔向けできん)」
「だ、大丈夫ですわかってますから!あとその、すごい音がしたような気が…」
「………………ハエが、いたから……びっくり、して…………」
「「(驚くほど言い訳下手〜〜〜〜〜〜)」」
「確かに、羽音大きいですもんね…大丈夫でした?」
「ウン」
「ブッフォアッ」
「麗日くん!!」
「「(マジでか怜奈ちゃん)」」
「ングッフフフ………スゥー……じゃあ、いくぞ!!」
怜奈と相澤のやり取りに笑いを殺しながら呼吸を落ち着かせた通形に周りも固唾を飲み、誰のものかも分からない喉元が上下する音がなった瞬間に彼の体は地面に沈み込む
ヒュンッ
「!!」
「わあっ!」
「「ふ、服着てる━━━━!!?」」
次いで飛び出した通形の体に変わらず体操服が纏っているのに本人だけでなく全員がその事実に声を上げれば、相澤も目を見張りながら怜奈の目元から手を外す
「これは…」
「良かった…上手くいったみたいで」
「凄いんだよね!!いつもは真っ裸になっちゃうのに!!」
「コスチュームで は先輩の髪の毛が含まれているとの事でしたので、それと同じ要領で体操服に先輩の髪の毛を編み込んでみたんです」
やはり服が脱げてしまうのは本人としても居た堪れないと思うところもあったのか輝かんばかりの笑顔でお礼倒す通形に怜奈もほ、と胸を撫で下ろす
「消太先生、これでしたら…お手合わせさせて頂いてもいいですか?」
「…わかった、許可しよう」
相澤からの許可を貰い、2人は体育館の真ん中で対峙し緑谷達は壁際にてその戦いを傍観することとなった
「芦戸、上鳴もう少し下がれ。巻き込まれるぞ」
「うわっはい!」
「現雄英高校のトップと、今回の仮免試験をトップの成績で合格した怜奈ちゃんが対戦するのをこんなにも間近で見ることができるなんて…!!」
「金取れるぜマジで…」
「どっちが勝っても正直おかしくないな」
「…おまえら、しっかり見とけよ」
今から行われるのは、最もNo.1に近い奴等の試合だ
「自分に何が足りなくどこを伸ばせるのか考えろ、この機会を無駄にするな」
「「はいっ!!」」
体育館備え付けの撮影用カメラをいくつか起動させながら低い声で彼らの身を今一度引き締めさせた相澤は、目の前で向かい合う怜奈と通形の姿に目を細める
「(さて…どうなるかな)」
プロにも匹敵するほどの実力を兼ね備えた両者に緊張にも似た心境の傍らで、怜奈の解放された力がどこまでのものになっているのかという好奇心も湧いていた
「(実践での経験こそ通形達には劣るものの…怜奈には
一方で怜奈と向き合う通形は、改めて存在感はあるものの…相手にプレッシャーを与えると言うよりどちらかと言えば可憐さや華奢さが目立つ違和感に、少しばかり後ろめたさが走っていた
「君、凄いよね」
「…え?」
突然ぶつけられた言葉に、彼と同じように軽い準備運動を行っていた怜奈は一拍遅れてからその声音に通形の瞳を見つめ返す
眩い無数の輝きが自身を映すだけで、感じたことの無いような感覚に頭だけが置いていかれる
それらを力ずくで押し込め、通形は今まで自分が見てきた"神風 怜奈"という人物を思い出して再度その異質さに強い光を射抜く
「俺の個性、見えていないのにも関わらずその場の空気だけで応用まで見抜いて見せた…そしてそのデメリットも」
「……」
「戦闘力も1年の中で…いや、全体も含めてダントツ、その場の判断力や状況の把握もその年頃の子が持つにはあまりに卓越しているよね………君は一体、何者なんだい?」
その問いかけに、周りで見守る面々も心の奥で眠っていた疑問が呼び覚まされて、無意識に耳に感覚が集中する
全員分の視線を集める怜奈は真っ直ぐに向けられた声にふ、と瞳を伏せて口元に弧を描く
「…………私の扱う魔法も、実はとても難しいんです」
伏せられた睫毛が頬に深い影を落とすのに、思わず息を飲む
おもむろに自身の髪を持ち上げた怜奈は伏せた瞳はそのままに、高い位置で光を纏めあげると入り込んだ風がふわりと虹を浮かせた
たったそれだけで、とても絵になる人
「この子達にはそれぞれ性格…"個性"があります」
