MHA中心
THE試験
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝、まだ空が薄らと白く濁り出した頃に怜奈は目を覚ました
数秒間天井を見つめてから、ここが家ではなく寮なのだと寝起きでモヤがかかった思考のまま何度か瞬きを繰り返し上体を起こす
「おはよう、主」
「おはようさん」
後ろからかけられた声に怜奈の脳は一気に覚醒しバッと視線を向ければ、窓の前に立ったユエとケルベロスが優しい表情で自身を見つめている
「ユエ、さん……ケロちゃん…っ」
いつの日か、父が亡くなるまでの10年間を共に過してきた彼らは、父が亡くなったその日から姿を消してしまった
父についていた守護者だと聞いていたので、彼が亡くなってしまったからユエ達も共に消えてしまったのかと、大切な人を三人も同時に失ってしまった悲しさはユエ達の姿が見えなかったオールマイト達にも相談できず、一人胸を痛め涙を流した
昨夜彼らを見たのは夢ではなかったのだと理解すると、昨日散々泣いたはずなのに大きな瞳にはなみなみと雫がたまっていく
くしゃりと表情を歪ませ今にも零れ落ちそうな雫を目に映したユエ達は優しい表情から一変、目を見開き慌ててベットの端に駆け寄り膝をつくと、ユエは怜奈の手を両手で握りケルベロスは膝に頭を擦り寄せる
「どうした主?昨日のことを思い出したのか?」
「ごめんな、怖かったよな?」
瞳に収まりきらなかった涙がぽたぽたと真っ白なシーツに染みを作っていく様子に、ユエ達は何とか泣き止まそうと優しい言葉をかけ怜奈の涙を拭う
「ううんっ…違うの、違う…」
怜奈は小さな嗚咽を漏らし、彼らの手の体温によってさらに胸にこみあげてくるものを感じて、あの日から抱いていた例えようのない感情を唇を震わせ伝える
その言葉と姿が6年前、彼女の中にいる時に感じた痛いぐらいの悲しみと絶望を思い出させて、ユエ達も顔を顰めその身を抱きしめる
「すまない…!!すまない主…!」
「一番辛い時に側に居てやれんで、すまんかった…!」
誠が死んだあの日、怜奈の中へと移った時に彼ら真っ先に感じたのは深い悲しみと喪失だった
父と共に友まで消えてしまったのかと、誰にも告げられない絶望の思いを一人で抱え込ませてしまったのが、何よりも辛く悲しかった
触れることも、声をかけることも出来ずにただ見ていることしか出来ないのが、悔しくて、悔しくて
「夢じゃ、ないんだよね…?」
「ああ!夢やない…ワイらはちゃんと生きとる」
「もう主を一人にしない…。どんな時でも必ず、怜奈の側にいると誓う」
確認をするようにユエの服とケルベロスの手を握る怜奈の手を強く握り返し、何度も何度も注ぐように今度は必ず守ると伝えれば、彼女は昔と少しも変わらない無垢で純粋な光を表情として宿した
──────
─────────
改めて再会を果たすと、ユエ達は昨日オールマイト達に説明したようにあの時の現象と今の怜奈の魔力について話す
「そっか…そういう事だったんだね」
「その髪も魔力の影響で長く伸びただけだから、何も気にすることは無い」
「え…………わ!ほんとだ!?」
「今かい!!気付くの遅ォ!!」
「ちょっと頭重いかなって思ったけど…二人に会えたことの方に気を取られちゃって」
指摘されてようやく気付いた怜奈は、真っ直ぐに伸び先の方だけゆるりとしたカーブを描く髪に母の面影を感じ両手でそれらを掬いあげ嬉しそうに頬を緩めた
その心中を察した二人は柔らかく目を細めてその様子を見つめる
「あ…あの、みっちゃん達は?私あれから記憶がなくって…」
「あいつらにはワイから説明しといた。オールマイトと相澤も交えてな」
「主としては何も気にすることは無い」
「…ううん。きっと心配かけちゃった…ちゃんと謝らないと」
泣きながら自身を助け出そうとしてくれたA組を思い出し、ケルベロスに代わりに説明してくれてありがとうと感謝を伝える
「パーパ達にも会いに行かなきゃ」
「しゃあないなあ…ほなら先にオールマイト達んとこ行って、教室で小僧達と話せばええんやないか?そっちのが効率ええやろ」
「うん!じゃあ先に行ってるねってクラスのみんなに連絡入れないと」
「………主」
スマホを開いて時間を確認するとまだ5時半を過ぎた頃だったので連絡はもう少しあとにしようと画面を暗くした時に、耳元で寂しさを含んだ声を感じて紫を見上げた
「どうしたの?」
「…俺は普段自ら外に出ることは無いが、主が危なかったり俺を必要としてくれた時には必ず力になる。それを忘れないでくれ」
自分が止めたとしても彼女は己の信念は曲げずに自ら危険な道を進んで行くだろうと分かっているからこそ、ユエはそれならば全身全霊を持って怜奈の糧になろうと己の信念を伝える
「……ありがとうユエさん。これからも、私と"仲良し"でいてね」
