MHA中心
THE試験
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
一帯に響くブザー音と鳴り止まぬ歓声にほんの少しだけ身を預け、花の頂上から危なげなく降り立てば、己の纏う白と同調するかのように睡蓮から発せられる無数の虹色が全身を覆って思わず瞳が細まる
「…"帰城"せよ」
パキィ、ン…
弾け飛ぶダイヤと、宙を舞う薄紅色の花弁に駆けてきたサイドキックと緑谷が一瞬だけその輝きに怯む
次いで開けた視界では、美しい情景に佇む麗しい少女と解放された敵が対峙していた
「ギャングオルカさん…あの、私…」
「…君に、」
ずっと、会いたかった
彼の口から零れ落ちた言葉に、少女に見惚れていた者達は皆聞こえてきた声音に目を見開き別の意味でその身を固くさせた
それは緑谷も例外ではなく、一時思考がフリーズするも頭の片隅で思い当たる節を見つけ、人知れず息を呑み二人の様子を見守る
一方で思いがけない言葉を投げられた怜奈は驚きには、と短く大きな雫を瞬かせた
「ギャングオルカさんが…私に…?」
「すまない、思い出させて気持ちの良いものではないと分かっているが…神野の事件では、世話になった。君には計り知れない恩がある…本来なら、俺からすぐに挨拶に伺うべきところを、このような場所で伝えるべきではないんだが…」
「、あ…」
彼は脳無格納庫にてベストジーニスト達と共に制圧を行なった際に大怪我を負った内の一人
ギャングオルカ自身、今回の仮免許試験にてヴィラン役を承諾した裏には彼女と話せる機会があるのではないかと希望があったから
ベストジーニスト達同様、事件後に砕かれた少女の身体に慣れないほど動揺したのは、彼にとって人生でも数少ない乱れ様だったのを鮮明に覚えている
「プロヒーローでありながら、保護対象であった君の救出に尽力を尽くせなかったこと、それどころか満身創痍状態であった君に命を救ってもらった…改めて、謝罪と礼を言わせてほしい…すまなかった」
屈強で広い背広を惜しむことなく折り曲げて、まだ年端もいかない乙女に頭を下げる姿の、なんと不思議なことか。
「えっ…い、いえっ頭を上げてくださいギャングオルカさん!」
「、しかし…」
「それよりも、もうお怪我はだいじょうぶなんですか…?」
「あ、ああ…君の治療のおかげで、今はなんともない。ベストジーニストと比べたら傷は浅かったしな」
「そうですか…よかったあ」
顔を上げた先で、少女があまりにも嬉しそうに、心からの安堵を滲ませながら微笑むものだから気付かれる筈などないのに熱を持った顔を思わず逸らす
「(可憐だ…って、俺は何を…)」
「それに…私の行いは、決して褒められるものではありません」
「?!それは違う!君は、自身が限界状態にも関わらず大勢の犠牲者を救出し、同じく限界状態のオールマイトを援護し続けてくれた!あれでどれだけの命が救われたことかっ」
「己の命を、引き換えにしようとした結果のものです」
「っ…!!」
「世間の皆さんが称賛してくださっても…私はあの時、明確に一人の命を捨てようとした…
それが例え、自身のものであっても…命を奪う行為と変わりありません」
決して忘れてはいけない
あの時の行いも、愚かさも…一生をかけてこの罪を背負い戒めとして掲げ生きていくと誓った
「私は…困っている人や、傷付いて前に進むことのできない人…どうしたらいいのかわからない、そんな人達に手を差し伸べられる、強いヒーローになりたいんです。
…たとえそれが、どんな人であっても」
縋るような瞳が、己の脳裏を掠めていく
…大丈夫。絶対に、忘れない
「っ君、は…」
「…どうか、助け合わせてください。必ず同じ舞台へ、上がってみせますから」