風が舞うと同時に持ち上がった瞳に、背筋にゾクリと
「(なん、だ…?急に雰囲気が…)」
「悪戯好きな子もいれば、戦いを好まない穏やかな子もいます…そして、それとは逆に…好戦的な子も、少なくありません」
リ──────…ン
鈴の音が、波紋の如く広がる
「そういう子達は大抵、生み出された後すぐに言うことを聞いてくれることは無いんです」
光に────呑まれる
「認めさせるかどうか、なんですよ」
彼女のまわりを漂うカードはどこか神秘的で、妙な恐ろしさを感じさせる
「物体が…時には形のないものが
つまりそれは、生まれてくる子によっては無防備で何もわからない状態で襲われることになる」
じゃれるように自身に近づくカード達を見つめるダイヤは慈しみで溢れているのに、通形の額からはいつの間にか冷や汗が伝っていた
「先程通形先輩は私が応用とデメリットを見抜いたと仰ってくださいましたが…実は私も、先輩の個性と同じ働きをしてくれる魔法を持っているんです」
「、そうなの?」
「名前は【
「……落とされた?」
「ええ………30,000フィートの空の上から」
「「!?」」
何気なく思ったことだった
飛行機内で見ていた映画の主人公が密室に閉じ込められてしまった際に思ったことは
"どんな障害も通り抜けることが出来たのなら"
次に瞳を開けて感じたのは、冷たい風が何も身に付けていない肌を容赦なく刺激する感覚とひどい耳鳴り、遥か遠くに見える機体
──────自身に手を伸ばす、父の青い瞳
「なので私……………経験値は、普通よりも少し多い方なんです」
弾けるカードに、意識が戻る
「─────ご指導、お願いします」
「す……げえ…………」
誰が呟いたのかも分からないほどに、彼らの視覚は目の前の光景に釘付けにされていた
ヒュッ
バシィッ
ドゥッ
避ければ打ち込み、通り抜けても怯むことなく絶え間なく拳を打ち込む
「(【
一瞬の隙もなく降りかかる衝撃に通形はその速さと重い打撃、柔軟に優れたしなやかな身のこなしに先程までの感想を早々に撤回したくなった
「慣れてるよねッ」
「先輩程ではありません」
空気を引き裂きながら目の前まで迫った白い弾丸を通形が受止め、それと同時に鳩尾に向けられた彼の膝を怜奈の足裏が止める
掴まれている拳に目を向け力が込められる前に手首を捻り掌を太い手首に巻き付ける
途端に180度変わる景色に、青い瞳が見開く
「(!?合気かッ)器用だね!!」
「一通り仕込まれてるのでッ!!」
宙に軽く浮く体の上を行き踵を振り落とす
スカッ
「(透過、)」
「避けられるかな!」
捕らえるよりも先に通形の体が地面に沈むほうが速く、沈みきった姿に全員がこの後の展開に体が前へと惹き付けられる
音もなく浮き上がった通形の目に映ったのは、背を向けた美しい少女の小さな背中
「(捉えたッ!)」
一直線に力を乗せた拳を伸ばす刹那の瞬間
光が弾けた
─────ゾクッ
「下がれッ!!!」
ズガガガガガッ
その場の空気に呑まれてしまっている緑谷達の体を相澤が引き付けた一瞬後で、幾重にも重なり合う土の壁が形成されるのに通形は四方八方から伸びるそれらを避けながらそのうちの一本から飛び上がり
全貌を映し…目を見開く
「いい子ね、【
彼女に向けられる敵意全てを拒むかのようにそびえ立つ幾つもの柱々の頂きに立ち大地の女神を慈しむ姿は、あまりに強く…大きく見えた
「奇襲は…あまりおすすめしませんよ」
キィ────…ン
【
自身で定めた任意の範囲内を現段階で最長15分間、断続的な使用では2時間掌握することが出来る
この技を発動させている間は、どこに身を潜めようとも彼女の瞳から逃れることは出来ない
かきあげられた前髪と、その隙間から覗く全てを見透かす黄金の瞳と表情は、全身が粟立つ程に恐ろしく美しい
あまりの迫力と圧倒的な存在感に、その場にいる者の肌がビリビリとカリスマ性にあてられる
「ッ……受けて立つさァ!!!」
武者震いにも似た振動に心の奥底を奮い立たせれば、目の前の彼女の口元が柔らかく歪む
「そう、こなくてはッ」
虹が消えると同時
「"
ドゴォンッ
