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期末試験
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30分という時間制限の中、1番初めに演習試験をクリアしたのは轟・八百万ペアだった。
最後相澤の行動に小さく笑いを零すと、隣のリカバリーガールもなんだかんだ甘い男だと呟いたのに、彼は実は誰よりも生徒のことを思っているんだと改めて実感した。
以前から彼女の中にあった自身の喪失は今回のことで完全に立ち直ることが出来ただろう。それも含めての相澤のあの行動だと思うが轟の真っ直ぐな言葉が八百万の行動力のトリガーとなったのは間違いない。
それぞれが試験をクリアしていく中、一番の大怪我を負ったのは予想通りというかなんというか、やはり爆豪・緑谷ペアの対オールマイト戦
完全に気絶してしまっている爆豪と腰をやられたことにより歩けなくなった緑谷を運んできたオールマイトは、あんたほんとに加減を知らないね!というリカバリーガールの言葉にペコペコと頭を下げている。
「まあいい、爆豪の方はしばらく目覚めないだろうし、とりあえず二人とも校舎内のベッドで寝かしておきな。」
「すみません………」
「よしよし」
「うぅ、怜奈………」
「(いいなぁ………)」
怒られてあからさまに落ち込んでいるオールマイトの頭を怜奈が苦笑しながらよしよしと撫でると緑谷は羨ましそうにそれを見つめ、リカバリーガールは甘やかしたらダメだよ!と言いながら二人の治癒を終わらせる。
「あの、リカバリーガール僕……ここで見てちゃダメですか?」
が、緑谷は腰を突き出したまま言った台詞はいかにも彼らしくて、全員の戦いを見ておきたいと伝えるとリカバリーガールも仕方ないね、と許可を出した。
そして爆豪のみ出張保健所から校内の保健室に運ばれていくのを見送った後、怜奈は未だ変な体勢の緑谷の名前を呼びながら向き直る。
「そのままじゃ見にくいから、治しちゃおうか」
「えっ?」
クリスタル。と怜奈が呟くとピキンッと緑谷がクリスタルの膜に覆われる。
「う、わ………!」
「こら怜奈、お前さんはこの後試験が……」
「大丈夫だよおばあちゃん。これはそんなに負担かからないから」
目を白黒とさせる緑谷を尻目にリカバリーガールが怜奈を見上げるが、本人は試験が始まる前の準備運動だよと軽く拳を握る。
「す、すごい…!だんだん治ってきてる!」
「そう言えばみっちゃんにはクリスタル使ったこと無かったね」
「ほんと、大したもんさ」
感動したように声をもらす緑谷に笑いかけ数分たったところでクリスタルを解除すると、彼の腰は腰痛レベルにまで治った。
「じゃ、湿布でも貼っておこうかね。服脱ぎな」
「はい。ありがとう怜奈ちゃん!」
「お安い御用だよ!」
そして時は過ぎ、試験時間である30分の終了音が響き渡る。
それぞれが己の個性を駆使し相手とのチームワークを図ることが出来ていたが、中にはクリア出来なかった者もいる。それでも緑谷と爆豪以外に重傷者はなし、出張保健所に来るものはあまりいなかった。
今は全員演習場から移動し同じ控え室で休んでいるらしい。
そして必然的に
「怜奈」
出張保健所の入口から低音が自身を呼ぶのに、モニターから視線を外し後ろへと体を向けると相澤が立っていた。
「…………行くぞ」
彼の瞳を真っ直ぐに見つめながら首を縦に振ると心配そうな雰囲気を纏う緑谷を振り返る。
「怜奈ちゃん…」
「…必ず、そこに行くから」
待ってて。と片手を向けてくる怜奈に、自身の手と合わせて音を鳴らした。
「頑張って…!!」
その言葉に、彼女はふわりと笑みを返した
──────
その頃、生徒達の控え室では演習後の反省という名の報告会が行われていた。
あるものは自信を取り戻した。またあるものは全く歯が立たなかったなどと話していると、蛙吹が思ったことを口にする。
「…それより、怜奈ちゃんの試験はどうなるのかしら…」
「!確かに…」
「特別って言われとったけど…」
蛙吹の言葉に飯田と麗日が反応すると周りもそうだ。と考える
「やはり、雄英初のスカウト入学者となればその内容は変わってくるのでしょうか…」
「てか、相澤先生は俺たちの試験が終わったあとにやってもらうって言ってたよな?」
「それならやっぱり俺たちを相手していた先生達の誰かってことになるけど…」
そう瀬呂がこぼしたところで、上に設置されているモニターがブゥンッと起動して映像を映し出す。
突然のことに生徒達が思わず目を向ければ、そこに映っているのは根津だった。
「校長先生…?」
「なんで…」
「"やぁ諸君!試験お疲れ様、早速だけどこれを見てほしい"」
根津の姿から場面は住宅街の演習場が映し出される。
そしてそこに見えたのは相澤、プレゼントマイク、セメントス、スナイプの姿と、彼らとは別方向にいるものの同じ演習場にいる怜奈の姿だった。
「は…?」
「おいおいおい…」
「まさか、そんな…!」
「"そう!彼女の相手は……4人さ"」
根津の言葉に、生徒達の顔がサァッ…と青褪める。
プロ一人相手を、自分達は二人がかりで何とか相手ができた。それを彼女は1人で、しかも4人を相手にするというのか?
