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オーバーホール

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夢小説
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苗字と名前を合わせた渾名










「廊下は、走らない、ように…」





広い廊下に自身の足音が響いてしまわぬようにと細心の注意を払いながら少し時間をかけてA組に辿り着いた怜奈は、前と後ろどちらから入ろうかと考えたが、とりあえず戻ったことを伝えた方がいいだろうと前扉をゆっくりと開ける





「授業の途中ですみません、ただいま戻りまし… 」





た、という前に普段の教室では見なれない視線と目が合って、瞳の中の光がめいいっぱい広がる





「────環、先輩…?」





教室の扉のすぐ前で彼女の声に固まっていた天喰は、空気に溶けてしまうほどの音量で零れ落ちた言葉に息を飲む





「戻ったか怜奈。早速で悪いが、今からちょうど移動するところでな」

「君は…!」

「わあ!知ってる!私知ってるよ!だってね、この子すっごい有名人だも」





「───怜奈、」





声が遠ざかっていくのを感じた時には、自身の体は開け放たれた扉の外に戻されて、廊下の窓に押し付けられた小さな背中が光を受け止めていた





「環先輩、」

「ッ… 怜奈怜奈…!」

「…はい、ここに…っ、いますよ……」





教室から聞こえる怒号に近いいくつもの声と、前後を押える彼の右の指先から伸びる赤を指摘するより先に、片腕で強く抱き込まれるのに両の腕で返事を返せばさらに強く抱かれ背骨が軽く軋む



それよりも、心の方が酷く痛んで…ただ負けないように、震える背中を抱き締めた





「、良かった…!本当にっ…生きてて、よかった…!!」

「ごめんなさい…心配をかけてしまって…」

「…どうして…連絡、あれから……してくれなかったの…」

「す、すみません…とりあえず戻れたことをお伝えしておければと…それに、あまり連絡しては環先輩も、」

「っ怜奈以上に、大切なことなんてない!!」





体をほんの少しだけ離して自身を見下ろす彼の瞳の縁を這う光に、は、と桜色から息が漏れる





─────苦しかった





怜奈の幻影を追いかけてしまうほどに、己の心は衰弱して自他共に脆いと評されるそれらはいつ崩れてしまうかも分からないほどだった



何も摂取したくないと思った時は、自身の食べなければ始まらない個性を恨みそうになった





けど、









『でも私、いっぱい食べる人好きです!』









この子がそう、言ってくれたから





目の前の悪を倒す為に、光を見失わないように、体が力を求めていた





テレビでの報道で怜奈が生きていることを知って、その晩自身に送られてきたメールに息が詰まった


彼女らしい、丁寧で柔らかな文面に彼女から送られたものだとすぐに確信した



ずっと、探し求めていた魔法使い



本当はすぐにでも連絡を入れて、会いたいと伝えたかった



けど、やはり自分は臆病で…どのように送るのか何十も考えていたが、気付けば時間は過ぎて更に送れなくなってなんの心の準備も出来ぬまま今日対面してしまった



こんなのはただの八つ当たりで、ちゃんと連絡をくれた怜奈は何も悪くないのにただ幼い子どものように理不尽に言葉をぶつけてしまってから冷静な自分が帰ってきて血の気が引く





「、ぁ……えっ、と……お、俺ッ…!」





それと同時に密着している状況に、体は冷たいのか熱いのか分からない状態になって頭もさらに混乱して、なぜもっと冷静にならなかったのだと遅すぎる後悔がぐるぐると回る





「環先輩」





花が、香る





「ご飯、食べてくれてありがとうございます」

「っ」





添えられた指先が輪郭を確かめるように滑り、汗とも涙ともつかない水滴を拭ってくれるのがひどく心地よくて、制止の言葉は音にならずに消えていく





「…貴方はとっても優しいから…きっと、悩んでくれたんでしょう?」

「どう、して………」

「……私…いっぱい食べる環先輩がとても好きなので、嬉しいです」

「…!!」

「本当に…優しい人……」





魔法をかけてくれた時と同じ、美しい瞳が己を映し込むのに夢にまで見て焦がれていた刺激と高揚がぶわりと溢れ出す


怜奈が甘やかしてくれるのをいいことに、ほぼ無意識で赤くなった顔を小さな肩に寄りかからせると彼女の香りがさらに強く鼻腔を擽って、繊細な指先が頭を撫でてくれる度に甘い痺れが全身に広がっていく





