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懺悔と再会と
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《相澤side》
ガラ………
「…怜奈、来たぞ」
その日病室に訪れたのは、家庭訪問がひと段落落ち着いた相澤だった。
家庭訪問からそのまま病室に直行したためスーツ姿のままで、入室した際遠目からでもわかるほど輝くそれらに瞳を伏せる。
一度立ち止まった足を再び推し進めると上着を脱ぎ適当な場所に置いて、簡易椅子を引き寄せ彼女の近くに腰を落ち着かせた。
「…あいつら、お前のこと凄い心配してたよ。今どうなってるのか、とか。無事なんですか、とか…色々聞かれた」
さらさらと怜奈の髪を優しく撫でながら言うのは、A組の彼ら
行く先々で怜奈のことを聞いてきた生徒達は皆直接お礼が言いたいと、彼女に会いたいと訴えかけ女子は全員泣いていた。
聞けばブラドもB組の生徒達に怜奈の居場所を聞かれたらしい。
テレビで見ていた彼らにも、あの日の怜奈の様子はわかっている。
がしかし、彼らにはこの場所を教えられない。会うことは出来ない。
だからこそ、縋るように無事なのかを聞かずにはいられなかったのだろう。
「……俺はその時、なんて答えたんだっけな…………」
自分らしくもなく、そんな言葉を吐く。
怜奈のことに関してなんて答えたかなんて、全く覚えてなんかない。ただひとつ言えるのは、自分の顔も歪んでしまったことぐらい。
「…あの日俺、心臓止まったかと思った……」
あの日の時のことは、今でも鮮明に覚えている。
会見が終わり、あの事件の中継が流れた時首を締め付けられている彼女を見て、何度駆け出そうとしたことか
それでも校長たちに止められ、その様子を見守っていれば、彼女は多くの人々を救い出してオールマイトの100%を引き出したではないか。
彼女の援護する姿は、まさに誠の姿そのもので、思わず涙がこぼれ落ちたことは秘密だ。
事件も落ち着きを見せ、やれやれと席をたとうとしたその時
画面に映し出されたのは、崩れ落ちていく怜奈の姿。
画面の中のオールマイトが叫ぶが、そんなのは耳に入らないほど、自分の中の時は完全に停止した。
誰が
なんで
どうして
ぐるぐると回るワードが、さらに彼を現実の外へと追いやった。
そこから戻ってきた時には、オールマイトは彼女から引き剥がされ、怜奈は体を回収されていた。
ブラドや校長から声をかけられた気もしたが、覚えてはいない。
ただあったのは、彼女が砕け散る瞬間だけだった。
「……………頑張ったな…偉いな、怜奈」
そう言いながら頭を撫でれば、怜奈はいつだって鈴のような声で笑い、嬉しそうに微笑む筈なのに
今は、それもない。
瞬間ポタリと、彼女の頬に雫が垂れた
雫は彼女の柔らかく曲線を描いた頬を滑り落ち、ツーと一つの道を作った。
「………………………は?」
一瞬何が何だかわからなかったが、彼にしては随分時間が経ってから、それが何なのかを理解する。
「な、んで………泣いてんだ、俺は…」
次から次へと溢れ出すそれにバッと目元を押さえぐしぐしと擦るが、それらはなんの抑制にもならず、幾筋も彼の頬に流れ落ちる。
「くっそ……止まれ…止まれ!!!ここで、泣いたらっ………!!」
泣いてしまったら、何故だか彼女が死んだことにってしまいそうで
「止まれ………止まれよっ!!!!」
それでも、彼の素直ではない心の代わりをするかのように、涙が止まることは無かった。
自分があの時彼女を護れていれば、こんなことにはならなかった。
護るという誓をたてたはずなのに、誓いは形だけで彼女は他人を護ってばかりで、ついには自分の嫌な予感が的中し壊れてしまった。
これが人々を救った代償だとするならば、そんな人達よりも彼女がいた方が、ずっと…………
なんて考えてしまう自分に
怜奈が聞いたら、きっと悲しむのだろうとわかってはいるが
そう思わずにはいられなかった
ヒーローとしても、一人の男としても
自分に嫌悪しながら、俺は泣いた
(お前がいてくれたら、俺は何もいらない)
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《マイクside》
「Hey怜奈ちゃん!マイクお兄ちゃんが来たぜ!」
看護師がいたら必ず注意される程バーンッ!と勢いよく病室の扉を開き「って!これはオールマイトの持ちネタか!SORRY!」と一人おでこを叩きながら入ってきたのは、プレゼントマイク。
彼は仕事の合間を見て何度目かわからないお見舞いに来ていた。
一人漫才を終えたマイクはふんふんと鼻歌を歌いながら手慣れた手つきでここに来る道中で買ってきた花を花瓶に生けると簡易椅子に腰を下ろし、座ったまま更に箱に近付くとその縁に肘を置く。
「…こうして見ると、まるで眠れるPrincessだな、怜奈ちゃん」
年相応の落ち着きで眼鏡の奥で優しく微笑むと、さて!と仕切り直すかのように両腕をバッと横に広げる。
「愛しの怜奈ちゃんのために!今日も特別生放送ラジオをお届けするぜ!Yeah!!」
そう言って始まるのは、彼の日常での小話。所々アレンジされているそれはマイクがラジオで話すようにテンポよく時に彩を与える。
マイクは訪れる度にこうして怜奈に声をかけ続けている。
たとえその瞳が開かれなくとも、せめて彼女の夢の中で自分の声が届きますようにと祈りながら、今日も自分の声だけが響く。
「───そんで今日も…」
と、大分話したところでマイクの声が萎み、忙しなく動いていた彼の両腕のうちのひとつが、するりと怜奈の頬を撫でる。
「…怜奈ちゃん……俺、怜奈ちゃんが毎回俺のラジオ聞いてくれてるから、頑張れるんだよ…」
ラジオを放送した次の日は怜奈は必ず感想を言いに来て、いつも素敵なラジオをありがとうと言ってくれる。
たまに自分が疲れている時は、怜奈は毎回それに気付きマイクの頭を優しく撫でて、労わってくれた。
誰かに褒められるなんて、大人になってからめっきり減ってしまったけれど、彼女だけは何時だって欲しい言葉をかけてくれた。
───凄いね、お兄ちゃん。頑張って─
それに感動していつも抱きついては、相澤やミッドナイト、オールマイトなどにシバかれるのだが…それが今ではひどく懐かしく痛いほどにあたたかい
「怜奈ちゃんのために、ラジオも録音してあるんだぜ?……………だから、褒めてよ……いつもみたいに…」
何も出来なかった
助けに行くことも
現場に行くことも
自分はこの子のために、何もしてあげられなかった
「…言ったじゃんか………消太もオールマイトも、他の奴らだって、怜奈ちゃんがいないと全然ショボくなっちまうんだよって……………」
無機質な頬の冷たさに胸が張り裂けそうに痛くて、鼻の奥がツンとして輝く破片がぐにゃりと歪んだ。
「俺なんか、特別そうだ…………」
自分の声を奪ったっていいから
もう一度、君の声が聞きたい
(君がいないと俺は、最高にカッコ悪い)