春風を思わせるかのような一連の動作は儚げであるのに、若かりし頃に抱いた憧れの強さと輝きを彷彿させる
(なんて…強い…)
思い出の中で光った憧れは、己の心を感傷に浸らせる
それと同時に湧き上がる熱と僅かな痛みを誤魔化すかのように、あれからずっと自身を翻弄し続ける光を慎重に撫で上げる
その際太い指先に触れた星屑がさらりと絹の様に滑り落ちていくのに、自然と息が漏れる
「強いな…君は…」
「す、すみません、生意気なことを言ってしまって…あ、あの、ギャングオルカさん」
「ん?」
「えっと、あの時のお見舞いにシャチのぬいぐるみを下さったのって、もしかして…」
「あ、ああ…すまない、やはり子どもっぽかったな…何が好きかイレイザーヘッド達に聞ければよかったんだが」
「いえ!とっても可愛くて、すごく嬉しくて…ありがとうございます!」
お気に入りで、お部屋に飾ってあるんです。と笑顔で両手を合わせながら喜んでもらえるのなら、ヴィランっぽいと称されるこのシャチ顔も悪くない。全く悪くない
「そう言ってもらえてよかった。また後日別のも贈ろう」
「え?そんな!悪いですよ…」
「俺がしたいんだ。ああそれと、君がヒーロー活動を行うにあたって何かあればぜひうちの事務所に頼ってくれ。在学中も君からの頼みなら惜しみなく協力しよう。もちろん別事務所に所属していたとしても」
「あっ…ありがとうございます!あのっその、事件に関してのご意見なども伺ったりしていいですか…?」
「もちろんだ。いつでも連絡してくれ」
「…あんなに楽しそうっていうか、嬉しそうなシャチョー初めて見たなあ…」
「花飛びまくってるよ」
「いいなあシャチョー羨ましい」
「天使ちゃんって度胸あるよなあ。怖いもんないの?」
「あ、あはは…いつも、あんな感じです…」
「「大変だねえ君達も」」
サイドキック達の顔は隠れて見えないはずなのに、明確に感じる同情と羨望の気配に、数えるのも諦めた心労と焦りを胸の内から無理やり吐き出した
______________
__________
______
医務室から帰ってきた轟と付き添っていた怜奈も、着替え終わり合否を待つ彼らの後に続く
「焦ちゃん、傷痛くない?大丈夫…?」
「ああ。怜奈がほとんど治してくれたから平気だ。ありがとう」
「よかった、ギャングオルカさんの音波すごかったから…」
「…ごめんな」
薄く微笑んだ顔がゆっくりと俯いていくのに、怜奈はふ、と頬に影を差し冷たい指先に触れる
轟は一瞬怯えたように身を硬くするも、控えめに添えられた暖かな熱に…いつの間にか縋る様に力を込めて握り返していた
「大丈夫」
「…馬鹿、だったよな…」
「…でも、変われてる。焦ちゃんは、優しいもの」
轟の手に熱を与えるかのように添えられた手は、絹の様な心地よさで彼の甲を撫で上げる
「…優しいのは、怜奈だろ…俺は、優しくなんてない…今だって、親父のことは…好きには、なれてない…」
彼女のように、
「でも、変えようとしてる。少しずつ、受け入れようと頑張ってるでしょう?…それは、貴方が優しい証拠だよ…
今までの道のりも、過去の焦ちゃんも…捨てなくたっていいんだよ。あの時の焦ちゃんを救ってあげられるのは、焦ちゃんだけだもの」
「…っ、」
父を恨み、完全否定することだけを目標に視野を狭め気付かぬうちに周囲に巻いてきた種
そんな自分を見捨てるでも、No.2の息子だからと気を遣い顔色を伺う様な態度を取るでもなくて
ただ、一人の対等な人として、そばにいて自身を照らしてくれた怜奈
彼女に優しいだなんて言ってもらえる資格なんて、ないのに…
怯えた様に俯かせていた色違いの瞳が、引力に引き寄せられるかのように光を探して…視界に広がったいつもと変わらない微笑みに、呆れるぐらい心が救われる
