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THE試験
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《さて…そろそろ2人目の通過者がでてきてもいいんじゃないでしょうか》
欠伸のような音とともに聞こえてくる目良の会場アナウンスに耳を傾けながら、怜奈は混戦となった会場から"
「どこのエリアも、敵味方関係無しの混乱状態です…」
「全員的当てに気を取られて連携が取れなくなってるからな」
「…初めの説明の時からこうなるように運営側は組んでいたんですね」
試験内容の本質を何となくは理解していたが、実際に様子を見てそれが完全に確信に変わり静かにそう呟けば、相澤は無言で怜奈の頭を撫でる
「イレイザー、頭撫でるのってセクハラなんだぞ」
「黙れ」
相澤の行動を指摘しつつも怜奈に伸ばされるジョークの手に、相澤がパンッ!とその手を強めに叩き落としたところで再び目良の声が響く
《あ、ようやく二人目の通過者が…うお!?脱落者120名!!一人で120人脱落させて通過した!!》
その内容に3人で静かに目を見開く
誰かは分からないがその数の多さに驚きつつ、次の試験に向けて頑張らなければと己を鼓舞してから怜奈は腰を上げる
「他に通過者の人が出たら戻らなきゃ行けないので、私も控え室に戻りますね!ありがとうございました」
2人の顔を見てから改めて頭を下げて、そのまま控え室に戻ろうとした怜奈の手首を無骨な手が握る
「消太先生?」
「……"大丈夫"だ」
「!」
「頑張ってこい」
彼女にしか見せることの無い、優しい表情を浮かべる相澤に怜奈はその言葉に瞳を僅かに波打たせてから、それ以上に温かい光を宿し三日月に形を変える
「大丈夫、絶対に大丈夫だよ」
柔らかく離される手に、もう一度笑ってみせた
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怜奈が去って行った後で相澤が再び前を向き腕と足を組み直した所で強い視線を感じツイ、と発信源に目を向ければ、ジョークが有り得ないものを見るかのような目を彼に向けていた
「…………………………………なんだ」
その表情に相澤がたっぷりの間を開けてからめんどくさそうに言えば、彼女は待ってましたと言わんばかりの早さで開けっ放しだった口から表情と同色の声を吐き出した
「お前………ほんとにイレイザーか?」
「…冗談は存在だけにしろ」
「いやいやいやだってさあ!!あのイレイザーがだぞ?!あんな風に女子に触って優しい声で応援するなんて!!見たことないんだけど!!」
「少なくともお前にはしない」
ジョークの知る限りの相澤は自分から人と関わりにいくようなタイプではなく、また基本女子とは必要最低限の会話しかしない
ましてや自らあのように優しく声をかけたり身体に触れたりなどまずありえない事なのだ
「無気力と無愛想を形にしたようなイレイザーがねえ……彼女に対しては随分とご執心じゃないか」
「うるせえ」
「そんなに特別なのか?ん?」
「………………………ああ、」
冗談半分で相澤の腕に肘を当ててくるジョークを躱しながら特別、と言われ瞬時に怜奈の笑顔が浮かんだ相澤は無意識に口元を緩めポツリ、と小さく言葉を落とす
「多分俺は………これから先、あいつ以上に大切な奴はできないんだろうな」
心の底から愛おしい
そんな色を感じ取ったジョークは、風に掻き消されてしまう程の大きさでそっと呟いた
「…………………付け入る隙もないじゃん」
「?なんか言ったか?」
「…べっつにー?ただイレイザーが未成年に手を出して捕まる時のシュミレーションしてただけ!」
「お前ほんとぶっ殺すぞ」
あははははっ!といつもの様に笑う声が少し引き攣っていたような気がしたのはきっと気のせいじゃないが、相澤がその変化に気付くことは無かった