「っああ…もちろんだ」
それら全てを察した上で、怜奈は友として一緒に戦っていこうと言う思いを持って笑いかければ、ユエもその言葉の意を感じ取り静かな微笑みを携えた
「ちょいまち!ワイのことを忘れとるんちゃうやろな?!」
「なんだ、いたのかケルベロス」
「ずっと居ったわボケ!!」
「もちろん、ケロちゃんとも一緒だよ」
「おう!ワイが居ったら百人力や!!」
「…その言葉が嘘にならないことを祈ろう」
「なんやとーーーーー!!!!?」
────────
─────────────
それから暫くし用意をしてスマホのグループLINYで先に学校に行っていますと連絡を入れてから"移"で学校の廊下へと移動する
ケルベロスは話している最中に自分がいては邪魔だろうからと、先生達とA組との話が終わったら仮の姿として外に出ると今は中に居てくれている
まだ早い時間のため生徒の気配はあまりしないが、寮が設備されたことにより先生ならばこの時間にはほとんどが出勤してきているだろう
職員室の前に辿り着き、緊張を鎮めるために何回か深呼吸をしてからドアをノックして声をかけると、いつものように間髪置かずにどうぞと声がかけられる
それに小さく生唾を飲み込むとドアに手をかけゆっくりと開いた瞬間
「失礼し…ひゃっ?」
「「怜奈(ちゃん)!!!」」
入室するより先に飛び付かれ、怜奈の身体は職員室には入室せずに廊下へと押し出された
瞬きを繰り返し自身に抱きついている人物を確認しようとする前に、二人は怜奈の顔を覗き込んでくる
「イレイザーから聞いたぜ?具合とか悪くないのか?」
「駆けつけられなくてごめんね…ほんとに心配したのよ?どこも痛くない?」
そう言いながら頭を撫でるマイクと頬に手を添えるミッドナイトは、既に相澤達から話を聞いているのだろう
至極心配そうな顔で問いかけてくるので、その手を握りながらなんともないよ。と笑いかければホッと息を吐き出す
すると後ろから早く離れろー!やら確認させろー!と別の教員の声が聞こえてきて、マイクとミッドナイトはうるさい!と言いつつも一旦怜奈から離れ手を引いてようやく職員室へと入室する
「きたきた!」
「待ってたよ!」
「うぉぉ…ほんとに髪伸びてる…」
「「可愛い〜〜〜〜〜〜!」」
「今まで伸ばさなかったんですか?」
「あの長さで止まってしまってたんだよ。私も不思議だったんだけど力と関係してたんだね、可愛い!」
「カメラ隊早く!!」
入室した途端にスマホを片手に教員達が周りを囲み、kawaii、kawaiiと連呼しながら写真を撮る姿に怜奈は思わず苦笑を漏らすが、写真を撮っている中に相澤とオールマイトの姿を見つけ駆け寄る
「あの、消太先生、オールマイト先生」
「ん?」
「どうしたんだい?あ、その角度可愛い」
「…………えっと、とりあえず…撮るのやめよう?」
未だ写真を撮り続ける二人に怜奈が訴えれば、彼らは渋々と言った感じでスマホを下ろし聞く体勢に入る
「あの、ね…昨日は…め、むぐっ」
「…それ以上言ったら怒るぞ」
昨日のことについて謝罪しようと口を開くと、何故か伝える前に相澤の大きな掌で口を抑えられてしまい、更には彼の目が不機嫌そうに歪められているのを見て怜奈は何が何だかわからず疑問符を浮かべ首を傾げる
「今、迷惑かけてごめんなさいって言おうとしたんだろう?」
「んぅ…?」
「怜奈、俺は昨日言ったはずだぞ。お前のことで迷惑に思うことはないってな…もう忘れたのか?」
「!」
オールマイトが言った台詞はまさに自分が言おうとしていたことそのままで、目を見開けば相澤はもう片方の手で無造作に髪をかきあげてからじとりと怜奈を見遣る
その言葉に昨日寮に出る前の相澤の台詞を思い出して首を振れば、彼は口元から手をどかしこんな時なんて言うのが正解なんだ?と言った
「えっと…助けに来てくれて、ありがとう!」
「…うん!どういたしまして!!」
「………上出来だ」
真っ直ぐと言われた言葉に、オールマイトは嬉しそうに笑い相澤は軽く笑ってからぽんぽんと頭を撫でる
「でも…俺達にあいつらのことを相談しなかったことと、さっき謝ろうとしたからお仕置きだな」
「えっ…わあ?!」
「3分間抱っこの刑だ」
「よし!じゃあ私は頭を撫でちゃうぞ!!」
「わわわっ?!くすぐったいよお」
「俺は怜奈ちゃんの鞄にお菓子詰めちゃうぜ!!」
ニヒルに口角を上げた相澤に肩に担ぐ勢いで抱き上げられ怜奈は慌てるものの、オールマイトも便乗してくしゃくしゃと頭を撫で回しマイクを筆頭に教員達によって持っていた鞄にお菓子が詰められていく
お仕置き、と言ったのにその内容がただ甘やかしているだけということに全然お仕置きじゃないよー!と怜奈は笑い声を職員室に響かせた
(生徒達が登校してくるまで、あと20分)
1/19ページ