「っ俺…嫌われちまうんじゃねえかって、思ったんだ…あんな、情けなくて…みっともねえ所、見られて…」
夜嵐との亀裂に現れた怜奈に、あんな姿を見られて…呆れられたと、優しい彼女が離れていってしまうのではないかと、今までのどんな場面よりも心臓が嫌な音を響かせていたのを思い出して…縋るように鼻先を虹色の絹に埋める
「ふふ…大丈夫だよ。こんなに頑張ってる焦ちゃんのこと、嫌いになるはずないでしょう?」
「!」
その言葉とともに添えられた頭上の熱に、自分でもわかるくらい顔に熱が集まり気分が高揚する
昔から、怜奈が甘やかしてくれる温度と時間が何に変えても大好きだった。それはきっと、これからも
「あー!!轟怜奈ちゃんに頭撫でてもらってるー!」
「近えんだよこの半分野郎!!離れろやっ」
「いてっ」
────そしてこの時間が長く続いてくれないのも知っている
「轟とバクゴーは特に抜け駆けするからな〜」
「うん?」
「あっ、ねえねえ怜奈ちゃん怜奈ちゃん!」
「終わってから聞こうと思ってたんだけどさあ!」
「なあに?」
いつもならラブコメ展開に野次を入れる葉隠と芦戸が何か別のことで興奮気味に頬を染めている様子に、怜奈が疑問から首を少しだけ傾げる仕草をする
「もうあれ軽犯罪だろ」
「気持ちはわかるけど、な?轟一回落ち着こうぜ?」
「おい怜奈俺の前だけだって言っただろ」
「独り占めは良くないことだと思うなかっちゃん」
「さっきの試験の時のあれ!!」
「あれってもしかして、合宿の時の完成版!?」
「…」
そして再生されるのは、美しくもありながら勝気な表情と威風堂堂な振る舞いで周囲へと指示を飛ばす怜奈の姿
その時の自分を改めて思い返せば、ガラスのように透き通った白い肌は青みを帯びていき…最終的にとてつもない罪悪感と羞恥心に襲われ、その場から勢いよく体が後方へとスライドした
「ごっごごご、ごめんなさい!わっ私、すっごく偉そうにしちゃってたよね…!みっちゃんと焦ちゃんにも、乱暴な口調で指示出しとかしちゃったし…!!」
「えぇ!?だっ大丈夫だよ怜奈ちゃん落ち着いて!(そ、それにちょっと役得だったっていうか…)」
「でも、本当に…ごめんなさい…!換装術は、刀の召喚時にその武器と最も相性の良い鎧を纏うことで完成する魔法だけど…"魔法"と同じように、刀にもそれぞれ姿のイメージや性格が存在するの」
あるものは好戦的で、またあるものは平和を好んだり…それぞれ特徴や得意とする戦法も異なる。
また自我が強い為、術者も刀の力の影響を受けやすくなってしまう
相性が良ければ良いほど、また信頼しあっているとよりその特徴は出やすく…まるで体の一部分かのように武器を使いこなすことが可能になる
「刀の特性で性格もそれに近いように引き寄せられちゃうから…普段とは全然違う口調だったりとか、行動もしちゃったりしてしまうこともあるみたいで…びっくりさせちゃったよね…」
換装時の記憶を思い出し、仕方がなかったとはいえギャングオルカにも失礼な態度をとってしまったと自己嫌悪に浸っていると、俯いていた顔が突如として上を向く
「「すっ……ごくかっこよかった!!!」」
「………………へっ?」
怜奈の手を握り半ば無理矢理顔を上げさせた少女達の声音と瞳は誰が見ても輝いていて、ぽか、と一人取り残されたダイヤモンドの小さな口は無意識に困惑を吐き出した
「いつもの怜奈ちゃんはもう天使みたいに可愛くて守ってあげたくって…」
「戦闘の時はすごく綺麗で頼りになるお姉さんみたいで、一人で二度美味しいって感じだったんだよね…」
「「でも!!」」
「今回はめちゃくちゃ男前で美しくって!!ちょっと乱暴な口調とか勝気で堂々としたところがもう超かっこよくて!!」
