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THE試験
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それからその日の訓練を終え各自TDLから出て歩いていると怜奈の隣へと緑谷が小走りで移動してくる
「怜奈ちゃん、ちょっといいかな…」
「ん?」
「さっきの訓練の時、オールマイトから"君はまだ私に倣おうとしているぞ"って言われたんだけど…その言葉の意図がわからないんだ」
眉を顰めながら首を傾げる緑谷に、その内容を聞いた怜奈はピン!とオールマイトの言わんとしていることに気付いた
それは恐らく彼の戦闘スタイルのことを言っているのだろう
個性の使い方が分からなかったこともあるが、初期の方からだいぶ無茶な戦い方をしてきた緑谷の腕は軽い爆弾を抱えることになってしまったと本人から聞いた
その為戦闘スタイルをどうするかを緑谷は考えていた所でオールマイトからそう言われたのだろう
オールマイトに強い憧れを抱いている緑谷は授かった個性とも相まって、戦い方について固定概念が出来てしまっていることを彼は伝えたかったのだと怜奈は推測した
もしこの推測があっているならばこれは緑谷自身に気付かせる師匠からの課題なのだろう
「みっちゃんにとっては無意識…というか考えが固定されちゃってるのかもね」
「無意識…?」
「単純すぎて気付かないのもあるかな?」
「そ、それってどういう…」
そう言えば緑谷は疑問符を周りいっぱいに咲かせるが、これは本人に考えてもらわなければ意味が無いだろうと怜奈は自身の唇に指先を当てる
「ふふ、私からのヒントはおしまい」
あとはみっちゃんが気付かなきゃ。と怜奈は静かに微笑んでから何故か歩きを止めた緑谷と別れ更衣室へと向かった
悪戯な表情と仕草に緑谷が「こ、小悪魔だ…!」と顔を真っ赤にしていたことを怜奈は知らない
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「ああ怜奈、ちょうど良かった」
「消太先生、ちょうどいいって?」
「お前に客だ」
「お客さん…?」
「怜奈に会わせて下さいって、わざわざ俺に直談判してきたんだよ」
着替え終わり歩いていたところで相澤に声をかけられ駆け寄れば、そう声をかけられる
客、という言葉に引っかかり誰ですか?と問えば行ったらわかるよと相澤は怜奈の頭に手を置き寮の裏に待たせてあるので行ってこいと促す
誰なのかは気になるが、伝言をくれた事へお礼を述べると相澤の手が離れたことを確認してから"移"で寮へと移動する
待たせてしまっていたら申し訳ないなと思いながら小走りで裏へと回ると、一つの人影があるのに気付きその後ろ姿を見て一瞬息を呑んだ
「心操くん…?」
無意識に漏らした声は風に掻き消されそうなほど小さなものだったが、彼はぴくりと反応しゆっくりとこちらを振り返った
「…怜奈……?」
目を見開かせる心操に顔が緩み久しぶりだと声をかけようとした時、彼はキッ!と顔を顰めて早足で怜奈の方へと向かってくる
「(え、おっ怒ってる…?!)」
明らかに不機嫌、というか怒っているに近い表情に怜奈は思わず固まってしまう
しかし逃げる訳にも行かず冷や汗が顬に流れたところで心操は怜奈の目の前まで来てしまい、何も言わず顰めっ面のまま上から彼女を見下ろしている
「あ、あの…心操、くん………?」
恐る恐る声をかけると、彼の眉がヒクリと反応し彼の片腕が上げられるのに殴られる?!とぎゅっと目を瞑ったところで、自身が感じたのは頬へと痛みではなく痛いくらいの抱擁だった
体に感じたもうひとつの熱に目を開けば、彼は自身の頭と腰に腕を回し小さな嗚咽を漏らしながら震えていた
それに目を細めそっと自分からも前よりもずっと逞しくなった身体へと腕を這わせる
「怜奈…怜奈っ…!」
確認するように何度も自身を呼ぶ声に、自分は何度こうして誰かを泣かせてしまったのかと胸が静かな苦しさを訴えてくる
「テレビで、怜奈が拉致されたって…気が気じゃなくってっ…!いっぱい人救けたと思ったら、砕けて…!!」
「…うん」
「俺っ、普通科だし…ただでさえ怜奈のこと教えてもらえなくって…!なんで俺は何も出来ないんだって…悔しくて……!もしかして死んだ、かと思った時もあってっ…!」
所々でしゃくりあげているため聞き辛くはあったが、彼の思いは痛いほどにつたわってきて温かなシミが広がっていく感覚に浸りながらその背中を優しく叩く
