MHA中心
林間合宿
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「まずは炎を………」
緑谷達と別れ怜奈は肝試しのコースだった場所を上から確認すると、どうやら施設までの最短経路を塞ぐようにして炎とガスが撒かれているらしい。
森での炎は被害拡大にも繋がるため、まずはそちらから対処しようと上空からもわかるほど蒼く燃え盛っている部分に移動し両腕を広げる
「燃ゆる大地を汝の力をもって鎮めよ "
瞬間上空に大量の水が発生し、巨大な水の渦を作り出すとその中から長いロープ状になった水が何本も飛び出してくる。
それらは一斉に炎に向かって伸びていき森の中を駆け巡りながら次々と鎮火していく。
本当ならば上から水をかけた方が一番手っ取り早くはあるが、避難している人もいる中それは得策ではないだろう。
恐らく火の回りはこれ以上広がらないだろうと次いで怜奈はガス周辺へと移動すると痛む頭を誤魔化すように振り切り片手を前に突き出す。
「シンシャ」
パキッパキパキパキパキッ
呟くと同時に突き出した掌から深い赤色の宝石が作り出され、その周りには銀色の液体がふよふよと漂う。
シンシャとは別名"辰砂"とも呼ばれ、水銀の重要な鉱石鉱物である。
有毒であるこの宝石は、戦闘時に変幻すれば今浮いている銀色の液体、毒液を操ることが出来るため攻撃・防御としても扱えて非常に強い戦闘力を発揮できる。
怜奈は漂う銀液をシンシャ本体に吸収させると一瞬で矢の形に形成した。
「悪しき毒を封じよ!"
手元に弓を召喚し特に濃度の濃い場所に向けて放つと、シンシャで作られた矢は放たれたと同時に分散し濃度の濃い場所を中心にガスが撒かれているエリアをぐるりと囲むように木々に突き刺さった
シンシャは高い戦闘力の他にその強い有毒性から他の毒を誘導・吸収させることも出来る。もう既に放たれた矢の周りを毒が旋回し吸収され始めている。
これだけの規模ならばあと数分で完全に毒を払うことが出来るだろう。
クラクラとする頭に今まで気にしないようにしてた身体の痛みが段々とその主張を強くしてくる。
「っ……届くのに救えないのは…もっと嫌だっ……!」
怜奈は躊躇うことなく今自身が持っている全ての力を集中させる。
恐らくこれを発動させればほとんど戦う力は残らないが、それでも山奥の中いつ救助が来るかわからない状況で唯一治療ができる自分が何もしないなんてことはあってはならないと、怜奈は己を叱咤する
「"
瞬間、淡い橙色の膜が箱のような形を形成しコースである森全域と施設にかけてまでをすっぽりと覆った。
"
傷の形状をどの状態にまで治すかを決めることができ、対象者全員がそのレベルに達するまではたとえ術者が気を失ったとしても発動が続く。
できれば全員・全回復が望ましいが、これだけ大規模な範囲と今の怜奈の体力では小さな傷の完治まではできるが、大きなものは軽傷までが限界だった。
しかし何も出来ないよりはマシだと怜奈は対象者を生徒達全員、教師陣、プッシーキャッツと定め能力を発動させた
対象者を限定したので敵は空間の中にいても治療されることは無い
「お願い…………無事でいて…………」
心からの祈りを込めた彼女の背中の羽根がはらりと闇に落ちていった
─────────────
──────────
一方で怜奈と別れ洸汰を背負い施設に向かっていた緑谷だったが、生徒の保護のため同じく森の中を走っていた相澤と遭遇した。
マンダレイに伝えることがあるため相澤に洸汰の保護をお願いしますと緑谷は洸汰の身体を背中から下ろす。
「わかった。」
「…それと、今怜奈ちゃんが炎の鎮火と毒ガスの処理、後怪我人の保護してます」
「!!なんだと?!!」
「しかもその前にも敵と交戦してたから、ただでさえぼろぼろの状態で…!!」
苦々しく言った緑谷の言葉の内容に洸汰を抱き上げながら相澤は目を見開いた
タダでさえ昼間の訓練で通常よりも力を出せないというのに、そんなことをしたらどうなるのかわからないほど怜奈は馬鹿じゃない。