「黙って俺についてこい!みたいな!?」
「それそれ!!」
「怜奈様だよ怜奈様〜!!」
「もう一回見た〜い!」
「え…ええぇ〜…!?」
瞳の中にハートを浮かべる両者の予想外の反応に困惑する彼女を横目に、その場に居合わせた尾白や蛙吹、常闇も若干頬を薄く染めながらあの時の情景を脳裏に蘇らせる
「本当…あの時の神風さんいつもと雰囲気違い過ぎて一瞬誰だかわかんなかったけど…それよりももう、カッコ良過ぎて…」
「ええ。本当に素敵だったわ怜奈ちゃん…とってもドキドキしちゃった」
「まさに伊達男、という感じだったな」
「こ、怖くなかった…?」
「「イケメンだった」」
「男として自信失うくらいには」
「そ、そう…?」
真剣な表情で頷く常闇達に怖がられてないのであれば、まあ、いいのかもしれない…と乾いた笑いを零しつつ内心で胸を撫で下ろしていると、両肩から妙な圧が
「ど、どうしたの二人とも…」
「芦戸さん達だけずるいですわ!!私、怜奈さんの声しかお聞きしていませんのよ!?」
「私も!怜奈ちゃんのかっこいい姿見れてへん!!」
「お願いします怜奈さん!!どうかもう一度、一度だけでいいのでなっていただけませんか!?」
「ほんのちょっとでいいから〜!!」
「えっウチも見たい!」
「俺も俺も!」
「神風の強気美女ver.…!!それなら踏まれてもいい!!!」
「黙れ峰田」(ドックン)
「ホワァ!!!!!!」
「轟は1番近くで見てたんだもんな〜」
「いいだろ。すげえかっこよかった」
「こんな時だけドヤ顔覚えんなよ!」
「まさかフェアルズの換装術を怜奈ちゃんでもう一度見ることができるだなんて…僕もう本当に感動しちゃったよ!!指示出ししてくれた時もいつも通り的確且つ凄くカッコよかったし、鶴丸国永の真っ白で神々しい衣装も最高だったなあ!最後ギャングオルカを封じた時の技のクオリティももうやばくて思わず見惚れちゃったし…そうそう!あの合わせ技なんかフェアルズの他ヒーローとの共闘を彷彿させるような」
「うるせえんだよお前は!だあっとれ!!!つかなんでデクが見れて俺が見れてねえんだ!!怜奈っ俺にも撮らせろや!!」
「落ち着けよ爆豪〜…で、でも俺も見てえなぁなんて!」
いつの間にか日常的な騒がしさを覗かせるA組の面々に、自身の激しい変化を見て尚いつも通りな彼らにふ、と肩の力は自然と抜けた
「よ、よかったの…かな?」
_____________
________
_________
そして迎えた合否発表
最後の試験での採点方式はヒーロー公安委員会とHUCによる二重の減点方式
危機的状況において、どれだけ間違いのない行いができたかの審査
減点方式…つまり、"逆転"や"挽回"はまずない
そんな中で発表された合格者達
五十音順で綴られた掲示板に爆豪と…轟の名は存在しなかった
周囲が喜びと落胆に身を包む中、一つの声がその場を切り裂き大きな謝罪と同時に地面にも衝撃を与えた
「あんたが合格逃したのは、俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」
同じく名のない夜嵐の地面に突き立てられた当部を目にし一瞬固まった轟も、その言葉にどこか痛いような…申し訳ないような…どうしたらいいのかわからない。そんな表情を浮かべながら彼の行動を静かに止める
「お前が直球でぶつけてきて、気付けた事もあるから」
そんな両者のやり取りに周囲も気付き、再度電子版を確認したことによりその事実に驚きを浮かべる
「轟…落ちたの?」
「ウチのスリートップの二人が落ちてんのかよ!」
「スリートップ…?」
「ええ。怜奈さんと轟さん、爆豪さん。A組の中でも実力者であるトップ三人のことですわ!まあ私は怜奈さんが一番だと確信していますが!!」
