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THE試験
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無事全員が一次試験を合格し、喜びを分かち合っていた頃今まで起動されなかった控室のモニターに、先程まで激戦の会場となっていたフィールドが映し出される
「フィールドだ」
「なんだろうね………」
と、次の瞬間、各場所で爆発が起こり、あれだけ大掛かりなセットはものの数秒でその原型を失ってしまった
────────何故!!
おそらく全員の心の内が合わさったところで、怜奈だけは別の意味で目を見開きぎゅっ…と拳を握る
「怜奈…?どうした」
「あ…ううん、大丈夫」
それに気付いた轟が横から彼女の顔を覗き込み尋ねるが、怜奈は何でもない風にいつもの笑みを浮かべる
しかし、その表情に轟は不満げに唇を引き結ぶ
「?焦ちゃ…」
「……"一人にしたくない"」
「…え?」
「あの時、怜奈が言ってくれただろ」
あの時、とは、彼が今を取り戻したきっかけとなった体育祭での、怜奈が轟にぶつけた言葉のことだろう
突然の言葉に怜奈は思わず丸くするが、轟は少し怒ったような顔で無自覚な彼女に向き直る
「俺だって…怜奈が大切だ」
「!」
「なんかあったのなら、話してほしいし…辛いのなら、俺が傍にいたい」
「焦ちゃん…」
「どんな些細なことでもいい…俺は、怜奈の力になりてえんだ」
自身の目を覚ましてくれた彼女は、自分なんかよりもずっと多くの人達を救ってきたのは知っている
けれど、彼女が苦しんで、悲しんでいる時、それを救うのは自分でありたいと…そう、思ってしまう
例え、そのどれに当てはまる時でもない時でも、隣にあるのは自身だ。と誰に対してであったとしても己の中の本能が叱咤してくる
「(俺のこの気持ちは…………)」
「─────ありがとう、焦ちゃん」
ふ、と陽だまりのような笑みを咲かせる怜奈に思わず体の力が抜けていく
「本当はね、あの日のことを思い出して…少しだけ、足が竦んだの」
あの日、という言葉はきっと神野の事件と重なっているのだろう
今現在スクリーンに映し出されている光景は、轟でさえ思わず顔を強ばらせてしまう程あの時と重なって見えたから
「…」
もう一度、寄り添うように怜奈の手を強く握り返すと、彼女は一瞬だけ瞳を見開かせてから柔らかな表情で自身の足元へと視線を落とす
「誰かを救うことができるのなら、自分はどうなってもいいって…ずっと…そう思ってた…パパと同じようになってみせるって」
小さな手から伝わってくる体温に、轟は絶望の光景から意識を逸らす
「けど…それは、パパ達と同じじゃない。とても愚かなものだったって気付いた」
その声が少し震えているのに、思わず怜奈を見遣ればその顔は何かを恥じるような、情けないような…形容しがたい表情だった
「ヒーローは…本当のヒーローは、みんなを救けて、自分も生きているんだ」
「!」
「パパやオールマイトもそう。困っている人を救けて、また次も人々を救う…初めから死ぬつもりで戦うんじゃない。生きて誰かを守る為にヒーローとして在り続けることが、本物のヒーローだって…
とても簡単なことなのに、気付いたのは簡単に命を懸けて、自分が死にかけてからだなんて…ほんとに、馬鹿だったなあ」
ぐっと何かを堪えるように、目を逸らすことなくスクリーンを見上げる怜奈の瞳は
誰もが思わず魅入ってしまう程の強さと気高さを纏っていた
「私も、そうありたい。私の存在で、誰かが安心できるように…初めから自分は死んでもいいなんて思いながら戦うなんて…あんな愚かな行動は絶対にしない」
己への戒めの様な厳しさを纏う声音に、轟の背筋が自然と伸びる
「もう、絶対に…誰も悲しませたりしない」
瞳を閉じ、彼女の瞼に映し出される景色には、自分を思い涙を流す大切な人の姿がまるで昨日のことのように鮮やかに映し出され、胸を軋ませるほどの思いを甦らせる
「私のことを…待ってくれている人がいるって、気付けたから」
その浮世離れした輝きに、光そのものが網膜に直接映り込んでしまったかのように、轟の瞳を刺激する
「(ああ…まだ、だめだ)」
───────仕舞っておこう。この想いは
前を向いて、人々を救おうと前に進む彼女に
俺の想いで、邪魔をしたくなんかない
「…ありがとな、話してくれて」
自分も、彼女に追いつきたいと心から思うから
「ふふ、私が話を聞いてもらったのに…焦ちゃんってば変なの」
だからどうか、その時が来るまでは
どうかこの温もりが
誰かのものにもなりませんように
────────好きだ、怜奈
「俺も、強くなりてえ」
君を守れるように、なってみせるから
───────────────
────────────
───────
フィールドが破壊されたのは、予想通り被災現場を再現したものだった
そして被災現場となれば、次に行われるのは救助演習
その際説明をされたバイスタンダーという言葉に上鳴と峰田は眉を顰めて見せる
「現場に居合わせた人のことだよ。一般市民っていう意味もあるんだけどね」
