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懺悔と再会と
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《ヒーローside》
「あれ?ジーニストさん?」
「ほんとだ…お疲れ様です」
「…君たちは………」
人で賑わう病棟から少し離れた別棟
そこに人影はほぼ無く、あったとしても看護師や医師のみのほとんど閉鎖された空間に怜奈の病室があるのだが、そこを知っているのは一部のプロヒーローだけ。
そしてそのうちの一人である現在活動休止中のベストジーニストが歩いていると、後ろから声をかけられた。
そこに居たのは、あの事件で一緒だったMt.レディと別行動班に加わっていたシンリンカムイだった。
ここに居るということは目的は一緒なのだろうと推測し挨拶を交わし足を進めれば予想通り彼らも同じ方向に進んでいく。
「ジーニストさんも来てたんですね」
「…彼女は私の恩人だからな。彼女がいなければ、私は完全にヒーロー生命を絶たれていた。」
「…俺は体育祭で少し話した程度なんですが、あの事件では救出の面で助けられました」
「私も、こんなにすぐ動けるのは…彼女のおかげですから…」
ポツポツとお世辞にも良い雰囲気ではないが言葉を交わし、暫くして着いた病室にジーニストがノックをし声をかけるも返事がないので、少し落胆しながらも入室する。
相も変わらず箱の中におさめられ、窓から射し込む光によって輝く怜奈の姿が訪問者たちを照らした。
残酷な程美しい光景に眩しそうに目を細めながらジーニストは慣れたように近づき追加された籠の中に見舞いの品を置くと、椅子を移動させ彼女の傍らに腰を落ち着かせているのを見て、怜奈に見惚れていた2人も慌ててそれに倣う。
「て、全部見舞いの品ですかこれ?!」
「あぁ。もう棚には置けないので紙袋ごとその籠の中に置いておくといい」
「この花、まだ新しいですよね…?」
「花は持ってきたやつを生ければいい。みんな持ってくるからな、捨てるのもあれだろう」
テキパキと指示を出すジーニストに言われた通りにやっていき、二人はふぅと一息ついて腰を簡易椅子に落ち着かせる。
「…何度か来ているんですね」
手馴れた様子のジーニストにシンリンカムイがそう呟くと彼は短く肯定した。
「ジーニストさん、怪我は大丈夫なんですか?」
「彼女のおかげでほぼ完治しているが、今後の活動内容の見直しと立て直しにより活動を休止しているだけさ。」
「そうなんですか…」
腹にあれだけ大きな穴を開けられたというのに、彼女の治療によって今は内臓が少し損傷したくらいにまで回復されたため、もう何ヶ月か病院に通えばそれらも完全に修復するだろう。
すると徐にジーニストが怜奈の頭に手を置き、さらさらと己の指に髪を絡ませ始めた。
彼の優しい表情と美しい彼女にシンリンカムイとMt.レディは一瞬呆気に取られるが、ジーニストは構わずその体勢のまま話し出す。
「…私が目を覚ました時事件はもう既に片付いていたが…事件をまとめたニュースを見た。そこで彼女が人々を…オールマイトをも救い出した姿を見て素直に…尊敬した。」
病室のベットの隣にあったテレビをつけた時、彼女が首を締め付けられているシーンから、脳無を倒し、人々を救い出し、オールマイトを援護し続けた姿が映し出されているのを見たジーニストは目が覚めたばかりでふわふわとした意識下の中、本当に彼女は天使なのではないかと思った。
しかし
「…………何事も、大きなことを成し遂げるには代償が必要だ…」
その後、彼女が砕け散ったのを見て、息をすることを忘れた。吸って吐く、その単純な動作を忘れてしまうほどジーニストはいつもの冷静さを失い混乱したのだ。
ジーニストは、怜奈のことを体育祭の時から注目していた。
美しい身のこなし
凛とした信念
周りを包み込む優しさ
画面からも伝わるその人物像に思わず食い入るように魅入ってしまっていたジーニストは、全てが素晴らしいとその感動のまま指名を出し是非とも事務所に迎えたかったが、彼女はエンデヴァーのところを選んだと聞き肩を落とした。
そして来た爆豪が彼女の幼馴染だという話を聞いて信じられずに真っ向から嘘だと言ってしまったのは記憶に新しい
気付けば、ジーニストはいつの間にかこんなにも彼女のことを気にかけていた
「…この表情から見て、この子はきっと自分が代償になると…わかっていたんだろう」
自分の中で芽生える想いに目を瞑り、でなければ自分が砕けるのにこんなにも穏やかな表情は出せない。と次いで言ったジーニストに、2人は改めて怜奈を見る。
柔らかく閉じられた瞳
小さく微笑んだ口元
その穏やかな表情に、彼らは瞳を伏せる。
(涙をこぼすには、自分達では彼女を知らなさすぎる)
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《緑谷side》
「…出久、ご飯できたよ?」
「…ごめんお母さん、後で食べるね」
「………そう」
静かに足音が部屋の前から去っていくのを感じ、緑谷はベットの上に寝転がりながら、怜奈と撮った写真を眺める。
あの日自分は、彼女を救い出すことが出来なかった。
爆豪を浮かせ自分たちを見上げ微笑んだ彼女に、ハッキリとした絶望が己を支配したことは今でも思い出す。
爆豪を連れ避難した先のモニターで彼女の活躍を見て、心のどこかで怜奈ちゃんだから大丈夫だと思っている自分がいた。
大きい力には代償がいると、誰よりもわかっていたはずなのに
結果、怜奈は自分を犠牲にして砕け散ってしまった。
あの時、自分だけではなくオールマイトの言葉に感動していた全員の時が止まったのを肌で感じた。
その時に漂っていた雰囲気はきっともう二度と感じることはないほど鮮烈なものだった
その後どうしたとか、家までどうやって帰ったとか、その他諸々記憶にはない。
帰ってからスマホを開けば、怜奈のことを女神だ天使だと崇拝している人達がいたり、中には彼女は犠牲となって死んだと言わんばかりのことが書いてあったりと思わずスマホを握りしめてしまっていた。
違う、そうじゃない
自分の思いはただ一つ
「君がいないなんて………辛いよ……!!」
画面の中で笑顔を浮かべる怜奈に様々な感情が混ざり合い今にも爆発してしまいそうだった。
怜奈が今どこにいるかは、オールマイトや一部のプロヒーローしか知らない。
もし自分たちに教えてそれがマスコミ・被害者達などにバレ押し寄せられたらと言うことを考えれば、彼女の安全面を保証する上では仕方の無いことだろう。
けどそれでも、彼女に会いたくて仕方がない。
数日前に見たオールマイトは、随分と窶れていた様に見えた。
それも、暗に怜奈が未だに目を覚ましていないことを表していて、その現実に母も自分も立ち竦むことしか出来なかった。
何度目かわからない涙がこぼれ落ちて、枕の色が変わっていく。
オールマイトにも泣き虫を治せと言われたばかりだと言うのに…
どうしても、止めることが出来ない。
「ごめん…!ごめん………怜奈ちゃんっ………!!」
もし自分がもっと強かったら
もっと動くことが出来たのなら
彼女は今、笑っていられたのだろうか
(手の傷がジクジクと、己を責めている気がした)