「そ、そうなの…?あれ…じゃあ勝己くんも落ちちゃったの?」
「ゔっ…」
「暴言改めよ?言葉って大事よお肉先パイも言ってたしさ。原因明らか」
「黙ってろ殺すぞ」
「勝己くんは優しくて能力もあるんだから…もう少し柔らかく、ね?」
「…ん」
「この差ですよ。わかってたけどもさ」
自身に向けた眼光と一変し、まるで主人に叱られた子犬のように大人しく彼女の言葉を受け入れる姿に、上鳴は恐ろしいよほんとに。と両腕をさすった。内心羨ましかったし納得もしたが
「両者ともトップクラスであるが故に、自分本位な部分が仇となったわけである…ヒエラルキー崩れたり!」
「…てか怜奈ちゃんいるからヒエラルキーは別に崩れてなくない?」
「…ハァ!!」
「そもそもトップいてもいなくても峰田は最下位でしょ」
「グゲボラァッ!!!」
「お前もさ、言動改めよ?な?」
撃沈する峰田を横目に、怜奈は視線を戻し未だ違う目線で対峙する二人を見つめた
「2人とも」
「「!」」
「怜奈ちゃん…」
「怜奈さん…」
「まだお話があるみたいだよ」
目元に咲く花に、両者は一瞬息を飲んでからそれぞれ佇まいを直し彼女にひとつ、小さな謝罪をこぼす
「…多分、大丈夫だよ」
「え…」
「?何が…」
「えー全員ご確認いただけたでしょうか?」
どこか確信めいたような彼女の雰囲気を疑問に思ったと同時にかかった声に、思わず思考がそちらに移動してそれぞれに配られる採点用紙に目を向けることになる
合格ボーダーラインは50点。各自の行動の良かったところ、悪かったところの捕捉点が下記に綴られていた
「61点ギリギリ」
「俺84!!見てすごくね!?地味に優秀なのよね俺って」
「待ってヤオモモ94点!!」
各々が自身の採点を確認し、己の減点事項へと目を向けるとヒーロー公安委員、要救助者のプロが見定めているだけありどれも的確にまとめられていた
「神風さん、どうぞ」
「ありがとうございます」
怜奈も例外ではなく、手渡されたプリントを受け取った
「怜奈ちゃんどうやった?」
「あっ、待って僕も気になる!」
「俺にも見せてくれ!」
「お茶子ちゃん、みっちゃん達も…ちょっと待ってね…えーっと…?」
「「……………きゅっ、」」
「「99点んんんっ!?」」
「……えぇっ?!」
怜奈と同じように彼女の採点用紙を覗き込んだ三人の目に真っ先に映りこんだ点数に思わず声をあげれば、周囲にいたA組の面々も怜奈達へと目を向ける
「って、ご、ごめん怜奈ちゃん!!びっくりして思わず…!」
「すまない怜奈くん!!人の点数を大声でっ」
「う、ううん、大丈夫だよ!」
「すっすごいすごい怜奈ちゃん!!ほぼ完璧やん!?」
「いや、そんなことは…」
「流石ですわ怜奈さん!」
「今回の試験最高得点じゃね?!」
「やっぱりうちのトップは神風だなあ!」
「ゔぐぅぅ…」
「暴言直そ?な?」
興奮気味で捲し立てるA組の面々に、ヒーロー公安委員である目良は彼らに向かってそんなことはない、と慌てている怜奈の姿を見つめ半開きの瞳の奥をうっすらと光らせる
およそ1年とは思えない冷静な判断力と2、3年生でも高難度な課題にもすぐに対処出来る適応能力と迷いのない行動力…そして何より、飛び抜けた戦闘力
あまりにも異質な才能は、公安に目をつけられる程の人物であると再認識させられる
公安で目をつけた才能のある子供達は、普通の一般家庭であれば大金や高待遇等をエサにチラつかせて親を丸め込み
「(彼女のバックは、あまりに強い…)」
かのフェアルズの一人娘である少女
フェアルズと言えば、その名を聞くだけで多くの者が歓喜と憧れを抱き…悪に対しても強い抑止力を植え付けた