しかし今彼女にそんな選択をさせてしまっているのは、紛れもない事実だ。
「(ほんとにあいつは…他人ばかり…!!)」
今すぐ怜奈の元へと駆け付けてやりたいがぐっと堪え、取り敢えず今は目の前にいる洸汰を保護することを優先して相澤は緑谷にマンダレイについでに伝えろと苦渋の選択を下した
「緑谷!マンダレイにこう伝えろ。A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて─戦闘を許可する!!」
何もわからないままただやられるだけなのが最も生徒達を危険にすると相澤は判断したのだった。
──────────
────────────
「おじさん…怜奈姉ちゃんとあいつ大丈夫かな。」
「うん?」
緑谷と別れ洸汰を抱えながら施設に向かって走る相澤に洸汰は不安そうに問いかけた
それに対しなるべく優しく相澤が話の中身を促すと洸汰はぎゅっと相澤の服を握る
「僕…あいつのこと殴ったんだ…。怜奈姉ちゃんにも初めて会った時に酷いこと言った…なのに…!2人ともあんなボロボロなって助けてくれたんだよ…!絶対大丈夫だからねって、頭…撫でてくれたんだ…!!」
節々に嗚咽を漏らしながら言う洸汰に、その時の状況が安易に想像出来て相澤は捕縛布の下で奥歯を噛み締める
ついにボロボロと涙を零し始めた洸汰は今一番思っていることを口にする。
「僕まだ2人にごめんも…ありがとうも…!言ってないんだよ!2人とも大丈夫かなあ…!!」
最後まで笑って仲間を助け出すために飛び立って行った怜奈と先程別れた緑谷に敵との恐怖を間近に感じてしまったからこそ、その思いは洸汰の中で大きく膨れ上がっていた。
泣きじゃくる洸汰に、相澤は改めてその身体を抱き込むと安心させるようにゆっくりと、しかし力強く言い放った。
「"大丈夫"…緑谷は死ぬつもりなんかないからボロボロなんだろう。それに怜奈は簡単にやられるほど弱くない。でも大人はそれを叱らなきゃいけない──」
今現在どこにいるかはわからないが、窮地を脱しようと懸命に活動をしているであろう怜奈の姿を思い浮かべながら相澤は自分が叱るその代わりというかのように洸汰へ託した。
「だからこの騒動が終わったら言ってあげてくれ。出来ればありがとうの方に力を込めて」
「う"んッ…………あれ?」
「どうした?」
しっかりと頷きを返した洸汰だったが、何拍か間を置いてから小さく疑問を漏らすのでどうしたのかと相澤が尋ねれば洸汰は困惑したように自身の手の甲を見つめた
「えっと、さっき怜奈姉ちゃん達が戦ってた時、僕手に怪我したんだ…けどそれがないから…なんでだろうって」
「手の…傷が…?……!まさかっ」
洸汰の話を聞いて一瞬怪訝そうに眉を顰めるも、傷が無くなっている…つまり"治っている"ということに相澤が目を見開くと同時にマンダレイのテレパスが雄英関係者全員に伝えられ、相澤の責任の元戦闘許可がでる。
《そして、敵の狙いが二つ判明!生徒の"かっちゃん"と"神風さん"!!》
《2人はなるべく戦闘は避けて!単独では動かない事!!わかった?!神風さんもなるべく早く誰かと合流して!!》
爆豪は意外だったが、怜奈が狙われていることを薄々と感じてた相澤は思わず舌打ちをこぼす
《それと、今神風さんが炎の鎮火と毒ガスの処理をしているらしいから渡れそうなら最短ルートで施設に戻って!!負傷者も森から施設までにかけて神風さんが治療している空間が作られてるらしいから状態が安定したら施設に向かって!!》
最後のマンダレイのテレパスに、相澤の喉からヒュッと音が零れた。
洸汰の傷が治ったということを聞いてまさかとは思ったが、森から施設にかけてまでを治療区間にしているという言葉に冷たい汗が相澤の背中にヒヤリと伝う
バッと空を見あげれば、夜空は淡い橙色のフィルターのようなものがかかっている。
それを見た相澤は瞬時に怜奈の"
先ほどよりも明確に相澤の心臓がドクリドクリと嫌な音を響かせる。
炎の鎮火、毒ガスの処理、更には大規模な"
どこまでも他人本意である少女に相澤の足が更に前に進もうと本能で速度を上げていく。
