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THE試験
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ビリビリと脳が揺さぶられるのは恐怖や不安からではない
それはましてや、絶望でもない
身体が、心臓が、細胞が
湧き上がるその衝動を、抑えきれない
「「オオオオオオオオオ!!!!!」」
白き女神から天に掲げられた刀身に共鳴するかの如く、その場にいた全員が有り余る滾りを吐き出した
あまりの熱量に観覧席にいる公安職員、教師達はその勢いに一瞬だけ体を仰け反らせる
「………すげえ……たった一言で、全員を一瞬で…
「(完成、させていたのか…!!)」
ジョークがほぼ放心状態であるのも気付かず、相澤は合宿の時の怜奈の魔力量を改めて思い返し合点がいく
「(本来の力が戻った今… 怜奈の可能性は未知数だ…力が大きくなった分、"理想"を"現実"に変えられる…!)」
米神に伝ったのは、今後の彼女に対する期待か…はたまた大き過ぎるその力への不安か…
ただ今は、この試験が終わったら…伝えたい
「…………ありがとう……っ、ありがとう… 怜奈…!!」
────もう、見る事などできないと…思っていた
世代を超え、次代に受け継がれた先人の意志
あの人はきっと見ているだろう
そしてきっと、無駄に回転の速い頭を駆使して自身に向かって色々言っているのだ
お前は見た目に反して感情が豊かだからな、と
音もなく落ちていく感情に、彼が大声で笑っているのが容易く想像できるのが少し悔しくて
そんなこと言うのはあんたぐらいですよ。と思わず唇を引き結んだ
──────────
─────────────
─────
熱を受止めたあとで、"声"を解除しヴィランと対峙する
「(まだ、全開じゃない…いや、"拘束用プロテクター"か…)」
ギャングオルカの身体の動きから、やはりハンデはつけられているか…と換装により黄金に染まった瞳を細める
ハンデ有りとはいえ、これはもはや試験と考えるべきではない
向こうが本気で来る以上、試験と思い挑むか否かが勝敗に繋がる
「ほう…その姿…面白い(あれはフェアルズの…いや、それよりも)」
─────────強い
己の野生寄りの本能がビリビリと信号を出す程に、目の前の彼女の異質さを理解した
視線が交差すると、飲み込まれそうなほどの圧倒的な存在感に気圧される
肌に這うのは高揚か緊張か、それとも恐怖か
確かめる術はただ一つ
「──────さあ来い!!ヒーローッ!!!」
美しく歪む琥珀が、またひとつ心臓を脈打たせた
────────────
──────
──
「いいねえ…滾る」
桜の上をひと舐めして、白い相棒を振り上げる
───────トッ
「けど…少しだけ、お預けだ」
「!!」
ギャングオルカの鼻先まで音もなく移動すると、驚きに目を見開く瞳孔の奥を一つ撫でカチリ、刀身を鳴らす
「一ノ舞、"桜花乱舞"」
流麗
ギャングオルカの真横を一筋の閃光と共に過ぎ去った瞬間
──────ザアアアアアアアアッ!!
