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「とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する」
「っあの!相澤先生!」
部屋の説明が終わった相澤に、緑谷は焦りからか少々前につんのめりながら一歩前に出ると、何度呼んだか分からないほど切望した名を声に出した。
「怜奈、ちゃんは………っ怜奈ちゃんは、どこですか…?!」
痛いくらいの感情が詰まった訴えに、周りの生徒達も封を切ったようにそれぞれの思いが溢れ出した
「ニュース見ました!身体元に戻ったんですよね?!」
「体調も問題ないって…」
「けど連絡つかねえしっ」
「今どこにいるんですか!!」
「もしかしてまだ入院してるんですか…?」
「………落ち着けおまえら」
何人かは感情が爆発し、涙を溢れさせている。
怜奈の目が覚めたあの日、駆け付けた塚内から警察へと知らされ、メディアの前で正式に彼女が目覚めたことが発表された。
いくつかの質問が激しく飛び交ったが、最高責任者は病院から送られた情報を元に端的にそれらを伝え改めて怜奈の目が覚めたことに対する安堵で会見を締めくくった
世間ではその情報を知らされてからいくつもの場所で歓喜の渦が巻き起こり、各メディアも天使が帰ってきましたと速報として情報を発信した。
もちろんそれを見た生徒達も例外ではなく、その日は彼女のことで頭が埋め尽くされていたのは言うまでもない。
そんな生徒達の様子に相澤は一瞬眉を寄せてから声をかけると、その場で静かに呟いた
「…怜奈」
瞬間、ふわりと光が生徒達を優しく照らした
床と少し距離を開けてその場に現れた怜奈は、淡い空色のワンピースの裾をふわふわと揺らしながら悪戯に髪を遊ばせて生徒達から数メートル離れた相澤の隣へとゆっくりと地に足をつけた。
その間にも、彼女の瞳は伏せられたままで、いつもの微笑みはなく唇は引き結ばれていて、何を言うでもなくその場に佇んでいるだけだった。
しかし夢にまで見た怜奈の姿が現れたことに、生徒達は揃って歓喜の表情を浮かべる。
「怜奈…ちゃん…!!」
「怜奈さん!」
「怜奈ちゃん……!!」
「神風!」
「身体は大丈夫なのか?」
各々がそう声をかけると、怜奈は伏せていた視線を上げ光をたっぷりと映しこんだ瞳で生徒達を見渡した後、儚げに口元を緩めた
「久しぶりだね…心配かけちゃったかな?」
甘やかな鈴の音に、それほど時は経っていないはずなのに切ない程懐かしさが込み上げてきて、音は言葉にならずグッと唇を噛み締めることで情けない声を漏らすのを防いだ。
瞳に光の膜を作り僅かに震える姿を目に映したあと、怜奈は緩めていた口元を引き締めるとバッと彼らに向かって頭を下げる。
「…今までずっとみんなに隠し事してて、ごめんなさい」
怜奈からの突然の謝罪に涙を浮かべていた者も目を見開き、数秒たって目の前の光景を理解すると頭を上げてと怒号に近い声を上げる
「もしかして、オールマイトと親子関係だったってこと言わなかったから、気にしてるの?」
「っそんなん怜奈ちゃんなんも悪くないじゃん!」
「オールマイトとのこととか言えるわけねえっつうか……ンなもんトップシークレットだろ?!」
「謝るのウチらだよ!!怜奈ちゃん、全然嘘とかつけないのに、ウチらが混乱しないように黙っててくれたんだよね…?」
「怜奈っ、お前が謝ることほど筋違いなものは無い!謝らければいけないのは俺の方だ…いつも、お前の優しさに甘え……肝心な時に…助けることが、出来なかった…!」
「だからお願い、顔を上げて……!」
芦戸と上鳴が謝った内容に対してそんなん仕方ねーよ!と言えば、周りの人達もそうだそうだと同意を示した。
確かに彼ら自身オールマイトと怜奈は義理の親子関係にあると報道された時驚きはしたが、内容が内容なだけに言うことが出来なかったんだろうと直ぐに察しはついた。
何より嘘などつくことができないのに、彼女はオールマイトに迷惑がかからないように、自分達を混乱させないように一人でずっと頑張ってくれていた事実に胸が苦しくなった。
耳郎、障子の言葉に続けて蛙吹が声を震わせながら言った台詞に怜奈は頭を下げたままフルフルと首を振ってダメなの…と小さく呟いた
「っ怜奈、お前が頭下げる姿なんて……謝罪の言葉なんて…………俺はっ…!」
「そうだよ怜奈ちゃん!僕がっ…もっと動けていれば、君を助けることが…守ることが出来た…あんなふうに壊れてしまうことだって……!!