「…怒鳴って、ごめん……返事、どう返せばいいのか…わからなくなって………」

「そうだったんですね、環先輩はインターンもあるのでお忙しいと思って…あまりしつこく連絡するのもと、遠慮してしまったんです」

「ゔ…ほんとに、ごめん…」

「いえ、本当は会いに行こうと思ってたのでちょうど良かったです」

「…そういえば…始業式、見かけなかった…」

「あ、ごめんなさい…列に並ぶ前に消太先生が帽子を被せてくれて。目深く被りましたし、髪も中にしまっていたのでほとんどの人には気付かれなかったみたいです!多分熱中症対策として渡してくださったんだと思うんですけど…」

「…生徒が群がるのを防ぐ為か…」

「え…?」





実際自身のクラスでも話題に上がっていたし、あちらこちらから彼女の姿を探すような声も聞こえていたため、例え雄英生徒であっても"オールマイトの娘"で"今最も有名な高校生"でもある学園の天使の姿を再度拝もうとする輩は少なく見積ってもかなりの数がいただろう


それを見越しての対策かと納得してから、頓珍漢な推理をする怜奈にバレないように胸を撫で下ろす





「(危ない…相澤先生がアシストしてなかったら今頃……絶対自分に向けられる好意とか気付いてないんだろうな…今も俺からのやつ気付いてないみたいだし…って?!?!いやいやいや、怜奈に対してそんな烏滸がましいことは決して…!!いやっでも…!!)」

「環先輩…?」

「あさりになりたい…!!」

「何でですか?!」





自身の中で育つ怜奈に向けられた感情を今更ながら自覚し始めて、爆発しそうになる頭は現実逃避のために生態系を変えてしまうことを望めば、突然の発言に純粋に驚きの声が響いた





「大丈夫ですか?なんだか顔色が…」

「ひえっ?!だっだだだだだ大丈夫!!!」

「でも、」

「こっ…(れ、以上は…!!!)」

「お━━━━━━い!!!!環ィそろそろ開けてくれない?!」





間近までダイヤが輝くのに天喰の限界寸前のキャパがついに壊れそうになったところで、教室から投げかけられた大声に2人の世界が決壊した





「何が何だか全く分からないんだよねぇ!!どうしちゃったんだよ環ィ!!っていうか俺も彼女と話してみたいんだけど!!」

「ねぇねぇなんでなんで?!2人って知り合いだったの?ノミの天喰くんと神風さん全然接点なさそうだよね?不思議〜!ねえなんで?」

「扉が開かねえぞ?!」

「窓もだ!!」

「どうなってんだ!?」

「拉致?!」

「誘拐!?」

怜奈さん!!ご無事ですか?!返事をしてくださいまし!!」

「すぐそばにはいるっぽい!」

「呼吸も正常だっ」

怜奈ちゃーん!!!」

怜奈ッ今行くから待ってろ!」

「待って轟くん!君の個性だと怜奈ちゃんにまで当たるかもッ」

「峰田ちゃん投げてもいいかしら?」

「オイラにだって人権があるだろ!?」

「……………」

「な…何だか、すごく大事に…??」





ガンガンと刺激されているであろう扉の揺れぐらいに怜奈は冷や汗を流し、天喰は今までの一連の流れを思い出し顔色を青を通り越して真っ白に染めあげる





「と、とりあえず戻りましょうか…何だか誤解されてるみたいですし…」

「やばい…………詰んだ…………」

「だっ大丈夫ですよ!ちゃんと説明すれば、」







「─────どけ、通形」







地を這うような低音に、怜奈の背筋から嫌な汗が流れ落ちる





「…!環先輩!!今すぐ個性を解除してくださいッ」

「、え」

「早く!!」





切羽詰まったような彼女の表情に放心していた天喰も思わず指先を元の形状に戻した





瞬間






ドゴォンッ!!!!