刀身から桜が咲き乱れその場で旋回すると、初めは風の悪戯程度だった舞が瞬く間に天に昇る
「シッ、シャチョー!!!」
「大変だ!!!シャチョーが桜の渦に巻き込まれたッ」
「あれではシャチョーが乾燥してしまう!」
「鯱っぽいシャチョーは乾燥に滅法弱いからな!!」
凄まじい桜の柱に、彼のサイドキック達が応援に向かおうと身体の軸を変えるが、
「少しだけ遊んでくれよ、鬼さん方」
「え」
声の出処の違和感に空を見上げ映ったのは、美しい金色の陣を足元に浮かび上がらせる
逆さまの女神
「"
三日月からこぼれ落ちた言葉に見惚れる間もなく、自分達が感じたのは不思議な浮遊感
「えっ?!あ"っ!!?」
「浮いてる?!」
「空の旅へとご招待ってね…驚いたかい?」
彼らの身体が浮いたのを視界へ収めると、悪戯に指先を天へと掲げれば何十人もの成人男性の体は思うがままに操られる
「しっしまった!!」
「でも、ちょっといいかも…」
「俺も…」
「何言ってんだお前ら?!」
「(実は俺もなんて言えない)」
サイドキック達が混乱する中で、彼らの周りから白いモヤが掛かり数秒と経たずその姿を覆い隠した
「一体、何が…?!」
誰かの呟きに応えるかのようにモヤは風に掻き消され全貌が顕になる
───────ガシャンッ
「【包囲】───"
「「シッ………シャチョオオオオオ!!!!」」
空に浮び上がる純白の監獄は、彼らの動きを嘲笑い、無駄だとでも言うかのようにいくら叩こうが地団駄を踏もうがその鉄壁が崩れることは無い
ものの数秒でかなりの戦力が奪われてしまった事実に、声は虚しく空に響き渡る
「(戦闘ではなく、敢えて"拘束"に回るとは…!)」
「(しかも抜けられたとしても空に逃げ場はない…上手い!)」
「(武力には武力を…ヒーローに戦闘向けの個性が多いとはいえ、その姿に少なからず嫌悪や様々な感情を抱いてしまう人はいる)」
圧倒的な武力…それは人々に絶大なる安心と信頼を与える
しかし一方で、力とは恐怖へと誘うこともあることを忘れてはいけない
それを左右するのは、その力を持つべき者が力をどう使うかにかかっている
彼女の行動が誰を…いや、彼女の思いは力を手にした時からきっとただの一つだけ
味方はもちろん、それが例え敵であったとしても
─────人の心を救いたいと思う、優しすぎる彼女の果てしない理想
その選択に、天使は足掻き、もがき、時に残酷な現実にぶつかり絶望もするだろう
─────しかし、折れない
何度でも、何度でも
それが───── 神風 怜奈だから
これは、彼女のほんの一幕にしかすぎない
「────そろそろかな」
歴史の一瞬から、金色が輝る
─────キュイイイイイイインッ
走る桜吹雪と、分断される衝撃
「ッ怜奈ちゃん!!!!」
自分たちの前に立ち塞がる怜奈と、桜の竜巻から姿を現したギャングオルカを視界に捉えた緑谷は真堂を抱えたまま思わず叫ぶ
「ホォ…音波までも切り裂くか」
「やっぱ早ェな…流石」
肩を鳴らすギャングオルカの衣服は所々裂け、いくつかの傷が覗くものの致命傷程のものは受けていないように見られる
一方で自身の超音波を切り裂いて見せた怜奈と空で拘束された部下達も視界に入れると、強者を好む本能がギャングオルカの奥で疼く
「デク」
「っ!!」
見つめ合う両者の気迫に息を飲むも、彼女が自身の"ヒーロー名"を呼んだことに頭のスイッチが自然と切り替わる
「救え」
「、」
「背中は任せる。さっさと救けて、戻ってきてくれ」
その先の言葉はなかったが…それだけで、わかった
「───っうん!!」
彼女は昔から、人の心を動かす天才だったと
──────────
─────
──
再び要救助者達の保護と避難に回る緑谷達に、ギャングオルカは薄らと瞳を細める
「…1人で十分だと?」
「いいや?あんた相手にそんなことは考えちゃいないさ…今はな。けど、試験の課題は"一人でも多くの命を救うこと"」
今は、という言葉にぴくりと眉間の筋肉を動かしたギャングオルカに気付いているのかいないのか、それに…と、怜奈は視界の隅で轟と夜嵐を確認する
「ここには、ヒーローが、"3人"居るんでね」
「「!!」」
「それまでは、何とかしのげるだろうと思ってな」
ふ、と余裕を纏わせた様な勝気な微笑みは思わず見惚れる程の色香と、全てが成功に導かれるような絶対的な自信が垣間見える
「ヒーローが
「見てたさ。ここに来る前にね」
ドクリ、と、心臓が嫌な音を立て背筋に冷や汗が流れる
無駄に張り合い、相性最悪、連携ゼロ…
愚行しかなかった自分達の過去の行動を知っていると、この世で最も大切な人に言われて…息ができない
─────苦しい、消えてしまいたい
「けどな、一度失敗した奴は───強いぜ?」
「「───っ─」」
光が、射す
彼女の声音には、自分達が危惧する色は無くて
ただ、ただ、真っ直ぐだった
「(ふむ、成程…これは、少々厄介だ)」
霧がかった瞳に光が宿る様子を確認したギャングオルカは僅かに走った焦りに瞳を閉じ、強者と対峙する
「(父親譲りという訳だな…)」
「んじゃまあ…」
「…いくぞ」
「…ああ」
瞬間ぶつかりあった空気に、辺りに振動が広がり余韻が襲う
超音波を連続で隙間なく撃ち込むギャングオルカに、怜奈は持ち前の柔軟に剣技を併せ切り裂いていく
空中で後方に宙返りをしながらギャングオルカを視界に入れ超音波を避けると、鞘の持ち手に力を込める
「三ノ舞・"鶴"」
刀身から放たれる高速の斬撃を受け止めようとしたが、
「(受けたらまずい…!!)」
本能からの信号にその場から飛び退けば、自身の下にあった地面は深く抉られた後にボロボロと崩れていく
「まだまだァ!!」
彼女の口から出たとは思えない口調を聞き流しながらも再び放たれる斬撃に、ギャングオルカは間に合わないことを察し超音波を放つが
─────ザンッ!!!!