っだから!君が無事だったって聞いた時から、僕達はずっと………──────君に会いたかったんだっ!!!」
轟が悲痛な面持ちで言った後に、緑谷が胸の中の思いを爆発させると、その言葉を聞いた怜奈はピクリと反応を示し小さく身体を震わせ始めた
「違うの…私、もうひとつあるの…」
ポタリと、宝石が一粒転がり落ちた
ハッと息を呑むと同時に怜奈が顔を上げると、彼女はぼろぼろと床に落ちた宝石と同じものを頬に滴らせていた。
美しすぎる光景に全員が声を出せないでいると怜奈は両手で自身の胸元の服を痛いぐらいに握りしめ、恐怖を堪えるように酷く哀がこもった声音で思いを曝け出す
「わた、私…一度、諦めちゃった…みんなと会うこと、諦めたの…」
「「「「「!!!」」」」」
「あっちの世界で…っ両親に会って…もうみんなとは会えないんだってっ…お、思っちゃ、った……の…」
「怜奈…っ」
嗚咽に言葉をつまらせ、恐怖を収めようと震える身体を押さえつけるその姿に、その場にいた全員がガツンと頭が鈍器で殴られるような衝撃を受けた。
相澤も初めて聞いた彼女の胸の内にギリッと奥歯を鳴らしなぜ気付いてやらなかったと己の不甲斐なさに対して怒りが沸きあがり頭が痛い
対して生徒達は両親に会った、の言葉で彼女が今まで居た場所が容易に想像出来て冷たい汗が背中を駆けていくのに、気付くのが遅れた。
死の淵ギリギリを彷徨い、彼女はこうしてここに居るのだという事実が壊れかけた思考回路の中でようやく脳へと繋がったのは、恐怖と悪寒が全身を包み込んでからだった
何よりいつも笑顔で自分達を導いてくれた怜奈が、こんなにも封を切ったように感情を溢れさせるのを今まで見たことはなくて
自身の情けなさが浮き彫りになっていく感覚に苦しくなって
彼女の涙は見たくなくて
誰ともなく口を開こうとした時、でも…と怜奈は溢れ出る雫はそのままに全員を見つめる。
小さな子どもが泣いたように目元を赤く染めあげる痛々しい表情ではあったが、目を逸らさぬよう真っ直ぐと自分達を見つめる彼女の瞳には、確かに自分達が憧れた強さを宿していた。
「っ私…みんなと、またっここで…頑張りたい………!」
「「「─────っ」」」
「最高の…ヒーローになる為に…みんなと一緒に、頑張りたいよ…!!」
言葉の最後の方からクシャりと顔を歪ませながら、懇願するように必死に想いを伝える彼女に、全員の心臓がぎゅっと掴まれた。
そして溢れ出たのは、彼女に対する愛おしさだった。
怜奈は全ての感情において素直だ。
だからこそ彼女が今何に怯え、何に恐怖しているのかも感じる
自分達と共に居られなくなることを、彼女は心の底から恐れているのだ。
「だからっ…一度は諦めちゃったけど…っもう一度、みんなと一緒にっ頑張る、チャンスをくださいっ…!」
溺れそうなほど涙で顔を濡らす怜奈は、どんなものより美しくて、触ったら消えてしまえしまいそうなほどの儚さは、涙を誘うには十分すぎた。
「ふざけんなっ…………」
涙を溢れさせる彼らの後ろで、ずっと無言だった爆豪が僅かに声を震わせながらポツリと呟いた。
怒りとも悲しみともつかない複雑な声音に、生徒達は自然と彼を見遣るため爆豪と怜奈の間に一本の道が形成された
爆豪はそれを確認するとずんずんと遠慮のない足取りで瞳を見開く怜奈に近付いて、瞳の縁に確かな感情を溢れさせながら彼らしい飾り気のない言葉を届ける
「一人で何でもかんでも守って…俺の事逃がして、平和の象徴支えて…それで"戻ってもいいですか"とか…ふざけんなよっ…!!んな事言う立場かよお前…っ」
「か、つき…くん…」
あの日を思い出してか、手を握りしめ一瞬顔を俯かせると爆豪は顔を上げ瞳の奥に熱を宿らせながら今言えることをぶつけた