ガッシャアアアアッ!!!!!







教室の前扉が吹っ飛び、広い廊下の幅を易々と飛び越えると向かいの壁に跳ね返り無情にスライドしていく



何が起こったのかわからず放心しパラパラと破片が散らばる音だけが響く中で、扉のなくなった枠に中からゆっくりと手が添えられ天喰の背筋を凍りつかせる





「よりにもよって怜奈を攫っていくとは……随分いい度胸じゃねえか天喰ィ……」





バキ、パキ、と足を踏み込む度に欠片が粉砕していくのにおびただしい量の冷や汗が全身を這う



1年A組担任の完全に持ち上がった黒髪と光る赤い瞳、背後から見えてはいけないオーラが天喰の体を否が応にも震わせてくる





「────そんなに特別指導がご所望なら、今からでもやってやるが…?」

「…………………………死んだ」










































「消太先生、その…さっき説明した通り、環先輩は私の安否を心配してくださっただけで…」

「退きなさい怜奈。俺は指導をするだけだ。おい天喰お前いつまで怜奈に引っ付いてる」

「阿修羅だよね!!!!」

「わあすごい!個性使ってるから髪が上がるのかな!それともそれが発動条件?目もすごい光ってる!ねぇねぇすごいね天喰くん見てみて!!」

「こんな状況で見れたら俺はすごい奴だよ波動さんだがしかし俺は凡人以下なんだつまり今の相澤先生を視界に映すことは俺の命が無くなるのと同じなんだ目に映したその瞬間に俺は塵になるこれは予想じゃない事実なんだ」

「そ、そんなことは…消太先生、優しいんですよ?」

「「(相澤先生殺し屋みてえ)」」

「あの状態の相澤先生見てまだ優しいって言えんの凄すぎねえ?」

「100人見たら100人が死を覚悟する顔だもんな」






今にも捕縛しそうだった相澤に何とかこうなった経緯について話し教室まで戻ってもらったはいいが、先程の怜奈達の密着したような体勢と突然彼女を攫った(?)天喰の行動に対する怒りが消えるはずもなく、鋭い眼光は彼を睨みつけたままである