バギィッ
「!!」
放った特大の音波は裂かれ、二つのうちの一つの白銀の斬撃が片腕のプロテクターをいとも簡単に粉々にして見せた
腕に走る衝撃に思わず手で抑えれば、ビリビリと震えが伝播する
プロテクターがなければ、おそらく自身の腕は使い物にならなかっただろう
「(速いな…)」
音波を放つと同時に斬撃の軸から逃れたギャングオルカに心の中で賞賛と僅かな苦渋を飲み込むも、怜奈は刀を構え彼の一挙一動を見逃さぬように鋭い視線を崩さない
「一ノ舞・"桜花乱舞"」
ふ、と怜奈が刀を振り上げ再び桜と風の檻にギャングオルカを閉じ込める
その行動に、大半の者は疑問符が浮かぶ
仮にも一度突破されている技を、わざわざ彼女が仕掛けるのか?と
一方でギャングオルカは僅かな違和感を感じながらも未だ痺れる腕の感覚はまだ戻りそうにないな、と頭の片隅で理解した
その時
────────スパッ…
頬に走る赤い軌跡に瞳を向ける
「【桜花乱舞】・"
カチリ、と鞘に刀身が収まった瞬間に、先程とは比べ物にならない程の激しさで花弁がギャングオルカの周りで狂い咲き、美しさとは裏腹な狂気が牙を剥く
「(まずい…!音波を出そうにも、動くのをやめるのも、ましてや静止していても致命傷になりかねないっ)」
これらを吹き飛ばす程の超音波は一定の集中力と
が、不規則に襲う予測不可能な攻撃を避けながらでは断続的な音波しか流せず威力が足りない
「まったく…つくづく、おもしろい…!!」
己を威嚇するかのように立ち塞がる壁に期待を吐き捨てた
──────────────
──────────
────
ギャングオルカの様子を"目"で確認し、怜奈は轟と夜嵐に視線を向けることなく空気を揺らす
「取り返したいか」
「「…っ!」」
「過去は戻らない。いくら泣き叫ぼうが、懇願しようが…それだけは絶対に変わらない。挫折し、藻掻いている間にも時は残酷な程進み現実を突きつけてくる」
「っ…」
「っ、はい…!!」
重い
彼女は、どんな思いで…"過去"を語っているのか、表情は見えなくとも握り締められた拳の強さに目を背けたくなる程の痛々しさを感じ、あまりの重さに息を飲む
「けどまあ、人生には多少の驚きが必要だと思わないか?」
「「…………………………は?」」
今までの重苦しい空気が一変、なんの脈拍も無い言葉遊びの様な台詞に脳が追いつかずたっぷりの間の後に漸く間抜けな一言が重ねて吐き出される
「ありきたりな日常じゃあ人は枯渇していく。心がな。どんな時でも、少し冒険するぐらいが人生吉ってもんだ」
最早哲学とも聞き取れるような彼女の声に働かない頭を必死に動かそうとしたところで、強い音が脳を突き抜けた
「変えに行こうぜ、"
「「!!」」
「失敗?上等。"未来"を変える為に"
見せてやるよ、勝つ"未来"を
振り向き微笑む姿は、正直言って眩しくて少しだけ痛かった
しかしどうだ
その輝きが己に向けられたものだと思うと、後世にまで自慢できそうだと頭の片隅で妙な余裕が過った
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