さらにその活躍は国内だけに留まらず、海外でも多くの栄誉と功績を残し彼自身の能力と優れた頭脳は他の追随を許さないほど…
しかし彼自身はそれほどの能力を持ち合わせながらもどこか変わっており、多くの物は望まない性格であった
『え…?い、今なんと…?』
『ヒーローランキングなんだけどさあ、俺ああいうのあんまり得意じゃないって言うか…苦手なんだよなあ。だからさ、俺の事除外してくれないか?』
『むっ……無理ですよ!!貴方ほどの人気ヒーローがランキングされてないなんて、ファンは勿論一般市民だって納得してくれないですよ?!!』
『って言われてもなあ…あ!じゃあ固定制でどうだ?!俺どこでもいいから、それならいいだろ?大丈夫もちろんちゃんとそれ以上の仕事はするし、俺からも説明するしさあ、な?頼むよ〜』
『………か、変わったお人だ…』
人に順位をつけることを苦手として、どんな人とも対等であろうとする人だった
彼が一声かけようものなら…彼に絆された諸外国のトップ達が、手を差し伸べる可能性も容易に想像できた
公安の協力に応じてくれる度に、何度この人が味方であり、ヒーローであってくれていて良かったと安堵したことか
…そんな彼亡き後に、少女はオールマイトの庇護下に置かれた
事実上の引退をしたと言っても、フェアルズと同様にその力は依然として大きく、そして何よりフェアルズの娘と言うだけで各国のトップ達が怜奈への協力、援助まで申し出ているのだ
そんな彼女を無理矢理引き抜き、オールマイトから引き剥がそうとすれば…損害を考えただけで肌が粟立つ
だが、そんな必要は微塵もないと…納得させられた
「(ああ…なんて、眩しい……)」
痛いほどの輝きと、希望を彷彿とさせる言動
心配が杞憂に終わったのを漸く確信して、疑り深い頭を掻きながら寝不足で引き攣った目尻を静かに細める
「………よく似ているよ…
───────────
──────
全員に採点用紙が配られたのを確認した後に、目良は今回取得した仮免許について淡々と説明を並べていく
仮免許はあくまで
敵との戦闘、事件事故からの救助場面でもヒーローの指示や許可なく己の判断で動くことができる反面…
「しかしそれは君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じるということでもあります」
ピリッと、空気が少しだけ引き攣った
ヒーローの指示がない…つまりそれらは、後ろ盾をないことを意味する
「均衡が崩れ世の中が大きく変化していく中いずれ皆さん若者が社会の中心となっていきます…そして、彼等と同等の抑制となる存在も現れるはず」
目良の視線と一瞬だけダイヤモンドが交差したような気がしたが…彼女が瞬きをする頃には、彼の顔は正面の空へと向けられていた
彼はその後合格者に向けて前向きに捉えられるような言葉をかけた後で所々で顔を俯かせている受験者達に、同じトーンを用いて顔をあげさせる
「三ヶ月の特別講習を受講の後、個別テストで結果を出せば、君たちにも仮免許を発行するつもりです」
轟と夜嵐が弾かれたように少女を映すのに対して、怜奈は己の中の推理は正しかったのだと安堵する
減点方式であったのにも関わらず、なぜ後半の際に全員を最後まで見たのか…それらはおそらく、見込みがあるかどうかを審査する為ではないかと
続けられた目良の言葉は推理通りで、驚きに目を見開いている彼等に向かって1つ、頷きを返して見せた
「学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦してもかまいませんが─…」
「当然」
「お願いします!!」
迷いなく言い放った彼らの決意に瞳を細めながら、怜奈は自身の減点事項に目を向けてふふ、と小さく微笑んだ
────試験中の甘やかし行為は、厳禁です