通形が飛び退いた中心から地面に開く巨大な穴が、その威力を物語る
「(さっきよりも速い!力も!)」
「(予測による身のこなし…やっぱり凄い)」
互いにそれぞれの動きを心の中で賞賛し合いながらも、反撃の手が緩められることは無い
「【
─────
「
宙に浮いていた杖が上空から地面に突き立てられたのと同時に辺りに散った破片が集結し、瞬きをして視界が開いた時には生み出されていた幾つもの柱が縦横無尽にフィールドを支配していた
「顔に似合わず意外とえげつない攻め方するよね!!」
額に汗を滲ませつつも変わらず弧を描く口元に、一度だけ瞳を瞬かせてからふ、と同じ形を桜に宿す
「(ああ……きっと、こういうところなんだろうな……)」
どんな時でも笑顔を絶やさず向かっていく姿は、自身が憧れて目指す強い人達にとてもよく似ている
「それは…お互い様でしょう!」
背後に現れる通形に向かい伸ばされた足と怜奈に突き立てられた拳は、互いにその体をすり抜ける
ト、と空ぶった勢いを殺すことなくそのままバク転で下へと降下する怜奈に通形も後を追うように地面を透過し同じように下に着地するも、彼女の背は既に遥か先にあるのに目を見開く
「何っ」
「油断すると飲まれますよ!」
土の波に乗りながら勝気に上がる口角がグンッ!と下に下がる
「おわ?!」
意思を持っているかのように揺れ動き安定しない足場に体がぐらついた瞬間に幾つもの柱が彼を襲うが
「それは、効かないぞ!!」
それら全てを個性を駆使し軽い身のこなしで避けてみせる通形に緑谷達は目を見開く
「あんな速さの攻撃を、全て捌いてる…!!」
「どこから来るのかも分からないはずですのに、まるでそんなことを感じさせないかのような動きですわ…」
「怜奈ちゃんも通形先輩の姿見えてるっつっても、先輩が個性使うかまではわかんねえだろ…」
「それなのに全部躱してるし打撃も当ててる…てか反応速度エグい!」
「技の精度上がってるし、何より魔法の複数同時発動とかチート過ぎねえか?」
「両方ともバケモンかよ…」
「これが…………トップの試合……」
「そこだっ!!」
ワープで下から這い上がった瞬間の拳が薄い腹に直撃する
ボコォッ
「、土ッ?!」
「言ったはずです」
─────奇襲は、おすすめしないと
ほぼ無意識だった
本能的な危機察知により僅かに逸れた体のすぐ真横を通り過ぎる何かが、屈強な上半身に纏うジャージを切り裂いた
スパッ
「ッ、と」
「!!切れた…!?」
「蹴りで!?」
「マジィッ?!」
「刃物じゃん!!」
閃光と見間違うかのような一筋の蹴りの威力に驚く暇もなく、次いで撃ち込まれる連撃は通形の脳内での予測を何通りにも張り巡らせる
「ッ(ああ……!)」
「(本当に……!)」
──────強い!!!
ビリビリと脳髄を刺激する感覚はそのままに、無意識のうちに口元に浮かぶ弧の上でそれぞれの拳が交差し、引き合わされた瞬間
「────そこまで!!」
無機質なタイマー音とともに響く声に、強者2人の拳はピタリと寸前で威力が消失した
「5分経過、タイムアップだ」
「あら…時間切れかあ」
相澤の顔の隣に掲げられた文明の利器が経過時間を表しているのに、怜奈は一度目を瞬かせてから突き上げていた拳を下ろし眉を下げながらへらりと残念そうに言葉をもらした
「「えぇ━━━━━━━━━!!!?」」
「そりゃないぜ相澤先生━━━━!!!」
「時間制限あったのか…!!」
「でもめっちゃいいところだったのに!!」
「延長延長!!」
「まだ見たいよー!」
「ちょっとぐらいいいじゃないですかー!!」
「なんか言ったか」
「「なんでもありません!!!!」」
ゆらりと立ち上がる毛髪にビシィ!とA組全員の姿勢が整う横で、フィールド上にいる怜奈も通形に向き直り笑みを浮かべ手を差し出した
「通形先輩、お手合わせありがとうございました」
「ううん、こちらこそなんだよね!俺のわがまま聞いてくれてありがとう!」
「そんな、わがままだなんて!通形先輩とお手合わせできるなんて、とても貴重な体験でした」
「それこそ俺の台詞だよ!やっぱり思った以上だったよね、決着がつかなかったのは正直残念だったけど…」