また怜奈の背後にピッタリと隠れるようにしてノンストップで言い切る天喰の姿に、相澤は少ない余白にさらに青筋を浮かび上がらせバシィン、と第三の手を握り直す





「遺言はそれだけか天喰ィ…」

「ああああああああぁぁぁ」

「消太先生、」





どこか諭すような柔らかな声音は、相澤の瞳を誘導するのが昔から上手かった





「元々は私が連絡を怠ってしまったのが悪いんです…先輩はただ心配してくださっただけで、何も悪くありません」

怜奈…!」

「…」

「消太先生も、心配してくれてありがとうございます」





だから、そんな顔しないでください





捕縛布を握る手にそっと指先を乗せて怜奈が眉を下げて微笑めば、相澤は一瞬だけ目を丸くし何か言いたげに唇を不満げに尖らせるも、ついに逆立てていた髪を元に戻す





「……天喰、次は吊るす」

「ヒィッはい………!」

「でも消太先生、扉は壊しちゃダメですよ?危ないですから!」

「それは…すまん…」

「怪我はしてませんか?」

「ああ」

「よかった」

「ありがとね」

「「(も…猛獣使いだ…!!)」」

「………怜奈ちゃんってホントさあ…」

「最強だよな」

「相澤先生怜奈ちゃんに弱いしな」

「あんな子犬みたいな相澤先生見たことない」

「わかるから何も言えねえけどな」

「羨ましく思ってしまう」

「聞こえてるぞお前らァ」

「「すみません!!!」」





扉を直してくれた怜奈に申し訳なさから若干肩を落としつつ再度天喰とオマケでA組に睨みをきかせたところで、相澤は気を取り直して彼女に短く説明を始める





怜奈は確かビック3については知ってたな?」

「はい、スナイプ先生から少しだけ」

「改めてうち2人の通形と波動だ。今から腕試しの名目で着替えてTDLに移動することになった」

「初めまして!!通形ミリオです!あのフェアルズとオールマイトの娘さんと会えるなんてすっごく嬉しいんだよね!!」

「ミリオ、その言い方はちょっといけない」

「あらぬ誤解を産みそう」

「おっとこいつは失礼!!」

「?初めまして!神風 怜奈です、通形先輩にそんなふうに言って頂けて光栄です!」

「いい子か!!あっ!そういえば神風さんにはやってなかったよね!!」

「え?」

「前途━━━━━?!」

「…多難?」

「…!!」

「「(こっ答えた!!!!!)」」





先程大いにすべったことを再度チャレンジする精神もかなり強いが、まさか答えられるとは思っていなかったのか自分で仕掛けておいてバッとこちらを振り返る通形に怜奈は小さく首を傾げる





「はっ波乱?!」

「万丈」

「質実!」

「剛健」

「七転び!!」

「八起き」

「東京特許!!!」

「許可局」

「…!!!」

「え、えっと…?わ、私何かしてしまいましたか…?」

「手を離せ通形」

「あだァ!?」

「通形先輩?!」

「最後なんで早口言葉だったんだ…」





ガシィ!と両の手を握られキラキラとした瞳で自身を見遣る通形に、怜奈がおろおろと最終的に相澤を見上げれば彼は遠慮なく金色を叩いた





「消太先生、叩くのはダメで…」

「はーい!交代交代!!私は波動ねじれ!ねぇねぇ私あなたにとっても会いたかったの!!」

「えっ、わ、よ、よろしくお願いします!」





どこか興奮したような笑みを浮かべる波動に怜奈も一瞬目を丸くしてからふわりと微笑めば、頭をさすっていた通形も花のような笑顔が視界に映り2人の頬が紅潮する





「、」

「わあっ笑った顔もとっても綺麗!目や髪は宝石?触ったら硬いの?髪の長さも変わったよね?個性で伸ばせたりするの?魔法はどれぐらい種類がある?顔も小さいね〜!触ってもいい?モチモチだね!!」

「むゆ?」





固まる通形と対照的に頬を染めたまま怜奈の顔や髪に触れる波動に鎮まりかけていた相澤の額に再び青筋が浮かび上がる





「おい、いい加減に…」

「ありがとうございます、波動先輩」





頬に添えられている波動の手に自身の手を重ねた怜奈は、先程よりもずっと甘く瞳を細めてみせる





「私も波動先輩のこと、もっと知りたいです」





もしよろしければ、先輩のことをもっと教えてくださいませんか?とさらに続けて重ねていた手を握れば、波動は短く息を飲んでから顔を喜色に染め上げた





「いいよ!!沢山教えてあげる!あとねあとね、私のことはねじれ先輩って呼んでね!!」

「わあ、ありがとうございます!ちょうど今から移動しますし、歩きながらでもいいですか?」

「うん!一緒に行こ!!」

「はい、喜んでっ」

「早く早くっ」

「ふふ…ねじれ先輩、慌てると危ないですよ?」

「はーい!」





芦戸から幼稚園児の様だと比喩されていた波動の行動をものの数秒で掌握して見せた怜奈は、ただにこにことその姿を微笑ましそうに見つめる


怜奈の手を握り意気揚々と歩き出した波動と、そんな彼女に手を引かれながらも後ろを振り返り片目でサインを送る天使に、相澤は一瞬固まってからその目を覆い震えているようにも聞こえる声で弱々しく指示を飛ばす





