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懺悔と再会と
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「─あの大事件から数時間が経ちました。現在の状況をまとめていきましょう」
午前 テレビの中の熟年ニュースキャスターは神妙な顔で横にいる解説者に視線と言葉を投げかける。
「平和の象徴であるオールマイトの事実上の引退。これは間違いなく、世間を揺るがす出来事であり───」
そう数分間オールマイトについてのことが話されると、話題は怜奈へと移り変わった。
「敵連合に誘拐されていた神風 怜奈さんですが、彼女は今回の事件で多くの人々を救いだし、かつオールマイトを闘いの最中援護し続けていました。」
「彼女によって救い出された命は数知れず、本来ならば何百人もの死者を出すはずだったであろう現場は、これ以上ないほどの最小限の被害で済みました」
「またすでに死亡していた被害者については傷が治されており、遺族たちは泣いて喜んでいるとの情報が入ってきています。」
「彼女に対する感謝の手紙は、住所が不明のため雄英高校に送られているとのことです。またその数も計り知れないと…」
被害者や遺族たちのVTRが流れ、怜奈に対する感謝の声がスタジオに響き渡る。
そこまで話した後、画面が切り替わりですが…と彼らの顔が苦々しい表情へと切り替わる。
「あの闘いから暫くして、彼女は…」
「大変、痛ましいです……」
次いで流れ出した映像には、オールマイトの前で砕け散った怜奈の姿があった。
多くの人々を救い出した代償ともとれるその姿に、幾人が心を痛め涙を流した。
「現在生死はわからないと言うことですが…」
「そうですね…」
「そしてこの時、オールマイトが彼女に向かって私の娘が、と」
「それなんですが、神風さんはかのNO.3ヒーロー フェアルズさんの娘で、彼は亡くなられる直前に病院に駆け付けていたオールマイトに彼女を託したと関係者から聞いています。」
「フェアルズさんのご両親にではなくですか?」
「彼の両親は既に他界しており、また母親のご家族とも連絡がつかなかったため、彼の遺言ということでオールマイトが里親になることが許可されたんです」
「なるほど……目の前で最愛の娘の砕け落ちた姿を見てのあの行動…なんとも言えませんね…」
今回の事件でのオールマイトのあの取り乱し様にもう隠すことは出来ないと彼に許可を取り、塚内が簡潔に説明をしていた。
オールマイト自身ももとよりその関係を隠すのは怜奈に迷惑がかかると思っての行動であり、自慢の娘であると逆に周囲に自慢したかったぐらいなので問題なかった。
「今回の事件は神野の悪夢と呼ぶ方もいますが、私は………………
────神野の奇跡と呼びましょう」
そう締めくくった解説者に、キャスターは次の話題へと画面を切り替えた。
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その頃、怜奈はある部屋にいた。
以前来た病院の特別室
そこで彼女は、棺桶のような細長い箱の中におさめられている。
全面ガラス張りの箱の四隅は金の細やかな装飾が飾り、中は白い絹の布で覆われ、また白く柔らかいクッションが敷き詰められている。
怜奈の砕け散った身体は捜査員などにより欠片ひとつ残さず回収された。
あれから暫く経ったが、彼女が目覚める様子はなく今の怜奈は人の姿を形どった宝石のようだった。
彼女が砕け散った数分後、何とかオールマイトを落ち着かせ身体を回収し腕利きの医師とリカバリーガールに診てもらったが、何故こうなったのか結果はわからなかった。
「そ、んな…………………」
「すみません…」
「すまないねオールマイト…元からこの子の個性である"宝石"は、今の世界ではこの子だけなんだ…だから、わからないことが多すぎる。」
「今の彼女の身体はまさに宝石そのものなんです。鑑定士にみてもらったので間違いありません」
「心臓も……………動いていない…」
「──────っ!!!」
信じたくないほど辛すぎる現実に、再び彼の膝がガクンっと崩れ落ちた。
「怜奈っ…………!怜奈っ………!!」
ただひたすらに彼女の名を呼び、小さく蹲り涙をこぼすオールマイトに、誰も声をかけることは出来なかった。
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さらに時は経ち、明日から家庭訪問が始まる。
その前にと、オールマイトは怜奈のいる病室へと足を運んだ。
「やぁ怜奈!お花を持ってきたよ。」
病室に入るなりオールマイトはそう明るく話しかけると、まだ飾ってからそれほど時間のたっていないであろう花を自身の持ってきたものと交換し、怜奈の枕元へと飾ると傍らへと腰を下ろした。