「…通形先輩は、稀代の努力家であると…改めて感じさせていただきました」
光のように輝く少女の手は確かに小さいが、それ以上に強く感じる何かがあると気付いて…通形は再度しっかりと握り返した
────あのまま続いていたら、多分……
「……君は本当に───」
「え?」
独り言のように呟かれた声は小さくて、怜奈が聞き返そうと少しだけ背伸びをする為に踵を浮かせると同時に、強い衝撃が菱形筋にぶつかった
「怜奈━━━━━!!腹減った━━━!!」
「ひゃあっ」
「おっと!?」
小さな背中に抱きつくようにしてぶつかってきたケルベロスの突然の奇襲に踵を上げていた怜奈の体は簡単に傾き、正面にいた通形は倒れてくる体を咄嗟に受け止める
「わぷっ…け、ケロちゃん!?ごめんなさい通形先輩!すぐに退きま…」
「………………ラッキーなハプニング!!!!」
「……ほえ?」
天を仰ぎながら叫ばれる言葉の意味がイマイチよく分からない怜奈は目を丸くしながら通形を見上げ首を傾げるが、ケルベロスにより豊かな膨らみは柔らかな効果音を上げながら隙間なく彼の体に押し潰されている状態であった
「「あ"━━━━━━━━━ッ!!!?」」
「ミッミリッミミミミミミミミミリリッリリオオオオオオオッ」
「もう、ケロちゃんびっくりしたよ?昨日夜遅くまでゲームしてたからお部屋で寝てるって言ってたじゃない」
「いやあすまんすまん目え覚めたら腹の虫も一緒に覚めてしもてなあ、怜奈の所まで飛んできたんや」
「それならテーブルの上にクッキー置いといたのに…ちゃんとメッセージも書いておいたよ?」
「ほんまか?!やったあクッキー!」
「冷蔵庫に紅茶のパックあるから一緒に飲んでいいよ!でも慌てて食べちゃダメだからね」
「おん!おおきになー!!」
さして気にしていない…いやことに気付いていない怜奈はすぐに体勢を立て直し後ろを振り返りケルベロスに向き直れば、彼はいやーと少しだけ申し訳なさそうにお腹を擦るも彼女の口から出た単語につぶらな瞳はわかりやすく輝いた
クッキークッキー!と言いながら抱かれていた体を解放されて再び寮へと踵を返す嵐のような守護獣に、しょうがないなあと笑を零した後で後ろを振り返った怜奈の目に映ったのは…
「あでっだだだだだだだ!!!!」
「通形…………てめえ………!!」
「ごっ誤解なんだよねイレイザーヘッド!!あれは完全に不可抗力!!!!」
「うるせえあの部分だけ透過させるべきだっただろうが…しなかったってことは下心があったとみなされるよなあ…?」
「ミリオ…俺は…許せそうにない…!!」
「通形最低!敵!怜奈ちゃんに近付かないで!」
「痛っ痛い!!まさかの味方ゼロ!!ほんとにそのっ咄嗟で!!」
「まだ喋る余裕あんのか上等だ言い訳は生徒指導室で聞いてやるよ」
「あれえこれほんとに俺の知ってるイレイザーヘッドかなァ!!!?」
「いや正直めちゃくちゃ羨ましい…」
「やめろいま本音出すと捕縛されんぞ」
「なんでだ…なんでオイラにはそのチャンスが巡ってこねえんだ…!?エロといえば俺だろぉ!!」
「先生峰田断罪してもいいですか」
「今回のみ私刑を認める」
「流れ弾だァ!!」
「「自分で蒔いただろ今」」
「はい動かないでねー轟くん氷出せる?」
「任せろ」
「ギィヤアアアアアアアアッ」
「なっ…何してるんですかー!?」
捕縛布で簀巻きにされ相澤から容赦なく背中を踏みつけられ同級生からも打撃を受ける通形(と氷漬けされそうになっている峰田)の姿に怜奈は慌てて走りより傍らに膝を着く
「し、消太先生!だめですだめっ環先輩とねじれ先輩も、どうしたんですかこんな…」
「止めるな怜奈…俺は一人のヒーローとして現行犯を見逃すわけにはいかない」
「そうだよ怜奈ちゃん!怒ってもいいんだよ!」
「え…っと……?あっ!通形先輩すみません、先程はぶつかってしまって…お怪我ありませんでしたか?」
「あ、うんむしろありがとう」
「あり…?」
「違うよ怜奈そうじゃない…!!」
「通形お前やっぱ反省してねえな…?」
「ハッ!!!」
【おまけ】
