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懺悔と再会と
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怜奈が再びゆっくりと瞼をあげると真っ白な天井が視界を埋めつくし、更に窓から射し込む光が眩しいぐらいに自身に降り注ぎ、その強さに淡い光の漂うあの空間ではないのだとどこかぼんやりとした頭で理解した。
あまりの眩しさに若干眉間にシワがよりながらも体を起こそうと腕を立てようとしたが、一瞬ふらつき慌てて箱の縁に腕を置いて体を支える。
あの事件からどれほどの時間が経過しているかはわからないが、恐らく数日間は経っているだろう。
縁にかけた腕に改めて視線をやると身体にちゃんとくっついていて、あれだけ砕け散ってしまっていた下半身の部分もちゃんと元に戻っている。
恐る恐る確認するように肌をつつけばちゃんと柔らかくて、母の言っていたことは本当なんだと安心から息を吐き出した。
────リ─…ン
「あ…」
胸元から小さく鳴った高い音に視線を向けると、あの日手にした硝子細工のような小さな鍵がチェーンに通されキラキラと細やかに輝いていた。
いつの間にチェーンに通されていたのかと疑問に思い首から外してみると、後ろの金具に小さく"jewel witch"と自身のヒーロー名が掘られていた。
掘られた文字の溝にはキラキラと宝石の粉が散りばめられていて、それを見て瞬時に母のものだと理解し息を呑む
「……………ありがとう…パパ、ママ……」
父からの鍵と、母の宝石があしらわれたチェーンを両手で握りしめて小さく呟いた。
あの夢のような空間を思い出し、ツキリとした痛みが胸の奥でじわりと広がるが、両親からの"本当に最後"の贈り物を握る掌から温かな温度が流れそれらと中和していき、全身にふわふわとした感覚を巡らせていく。
握っていた鍵をもう一度光に透かし眺めた後チェーンを首に回し金具で固定する。
改めて胸元に鎮座した鍵に表情を緩めると再び縁に手をかけ無駄にふかふかしている箱から抜け出そうとゆっくりと腰を持ち上げた。
箱を乗せてある台の横に設置されている小さな階段状の台に足をつけ、縁に手を乗せたままゆっくりと段差を下りる。
そして最後、床に静かに足をつけ改めて部屋を見回してみると病室らしい。ふと横に視線を移すと大量の贈り物の品が棚、下の籠に山積みになっているのを見てぎょっ!と目を見開いた。
USJの時よりも数倍はあるであろうそれに心配かけちゃったんだなと人知れず眉を下げる。
それに何だか最近病院にお世話になってばかりだなと苦笑しながら、少しもたついたものの何とか窓際まで足を運び、窓を開け外の風を久方ぶりに身体に浴びる。
からりとした少し生温い風は、現世へと戻ってきたことを改めて実感させた。
部屋には時計が設置されていないので太陽の高さを見て、恐らく午後に差し掛かったばかりだろうか?と推測を立てると、ガラリと扉が開く音がその場に響いた。
─────────
───────────
「オールマイト、今日もお見舞い行くか?」
「ああ、今から行こうと思ってるよ」
「俺も後で行きます」
「俺も行くぜ!」
「わかった、じゃあ先に行ってるね」
「この前怜奈に似合いそうな服買ったのよね」
職員室でそう彼らと会話したのはついさっきの事だ。
相澤達のその言葉に賑やかな方が怜奈も喜ぶだろうと快諾して先に職員室から退出し、学校から出たところでタクシーをひろった。
病院に行く途中で花屋によってもらい、数分ほど待って欲しいと運転手に軽く手を合わせると人当たりの良い笑顔でゆっくり選んでくださいと言われドアを開けられる。
それにお礼を言ってから小さめの店内に足を運び入れると、年配の女性店員がいらっしゃいませと柔らかい声音で会釈した。
「何かお探しですか?」
「ええ…お見舞いの花を」
学校からそのまま来たため変装も何もしておらず一瞬焦ったが、向こうは自分の姿に何を言うでもなく普通に接してくるのに自身も目的を話せば女性は少し考えてから少々お待ちくださいと店の奥へと姿を消した。
大人しくレジの前で待っていると、ひとつのブーケを手に女性が奥から姿をのぞかせた。
「お見舞いのお花ということだったので、ガーベラのブーケをご用意させて頂きました。」
「ガーベラ…?」
「はい。ガーベラの全体の花言葉は"希望"、"常に前進"と言うんです。」
渡されたガーベラのブーケは白と黄色、ピンクで構成され美しくその身を咲かせていた。
「ありがとうございます…おいくらですか?」
「いえ、お代は結構です」
「え?でも…」
ポケットから財布を取り出そうとした所で女性は緩く首を振りお金は要らないというのに、女性と花を交互に見遣り慌てると彼女は小さく口許に笑みを浮かべる
「それは、オールマイトの娘さんにあげるものでしょう?」
「え…」
「こうして彼女に自分の花を贈れるなんて…私はそれだけで十分です。」
笑んだ際に弓形になった瞳の横の皺にじわりと光が滲んだのを見て、彼女から視線を花へと移しありがとうございますと今一度礼を言ってから店を退出する。
そのままタクシーへと戻って怜奈の居る病院へと行ってもらう。
その間にも、美しい花は自分を見上げていた。
予定より少し時間はかかったが無事病院へと到着し、タクシーが去っていくのを少し眺めてからエントランスを抜けて目的の場所へ足を進めれば、彼女の病棟には相変わらず人影はない。