「お前がっ…怜奈がいねえと、俺の夢は叶わねえんだよ!!会うの諦めたとか…!とにお前は他人のことばっか心配しやがって!!!っ俺がそんな小さいこと気にする男だって思っとんのかお前は!!?」
その言葉に、怜奈は弾けたように息を吸い込んだ。
あの日、おそらく誰よりも心に衝撃を受けたのは彼だった
護ると誓った怜奈を護れず、逆に護られて、更には砕けてしまった彼女の姿を見てしまった彼はどれ程心に衝撃を受けたのかは計り知れない
そんな爆豪は、初めから彼女を受け入れない選択肢など持ち合わせてはいない。彼の思いは、以前変わってなどはいないから
その思いを今一度、自身がどれ程の存在なのかわかっていない無自覚で愛おしい天使に訴えるのだ
「お前はただ黙って、ここに…俺のそばにいればいいんだよ!!!」
「────」
夏の風が入り込み正面から風と共に爆豪の真っ直ぐな思いが突き刺さった怜奈は、大きな瞳が今にも零れ落ちそうなほど見開かせて、たっぷりと時間をかけてから言葉の意味を理解して止まっていた宝石を再び形成させる。
爆豪の言葉を皮切りに、後ろにいる彼らもまた涙をあふれさせながら思いをぶつける。
「爆豪くんの言う通りだ…!俺達は、君に救ってもらった!」
「こうして寮での生活が許されたのも、全部怜奈ちゃんがウチらのこと助けてくれたからなんだよ!?」
「そうだよ!!私も、怜奈ちゃんが助けてくれたから親が許可だしてくれたの!!」
「怜奈ちゃんがっ…!命懸けで私らの事、守ってくれたから…"ヒーロー"の道、諦めずにすんだんよ…!!」
「神風がいてくれたからっ、俺達こうしてまた集まれたんだ!!」
「み、っ、な……」
家庭訪問の際、初めのうちは両親に渋られたことは事実だった
けれど、生徒達を命懸けで護った怜奈に対して、許可を出さないのはヒーローを目指す子どもの道を護ってくれた彼女に対する冒涜だと、彼らは頷いてくれたのだ
彼女は命だけじゃなく、彼らがこうして集まれる道も守ってくれた
「神風…共に居て欲しいと望んでいるのは、俺達の方だ」
「いつだって怜奈は俺の目標なんだっ…」
「君がいないなんてっ、もう考えられない…!!」
「───────だからっ!!!」
ここにいてよ
彼女がいつも欲しい言葉をくれたように、今度は自分達が彼女に言葉をかける番だと口々に言葉をなげかければ、それらの言葉を受けた怜奈はかくんとその場に膝をつきぺたりと座り込んだ。
そんな彼女の様子に体調が悪くなったのかと、全員が顔を青くするも怜奈は否定するように首を横に振って握ったままだった手を解き目元をこする
「ごめっ…腰が抜けちゃって……」
小さく鳴き声を漏らしながら言われた台詞に反応する間もなく、怜奈は手の隙間から流れ落ちるそれらを見ながら続ける
「ずっと、怖かった…!受け入れてもらえなかったら、どうしようって…ずっと、怖かったのっ………」
素直に感情を打ち明ける怜奈に、隣にいた相澤がそっと近付き座り込む彼女に合わせてしゃがみこんだ。
「怜奈」
「しょ、た…せんせ………」
「弱音を押し殺すのは、怜奈の悪い癖だぞ。……お前は自覚してないだろうが、"神風怜奈"っていう存在はA組や俺にとって……とてつもなく大きいんだ
だから、何も気にせず胸張ってここにいればいい」
それが、俺らの答えだよ。
そう綴った後にふわりと怜奈の頭を撫でれば、彼女は嗚咽を漏らしながら何度も頷きを返した。
そのやり取りにA組の足は勝手に動き出し、彼女の周りを取り囲むようにして膝をつく
一斉に抱きつかれた怜奈は、一瞬目を見開くもののすぐに表情を歪ませて子どものように声を上げて、悲しみとは反対の涙を溢れさせた。
(生きててくれて、ありがとう)
その想いを伝えるため、彼らは生を確認するかのように何度も天使を抱きしめた