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【夕方頃】
2人の掃除の違いを峰田達がイジる片側で、緑谷は砂藤と切島の会話にぴくりと耳がたつ
「当然のように習ってねー文法出てたよな」
「あーソレ!!ね!私もビックリしたの!」
「予習忘れてたもんなァ…」
「一回つまづくともうその後の内容頭入らねんだよ」
「インターンの話しさ、ウチとか指名なかったけど参加できないのかな」
「やりたいよねえ」
「前に職場体験させてもらったとこでやらせてもらえるんじゃないのかなあ」
「………!?」
期間としてはまだ1日しか経ってはいないはずであるのに、次々と知らない単語が生み出されていく様子に衝撃を受けていれば、それを汲み取った飯田に指摘されたことでようやく意識が戻ってくる
「授業内容等の伝達は先生から禁じられた!悪いが二人ともその感をとくと味わっていただくぞ!聞いてるか爆豪くん!」
「っるせんだよわかってらクソメガネ!」
「ムムッ朝のように怜奈くんに泣き落としを使ってもダメだからな!!」
「それはもっとねえわ怜奈を困らせてたまるかクソがァ!!!」
「言い方汚ぇけど相変わらず怜奈ちゃんに対してだけはほんと素直だよな」
「そ、そう言えば怜奈ちゃんは…?」
「授業内容で少し確認したいことがあるって職員室寄ってる」
緑谷の問いかけに轟が答えた後で、タイミング良く寮の玄関が帰宅者の音を知らせる
「ただいま〜」
「怜奈ちゃんおかえりー!」
「質問聞けた?」
「うん!今日の課題で問題文が少しおかしかったところがあったから聞いてきたの、修正箇所みんなにも教えるね」
「待って流石すぎない??」
「訳わかんないのはわかったけど」
「流石は怜奈さんですわ!!」
「課題一緒にやろ〜!!」
「お助け下さい怜奈様ー!」
「うん!一緒にやろうね?」
「神!!」
「いや天使!!」
桜色のファイル片手に微笑む怜奈の姿に上鳴達を筆頭に拝み倒していると、謹慎組はそこだけは遅れを取りたくないのか目にも止まらぬ早さで彼女に駆け寄る
「おかえり怜奈ちゃん!!お荷物お持ちします!!」
「ただいまみっちゃん、あ、ありがとう?」
「怜奈ハーブティーと紅茶どっちにする」
「仕事内容変わってんのよ」
「誰が怜奈ちゃん抱っこしろって言ったよ」
「え、えっと???」
「ほら子猫みたいになっちゃってるじゃん!!」
「自分達が謹慎くんだってこと忘れてんじゃねえぞ!!!」
朝と同じく飛ぶブーイングの嵐にソファに下ろされた怜奈は苦笑をこぼすが、そんな彼女の隣に腰を落とした轟は朝からずっと胸にかかっていたもやもやを吐き出した
「怜奈、心操って奴とそんなに仲良いのか?」
「?人使くんが、どうかしたの?」
「それだ」
「え?」
彼女の口から発せられた単語に轟はグッと顔を寄せ、思わず仰け反ってしまう怜奈がハテナを浮かべているのを気にもとめずに心底不満です。と言わんばかりに眉間に皺を寄せる
「名前…下ので呼ぶほど、交流があるのか」
「おいおいおいおい」
「その前に、な?轟ちょっと離れような〜」
「近いからな、うん」
「あー!!それ!!!」
「そうそう!いつの間にか名前呼びになってたー!!」
「ええ?!!しっ心操くんのことを名前で?!!!」
「何ィ!?おい怜奈どうゆう事だ説明しろ!!!」
ダァン!!!