相澤達と別れた怜奈は小走りで控室へと戻ると先程でた通過者はまだ来ていないようで、部屋には誰もいなかった
「急ぎすぎちゃったかな…」
入口から少し離れた場所にある椅子に腰を下ろし、ついでに取ったスポーツドリンクに口をつけると
「──あちらの返却棚へとお戻し下さい」
「はい!!!わかりました!!」
自身が説明された時と同じ言葉と、ハキハキとした大きな声に先程までいた入口へと視線を向ければ今回の試験で要注意人物と相澤に言わせた夜嵐イナサが役員に向かってすごい勢いで頭を下げているのを見つける
「(120人を脱落させちゃったのって、夜嵐くんだったんだ)」
やはり相澤が言うだけありその実力は本物なんだと、怜奈は未だ自分に気付かず返却棚にボールバックを戻している夜嵐の後ろから声をかける
「あの、」
「ハッッ!!!そ、その声は!!!」
怜奈の声にピンッ!と背筋を伸ばした夜嵐はぐるんっ!と片足を軸にして風を巻き起こしながら振り向いて、怜奈を視界に入れ再び顔を真っ赤に染めあげた
「(すごい綺麗なターンだなあ)」
「か、神風 怜奈!!!さん!!!」
「はい、夜嵐くん、お疲れ様です」
「え?!あああああありがとうございます!!!」
「えと、そんなに畏まらなくても…」
相変わらず挙動が不審な夜嵐の様子に思わずくすくすと笑いを零せば、その笑みを見た彼はさらに顔を赤く染めた
口元に手を当てたまま怜奈が良ければお話しませんか?と小首を傾げながら問いかければ、夜嵐は食い気味でコクコクと高速で頷きを返す様子にどうやら口が思うように動かないらしい
カチコチとロボットのような動きで歩みを進める夜嵐の手に自身が持っていたものと同じスポーツドリンクを握らせて、先程座っていた席に隣同士で腰を下ろす
「120人を同時に脱落させちゃうなんて、夜嵐くんは凄いですね」
「そ、そんなことないっス!!秒速で終わらせた神風さんの方がずっと…!!あと俺なんかに敬語とか使わなくて大丈夫っスから!!」
「えと、なら夜嵐くんも敬語はなしで…」
「それはダメっス!神風さんは自分の尊敬する人ですから!!」
「えぇ?!そ、尊敬だなんて…私はそんなにすごい人じゃないよ?」
「いいえ!!俺はどのヒーローよりも神風さんは素晴らしい人だと思うっス!!」
持っている紙コップを握り潰さんばかりに力説する夜嵐に、怜奈は少し迷った後で多分これは退いてはくれないな、と思い苦笑する
「じゃあ、せめて私のことは下のお名前で呼んで欲しいな」
「!!?お、俺が神風さんの下の名前を…!?」
「だ、だめかな…?」
カッ!!と大袈裟な程目を見開く夜嵐にこれもダメだったのかと不安になりながら、怜奈は彼の顔を下から覗き込むようにして聞くと
夜嵐は何故か一瞬真顔で固まった後に顔を横に逸らし片手で口元を覆う
「夜嵐くん…?」
「あ、いえっその……!!よ、喜んで呼ばせていただきます…!!!」
「よかった」
安心したようににこにこと笑みを浮かべる怜奈に、間近で彼女の上目遣いが網膜に直撃した夜嵐は瞳を閉じて何時でもその光景が再生できるようにしっかりと焼き付ける
「(破壊力不回避…)」
「夜嵐くんはどんな個性を持ってるの?」
「えっ、あ、お俺は旋風っス!風ですね!!」
「そうなの?私も"
「その、れ、怜奈さんの個性は魔法と宝石っスよねっ」
「うん!だから私の魔法の"
「!!お、おそろい…………!!」
ジーン…と周りに花を浮かべる勢いで身体を震わせる夜嵐を横目に、怜奈は彼のコスチュームにも目を向ける
「夜嵐くんのコスチューム、すごくかっこいいね」
「!!(か、かっこいいって言われた…!!)怜奈さんのコスは、その、前と違いますね!!」
「そうなの!少し前に改良してもらったんだ」
「めちゃくちゃ似合ってます!あ、もちろん前のコスチュームも!!!」
「ありがとうっ」
初めよりもだいぶ肩の力が抜けたのか、夜嵐は少し形が歪になった水面に視線を落としながらポツポツと声を繋げる