「未来への投資、だもん」
────こうして、ようやく仮免試験は終了した
───────
───────────
───
「怜奈ちゃーん!!」
「みっちゃん、どうかした?」
「そのっ、オールマイトにも試験に合格しましたって言う報告の写真送ろうと思って!よかったら、その…い、一緒に…!」
「いいの?ありがとうみっちゃん!私も送ろうと思ってたの!」
「ほんと?!」
緑谷と怜奈、それぞれの仮免許を同じフレームに収めてから彼が嬉しそうに師へと報告を行っているのを見守っていれば、ぽつり、と感謝の音が海馬を抜けた
「全部、怜奈ちゃんがくれたおかげなんだ…一緒にヒーローになろうって言う君の言葉がなかったら、諦めてしまっていたかもしれない
そしたら、色んな人に助けられることも、支えてもらうことだって出来なかったはずなんだ。だから、本当にありがとうっ怜奈ちゃん!」
エメラルドがキラキラと夕日に反射して、パチパチと瞳が弾けて溶けていく
とても優しくて、強くなれる人
「…よかったあ」
「、え…?」
「あなたが、継いでくれて」
心からの感謝と、深い慈愛を
「なろうね、"最高のヒーロー"に」
この世の何よりも美しい人だと、ショートした頭の中で漠然と再認識した
顔を真っ赤にしてから固まってしまった緑谷の周りを飯田達が囲む中で、轟は心配そうに幼馴染を見つめる怜奈の手を引く
「怜奈…ん?緑谷どうしたんだ?」
「えっと、飯田くん達は暫くそっとしておいたら治るって…試験の疲れが出たのかな」
「そうか…なあ怜奈、知ってたのか?さっきの人が言ってた特別講習のこと」
「え?ううん、ただの憶測だよ。でも、当たっててよかった…焦ちゃん達、大変だと思うけど…」
「すぐっ!…絶対に、追いつく、から…」
誓うように噛み締められた言葉と表情から彼の気持ちは簡単に読み取れて、祈るようにその手を強く握り返した
「うん、ちゃんと見てるからね」
「!頑張る…」
「でも、無理はしちゃダメだよ。勉強もお手伝いするから」
「わかった。ありがとな」
「おーい!!」
「、この声…」
轟の返答に笑みを浮かべた直後、聞こえてきた地響きと声に2人揃って音の方向に目を向ける
「轟!!また講習で会うな!!けどな!正直まだ好かん!!先に謝っとく!!ごめん!!」
「どんな気遣いだよ」
「こっちも善処する」
「あ、あはは…」
「……すィ☆彼は─大胆というか繊細というか…どっちも持っている人なんだね☆」
「…うん、そうだね」
彼の真っ直ぐな姿勢は、見ていて心動かされるものがあると思う。言葉はまた別として…
轟にそれだけ言い放った夜嵐は、再び地響きを鳴らしながら去るかとも思われたが…どこか緊張した面持ちで、ガチガチになりながら怜奈の前で立ち止まった
「夜嵐くん?」
「あっ、あの!!れ、怜奈さ、ん!!」
「は、はいっ」
「そのっ…お、俺!!絶対にすぐっ!!あなたに追いつきます!!!」
「!」
「怜奈さんに比べたら、まだまだ未熟で、弱くて、頼りないかもしれませんが…!!それでも必ず!!あなたに釣り合うような男にっ、なってみせますから!!!」
全身を赤く染めながら声高らかに宣言した夜嵐の瞳は真剣で、曇りなど一切見えない澄んだものだった
「──ありがとう」
「っ!」
「頑張ろうね」
「っ…はい!!」
「あ、焦ちゃん…?」
「───渡さねえぞ、絶対に」
「───俺も、引かん!!」
「夜嵐ー、そろそろ行くぞ」
「ハッ!!今行きます!!」
「…夜嵐くん!」
怜奈の声で振り返った夜嵐に、轟の影から小さい紙を差し出して握らせた後でふわりと光を零す
「また、お話しようね───"イナサ"くん」
「!!!───はっはい!!ありがとうございます!!」
ドゴォン!!!!!!