速く、速く、早く
あの子の傍に行かなければ
じゃないと少女は
壊れてしまう
───────────
─────────────
その頃施設内では教師であるブラドと補習組である切島、上鳴、瀬呂、砂藤、芦戸、物間の他にマンダレイの指示によって施設まで避難した飯田達も加わっていた。
「ダチが狙われてんだ!頼みます行かせてください!!」
「ダメだ。」
マンダレイのテレパスによって怜奈と爆豪が狙われていること、怜奈が単身で炎と毒ガスの鎮火を行い更には治療までしているということに対して切島が代表でそう訴えかけるも、この場の護衛を担当するブラドはバッサリとその願いを却下する
相澤が出した戦闘許可の意味は敵と"戦う"為ではなくあくまで"自衛"を意味するものだ。
わざわざ外へ飛び込んで危険な真似をするように出したものでは無いのだとブラドは言う。
尤もな言葉に切島達はぐっと唇を噛み締めた。
しかしUSJ事件でも怜奈は自分達を守るために自分がボロボロになるのも構わず戦い続けた。
今度は自分が彼女を守るのだとこの場の誰もが息巻いていた筈なのに、手助けはおろか傍に行くことも出来ない今の状況に情けなさでおかしくなりそうだった。
「(ちくしょう………俺はまた、何も出来ねえのかよ……!!)」
そうしていると部屋の扉のガラス越しに人影が映り相澤かと思い近づいた切島だったが違和感を感じとったブラドが動いたと同時に青い炎がドアを破壊した。
間一髪のところでブラドが切島達を突き飛ばしたため怪我をすることは無かったが、ブラドはすぐ様自身の個性である"操血"を発動させ攻撃を仕掛けてきた敵─荼毘を壁に押さえつけた。
しかし荼毘は飄々とした態度で後手にまわった時点でお前らは負けていると何処と無く嘲笑を混ぜるようにして言い放つ。
「ヒーロー育成の最高峰雄英と平和の象徴オールマイト。ヒーロー社会に於いて最も信頼の高い2つが集まった」
何度も襲撃を許す管理体制、あげく犯罪集団に生徒を奪われたとなればその揺らぎは社会全体に蔓延させることとなり、またそれこそが敵連合の真の狙いであったのだ。
「てめぇ、そのために爆豪と神風を……。」
「そういうことかよ!!ざけんじゃねぇ!!」
「そんなことより怜奈さ…我が君は何処だ。あの人に会わせろ」
「ふざけんな」
声を荒らげる切島達を鬱陶しげに見遣ると荼毘は怜奈の居場所はどこだと問いかけてくる。
それに対し声をあげようとした切島達だったが、それよりも速く施設に到着した相澤が荼毘に向かって飛び蹴りを喰らわせた。
「無駄だブラド。こいつは煽るだけで情報出さねぇよ」
「抹消ヒーロー相澤先生!!」
容赦無く荼毘をぼこぼこに痛めつける相澤に上鳴が彼の名を叫ぶと、相澤の足元では荼毘"だった"ものがどろりと床を汚した。
「それに見ろ。ニセモノだ。さっきも来た」
「イレイザー!お前何してた!」
「悪い。戦闘許可を出しに行ったつもりが洸汰くん保護してた。預かってくれ。俺は前線に出る。ブラドは引き続きここの護衛を頼む」
そう淡々と伝え早々に戻ろうとする相澤にブラドがその背中に待ったをかけた。
「待てイレイザー、まだどれだけ攻めてくるかもわからん!」
「ブラド1人で大丈夫だ。このニセモノ見ろ。ひとまずこいつ現れたらひたすらボコれ。それに強気な攻めはプロの意識を縛る為と見た。"人員の足りない中で案じられた策"だ。こりゃ」
「ヴィランが少ねぇなら尚更俺も…!」
「えぇ!数に勝るものなしです!」
「だめだ!プロを足止めする以上狙いは生徒。主に怜奈と爆豪ということがわかってるがその2人がそのうちに入ってるだけのかもしれん。情報量じゃ依然圧倒的に負けてんだ」
ならと戦おうとする切島達に相澤は鋭く言い放った。
それでもと食い下がろうとした切島達だったが、相澤の表情を見て目を見開く
「早く……あいつの傍に………!!」
なんと呟いたかまでは小さすぎて聞き取れなかったが、こんなにも焦燥を露わにしている相澤の姿を初めて見た切島達は小さくなっていく彼の背中を見送ることしか出来なかった。