インターンの説明会後無事(?)その日一日を終え寮に戻った八百万達が談話スペースでインターンへの期待に胸を膨らませていた同時刻、怜奈はというと
「怜奈、おまえはもっと警戒心をつけなさい。特に男子に対して」
「えっと…敵への警戒心…ということなら同性の敵にも警戒を強めた方が」
「違うそうじゃありません」
「ありゃ?」
「なあにあれ」
「怜奈ちゃんの男への警戒心を育てる終わらない戦いだぜ」
「私も言ってはいるんだけどね…でも、怜奈って自分がとっても魅力的なのいまいちわかってくれないんだもん…」
「そうなんですよね…」
「でもそのぽやっとしてるとこも可愛いんだよな」
「シカシ、ヤハリ隙ガアルノハ危険ダ」
「学生の頃はそういうのも盛んだしなあ」
「なるほどね…あらマイク美味しそうなの食べてるわね」
「So good!!怜奈ちゃんお手製のクッキーだぜ!」
「この差し入れってやつね!怜奈のお菓子美味しくて好きなのよ…ん〜美味しい!」
「お店のやつみたいですよねえ」
職員室の差し入れスペースに置かれ既に半分以上が姿を消している可愛らしい包装を手に取り、ミッドナイトが嬉々としながら早速口に含めば、ビターなチョコチップとバターの香りが口いっぱいに広がった
「いいか怜奈…俺は決して意地悪で言ってるんじゃないぞ、けどやっぱり異性との接触は控えるべきじゃないかと思ってな」
「え…じゃあ先生達も、だめですか…?」
「………ゑ」
「「…!!」」
「ンッグ…!?」
「ダミッ?!」
椅子に座りながら自身を見上げる怜奈に相澤は思わず固まり、その他教員も彼女お手製のクッキーを口に含みながら思わず視線を向ける
「いや、それは、だな………」
「ご、ごめんなさい…私、消太先生達に頭撫でてもらうの……すっごく嬉しくて………」
相澤が顔色を悪くさせながら言葉を濁し周りも冷や汗を流す中で、怜奈は大きな瞳をおろおろと泳がせながら顔を俯かせると申し訳なさそうに小さな肩を竦ませる
「ごめんなさい私…やっぱり甘え過ぎて、」
「ない」
「え…で、でも」
「何も問題ない今までもこれからも全く問題ない。むしろ足りんもっと来い来ないならこっちから行く」
「ほえ………?」
「いやーやっぱあれだよなあ最近の子は積極性にかけるって言うかなあ」
「そうそう怜奈みたいな子がいると教師と生徒もさらに親睦を深められるというか!」
「あとはあれだな、問題児も怜奈がまとめてくれて助かってるし」
「怜奈ちゃんにかかればどんなBad Boyもイチコロだもんなァ!!」
「ソウイッタ橋渡シヲ行エル者ハ限ラレル…コチラトシテモトテモ助カル」
「私も怜奈が甘えてくれないと寂しいなあむしろもっと甘えて欲しいなあ!!そんなわけでさあ今こそパーパの胸に飛び込んでおいで!!!」
「どんな訳ですか邪魔です」
「脇!!!」
「やあねえ見苦しい、そもそもこの傾国級の美貌を活かさないどころか魅力を抑えようとするのが罪なのよ!怜奈、こんな男共の言うことなんて気にしちゃダメよ私がもっと男を虜にするイロイロな甘え方…教えてア・ゲ・ル♡」
「「レッドカード」」
「一発退場させんじゃないわよ!!」
「怜奈に変なこと教えようとせんでください」
自分達が絡んだ途端にコロッと意見を覆す教師陣の心の内など知る由もない怜奈は瞳を瞬かせてから、言葉にならない音を何度か吐き出した後に目の前の黒色の端を僅かに握る
「じゃあ……が、頑張ったら……また、いつもみたいに…褒めてくれる……?」
不安からか瞳の中の水分がゆらゆらと揺れる姿といじらしい仕草に、言葉巧みな文字並べも全て消え去り全員の顔がなんとも形容し難い表情に成り果てる
「愛い…!!!!」
「一生推し…!!!」
「頑張んなくても撫でさせて…!!」
「生涯愛す…!!」
「天使にめぐりあえたこの人生に最大級の感謝を…」
結局、『怜奈の危機管理能力(異性との接触・交遊ダメ絶対)を補足する会』は今日もまた特に成果をあげることなく終わったのであった
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