「な、何だかすごい取り調べ感…!」
心操の名前呼び問題にテンション高く盛り上がる芦戸達とショックを受けたような顔でゴミ袋を破裂させた緑谷に加え、怜奈の為にアイスティー(ご丁寧にストローと輪切りのレモンが添えられている)を淹れていた爆豪もことの事態に乱暴にグラスを机に叩きつける
「そんな、お名前で呼んでるだけだよ…?」
「いつの間に名前を呼び合う仲に?!」
「ええっと…ほら、前の件で大分心配かけちゃったから、お詫びにってことで名前で呼んで欲しいって言われて…でもそれがお詫びになってるかも分からないんだけどね?」
「「(ちゃっかりしてやがるぜ!!!)」」
うーんと首を傾げ今更ながらにそれだけでいいのだろうか…と悩む怜奈を横目に、ぽつりと上鳴が言葉を漏らす
「……それだったら、俺らだって名前で呼んでくれてもいいじゃん」
「え…?」
明らかな不満の声音に怜奈が顔を上げると、上鳴はいつもの軽さを潜め子供のように唇を尖らせてじとりと目を丸くする彼女を見つめていた
「…確かに、一理あるな」
「爆豪達とは幼馴染だから、そらまあ長い付き合いなら名前や渾名で呼んでてもしょうがねえかって思ってたけどさ…」
「でも、俺らの方が心操よりずっと神風と長い時間過ごしてるわけじゃんか…それなのに、俺たちは苗字ってのも…なあ?」
「仮免でも夜嵐のこと名前で呼んでたし…」
「不公平っつーか、なんつーか…」
飯田が肯定を示した後に次いで瀬呂、切島達が言った台詞に怜奈が気づくよりも先に芦戸、耳郎がどこか意地の悪い顔で彼女の背後から顔を覗かせた
「はっは〜ん??」
「つまり、そういう事か」
「え…?えっと、どういう…」
「ズバリ!嫉妬だね!!」
「し、しっと…?」
葉隠が声高らかに言い放った確信に怜奈はイマイチピンと来ないのか半ば冗談かな?と思い周りに視線を向ければ、男子陣が揃って気まずそうに視線を逸らしているのが映る
「……?」
「ぐっ…もうちょっとオブラートに包んでよ葉隠さん…!!」
「名前ぐらいで小さいぞ男子ィ〜!」
「じっ女子は名前で呼ばれてるからってずりぃぞ!?」
「お前ら、あまり怜奈を困らせるなよ」
「うるせーぞ障子ィ!!名前呼び野郎の余裕かアアン?!」
「ハッ!名前ぐらいでダッセエなァ?」
「何だとバクゴー!!」
「問題児のくせに!!」
「お前らとははなから土俵が違ぇんだよ!!舐めんな!」
「なんでバクゴーだよー!!幼馴染とか持ちすぎだろ!!」
「でも確かに名前呼びも捨て難い…!いやでも怜奈ちゃんだけが呼んでくれる渾名も最高だし…!!れ、怜奈ちゃん!一回名前で呼んでみてもらっても、」
「どさくさに紛れてこれ以上望んでんじゃねえぞ緑谷ァ!!!」
「問題児ブロッコリーめ!!!」
「怜奈、飯田達の名前呼びはどうでもいいが心操とはどんな関係なんだ?俺よりも仲がいいのか?」
「どうでもいいとはどうゆう事だ轟くん?!聞き捨てならないんだが!」
「イケメンのくせにさらに美少女と同中ってのがさらに腹立たしい!!!」
名前(渾名)で呼ばれている4人へいつしか集中砲火が始まってしまった中で、A組女子達は呆れた様子で余裕のない男子諸君を視界に入れながら怜奈の側を陣取る
「全く…皆さん見苦しいですわよ」
「ほんとほんと、まあいつもの事だけど」
「私らは怜奈ちゃんと仲良しだもんね〜!」
「男子と女子じゃ信頼度が違うんだから!」
「負けてられんよね!」
「ケロケロ…でも怜奈ちゃんに名前で呼んでもらえると嬉しいのは本当よ」
「え…?」
「自分の名前がもっと好きになれるの。怜奈ちゃんに呼んでもらえることでとっても特別に感じられるから、不思議ね」
彼女特有の笑い方とともに告げられた言葉と表情はとても柔らかで、女子達も同意見なのかその瞳はどこかきらきらと輝いて見えた
「………私も、なの」
怜奈の声に、争っていた彼らも敏感に音を拾い彼女の姿を視界に映す
「私もね、みんなが名前を呼んでくれる度に…凄く嬉しくて、もっと前に進もうって…頑張ろうって思えるの」