「っ…全員体操服に着替えてすぐに移動…はよ…」

「「(わかります相澤先生…!!!)」」

「め、目が潰れた…!!」

「無自覚天然人たらし…!!」

「エンジェルウィンク恐るべし…!!」

「ありがとうございます…!!」





その場にいた波動以外の全員が目を覆いながら震えた声で何とか返事を返すも既にHPは瀕死寸前である



天使のアイドル以上のウインクでしばらく彼らの心をざわつかせることになるなど、彼女自身知る由もないのであった





















────────
────────────

────

























【体育館γ】







改めて全員が揃ったところで体操服に着替え準備運動を黙々と進める通形に対し、同じく着替えを終えた瀬呂が未だ半信半疑の様子で確認するように声を上げる





「ミリオ…やめた方がいい。形式的に"こういう具合でとても有意義です"と語るだけで充分だ」

「遠」

「環先輩、額を押さえつけすぎるのは良くないですよ?」

「ぅひゃいッ!!」

「そこ?」

「(ぅひゃい…?)」

怜奈ほらこっち来なさい」

「相澤先生ブレねえな」





瀬呂の言葉に対し勢いよく肯定を返す同級生の声を聞き壁に向き合いながら言葉を漏らした天喰に、怜奈がその顔を覗き込むようにして言えば彼は猫のように飛び上がるも、彼女の笑みに頬を染めつつ今度は壁に寄りかからず見つめるようにして再度口を開く





「ッ……み、皆が皆怜奈のように上昇志向に満ち満ちているわけじゃない。立ち直れなくなる子が出てはいけない」

「え…」





天喰からこぼれた含みのある言葉にA組全員の顔に軽く影が落ちる





「あ、聞いて知ってる。昔挫折しちゃってヒーロー諦めちゃって問題起こしちゃった子がいたんだよ知ってた!?」





天喰の言葉を否定することなく芦戸の角に関心を移していた波動が思い出したように声を上げたあとで通形に言葉を返すのを、怜奈を隣に移動させた相澤は特に咎めることなくその様子を見つめる