「雄英高校の体育祭で初めて怜奈さんのことを知って、個性も戦闘もズバ抜けてて…凄い胸が熱くなりました」
あの時のことは今でもはっきり思い出せます!と瞳を輝かせる夜嵐に、彼は感受性が人よりも豊かなのだろうと感じた
「それからヒーロー殺しに向けて言ってた言葉とか、すげえかっこよくて…自分じゃあんな風に言えないと思いました」
「そんなことないよ!あの時私もいっぱいいっぱいで…そんな風に言ってもらえるほど立派じゃないの」
「いいえ!!誰がなんと言おうと、あの時の怜奈さんはあの場にいた誰よりも素晴らしいヒーローでした!!」
顔を上げ虹色にハッキリと自分の思いをぶつける夜嵐に、僅かに瞳を見開かせる
「神野の時だって…オールマイトを支え続けて……小さい頃見た、フェアルズとオールマイトの共闘シーンを見てるみたいでした」
「、(パパと、同じ……………)」
「誰よりも優しくて強い怜奈さんは、俺の憧れっス!!!」
握り拳を作り最後を大声で締めくくった彼はいつの間にか身を乗り出し怜奈との距離が近くなっていることに気づき、再び湯気が出るほどにまで顔を赤面させ慌てて身体を仰け反らせる
「す、すみませんっ!!!」
「…ありがとう、夜嵐くん。でもね、私はやっぱりまだまだだよ」
眩しいものから目を逸らすように夜嵐から視線をずらし、前に顔を向ける怜奈に自分の思いが足りなかったのかと彼は否定しようと口を開くが
目線を向けた先に映った彼女の横顔があまりにも美しくて、中途半端に口を開けたまま思わず見惚れてしまう
「神野の時ね、私周りが全然見えてなかった。誰かが哀しんでしまうことにも気付けなくて…たくさん大切な人を泣かせちゃったの」
頬に細やかな影を落とし、儚い輝きを宿す奥では自分を思い、涙を流した大切な人達が焼き付いている
「私は夜嵐くんが思ってくれているほど、すごくはない…」
「っ…怜奈さ、」
「─────だからね」
ふわりと、光が舞い夜嵐の真っ黒な目に輝きを与える
「パパやオールマイトみたいに、みんなに笑顔を与えられるようなヒーローになるのが私の目標なの」
「!!」
「もう誰も不安にさせないくらいに強くなって…夜嵐くんが私の事尊敬してもおかしくないくらいにすごいヒーローになってみせるからね!」
なんて、ちょっと図々しいかな?と薄く染った頬をかいてみせる美しい人に、夜嵐は画面の向こうからではなくこうして彼女を目の前にしてみて自分はなんて愚かだったのだろうと、羞恥に似たものがこみあげてくる
「(この人は…自分の弱さも、全部呑み込めるほどの強さがあるんだ)」
彼女の表面だけしか知らなかったことをあらためて感じた夜嵐は、徐に立ち上がると怜奈の真正面に立ち少し距離を空ける
「?夜嵐くん?」
「申し訳ありませんでしたァ!!!」
ドゴォンッッ!!!
「デジャヴ!!」
床に頭がぶつかってしまうほど腰を曲げてのダイナミックな謝罪に、怜奈は思わずそうツっ込んでしまった後で立ち上がろうとしたが、夜嵐のそのまま聞いてください。という言葉に、声音から冷静さを感じて動きを止める
「俺、怜奈さんのこと何も知らないくせに、知ったような口を聞いてしまって本当にすみません」
「夜嵐く、」
「自分は!自分は未熟で、貴女よりも全然弱い…!怜奈さんを見て、改めて気付きました。なので!俺も怜奈さんのように強くなれるように頑張るっス!!!」
ゆっくりと姿勢を戻し黒曜石のような小さな輝きで自身を見下ろす夜嵐に、怜奈はポカンとしてしまった後にふふ、と笑を零してから同じように立ちあがり彼の額に優しく光を当てる
「もう、おでこ…また血が出ちゃってるよ」
「あっ」
「気をつけないと、ね?」
「すみません…」
「…頑張ろうね」
「っはい!!!」
怜奈との距離が近いことに夜嵐が再び沸騰したのは、その三秒後だった
(!!!ち、近い!!!!)
ゴンッ!!!!
(後頭部!!!)