嬉しい時、悲しい時…その声音は様々だが、そのどれもが自身の心を支えてくれていて、1人では無いのだと実感させてくれたことに変わりは無い
「────そっかあ…お揃い、だったんだね」
照れたように、けどそれ以上に幸せそうに噛み締めるその表情に幼い嫉妬心はいつしかなりを潜め、ただ素直に感情が吐き出させる
「そうそう!ほらっ名前呼びになるともっと仲良しになれるっつーかさ!」
「なあ怜奈ちゃん言ってみてよ!電気くんって!プリーズプリーズ!!」
「怜奈ちゃん俺も俺も!範太って呼んでよ!」
「おい順番だろ!」
「それなら僕が先かな☆」
「そういうことじゃなくない?!」
「己を表す名を、か…それならば、更に力を授かれそうだ」
「ついにオイラの時代が到来ってか…!」
「「峰田はなしだろ」」
「ここまで来てオイラを除け者にする気かよォ!!!」
「でもその、神風さんがもし良ければ、なんだけどね?」
「なしに決まってんだろォがこの下心丸出し野郎共!!!怜奈に近づくんじゃねぇ!!」
「無理強いはいけねえんじゃねえか」
「ぼっ僕も同意見です!」
「徐々にでいいだろう」
「「お前らは黙ってろォ!!!」」
「ふっ…ふふ………あははっ」
そんな彼らのやり取りに怜奈は息を吹き出すとおかしそうに笑い声を上げるため、無邪気な天使に誰ともなく見惚れてしまう
「れ、怜奈さん…?」
「…改めて、好きだなあって…思って」
ほつれてしまったダイヤの糸を耳にかける姿はあまりに美しく、桜からこぼれた言葉はどこまでも甘かった
「私ももっと、みんなと仲良しになりたい────
心からの言葉を音に乗せて微笑む怜奈は、眩しいものを見るかのように瞳を細めて彼らを見つめる
そしてまたひとつ、感謝の音を生み出すのだからその場の全員が軽い呆れのようなものと共に、愛しさを溢れさせる
この子は、そういう子だったと
「ほんっと、自覚がねえんだもんなーこれで…」
「おかげでハラハラしっぱなしよ、いやドキドキか?」
「両方だろ」
「うん?」
「えい!」
「とりゃっ!」
「きゃっ」
「ウチらも同じってこと!」
「怜奈ちゃんだーいすき!!」
「言っておきますけれど、名前で呼び合うだけでは私と怜奈さんの仲を上回ることは出来ませんわよ!!」
「ヤオモモはどこに属してるのさ…」
「よっしゃ!改めてよろしくな、怜奈ッ」
「あー!!切島ちゃっかり怜奈ちゃんのこと名前呼びー!!」
「おっ俺らだけ呼んでもらうのもフェアじゃねえっつか、いっいいだろ!!」
「呼びたいだけじゃんね〜」
「ふふ…みんなの好きに呼んでくれると嬉しい」
「ぐぬぬぬぬっ…お前らだって泣き落としだろーがァ!!怜奈も甘やかすな!」
「えぇ?!そ、そんなことは…」
「ちょっとやめてよ男子ィ〜!」
「違いますぅ〜ちゃんとお願いですぅ〜」
「誰かさんと違って怜奈ちゃんは優しいんですぅ〜」
「潰すぞアホ面共ォ!!!!!!」
「くっ…!!ここにきてまた差が縮まってしまう…!!」
「怜奈、俺ともハグしよう。仲良しだから」
「轟ちゃん離れて、目が怖いわ」
またひとつ、絆の糸は結ばれる
─────────────
────────
──────────
「ご迷惑おかけしました!!」
あれからさらに2日…たっぷりの気迫と共に鼻息荒く頭を下げる緑谷の復活に、周りは一部を除いて若干引き気味である
「怜奈ちゃんも本当にごめんね!!ノートも送ってくれてありがとう!!!」
「どういたしまして!また一緒に頑張っていこうねっ」
「うん!!好き!!!(ありがとう!!!)」
「緑谷、逆逆」
3日分の遅れを取り戻すのだと息巻く緑谷に切島と共に微笑みを返したところで、特有の電子音の後で校内放送が辺りに響く
『1年A組 神風 怜奈さん、神風 怜奈さん、至急職員室までお越しください。繰り返します───』
「ほえ…?」
「怜奈ちゃん、呼ばれとる?」
「怜奈ちゃんに限ってなんかやらかすとかはないだろーし…」