「ごめんね心操くん…また心配かけちゃった」
「ほ、んとだよ…」
「心操くん、前より身体大きくなったねえ」
「ズっ…あたり前だろ…怜奈が作ってくれたトレーニング、毎日やってたんだから……」
「嬉しいなあ………ねえ心操くん、私ちゃんと心操くんのお顔見てお話したいな」
小さい子に諭すように柔らかな声音で伝えれば、彼は一瞬身を固くしたが焦らずぽんぽんと背中を叩いているとグッと一度肩口に顔が押し付けられた後、ゆっくりと瞳が合わさった
「……」
「…ふふ、心操くん目が真っ赤だ」
「っ、怜奈のせいだろ?!」
「あははっ」
赤くなった目元を指摘すれば、心操は顔を目と同じように赤くして羞恥を誤魔化すように声を上げるも、未だ手は握られたままだった
「心配してくれてありがとう。」
「……………うん」
「消太先生に、わざわざ会わせて下さいってお願いしてくれたんだよね?」
「………うん」
「私もね、心操くんに会いたかったから、すごく嬉しい」
ふにゃふにゃに顔が緩んでいるのを自覚しながら彼を見上げると、心操は口を開いて何かを言いかけたが、音は発せられることは無く一度閉じられ深い溜息がこぼれ落ちてきた
「(わかってるよ…何も他意はないぐらい……)」
「心操くん?」
「……………心配させたお詫びに…俺のお願い、ひとつ聞いてよ」
チクリと傷んだ胸の内を一瞥してからそう言った心操に、怜奈は彼が一瞬表情を曇らせたことに対して疑問に思ったが、その台詞に頷いて見せた
「うん!私に出来ることなら」
「……俺の事、名前で呼んで」
何拍か置いて言われたその言葉に怜奈はきょとりと目を丸くするが、言った本人は至極真剣な顔でこちらを伺ってくる
「それだけ?」
「…ダメなの?」
「ううん!ダメじゃないよ!」
「じゃあ…今、呼んでみて」
慌てて首を横に振れば、繋がれたままの手にきゅっと力が込められる
縋るような、懇願するような、少し苦しそうな顔と小さな声で言われて少し間を置いてから丁寧に、ゆっくりと言葉を舌の上で転がす
「…人使くん」
「っ…」
「不思議だね……人使くん、って名前で呼ぶと何だか今までよりももっと仲良しになれた気がする」
甘やかな声はじんわりと鼓膜に広がっていき、脳へと時間をかけてゆっくりと浸透して心の内を温めていく
ただ名前を呼んでもらっただけなのに、それだけで特別に感じて、泣きそうなくらい嬉しかった
「私ね、これからもきっとヒーローを目指す上で人使くんにはたくさん心配かけちゃうかもしれない」
「………」
「それでも、こうして仲良しでいてくれる?」
わかっていた事だった
ヒーローを目指す上では危険とは常に隣合わせで、誰かが止めたとしても助けを求める声がある限り、彼女はこれからも自身の力を駆使してその脅威に立ち向かっていくのだろう
「俺がヒーロー科に入って支えればいいだけでしょ」
「!」
「…俺にとって怜奈は、特別だから」
彼女が立ち向かっていくのなら、自分がそばにいて支えればいい
そうするためには、一刻も早くヒーロー科に編入しなければと手に力を込めれば、怜奈は目を見開いてからふわりと花を咲かせる
「ふふ…ありがとう、すっごく嬉しい」
「…約束したしね」
「それじゃあ、これからはもっとハードに特訓しないとかな?」
「ちょ、俺死なないよな…」
「少しずつメニューはレベルアップしていくからね!」
「お手柔らかに…今更だけど、怜奈髪伸びたね」
「そうなの、副作用かなにかで…」
「は?!それ大丈夫なの?」
「うん!問題は無いみたい。変かな?」
「いや、凄い似合ってる…けど」
「ほんと?」
よかったあと怜奈が笑うと同時に、風が彼女の髪を掠め取りふわりと星のような輝きが広がるのに、心操の手が無意識に伸びる
「怜奈!」
「!!」
「消太先生?」
突如聞こえてきた声に心操の肩がビクリと跳ね上がり伸ばした手をサッと引っ込めると、伸ばされた手には気付かずに怜奈はかけられた声に後ろを振り返ると肩を上下させて壁に手をついている相澤の姿があった
「すまない、話の途中だったか?」
「あ、いえ…大丈夫です」
「どうしたの消太先生」
「緊急事態だ。取り敢えず一緒に来てくれないか」
「あ………ごめんね人使くん、大丈夫?」
「…うん、また連絡する」
「わかった。じゃあまたね!」
怜奈が心操に手を振り、相澤と一言二言交わすと彼の肩に触れそのまま一瞬で消えてしまった
一人になった空間で心操は先程伸ばそうとした方の手を軽く握り、約束とは別のもうひとつの決意を胸に自身の寮の方向へと足を向けた
(今はまだ、"友達"枠で我慢してあげる)