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懺悔と再会と
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「……………ん」
そよそよと頬を撫でる風に少し身動ぎした怜奈は一言吐息を漏らし、感じた違和感にうっすらと瞼を持ち上げて、何度か瞬きを繰り返した後にゆっくりと瞳を開けた。
「ここ、どこ………?パーパ………?」
柔らかい地面に手をついて上半身を起こし、あたりを見回せば周りは淡い光に包まれ、春夏秋冬それぞれの花が艶やかに咲き乱れて地平線いっぱいまで埋め尽くしている光景が広がっていた
───ああ、死んだのかと、嫌に冷静に、どこか他人事のように感じた。
自分は確かにオールマイト達とオール・フォー・ワンと戦っていた筈で、その戦場はこんなにも美しい場所などではなかった。
浮世離れした目の前の景色は、ここは現世ではないのだと怜奈に囁きかけるように伝えてくる。
しかしそれよりも怜奈の頭に思い浮かんだのは死という恐怖よりも、オールマイト達や人々は無事でいるだろうかということだけだった。
A・B組の生徒達も自分は最終的に攫われてしまってどうなったのかもわからなくて、それを確認する術がない事が1番悔やまれるなぁ…と苦笑しながらふわふわとした思考を巡らせていれば、後ろからかさりと草を踏みしめる音が聞こえた
音が聞こえてきた方向に反射的に向けた顔は、一瞬理解が遅れ、思考が追いついたと同時に驚きの色で染め上げられる。
「怜奈」
「怜奈ちゃん」
「パ、パ………ママ…………?」
目を向けたそこには、自身の亡き父と母が、微笑みながらこちらを見ていたのだから
─────────────
───────
「どうして……」
思わず小さくこぼれたその言葉に、彼らは一度顔を見合わせるとにっこりと笑いながら少し駆け足で怜奈の両隣に腰を下ろした。
亡き両親が自身の両隣にいるというありえない状況に怜奈は未だに思考が追いつかなかったが、唖然と自分たちを見ている娘の様子に彼らはまたひとつ、笑いをこぼした。
「流石、俺たちの娘は驚いた顔も可愛いな!!」
「誠さん、そんなこと言ってる場合ですか?確かに可愛いですけど」
「え、えっ?」
「ほら!混乱しちゃってるじゃない!可愛い!」
「可愛い!」
「えと、あの、」
「天使!!!!」
「kawaii!!!!」
「あぅ……」
怜奈を見てデレデレと声を上げる誠に、レイラは彼を宥めるように声をかけたように思えたが彼女も同じく可愛いと言ってしまっている。
確かに自分の知っている両親と同じようなことをしている二人に、怜奈は本当に本物なのだと理解してさらに混乱しているとそんな娘を見て二人は更に可愛いを連発している。
人間自分より興奮している人を見ると冷静になるというのが法則で、何時しか興奮のボルテージがMAXになってしまった両親に対し怜奈が落ち着きを取り戻すと、誠達も落ち着いたのかひっついたまま話を聞く体勢をとってくれる。
「ごめんね、つい嬉しくなっちゃって」
「びっくりしたよな」
「ううん、もう大丈夫だよ。それで、ここは………?」
「ここはね、"あの世"でも"この世"でもない場所」
「全ての"境界"って言った方が正しいかな」
「境、界………?」
境界、という言葉に怜奈は素直に疑問に思った。
自分は彼らの犠牲となり、死んだのではないのか…?と
何故境界と言われる場所に居るのかと眉を寄せながら考えていると、ふわりと頭を優しく撫でられる。
泣きそうなほど懐かしいその感触に顔をあげれば、レイラが自身の頭を撫で誠と共に本当に優しく怜奈を見つめていた。
心底愛おしい、そんな顔で
誰の手とも違う、本物の母の手に触れた場所がまるで夢のようなふわふわとした心地で甘く全身に広がっていく。
もう二度と感じることは出来ないと思っていた感覚は、頭が痺れてしまいそうなほどひどく優しかった。
「あ……」
「…怜奈のこと、ずっと見てたぞ。沢山魔法が使えるようになったな」
「宝石も…私は全然教えてあげることが出来なかったのにあんなにも使いこなせてるなんて、びっくりしちゃったわ。」
