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THE試験
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救助でまず最も大事なこと、それは─────
『一人でも多くの命を救い出すこと!!!』
その言葉とともに合図が出され、合格した受験者は一斉に現場に向かっていく
しかし、採点式とはいえ基準は全く明かされていない。それ即ち、その者の知識と経験がものをいう
先程とは違い救助となるととにかく人手が要る為、緑谷達も例外でなくチームで動こうと走り出した先に子供役であるHUCが姿を現した
「あっち…!おじいちゃんが!!ひっ潰されてえ!!」
「ええ!大変だ!!どっち!?」
少年の言葉に緑谷達が焦りながら周囲を見渡そうとした瞬間、ふわりと視界に光が舞う
「──────大丈夫」
光は少年の前に静かに降り立つと、両の手で至極優しくその頬を包み込んだ
「さあ、もう大丈夫。ゆっくり息を吐き出してごらん?」
「ひっひっ………はっ、は、はー……」
「そうそう…上手だね。頭見せてね…痛かったでしょう?よく頑張ったね!」
「おじっおじいちゃんがあっ」
「大丈夫、絶対に大丈夫だよ。君もおじいちゃんも、私達が必ず助けるから」
いつものように、全てを包み込むかのような微笑みを浮かべ少年の涙を拭い、柔らかな声で諭すように声をかけながらも意識レベルと傷の種類、歩行可能かどうかの判断を行う姿に思わず呆気に取られる
そんな彼等を正気に戻すように、今まで大人しく怜奈の診断を受けていた少年のHUCはカッ!!と突然その表情を一変させた
「この子に比べてえ……お前はなァンだよそれえ減点だよォオ!!!!」
「!?」
いきなりの減点発言にその場にいた全員が固まり、びくうっと肩が跳ね上がる
「まずこの子みたいに私が歩行可能かどうか確認しろよ呼吸だって数がおかしかったろ!?頭部の出血もかなりの量だぞォ!?仮免持ちなら被害者の状態は瞬時に判断して動くぞ」
───そう、この救助演習では他でもないその場で救助されたHUCその人が採点を行っていくのだ
救出、救助──それはある意味ではヴィラン討伐よりも難しいのかもしれない
消防、警察が現場に到着するまでの間でその代わりを務める権限をフル活用し、スムーズに橋渡しを行えるように最善を尽くす
その為には、先程も述べたように知識と実践の数が何よりものをいう
それにおいての大前提として、これに関しては如何に視野を広くし周囲を見れるかが救う数を左右する
────ヒーローは、人々を救ける為ならばどんな事でもこなしていかなければならないのだと改めて痛感させられる瞬間であった
その証拠に、周りの上級生達は自分に合った役割を見つけたり、今何が必要なのかを瞬時に見極め行動している
「何よりあんた…私たちは怖くて痛くて不安でたまらないんだぜ?掛ける第一声がええ!大変だ!!じゃあダメだろう」
─────もう大丈夫、私がきた
─────絶対に、大丈夫だよ
「…………みんな。私達は、人を救う為にここにいる
彼等を助けることが出来るのは、私達だけなんだよ」
緑谷の脳裏に、2人の映像が蘇る
オールマイトと怜奈は、いつどんな時でも笑顔を絶やすことなく前を向き人々を照らし出す
彼等から放たれる言葉は、どんなものよりも希望となり人の心を奮い立たせる
「(そうだ………!!決めたじゃないか、怜奈ちゃんを守れるぐらい強くなるって…!!いつまでもやられる側じゃ、駄目だ!!)」
怜奈の声に、緑谷は瞳に光を入れ気合いを入れ直すかのように自身のそばかすを両側から勢いよく刺激する
「意識は明瞭!意思の疎通可能、傷は恐らく切創と裂傷によるもの!傷自体はそこまで深くはないけど頭部だから出血が多い。止血は行うけど自立歩行は危険だから、デクはこの子を運んで救護所へ!」
「はいっ!!」
「ひっうあああん!!おじいちゃんがあっ」
「大丈夫さ必ず救けるよ」
「みんなは先に進んで!負傷者の傷の状態がわからない場合は一人で判断しないこと!!必ず周りと連携して!!」
「「「イエッサー!!!」」」
「私は救護が遅れる一番遠くのエリアに行きます!」
完全に瞳の色を変え、己のすべきことを見つけるために走り出す彼らの後ろ姿を背に、怜奈は恐らくまだ手の届いていない奥のエリアへと翼を広げた
──────────
─────
─────────────
「ゔゔ………痛え……!!」
「誰かっ…誰か、助けてくれえ…!!」
「クッ駄目だ!!人手が足りねえ!!」
「ここは1番遠いエリアだ!!まだ人手を集めるには時間が掛かるぞ!!」
「救護所の確保は?!」
「まだ無理よ!!ここは足場も悪くて瓦礫も多い!!」
「応援を呼んできてくれ!!」
演習場の最奥のエリアでは、怜奈が予想した通り駆けつけた受験者達の数が救助者に比べて圧倒的に足りていなかった
しかも救助者の数もかなりいる
「痛いよぉぉおおおおおっ!!」
悲痛な声が響き渡り、誰ともなく動き出そうとした
瞬間
──────フワッ………!!