「頭の負傷率の高さ!!」
「怜奈!!なんで番号なんか渡すんだ!!上鳴みたいなことしたらダメだろ!?しかも名前呼びまでっ…」
「突然の流れ弾」
「否定できないのがまた痛い」
「激しく同意はする」
「命ある限り」
「え?でもほら、せっかく仲良くなれたんだし…」
「怜奈!!お前はほんっと何回言ったら警戒心っつうもんを働かせるんだよ!!」
「え?!い、イナサくんはとってもいい子だし、ヴィランでもないし…」
「ヴィランだけじゃねえんだよ警戒すんのはァ!!」
「や、やめてえ〜…!」
「まあまあバクゴー」
「でも怜奈ちゃんって性善説がいきすぎてるとこもあるからな〜…」
「そういった邪心には疎いんだもんね」
「俺らで見張っとこうぜ〜」
「とりあえずはな」
「もしもの時を言ってんだよこのアホ共!!」
────この時は、気付きもしなかった
『やっとつながった!どこで何してる!?』
悪が静かに…潜んでいた事に
『トガ!!』
人の目のない路地裏で、狂気が嬉しそうに街灯に反射した
「出久くんの血を手に入れました」
幹部からの連絡に、死柄木弔は額に覆われた顔をゆっくりと引き上げてから端的に呟く
「…… 怜奈は」
「…トガ、我が君と接触はできたのか」
『いいえ?怜奈ちゃんはとぉっても敏感さんなので、近付いたらすぐに気付かれちゃいますもん』
「チッ…」
『でもでも、とおっても可愛くなってましたよお。それに元気そうでした、弔くんにも見せてあげたかったです』
それだけ告げて一方的に通信を切ったトガに、コンプレスは1度だけ応答を確かめてから諦めたように懐に端末をしまう
「まったく…」
「………そうか………ああ、怜奈……」
そっと、自身の左頬へカサついた手を重ねる
─────ごめん、ね…
─────あなたも…必ず…救けるから
ろくなものを映したことがない濁った瞳でも直感した
世界中の何よりも美しく、あたたかな存在
(身体…本当に、戻ったんだな…よかった… 怜奈…痛かったよなあ、苦しかったよなあ)
すり、すり…と彼女が触れてくれた頬へ指を這わせるも、己の手ではカサつきすぎていてあの優しくて柔らかな感触はどうにも再現できそうにない事実に、何度目かのイラつきが吐き出される
(あいつが…オールマイトさえ来なかったら、怜奈が砕けることだってなかったはずだ…ヒーローなんかがいたから…俺たちと一緒に、俺といれば……怜奈の髪一本だって、傷付けやしないのに………!!)
フツフツと、またいくつものドス黒い感情が湧き上がり、渦をまく
絡み合い、狂気を増して…
(けど… 怜奈は優しいからなあ…頑張っちゃうんだもんなあ…ああ、可愛いなあ、好きだなあ…あの優しさが、俺だけに向けられたらいいのになあ…)
慈しみのこもったダイヤモンドに照らされた瞬間
何故だか物凄く、泣きたくなった
縋り付いて、抱きしめて欲しかった
大切な、大切な…………俺の、光
「待っててね怜奈…必ず、迎えに行くよ」
·
19/19ページ