怜奈の手を取ってまるで自分の事のように嬉しそうな顔をする二人に、思わずぐっと唇を噛み締める。そうでもしないと内から込み上げてくる感情が溢れ出てきてしまいそうだったから。
小さい子どもが泣くのを我慢している様な表情に、誠達は眉を下げながら涙ぐむ様な愛おしさに胸の奥に心地よい痛みを走らせた。
「…さっきの戦いの時、トシさんの事サポートしてた姿が俺そっくりだってレイラが言ってたぞ」
「ふふ、だって本当にそうだったんだもの。人を救けようってすぐ身体が動いちゃう所も貴方にそっくり」
「…俺ってあんなハラハラするような事してたの?」
「遺伝子って恐ろしいのね、やだわ」
まるで漫才のようなやり取りに思わず肩を震わせてクスクスと堪えきれない笑い声を漏らすと二人も子どものように声を上げて笑って見せた。
心地よい笑いの伝染が程なくして止むと、目尻に溜まった雫を拭い誠は先程の続きを紡ぐ
「本当なら俺がオール・フォー・ワンの事ボッコボコにしてやりたかったけど…後ろから引っ張ってやることしか出来なくて、ごめんな?」
「!もしかして、あの時………」
マグネの個性をかけられ靄の中に引きずり込まれそうになった時の、後ろに引っ張られたようなあの感覚
その時のことを思い出し目を見開きながら言えば、誠は頷きを返す。
「そんであの後、鍵みたいなの出てきただろう?」
「あ、うん……みんなが危ないって思ったら、中から鍵が………」
「あれは、幼い怜奈がまだ魔法の個性が制御しきれないと思って、中に入れておいたもう"半分"の力なんだ。」
「もう"半分"の、力……?」
「ああ。俺の個性、"魔法"は強大な個性だが、その力は大きければ大きいほど制御するのが難しい。」
「怜奈の中にある強力な力に気付いた誠さんは、個性が発現したその日に力を"半分だけ"あなたの中に眠らせたの」
「半分だけなのは、もう半分が戻ってきた時に拒絶反応が起こらないようにするためだ。そして怜奈が力を制御することができるようになった時、解放するように制限をかけた。…鍵を開く言葉と一緒にな」
だからあの時何も知らないのに言葉が出てきたのは、自分の中にそうあったからなのだと胸元に手を当てる
「本当はちゃんと説明するつもりだったんだが、その前に俺が死んじまったからな」
「そっか…」
「…私達がいなくなった後も、怜奈がいっぱい頑張っていたの見て…すごく嬉しかった」
「え…?」
「無茶ばっかしてるけど、毎日一生懸命強くなろうって前向いてる怜奈の姿がほんと眩しくって…」
「ねえ怜奈!よかったらママにお友達のこと教えて?気になる男の子とかできた?」
「何っ?!!待ってそれは俺が無理!!!!」
しみじみと怜奈の成長を語るように言ったあとレイラは怜奈の手を取りそう言うと、誠は光の速さで彼氏なんてダメだ!!!と慌てる。
会えなかった時を埋めるかのように、会話は止むことなく穏やかな時が過ぎていった。
───────────
───────────────
硝子のような透明な空気と、自分たち以外には誰の気配も感じない深く心地いい静寂
あの世でも、この世でもない"境界"の世界に何故死んだはずの二人がここに居て、自分もここに居るのかと変わらない景色を見てふと疑問に思った。
いや、自分は死んでいるのだから既に死んでいる両親にこうして会えているのは何も不思議なことじゃないかもしれない。
しかし"境界"という言葉がどうにも引っかかる
ぼんやりと一点を見つめていると、誠達はどうしたのかと声をかける。
「あ、えっと……パパとママは、何でここに居るのかなって…」
「…ごめんなさい。あなたと過ごす時が心地よくて、うっかり忘れちゃいそうになってたわ」
「家族揃ってなんて…もうないと思ってたからな」
怜奈の言葉に、形容し難い表情を浮かべながら二人は向き合うようにして自身から離れ体勢を変えた
「俺達がここに来た理由は、怜奈に伝えられなかったことを伝えるため」
「そしてあなたが向こうに戻れるように導くためよ」
「伝える……戻るって…そんな…私、死んだはずじゃ…?」
思いもよらない言葉に、困惑を隠しきれず自身の胸元に手を当ててこれまでのことを思い出す。
確かに自分は、あの戦いの後砕け散った筈だ
では何故今自分は死んだはずの両親に会えているのか
ぐるぐると頭の中を混乱させると、誠達は慌ててその身体を支える