「先生の誰かが怜奈ちゃんに用事、とか」
「それなら個別で頼み事かもしれないわね。怜奈ちゃん普段から先生達にも頼りにされているもの」
「確かに!」
「うちの問題児達とは違うもんな〜」
「キンシンくんの痛み再び……!!」
「急ぎみたいだね…じゃあ、行ってきます」
「ああ、早めに戻ってこれるといいな!」
「授業に間に合わなければ、聞けなかった分は後でお伝えしますわ」
「ありがとう!」
手を振ってくれる彼らを横目に廊下へ出れば、授業が始まるにはまだ早いが向かいから相澤の姿を見つける
「あっ消太先生、今の…」
「ああ、放送は聞いた。次は前言ってたインターンについて本格的に話すことになってるが、間に合わなければまた話してあげるからゆっくり行っておいで」
「はい!」
頭を数回撫でてくれる相澤の横を通り過ぎて早足で人影のない廊下を進み、たどり着いた職員室の扉をノックする
「1年A組神風 怜奈です、入ってもよろしいですか?」
ガタンッドタドタドタッ
ガラッ
「怜奈!!!」
「あ、えっと…だ、大丈夫ですか?オールマイト先生…ペンが頭に…」
「ああ、いけない!」
あちこちにぶつかるような音が聞こえ、次いで出てきた自身の保護者の頭の上がすごいことになっているのを指摘すれば、オールマイトは動揺してしまっているのかなかなかボールペン等を上手く引き抜けていない
「そんなに慌てて…やっぱり何かあったんですか?」
「はっ!!そう!そうなんだよ!とっとにかくこっち!!」
「え?は、はいっ」
思い出したように怜奈の手を引くオールマイトが誘導してくれて先には、職員室に備え付けられている受話器の前に佇む根津の姿があった
「校長先生?」
「ああ、突然呼び出してすまないね怜奈くん!」
「いえ…校長先生が、私に御用でしたか?」
「いいや、先程外部から電話が来てね…事務からここに繋げてもらったのさ!早速で悪いんだけど、出てもらっても大丈夫かい?」
「私が…ですか?」
どこか落ち着かないオールマイトといつものペースを崩さない根津の様子、また怜奈の姿があることで周りの職員も何事かとこちらに視線を投げる
正反対の2人の様子に疑問を浮かべつつも、彼が外部からの電話を怜奈が出ることを許可するのであれば、それは自身の知り合いである可能性が高いと保留になっている受話器を手に取った
「もしもし。お電話変わりました、神風です」
『………』
「?…あの…?」
『…こんにちは、怜奈』
耳元で響く低音に、瞳が僅かに拡張する
「、ナイト…お兄ちゃん?」
疑問符を付けながらも確信した声音で相手の名を呼べば、柔らかな息の音の後に肯定が告げられる
『久しぶりだね、怜奈』
いつも眉間に皺を寄せ硬い表情を浮かべている彼は、自身の前でだけはいつもその顔を緩めてくれて、今も受話器越しで同じ顔をしてくれているのだろうと思える音の優しさだった
わざわざ学校側へ電話をかけてきたことに疑問と予想を浮かべながら、持ち上がった口角はそのままに会話を繋げる
「本当に…お電話するのは、久しぶりだね」
『いつも手紙ありがとう、スマホには慣れたかい?』
「うん!みんなに…あ、学校のお友達にね、教えて貰ってるんだよ!お返事もだいぶ上手になったと思うんだけど…」
『ふっ…そうか、良かった。初めの方は中々に面白い文だったからな、ユーモアに溢れていて素晴らしかったよ』
「わ、忘れてよう…!」
電子機器に慣れていない頃の誤字脱字、変換ミスなど諸々を思い出して思わず白い頬が熱くなる(しかし彼はそれをこっそりスクショで保存している)
『…………体の調子は、どうかな?』
和やかな会話から一変、どこか震えているようにも聞こえる声は弱々しくて……けれど今にも崩れてしまいそうなほどの"喜"で、溢れていた
「………うん、もう…大丈夫だよ。前よりももっと、"彼ら"と仲良しになれたの」
砕けたその日から、彼から届くメールは今までの思い出と共に感謝と哀しみが込められていて、文面からでも伝わる愛の深さに気付けば感情が零れ出していたのは記憶に新しい