その場の空気が僅かにピリつくのに、一つの音が落とし込まれた









「買い被りすぎですよ、環先輩」









水面を跳ねるような衝撃に、全員が音の出処を見遣る





「私は、まだまだ立ち止まるわけにはいかない。ただ…それだけなんです」

怜奈…」

「それに」










────立ち止まることが何よりも恐ろしいことだと、私たち・・・は知っている










「そうでしょう?」









強く美しい無限の輝きに、彼らの瞳は無意識に前を向く









神風の言う通り…我々はハンデありとはいえプロトも戦っている」

「そして敵との戦いも経験しています!」





あの時感じた恐怖も後悔も、再び目指せた喜びも、己に焦りを与え突き動かす原動力としてそこにある





「そんな心配される程、俺らザコに見えますか………?」

「(ほほう…噂通り・・・、かな)うん、いつどっから来てもいいよね、一番手は誰だ!?」





一瞬だけ怜奈の姿を映して、目眩がするほどの圧倒的存在感に気圧されそうになる前に視線を前に戻し口角を上げる



そんな彼からの言葉に切島を押し退け最前に出た緑谷の姿に怜奈はふふ、と空気を漏らした



問題児と揶揄されつつ緑谷は願ってもいない機会に自身とトップにどれ程の差があるのかと、個性をその身に纏わせる





「(雄英のトップ……怜奈ちゃんがいるであろう場所に、少しでも近付きたい…!!)」












守られるだけじゃ、ダメなんだ












そんな彼に続くようにして戦闘態勢に入る自身の受け持つクラスを眺めてから、相澤は隣で同じく彼らを見つめる怜奈に視線を移す





「…"甘やかしは厳禁だ"って、言われただろ?」

「あら、今は試験中じゃないですよ。それに、私は何もしていません…皆が、ちゃんと強い・・・・・・んです」





花のような微笑みとは裏腹な、強く芯を持った言葉は相澤の心を感傷に浸らせる





「(本当に…………無自覚だな、あんた達・・・・は)」





最近になってまたチラつくようになった温かな幻影に、布で覆われた口元を僅かに緩め視線を前に戻し





「あ━━━━━━━━━!!」

「視界が真っ暗!!!」





た瞬間に相澤は怜奈の目元を隠すように手で覆い飛び出していかないように小さな子にするようにその身を勢いよく抱き込んだ


この間僅か0.01秒





「し、消太先生どうして目を?私も参加するんじゃ…」

「見ちゃいけません参加するのもダメ。終わるまでこのままだぞ、"アイ"で見るのもダメ」

「ええ…?!」





ハラリと通形の体から滑り降ちる体操服にほとんどの者が混乱する中で、緑谷が隙だらけに見える彼の状態に右足でカウンターをいれたと思われたが






その攻撃は無効化される





「(やっぱり…すり抜ける"個性"!怜奈ちゃんも同じような技を持っていたけど、やっぱりすごい"個性"だどうする──…)」

「顔面かよ」





初手で顔を狙われたことにどこか悲しげなため息を吐き出すも、次いで浴びせられる遠距離の奇襲も全てがすり抜けて行った





「いないぞ!!」





それらの攻撃が全て壁などに当たり、瓦礫と砂埃が立ち込める空間に通形の姿がないと気付かされた時には既に遅かった





「まずは遠距離持ちだよね!!」





突如最後方に姿を現した通形に、全員の顔が困惑に染まる





「ワープした!!」

「すり抜けるだけじゃねえのか!?どんな強固性だよ!」

「(!ワープ…?)」





相澤に目元を塞がれているため断片的な情報でしか予想を立てられないが、聞こえてきた悲鳴の持ち主はおそらく耳郎のもの



遠距離で個性を生かす耳郎や瀬呂達は基本後方支援に回ることが多い為、安全圏内にいる場合がほとんど



そんな彼女の悲鳴が聞こえてきたということは、通形は彼らと対峙していた位置から最後方まで一瞬で移動したということになる





「(すり抜ける…"透過"の個性の応用…?でも私の"スルー"ではそんなことは出来ないし…)個性発動時に何らかの条件が揃うと起こる"現象"…?」





ぽつり、脳内での予想が桜色からこぼれるとその言葉に相澤、天喰に波動までもが目を見開き怜奈へと視線を移す





「、え…?」

「…怜奈、視たのか?」

「い、いいえ!断片的な情報しかわかりませんが、その中で予想してみて…ち、ちゃんと視てませんよ?」





もしや…!!と顔を青くして相澤が問いかければ、疑惑を向けられた怜奈は手を振ってその疑惑を否定する


確かに彼女がそのようなことをするとも思えないため、視ていないというのは事実なのだろう