「ごめんね怜奈…あなたに会えたことが嬉しくて……そんなことを思わせてしまって…」
「ごめんな、俺達が先走っていきなり来たから混乱させた…だが、ゆっくりでいい俺達の話を聞いていくれないか?」
ゆっくりとした口調で至極優しく言葉を流し込んでいくのとは反対に表情を強ばらせる二人に、頭の中の霧が晴れていくように感じた
違う…自分はそんな顔を二人にして欲しいんじゃない。
自分は、二人の言葉を信じるんだ
「大丈夫」
「「!!」」
「絶対、大丈夫だよ」
苦しげに眉を顰める両親の手を取り、何を言われても受け止めると瞳で投げかければ彼らはハッと息を呑み小さなそれを優しく握り返してくれる。
そして意を決したように凛とした表情で言葉を紡ぐ
「怜奈、あなたは死んでなんかいないわ。今はただ眠っているだけなの。」
「でも身体が…」
「宝石の個性は、変幻をするとその身体は本物の宝石になるのはわかるわよね?」
「うん」
「だから、一定の衝撃を受けると砕けてしまうこともあるの。今回の場合は蓄積された身体の中のダメージが回復されずに、そのまま内側から爆発しちゃったみたいね」
「私、いつの間に変幻を?」
「恐らく初めての力の解放に元から限界だった身体の代わりに、変幻することで耐えようと無意識のうちに行ったものだったんだろうな」
つまりあの時身体が砕けてしまったことをまとめると、林間合宿から蓄積されていたダメージ+初めての魔法の個性の100%解放によりそれらを耐えようと無意識に身体がダイヤに変幻し、最後積もりに積もったダメージが一気に爆発しダイヤの身体が砕けてしまった、ということだろう。
「今は力の使いすぎで戻っていないだけで、砕けても変幻を解けば破片が集まってちゃんと元に戻るわ」
「…これから先、怜奈の進む道ではあらゆる危機に直面すると思う。けど怜奈ならきっと、その力と一緒に乗り越えていくことが出来る。」
「またその優しさで、沢山の人を救けてあげてね。」
伝えるべきことを全て伝えたのか、二人は立ち上がると怜奈の手を取りふわりと身体を立ち上がらせてくれる。
「……んじゃま、そろそろお別れかな?あいつらも泣き虫だな…」
「あ……」
「………そうね、みんな待ってるわ」
「元々俺達がこうしてここに来ること自体がイレギュラーな事だったしな…」
「ま、待って!私まだ…」
向こうに戻る、つまりそれは二人との別れを意味するもの。
わかっていたはずではあるが、一度感じてしまった二人の体温が無くなることが酷く苦しくて、指先が小さく力を込める。
しかしそれは彼らも同じことで、二度と触れられないと思っていた娘の体温を改めて確認するかのように、どちらともなくその身体を痛いぐらいに抱きしめた。
「俺達も本当は、もう少し一緒にいてやりたいっ…」
「でもあなたには、待っている人がいるわ……」
「!!!」
そう言われ浮かんできたのは会うことを一度諦めてしまった、自分を支え守ってきてくれた人達と共に居てくれた仲間達の姿
「あ………私……わた、し……!」
「一緒にいてあげられなくて、ごめんねっ……!」
「だけど俺は、俺たちは…いつだって怜奈のそばにいる。姿は見えなくても、必ず…!」
「あなたは私達の誇りよ、怜奈…」
「っパパ…ママ……!」
身体を抱き締められたまま触れていた指先から身体が透明になっていき、本当にこれが最後なのだと既に消えている自身の足を見てハッキリと頭が理解すると、とめどなく涙がこぼれ落ちる。
しかし最後になる言葉をかけてくれた二人に、伝えたいことが一つだけあった。
どうしても、この場を借りて伝えたかった。
「私、2人の子どもでよかったっ…!!」
「「!!」」
「愛してる…!ずっと、私っ、2人のこと…!!」
ある時は幼すぎて
ある時は間に合わなくて
ずっと、心の中で迷子になっていた言葉がようやく伝えられた
「必ずっ、ヒーローになるから…!みんなを救けられるようなヒーローにっ」
涙で視界が歪む中、くしゃくしゃな笑顔でいえば、二人も笑っていた。
「次ここに来る時は、俺たちよりもずっと皺くちゃになった時だぞ…!!」
「愛してるわ、私達の天使─」
温かな雫が優しく触れたのを感じた瞬間
その言葉を最後に、視界が光に覆われた。
(さようなら、また逢う日まで)