腰を下ろした際にギシリと安っぽい音が虚しく響く。
「綺麗だろう?君に似合うと思って買ってきたんだよ」
いつもと同じ声
いつもと同じ調子
違うのは、彼女の声がないことだけ
世界は今日も時を刻む
相も変わらず緩く微笑んだ口元と柔らかく閉じられた瞳に、その表情だけを見れば眠っているだけだろうと思えるが
窓から差し込む光を受け、キラキラと残酷なほど輝く身体"だった"破片がその錯覚を冷たく否定する。
「他にも誰か来たのかい?こんなに沢山お見舞いの品があって……………私の怜奈は愛されてるね!」
何度目かわからない錯覚とのやり取りを終わらせると、オールマイトは纒わり付く痛みを誤魔化すかのように病室に備え付けられているそれほど大きくない棚を見上げた。
その棚には、数えるのも億劫になりそうなほど沢山の見舞いの品が山積みの状態だった。
それだけでなく、棚に収まりきらなかった分は棚の下、病院側が用意した籠の中へと置かれていた。
お菓子、ぬいぐるみ、衣服…それらは恐らく彼女に助けられたプロヒーローや相澤、マイク、ミッドナイトなどの顔馴染みからの贈り物だろう。
生徒達からの物がないとわかるのは、そもそも怜奈がここに居ることを知らされていないからだ。
もしこの居場所が知られてしまったらきっと大量のマスコミや彼女に助けられた被害者達が押し寄せてきてしまう。それに敵連合が襲ってくる可能性もある。
なので生徒達には悪いが、黙秘させてもらっていた。
「それと、お腹……治してくれて、ありがとう。」
あの時怜奈が創り出しオールマイトに吸収された紅い結晶は、彼の体内で胃となり機能していたのだ。
どういった原理かはオールマイト達にはわからないが、医師も驚くぐらい拒絶反応は全く起きておらず、普通の男性と同じぐらいの大きさがあり正常に動いていることに対し驚愕したのは記憶に新しい。
「怜奈が胃を作ってくれたから、いっぱいご飯が食べられるようになったんだよ。身体の調子だって前よりずっといい………何より怜奈の作ったご飯も、今までよりずっと多く食べられるなんて夢みたいだ」
本当に楽しみだ…とオールマイトは白い頬を優しく撫でる。
あの日と同じ無機質な冷たさに、湧き上がってくる何かを堪え手を離す。
「…明日から家庭訪問が始まるんだ。私はもう平和の象徴ではなくなってしまったけど、親御さん達を納得させれるように精一杯頑張ってくるよ」
「だから………」
────絶対大丈夫だよ────
「…怜奈に…応援してほしいよ…」
彼女に声をかけてもらうことで
誰よりも、頑張れるのに
彼のこぼした言葉にも、彼女の体温は冷たいままだった。
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ガチャリ
「………ただいま」
帰宅後、いつもなら返ってくる返事はなく、シンッと静まり返った玄関にオールマイトの声は廊下へと溶けて消えていく。
怜奈はオールマイトが帰ってくると何かをしている時でも作業を中断させ、玄関まで小走りで駆けより笑顔でおかえりっ!と本当に嬉しそうに彼を出迎えてくれていた。
それのない家に帰る度に虚しさがオールマイトの心に募る
足取りは重く、怜奈と歩いていた時には短いと感じていた廊下も恐ろしいほど長く感じた。
ようやく辿り着いた部屋への扉に手をかけ中に入り、明かりのついていない部屋のスイッチを入れこんなにも広かっただろうかと何をするでもなく何歩か足を踏み入れてぼんやりと佇んでいたその時
「パーパ、ご飯できたよ」
愛しい声にバッと視線を台所に向ければ、怜奈がこちらを見て優しく微笑んでいる。
「あ……………あ、……」
「一緒に運んで?」
「怜奈っ………!!!」
柔らかい声を聞いてオールマイトは溢れ出る涙をそのままに駆け寄り、微笑む彼女を思い切り抱きしめようとした時
パキンッ
ガラガラガラガラ
────愛してくれて…ありがとう───
ハッと意識を覚醒させれば、何日も使われていない台所には自分以外誰も居ない。
優しく微笑む怜奈も、彼女が作ってくれた料理も無く、ゾッと恐怖が冷や汗となってオールマイトの顬を濡らした。
幻だったのだと理解すると、オールマイトはヘナヘナと力が抜けその場にへたり込む。
「は、はは………そうだよ、な……」
思わず乾いた笑いがこぼれ落ち片目に手を当てる。
オールマイトは嘘をついた
本当は、食事がいっぱい食べられるかどうかなんて彼にはわからなかった。
あの日から何を口に入れても、砂のような味しかしないのだから、ほとんど何も食べてはいない。
「…………っ…………ぐっ…………!」
これは、あの日守ると誓った彼女を守れなかった罰なのか──────
忍び泣く彼の背は、ただでさえ細い彼の体を、さらに小さくした
(君がいないと私は、何も出来なくなってしまった)
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