「(親譲り…いや、あの人らの娘だもんな…そりゃあ鍛わる訳だ……)」

「(状況を説明された訳でもないのに…聞いただけでそんな的確に予想できるのか…?)」





視覚を奪われた状態でも鋭い推理と予想を立てる怜奈に相澤は感心したように息を吐くが、彼女の能力を目の当たりにした天喰はその異質な才能にごくりと生唾を飲み込む





怜奈ちゃんすごい…すごいね天喰くん…」

「……ああ、」





でもこれもまだ、彼女の能力の一部にしか過ぎないのだと、どこからともなく流れる汗が語りかけた





そんな彼らを一瞥した後で耳に届く呻き声に、相澤は視線を再び緑谷達に戻す





「おまえらいい機会だ。しっかりもんでもらえその人…通形ミリオは俺の知る限り最もNO.1に近いだぞ。プロも含めてな」





一瞬で半数以上が地面に沈んでいる事実に、対峙している彼らの頬を嫌な汗が流れ落ちる










「一瞬で半数以上が…!NO.1に最も近い男…」





NO.1の言葉に、轟は無意識に怜奈の笑顔が思い浮かぶ





「(近い…それはつまり、女は含まれてねえってことか…)」





そんな中で、自分の中で最もNO.1に近いのは……





「(まだ俺は、スタートラインにも立ててねえ…)」





一刻も早く追いつかなければ、彼女は直ぐに頂へと上がってしまう










「…………焦るな、ほんと」










心とは裏腹に軽く歪む口元に、案外負けず嫌いだな。と内心で少しばかり驚いていれば低い音が海馬を抜ける





「……………おまえ行かないのか?NO.1に興味ないわけじゃないだろ」

「俺は仮免取ってないんで…」

「(丸くなりやがって)」

「!怜奈、どうして目隠しされてんだ?」

「消太先生が見ちゃダメだって…」

「ああちん「轟」

「それなら俺が代わります」

「いらんやめろ」

「じゃあ…」

「なんでいいと思った天喰」

「い、一体何がなにやら…??」

「わあ!」





ジリジリとにじり寄ってくる轟と天喰から怜奈を隠すようにさらに抱き込む相澤に、その光景を見ている波動は昨日観たテレビ番組で親虎が子を守る映像が思い出されていた














体育館の一角で別の戦いが起きていることなど思いもしない切島達はただ目の前でのあっという間の出来事に混乱していた





「すり抜けるだけでも強エのに…ワープとか…!それってもう……無敵じゃないすか!」

「よせやい!」





鍛え抜かれた上半身が低く彼らに立ち塞がる姿を横目に、相澤に吹っ飛ばされて床に転がった天喰は軽い怒りとも取れるような感情を鋭い眼光に滲ませた





「(ミリオがしてきた努力を感じ取れないなら、一矢報いることさえ)」








「「何かからくりがあると思うよ!」」








重なり合う二つの声が、広い空間に"時間"を造り出す





「「すり抜け」の応用でワープしてるのか「ワープ」の応用ですり抜けてるのか、どちらにしろ直接攻撃されてるわけだからカウンター狙いでいけばこっちも触れられる時があるハズ……!」





幼少から身に付けてきた怜奈の観察眼と常に無意識下で行っていた予測



彼女に憧れていた緑谷は、いつしかそれらを己も身につけられるようにと始めていた



そんな彼の、夢を諦めずに培ってきた"才能"に…怜奈は誇らしさから口元に美しい弧を描く





「ただ一言で相手の能力を片付けるのはいけないよ。相手がどう凄いのか、どう強いのか分からないままだとそれだけで遅れをとることになる…何をしているのかわからなければ、"目に見えている"、"わかっている範囲"から仮説を立て予想し、予測することが勝利への道筋を作ることになっていくと思うよ」





彼女の言葉に、緑谷は後押しされるように崩れていた体勢を整え呼吸を正すように吐き出した





怜奈ちゃんの言う通り…とにかく勝ち筋を探っていこう!」

「オオ!サンキュー!怜奈は相変わらずだけど、謹慎明け緑谷もスゲー良い!」

「あっ、でもごめんなさい…偉そうなこと言っちゃったけど、私状況は全然見えてなくて…」

「「目隠しされとる!!!!!」」

「そして何故か先輩と轟が床に転がってる!!」

「俺が投げた」

「もう訳分からん!!!」

「カオスだね━━━━!!でもま、探ってみなよ!」













ブフォと吹き出したのも束の間、通形がすぐさま顔つきを変化させるのに緑谷達も迫り来る彼に構えてみせるもそれからは早く………実践でいくつもの経験を超えてきた通形に彼らもまた、瞬時に床に沈められることとなったのだった









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