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神野の悪夢
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オールマイトが次世代に向けそう告げた後、怜奈は翼を出したままふわりと浮かびながらオールマイトに近づいた。
オールマイトもいち早くそれに気づき後ろを振り返るとすぐ様彼女に向かって駆け寄る。
必然的にカメラはオールマイトを支え続け、更には多くの人々を救い出した怜奈の姿を映し撮ろうと二人をカメラの中へと映し出した。
「パーパ…」
「あぁ…私の天使…!ごめんよ、助けるつもりが私が助けられてしまった…」
そう言ってオールマイトは潤みそうになる瞳を何とか歪ませると共闘できた喜びをどうしたらいいのかわからず手だけが右方左方へと忙しなく飛び回る。
何より話したいことが山程あるんだとオールマイトは表情を輝かせる。
まずは病院に行って、怪我がないかを検査してもらおう。
そしてそこでいつの間にあんな力をつけていたんだとびっくりしたこととありったけの賞賛と感動を語るのもいい。
一緒に家でゆったりと休むことも忘れない。
そう思考を巡らせるオールマイトの頬に、いつもより少しだけ冷たい怜奈の手が触れ離れていく。
「愛してるよ、パーパ。誰よりもずっと…」
「ああ!私もだよ怜奈!君は私の自慢の娘……誰よりも大切な子だ…」
オールマイトがその体温の変化に興奮からか気付くことなくそう断言すれば、肌を刺すほどに眩しい白い空に広がる太陽の光を背に怜奈は嬉しそうに笑い返した。
それに自分の顔が更に緩んでいくのをオールマイトは感じながら彼女に手を伸ばし、怜奈も同じように手を伸ばし双方が触れようとした瞬間
パキン
怜奈の腕に亀裂が入り、そのままガシャンとありえない音を立てながら地に落ちたのに、全員の時が止まった
「…………………………………え」
「………ごめんね…時間…足りなかった」
間近でそれを見たものの理解出来ずにオールマイトが自身の足元に崩れた彼女の腕"だった"ものを見下ろしてから、ゆっくりと目の前の愛娘を見つめれば怜奈は困ったように笑いながらその瞳を見つめ返した
瞬間
ピキッピキピキッピキッ……!!!
怜奈の背中で生えていた翼は消え、腕の部分の亀裂がトリガーとなり全身に亀裂が広がっていき、ものの数秒で彼女の身体はガシャンと文字通り崩れ落ちた。
崩れ落ちた断面はまるで本物のダイヤモンドのように残酷な程明るい朝日を浴び、キラキラとした輝きを放っている。
あっという間の出来事にオールマイトが静かに視線を下に向ければ、怜奈は今までに見たことがないほど大人びた表情で穏やかに顔を緩ませながら、恐ろしいほど整った唇から音を紡いだ
「────愛してくれて…ありがとう─」
そう言って瞳を閉じた彼女の姿が、あまりにも誠の姿と似ていてオールマイトはまるであの日に戻ったかのような感覚に陥った
「…………怜奈?」
がくんとオールマイトの膝が崩れ落ちたが、力の入らない足を引き摺りながら後ろ向きに倒れた彼女に近づこうと一歩一歩手を動かし、己の長い腕で半身を支えながらその全貌を映し出す。
足も手も4本に分かれ原型をとどめているのは最早上半身のみ。
愛娘のバラバラになった姿に、オールマイトは呼吸の仕方を忘れてしまう。それどころか、身体が震えて止まらない。
この震えはいつから起こったのか、それすらも今の彼にはわからなかった。
それでも本能的に体を繋げ合わせようと勝手に手が動き、カチャカチャと散らばった欠片を合わせようとするがもちろんくっつくわけが無い。
オールマイトが焦点の定まらない瞳で怜奈を見つめ、え………?とまだ分かっていないと自分に暗示をかけ逃避を図るがぐるぐると混乱する頭の中ではそれすらも難しかった。
「れ………怜奈?……何のドッキリだい?…ほら、帰ろう?いい子だからこんな冗談はやめて…………」
そっと怜奈の頬に彼女が好きだと言ってくれた自身の手を添えれば、怜奈の小さな頬の半分以上が覆われた。
しかし、触れたいつもの様に白い肌は人間の肌とは思えないほど冷たく硬い
その無機質な感触がオールマイトの全身を粟立たせた
それはまるで、本物の宝石のようで─────
ぷつん
「あ…ああ…ぁ……
ああああああああぁぁぁああ!!!」
英雄の慟哭が大地の怒りの如く街の中に響き渡る。
助けられると、また元のように戻れると、あの日々が帰ってくるのだと、思っていた。
それなのに
「落ち着け俊典!!」
「オールマイト!!!」
「やめろ!!!!離せ!!!離してくれ!!!!私の……!!私の娘が!!!!!何故……!!!!」
取り乱すオールマイトに周りが落ち着かせようとするが、彼はいつもの彼からは想像もつかないほど乱暴な仕草でそれを振り払いただ辺りに行き場のない感情と拒絶を叫び散らす
「怜奈!!返事を…声を聞かせてくれ!!!」
柔らかく閉じられた瞳
静かなほほ笑みを携えた唇
まるで眠っているかのようなのに
砕け散った体が、そんな願望を容易く打ち砕く。
『なぁ、トシさん……本当はすっげぇ嫌だけど………怜奈を、頼むよ………』
『あの子を護るっつぅ……俺の……大事な役割を………あんたに任せても、いいかな…………?』
『………特別だぜ……?俺の天使を預けるんだからな………』
散る最期まで微笑みきった彼の姿が脳裏を駆け巡るのに、オールマイトは怜奈の頭を抱きしめ、脇目も振らずただ叫び続けた。
それは、憤怒が罪悪か…はたまたそれら全てが混じりあったものなのか…
空は変わらず、眩しかった
───その日、天使は多くの人々を救い、その身を犠牲にしたのだった
Fin
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