「流石は怜奈さんですわ!」
「もーっ授業でやったでしょ」
轟と共に皆の元へ戻り怜奈がそんな2人に優しく教えれば、葉隠は怜奈に抱きつきながら呆れたように声を上げる
破壊されたフィールド内には既に要救助者のプロである通称「HUC」が傷病者に扮しスタンバイしており、二次試験では彼等の"救助"を行っていくこととなる
その救助演習が始まる前の休憩時間で、何やらすごい形相で緑谷につかみかかっている上鳴と峰田の姿が目に映った怜奈は慌てて駆け寄る
「あらあら、上鳴くん、峰田くんもどうしたの?頭を掴んだらだめだよ」
「怜奈ちゃんっ!た、助けて!」
「違うんだよお怜奈ちゃん!!俺達はさあっあ、ねえ待って俺も撫でてください」
「騙されるなよ神風!緑谷ァ!!とぼけんじゃねえあの人と!おまえは!何をして」
とにかく必死な形相の2人に怜奈は緑谷の頭を撫でながら更に疑問符を浮かべたが、峰田が指さした先の士傑の女子生徒に視線を移した瞬間じっ、とこちらと視線がかち合う
するとニコッと笑みを浮かべながら緑谷にひらひらと手を振り返すものだから、彼等の中にあった疑心暗鬼はさらに高まる
「見損なったぜナンパテンパヤロー!!!」
「(わあ、綺麗な人だ…みっちゃんは大人の女の人が好きなのかな…?)」
「あ、ああ成程瀬呂くんか!違うよそういうんじゃ、って怜奈ちゃん待って噓うそうそでしょその感じなんか誤解してませんか?!!」
「年上の女の人って、素敵だもんね」
「うわああああやっぱり誤解してる———!!違うんだよ本当に!!!個性の関係で!!ていうかわけわかんなくてめっちゃ怖かったんだよ!!そもそも僕からは何もしてな」
「ほら怜奈、なんか食っとけ」
「んむ、おいしぃ」
「かっちゃああああああああああああああんんんんん!!!!?」
「へっ」
頬を赤らめ誤解をしている怜奈に緑谷が青褪めながらも弁解しようとしたところで、どこからともなく現れた爆豪がその口元にサンドイッチを運んだことにより強制終了となった。
彼の絶望の叫びに爆豪は至極満足そうに口元を歪めた
そして再びエロの申し子二名に責め立てられる緑谷の心情を知るはずもない怜奈の頭を撫で穏やかに見つめながら、爆豪が飲み物を彼女にすすめようとしたところで第三者を告げる音が突き抜ける
「爆豪くんよ」
「あ?」
「う?」
「…食事中に申し訳ない」
声の主である士傑高校のリーダー的な存在であろう全身が毛で覆われた彼は、サンドイッチを頬張る怜奈とその隣で甲斐甲斐しく世話を焼く爆豪の姿に一瞬だけ動きを静止させるもすぐに台詞を繋げる
「ん…ご、ごめんなさい…」
「怜奈これ飲め」
「わあありがとう」
「ごほん、あらためて肉倉、糸目の男が君のとこに来なかった?」
「ああ…ノした。クソ生意気に怜奈のことを語りやがったからな」
「え?」
爆豪の予想通りの返答に彼はやはりか、と呆れたように溜息交じりに吐き出すと、肉倉はどうも自分の価値観を他人に押し付ける部分があるらしく、また何かと有名な爆豪と対面し色々と暴走してしまったのだろうということ
「そして彼は神風さんの熱狂的な信者でね…気を悪くしてしまって申し訳ない」
「ほんとにな」
「神風さんも、不快な思いをさせてしまっていたらすまない」
「え?あ、私は全然…(信者ってなんだろう)」
「…本人には自覚がねえんだよ」
「…君も…いや、君達も大変だな」
どこか納得したような息を吐き出した後、「雄英とはいい関係を築いていきたい」との言葉を残し彼は背を向けて去っていった
「勝己くん、肉倉さん?と対戦したんだね」
「ああ。怜奈、俺がノしたからいいが帰りにもしかしたら会うかもしれねえ。絶対に近付くんじゃねえぞ」
「え?でも、先輩だし…挨拶はしないと失礼だよ」
「ダ·メ·だ」
「ひゃ、わ、わかったからぐしゃぐしゃはやめてぇ…!」
「まあまあバクゴー」
近くにいた切島が爆豪を宥めるように声をかければ、彼は舌打ちをこぼすも今度は整えるように彼女の髪を撫でる
爆豪の手のひらの感触を感じながらふと、怜奈の虹色が正面にむく
「(焦ちゃんと…夜嵐くん……?)」
キラリと、不穏な陰が光る
どうやら轟が夜嵐に話しかけたようだが2人の雰囲気はお世辞にもいいものとは言い難い
視線を向けたところで丁度話が終わったのか、夜嵐は先程感じた違和感を纏わせながら轟に背を向ける
対して轟の顔も、怪訝そうに歪んでいた
「焦ちゃん…?」
「轟くん…?」
その変化に緑谷も気付いた様だが、士傑の女学生に声をかけられた後上鳴達に再び捕まっているのを見て、怜奈が轟へと歩み寄る
「…焦ちゃん」
「!… 怜奈…」
「どうしたの?」
強ばった彼の頬に小さな手を滑らせ、澄んだ瞳を心配そうに歪める怜奈に、思わず縋るように自身の手を重ね合わせた
「怜奈…俺は、俺の、目は………」
「っ…おい半分野郎、」
─────ジリリリリリリリリリリッ
見つめ合う両者に爆豪が声を上げた瞬間に鳴り響く警報音に先程のシナリオか、とその場の雰囲気が色を変えた
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