自身の個性の変化を手紙で伝えた後は仮免試験の特訓等で時間を取られてしまった為直接連絡をとることは出来ずにいたが、時期的なことも彼にはわかっていたのか電話が来ることは無かった
『…っああ…そうか、良かった… 怜奈の声を、こうしてまた聞くことが出来て、私は幸せ者だ…』
「っごめんなさい、
『…いや、怜奈のせいじゃない。それに戻った後に手紙もくれただろう?私にはそれだけで十分だよ…ちゃんと君の存在があるのだと、実感させてくれた』
仮免試験もおめでとう、よく頑張ったね。と褒めてくれる彼の穏やかな顔が脳裏に浮かんで、うっすらと瞳に張った膜が柔らかく揺れた
「こうしてまたお電話できて、すっごく嬉しい…ありがとう、ナイトお兄ちゃん」
『顔が見れないのが難点だがね、それはまたの機会に取っておこう』
「…………あの、ナイトお兄ちゃん…」
『どうした?』
「私の携帯じゃなくて、学校にお電話してくれたのって…インターンのことと、何か関係があったり、する?」
自身の予想を濁すことなく伝えれば、電話越しの彼の息とオールマイト達の空気も揺れる
『…そう、思える根拠は?』
「…まずは、私が職員室に"至急"で呼ばれたこと。私の容態を確認するのならば、学校側に電話をかけた方が確実ではありますが…時間帯を考えて私が直接出るには学校側からは折り返しの電話を催促されるでしょう」
何より学校側へ事前に体調不良等、または実習中ではないか聞いて、個人の電話にかけてくる方がよっぽど彼らしい
「二つ目に、校長先生がいらっしゃったこと。」
「みんな大好き校長さ!」
「確かに、話の内容にもよるとは思いますが、世間話の為だけに校長先生自らが電話の立ち会いになるということはないと思いました…つまり、"最高責任者"が絡む内容」
『…』
「怜奈…」
「仮免許取得後という時期も含め考え、且つ"サー・ナイトアイ"が連絡をしてくれた理由を考えると… "私個人のみでの"決定権は無く、学校側の判断になるものの可能性が高い内容。そう、例えば…以前に父…もしくは私が関わったことのある人物のマークをナイトアイが現在行っていて、情報提供・協力の為にあくまで雄英高校に所属する私に"チームアップ"の申し出をしてきてくれた…」
『………』
「違い、ますか…?」
『────お見事』
「つまりは、そう言うことなのさ」
淀みのない確信とも取れる推測は全くもってその通りで、根津はしっかりとした頷きを返しナイトアイは額を手で覆い事務所の天井を仰ぎ見る
『…その先読みと推理力、流石だな。ぜひうちの事務所に来てもらいたい』
「ふふ、光栄です…でも少し勘も入っていたんだよ」
『ほう?』
「だってナイトお兄ちゃん、ちょっとだけ声が強ばってるもの」
『、』
「…ナイトお兄ちゃんが私に対して声が強ばるのは、私に危険がある時か…心配してくれている時だって、知っているから」
『…………まったく、敵わないな……君には…』
あの人達とそっくりだ…という言葉は喉の奥で飲み込んで、全貌を明かされた本題を踏み込む
『いかにも、今回は現在ナイトアイ事務所でマークを行っている人物に関しての情報提供、且つ怜奈の協力を仰ぎたく連絡させてもらった次第だ』
「……それは、一体…」
『────治崎廻』
「───!」
『現在はヴィラン名・オーバーホールという名で活動を行っている』
「…死穢八斎會ですね」
『ああ』
「…
『…そのまさかだ。最近そういった者達を集めているらしいということは確かだ』
「っそんな…!死穢八斎會の組長さんは、そんなことを行うような人じゃなかったはずです…!」
『………それならば、奴の独断ということになるかもしれん』
「………」
たった一度
たった一度だけ、出会ったあの日
『不思議だな、お前は……一緒にいるとどうしてだが、心地がいいんだ』
迷子のような、どこか寂しそうな瞳
『…怜奈』
「……はい」