昼間だと言うのに薄暗い廊下に、まるで自分の心の中のようだと比喩をしながら歩く。
一つのドアの前で足を止めるとノックをすることもなくなった扉を無遠慮にガラリと開ける
その際に真っ先に感じたのは残酷な光の反射ではなく、ふわりとした銀の風が頬を掠める感触だった。
その違和感に伏せていた瞳を上げれば、柔らかな虹色が自身の視界を埋めつくした
「……………パーパ……?」
光とともに自身の世界に飛び込んできた音は鈴を纏ったかのような心地よいもので
こちらを見つめる二つの宝石は数多の光を閉じ込めたような輝きを放っていて
まるで何十年も時が経ってしまったかのように色を失っていた視界が、ぶわりとその世界に一斉に色を咲き乱れさせた
「…不思議だね……もう何年も会ってなかったみたいな感じがするの」
「あっ…………っ…………」
「…遅くなってごめんなさい、」
─────ただいま──────
あの日と同じ色を背にひとつの雫を滑らせた世界で最も愛おしい存在に、理解が追いついてから込み上げる感情がついに決壊した。
例え幻だとしても
ただその身を抱きしめたい
するりとブーケが手からこぼれおちたのを皮切りに、持っているものを全て放り投げ一直線に彼女に向かって走る。
それ程距離はないはずなのに、彼女までの間がどうしようもなくもどかしく感じた。
何度も足をもつれさせながらも見失ってなるものかと目を逸らすことなく向かっていけば、彼女が腕を広げてくれたのに、自分の腕を滑り込ませもう離さないと言うぐらいにその身体に力を込めた。
抱き締めた身体は、あの日感じた無機質な冷たさとも、硬さとも全く縁などない、今までと同じ柔らかさと温かさだった。
そしてその身を抱き込んでからようやく全身がその事実をハッキリと理解させた。
本当に、天使が帰ってきてくれたと
「怜奈っ!怜奈っ……!!」
「パーパ…」
「私の、天使………!!本当にっ………!!!」
決壊した感情が涙となりボロボロと自分の頬を汚すのも構わずに、確かめるように両手を彼女の頬に当てて顔を覗き込むと怜奈もキラキラと星のような涙をいくつも零しながらくしゃりと笑っている。
その笑顔に、喉の奥から情けないほど弱々しい声が漏れそうになり、ぎゅっと唇を噛み締めてから何度か言葉に詰まりながらも音を言葉にして必死に感情を伝えようと唇を動かす。
「君がっ、私の前で砕けて、なんてっ情けないのだろうと、………!!あの日から、何度もっ、後悔を繰り返していた……!!」
あの日を幾度となく思い出し、その度に言いようのない恐怖と深い闇に呑み込まれそうになった。
しかし、闇に呑まれそうになった時は記憶の中の天使が自分を救ってくれた。
「怜奈は、私のことをずっと照らし続けてくれたというのに…!私は君をっ、護れなくて……!!!すまない…っ」
彼女が自身の頬に手を添えるのにその手を握りながら、情けなく愚かな自分をどうか許して欲しいと懇願するように言えば、怜奈は瞳を伏せてからゆっくりと首を横に振り、もう片方の手で止まらない涙を拭ってくれた。
「そんなことない…パーパはちゃんと、私との約束守ってくれたもん」
「や、くそく……?」
たっぷりと水分を含んだ虹色に息を呑むと同時に言われた台詞に一瞬思考をめぐらせた時、ふわりとあの日の笑顔で怜奈は柔らかく言葉を紡いだ。
「"勝って、
「!!!」
「約束、守ってくれてありがとう…だから、もう泣かないで。パーパは笑った顔が良く似合う……」
──だって貴方は、私の最高のヒーローだもの
ありったけの光を集めたような美しい顔で、改めて怜奈がオールマイトを抱きしめながら言った台詞に、音は言葉にならず首を振りながら自身も胸元に収まり小さく震える愛しい存在を強く抱き締め返した。
「おかえりっ……怜奈っ…!!」
窓から射し込む光と風は、天使の帰還を祝福するかのように二人の周りを優しく包み込んだ
が、強く抱きしめることでまた怜奈が砕けてしまうのではと勘違いしたオールマイトは、顔を青くしながら慌てて身体を離し、勢いあまり足を滑らせ頭を打ったのは他の人には秘密だ。
ガンッ!!!!!
(ァウチッッッ!!!)
(ぱっ…パーパしっかり!)
─────────
───────
オールマイトが頭を打って暫くしてから、痛む頭を抑えながらナースコールをすると看護師は身体が元通りになってオールマイトに支えられている怜奈の姿を見て、一瞬驚いたように目を見開くものの急いで医師を呼んできます!と声音に喜色を織り交ぜながら駆けて行った。
ものの数分後、先程の看護師と共に来た数人の医師達は初めの看護師と同じように驚愕の表情を浮かべたが、直ぐに検査をしましょうと慌ただしく飛び出していき看護師の誘導とともにオールマイトが怜奈の身体を持ち上げ一番整備の整った診察室に案内される。
そこでいくつかの質問、血液検査、身体の異常が無いかのレントゲン撮影等の診察が手早く行われ、残りは結果を待つだけという状態になった。
彼らは本当によかったと心からの歓喜を少しの嗚咽と共に漏らすと部屋に戻っておやすみ下さいと伝えた
その際車椅子をご用意しますと言われたが、オールマイトは首を振ってそれを断り再び怜奈の身体を優しく持ち上げた。
少し恥ずかしそうにしながらも安心するようにその身を預けている怜奈の様子に、医師達は二人を微笑ましそうに眺めてからお疲れ様でしたと二人を見送った。
怜奈の身体に負担がかからないようにゆっくりとした足取りで部屋に戻ると、今まで彼女が入っていた棺のようなものは撤収され簡易ベットが運び込まれていた。