「っえ………?」
「これ、って…!」
悲痛な声もざわめきも、全てがクリスタルに飲み込まれると共にその光の強さに混乱の中でも自身の安全を直感で感じ取る
妙な静寂とともに人々を包み込むクリスタルの存在に受験者達が目を見開く中で、その場に鈴の音が雫の波紋のように心地よく広がる
「彼らの望むべき姿を映し出せ
──────"
「何っ?!な…」
『もう大丈夫。安全な場所へ避難しましょう』
「ヒック……パパがあっ!!」
『大丈夫、絶対に助けるよ』
「腕が!!腕があ!!!」
『よく頑張りましたね、大丈夫。すぐに治りますからね』
クリスタルに包まれた人々の目には、背中に羽を纏わせた怜奈が隣に寄り添い、落ち着かせるように声を響かせていた
「こ、これって……」
「このエリアにいる受験者は、皆さんだけですか?」
「「「!!!」」」
あの日画面で見た光景に唖然としていた受験者達が声の方向に顔を向けると、星の杖を手に空から静かに降り立つ天使の姿を網膜に映し出した
「、はっ、はい!!」
「ここにいる方で、トリアージの経験がある人はいらっしゃいますか?」
「あ、俺っできます!!」
「ありがとうございます。では貴方と貴方は彼のサポートを、私は救護所を作成します」
恐らく同校であろう受験者達にもそう指示した後で、怜奈は空へと杖を掲げる
「我の望むままにその身を変えよ!!"
彼女の下に浮かび上がる陣は、その姿に神々しい輝きを与える
胸元に召喚されたカードに杖を振りかざせば、風が歓喜とともに舞い上がり虹と戯れを起こす
パキ、パキッ………
ゴゴゴッ…ゴ……!!
その願いに、地面は揺れ徐々に彼女の望むままに形を変えものの数秒で救護所が姿を現した
次いで"
「凄い………こんな、一瞬で……」
「…あと少しで、30名程の負傷者が運ばれてきます!彼等は現在治療中、幻影を見せて落ち着かせているのでおそらく意思の疎通も可能です。私の個性が発動していても会話は可能ですので、できるだけ情報を集めて下さい!私はもう一度救助に向かいます!!」
「「了解!!」」
怜奈からの言葉に、周りにいる受験者達は年下である彼女に対し嫌悪感は無く、むしろいとも簡単に最悪を変えて見せた彼女に素直に尊敬と感動の念を抱いた
そして怜奈が言った通り、"
ふわりと、"
「───────もう大丈夫」
「「!!!」」
「一緒に救いましょう────みんなを」
「「「「──────ッオオオオ!!」」」」
空高く透き通る声は、全ての者を包み込むような甘さと強さを持っていて
彼等を鼓舞するには、それだけで十分であった
天使とともに人々を救うことができると、誰ともなく心が奮い立つ
「(救助が遅れがちな1番遠いエリアの人手不足の状況を予測し、動く判断力…救いにくい被災地にいる要救助者も、二次被害に繋げることなく難なく回収している)」
「(何より救助のスピードと状況把握がプロヒーロー並…それ以上かもしれない。加えて救助の際に幻影を見せることで大勢の要救助者の精神ケアも同時進行で行っているなんて…!)」
「(己の個性のできる範囲…いや、個性でどこまでできるかを理解している!)」
「(そしてその場にいた受験者達も鼓舞し、チームアップをはかっている…彼女の存在自体が彼らを奮い立たせるのには十分過ぎる。なんて言うカリスマ性だ…)」
「(何より、あの姿はまるで……)」
怜奈の姿に、外から観察を行っていた公安職員達の誰もが一年とは思えない対応力に驚かされつつも高評価を書き込んでいく
《観客席》
「…………………どこが劣ってるって?」
「…………怜奈は別だ」
「何だそれ?!つか、怜奈ちゃん本当に1年生かよ…人生二周目ぐらいじゃねえか…私だってあんなの…いや、まあ無理だけど」
相澤に掴みかかる勢いで捲し立てたジョークは、最早疑問符を浮かべながら怜奈の演習風景に釘付けになってしまっている
「………イレイザー、怜奈ちゃん…実は救助の経験があるんじゃないか?」
「……ない。神野を除いて、実践は一度も……」
「いや!じゃなきゃどうして…」
「─────学んだからだよ。あの人…いや、あの人達、か…」
真っ直ぐに彼女を見つめる相澤は、その先にいる誰かを見ているようで…その単語に一瞬だけ思考を巡らせたが
すぐに理解し瞳を見開かせるその脳裏には、怜奈と同じような事を平然とやってのけた────亡き英雄の姿があった
「フェアルズ……か……?」
「……あの人は、敵と戦うことよりも人を救うことを… 怜奈に繋げていた」
そして彼女も、父のように人々を救うことができるようにと…どのようにして人々を救出できるかを学んでいた
そこで学んだことこそが、怜奈の状況把握、判断力……冷静さと視野の広さを身に付けさせたのだ
────── 怜奈
──────なあに?
──────世界にはな、恐怖に支配されて相手を傷付けてしまう人や…一人で泣いている子がいる
──────……うん
────── 人が人と争う時は、きっと引くにひけなくて困っていると思う。そんな時は止めてあげなさい。そして、一人で寂しくて泣いてしまっている子は一緒にいてあげなさい
──────…うんっ!
──────ははっ!いい子だ!
──────わたしっ、みんなを助けられるようなヒーローになりたい!
──────ああ!なれるさ!怜奈は誰よりも優しくて強い子だからな
「(親子揃って……いや、親子だから、か…)」
心の内の呆れたような、誇らしげな優しい音は、誰に届くでもなく会場の熱気に溶けて消えた
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