『今回の件、生徒としてではなく…"君"からの答えを、聞かせてくれ』
「…今の私は、学校の保護下にあり…一人で決断を下すことはできません」
その場で絡まる視線は、背後からでもわかるほどの戸惑いと否定的な雰囲気が感じられた
そしてその9割程は、自身の父親から注がれていることも
「けど」
わかっている、でもそれでも
「"
もう二度と、後悔はしたくない
「あの時とは違う…"雄英生徒"としてではなく、1人の"ヒーロー"として───同じ場所から一緒に、頑張らせて欲しいです」
あまりに優しく、あまりに強い決意
ああ───悔しいなあ
オールマイトは、無意識の内にそう思ってしまった
己には、もう彼女と共に"前"で戦う程の力が残っていないことが、こんなにも悔やまれるなんてと…あの日の事件に感じた確かな頼もしさを脳裏で思い出して、それとは別の情景が重なる
───トシさんは無茶しがちだから、俺が支えてやんなきゃな
共にトップを歩んだ、最高の友
自身の放つ雰囲気の違いを感じとったであろう根津がこちらを見上げてくるのに、目線を合わせるように屈んでみせる
「…どうやら、杞憂だったようだね…彼女の心は、変わらず常に前を向いているよ」
「校長…」
「流石は、"
根津の言葉に再度自身の娘に目を向けてから、その瞳をサファイアに映して…泣きたくなるような懐かしさと眩しさに僅かに目の前が歪む
「(……ずるいなあ)」
そんな瞳をされたら、もう何も言えないじゃないか
白旗を上げる心の内に、安堵とも不安とも取れるような息を吐き出してから、先程よりもだいぶ穏やかになった目元で怜奈と元サイドキックのやり取りを見つめる
『…、』
「ナイトお兄ちゃん…?」
『…っ、ああ、いや……すまない、』
息を飲むような僅かな振動に、その音を落とさないようにと両手で受話器を押し当てた後で、濡れたような声音に目を見開いてから彼の優しさに瞳はいつしか弧を描く
「私の思いは、変わることはありません…きっと、これからも」
『…、それが君からの…答えかい?』
「はい」
次いで深く吐き出される息に、もう少しだけ背筋を伸ばした
『怜奈』
「はい」
『強く、なったな』
噛み締めるような、優しい音
「でしょう?」
なんて、イタズラが成功した時のような気分で得意気な色を声に混ぜれば電話越しからでも彼がどのような表情をしているのかがわかって、もう一度笑ってみせた
『君からの答えを聞けてよかった。後のことは学校側と相談させて頂くことにするよ』
「わかりました、お電話校長先生と代わりますか?」
『……いや、後で折り返すから大丈夫だ』
「ではお伝えしておきます」
『ありがとう』
「…今度は私から、お電話してもいい?」
『君からの連絡なら、いつでも大歓迎だ』
「えへへ…じゃあ、またね」
『ああ、また…』
優しく掠れた音を最後に、名残惜しさを感じつつもゆっくりとした動作で終了を示すボタンが押された
「…また後で折り返されるそうです」
「そうかい、ありがとう…怜奈くん」
「はい」
根津の目線で床に膝を着いたまま、背だけは糸が張ったようにぴんと伸ばせば、彼らの雰囲気が幾分か柔らかく変わるのにふ、と肩の力が抜けていく
「君の思いは聞かせてもらったよ。後はこちらに任せてくれ」
「わかりました、よろしくお願いします」
「…怜奈、」
「…はい」
「…私は正直、反対だった…」
「オールマイト先生…」
「でも、」
同じく膝を着くオールマイトの拳がギュ、と握られる様子に怜奈は咄嗟に自身の手を上から重ねると、俯いていたサファイアが優しく歪むのに僅かに瞳が波打つ
「怜奈ってば、すっごくかっこいいんだもの」
「っ、」
「…思わず彼に嫉妬してしまうくらい、羨ましいよ。君と一緒に、戦えることが」
困っちゃうよなあ、とどこか照れたような、気まずそうに金色を掻くオールマイトの姿に怜奈は目を見開かせてから添えていた手で、コケた頬を包む
「、怜奈…?」
「…オールマイト先生、」
私のこと、見ててくれるんでしょう?
その言葉が胸にハマった瞬間、目の前の虹が同色の花を咲かせた
「戦う場所は違っても、私達は同じヒーローだよ」
「、」
「私、まだまだ未熟者です。"理想"には、全然程遠くて…毎日必死で、足掻いてるんです」
「怜奈…」
「だから…私に、教えてください」
「!」
「私が最高のヒーローになれるように…"繋ぐ人"として、一緒に
一秒前の自分より強く、速く、思考を絶やさず、感覚を研ぎ澄ませるように
常に自分を超えていくことを目標とする姿勢は、その可憐な姿からは想像も出来ないほどに己に対してストイックで妥協がない
年々"彼等"に似てきていることを2桁目位に再度確信して、柔らかな掌に安心しながら降参するように目尻を引下げた
「君は1から3も10も学べる子だから…"昔から"教えがいがあるなって、思ってるよ」
「…やって欲しいことも教えて欲しいことも、まだ沢山あるんです」
約束、したでしょう?
ただ優しく、眩い光の歪み
────私が、変えてみせるから!!
あの頃と少しも変わらない輝きに、脳裏に過ぎる苦くて甘い記憶に目の奥が痛んだのを誤魔化すように、響く鐘の音を聞き流して小さな体を抱き込んだ
「っああ…!もちろんだよ…」
あの日にたてた誓いも決意も、揺らがしてなるものかと強く抱き締めると腕の中の天使がふふ、と微笑みを零す
「今度また個性見てくれる?」
「今度と言わずに今日にでも!まだ換装術も見れてないしね、是非とも付き合わせてくれ!!」
「やったあ、約束ね?」
「ありがとう怜奈、今から楽しみだ!」
穏やかな空気と2人から零れる光に、根津は眩しいものを見た時のように少しだけつぶらな瞳を細めて微笑をその顔に宿す
「(…怜奈くんの言葉は、人を救う力が宿っている)」
─────
「(そろそろ…その時はやってくるだろう)」
自身の複雑な脳内でこれからくるであろう予想と予感に対する返答を考えてから、今はただ…この穏やかな光景を壊さぬようにといつしか強ばっていた口元に再度弧を描く
「あ〜、書類作んのめんどくせえーなー…んん?!予期せぬタイミングでエンジェル発見!!俺ってばチョーラッキー!!もーっらい!!!」
「う?」
「ぬああ?!何するんだいマイク!!?」
「マイク先生っ」
「怜奈ちゃんどったのこんな時間にこんな所で〜!あっもしかして俺に会いに来てくれたとか?!」
「ちょっと私の事見えてるでしょ!!ほら怜奈返してよ!!」
「NO!!!怜奈ちゃんを抱き締めてたのを俺は見たぞオールマイトッ!!つまり今は俺のターン!!Are you OK?」
「
「あ、あの…2人とも落ち着いて…」
奪われた娘がマイクの片腕に乗せられるようにして抱かれているのを見て「ズルい!!返して!!」「やだ!!抱っこしたばっかだもん!!」と2人が騒ぐのに、怜奈は苦笑を漏らす
「ほらほら二人とも、怜奈くんが困ってるよ。授業ももう始まってるしね、解放してあげなさい」
「「ええ〜〜〜っ」」
「ふふ、また教師寮に差し入れ持っていきますから」
「マジで?!超楽しみにしてる!!仕事頑張っちゃうぜ〜!」
「あっじゃあ私が教室まで送って」
「オールマイトさんは俺と資料作成ッスよー、チェックはイレイザーがするらしいです。てか俺も送ってきたい」
「詰んだ」
「頑張ってね、オールマイト先生、マイク先生」
「今ならなんでも出来る」
「俺も」
根津からの鶴の一声で渋々怜奈を解放した2人に激励をかけてから手を振ってくれる教員達を横目に、教室までの道のりを小走りでかけていった
無機質な電子音で暫く海馬を刺激してから、事務所備え付けの固定電話を定位置に戻し特にズレてもいない銀縁をそっと押し上げる
「(本当に……顔が見れないのが、惜しい)」
砂糖菓子のような甘い声
星のように、人の心を照らす言葉
強く美しい、思い
「──────ああ、夢じゃ…ない…ッ」
本当は、恐ろしかった
彼女の電話番号は、何も見ずとも脳内で大切にインプットされている
けれど、もし…あの子が出なかったら?
無機質な声で、彼女がいたことを否定されたら?
そう思うと、己の指先は終ぞ決定打を押すことが出来なかった
「…それもきっと…お見通しなんだろう?」
頭の奥で響く甘い余韻を感じる為に、ゆっくりと瞼を落とせば…頬に何かが伝った気がした
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