あまりにもバランスのとれていない試験内容に生徒達が声を荒らげる
「そんな…!あんまりだろ!!」
「先生達にはハンデとして重りが付けられているが…それだとしても!」
「プロ4人相手に1人だなんて……」
「無茶苦茶すぎる…!!」
とても生徒にやらせる試験内容では無いと中には怒りを燃やすものまでいたが、根津はそんな彼らが見えているのか冷静に言葉を繋ぐ。
「"確かに傍から見たらなんて酷い試験なんだろうと思われるかもしれない。…けどこれこそが、彼女にとっては最大の課題となる"」
「課題……」
「"そして君達は、彼女の強さを改めて感じるといい。取り敢えず今は、同じ年代として彼女の戦闘を参考にしてみるといいさ!"」
そういった所で、根津の声は途絶え画面には演習場のみが映し出される。
その数秒後…戦いの火蓋は、切って下ろされた。
─────────
「─これで、A組の演習試験組み合わせ10組が決まりました」
「となると残るは……怜奈か」
瞬間、室内に少しの緊張が走る。事前に配られている生徒達に関する資料から怜奈のものを全員が取り出したことを確認すると、相澤は資料内容を改めて読み直す。
「出席番号21番 神風 怜奈。《個性》魔法・宝石。
個性:魔法
自身で思い描いた魔法を自在に作り出し発動させることが可能。発動条件は己の中で魔法をイメージすること、戦闘の中でのアドリブもできる
個性:宝石
鉱物を作り出しそれらを操ることが可能。また自身が宝石へと変幻することによりそれぞれの特殊を活かした戦法も可能
こちらで事前調査をした結果、仲間との協調性・瞬時の判断能力・状況把握能力…どれにおいても他の生徒よりも頭一つ抜けてます。個性に関しても慢心せず強い向上心が見られる…はっきり言って現時点で問題点はありません」
「幼い頃からヒーローと触れ合っていたのもあるが、あの子の場合天賦のものもあるんだろうな…」
そして次に問題になるのが、彼女を担当とする相手の選抜だが…
「…正直言って、1対1では私達には荷が重くないかしら?」
「何より、あの個性で1対1の試験はあまり意味が無いだろうな」
欠点の少ない怜奈の場合はあくまで課題をつけるとしたら、タイプのちがう個性を持つ複数人をどのようにして沢山あるレパートリーから選出して倒せるかどうかだ。
これにより彼女の判断力、観察能力、状況把握能力をさらに伸ばせることが出来る。
「はい、そこで彼女には複数の相手と演習をさせるべきだと考えています。」
相澤の発言に、周りの教員達は少し心配そうな表情を浮かべたが、そうでなければ彼女のためにはならないだろうと同意する。
「ここで組み合わせを決めるにあたって、オールマイトさんは候補から外れてもらいます。」
「え?!何でだい相澤くん!」
「なんでって…あんた最初の戦闘訓練で怜奈に負けてるでしょう。それに、2回目となるとあの子相手にはキツいですよ」
「グッ………Umm……!!」
ガーンっと効果音がつきそうな勢いでオールマイトが立ち上がり抗議するも、相澤の鋭い正論により為す術なく机に突っ伏す。
「オールマイト、負けてたんですね……」
「じゃあ、近距離・遠距離タイプを当てた組み合わせだと…」
「考えたのは、俺、マイク、セメントス、スナイプです。俺が近距離戦、スナイプが中距離、マイクとセメントスが遠距離タイプの敵として…って感じですかね」
「俺はOKだぜ!」
「俺も問題ない」
「大丈夫です」
「また、演習の達成条件は怜奈は拘束のみで。"
「……少し難易度が高すぎる気もするけど…」
「仕方ないですね…」
そして、怜奈の試験内容はほかの生徒達よりも"特別"な形で決定したのだった。
(てか俺怜奈ちゃんと戦闘したことねーわ…)
(まぁ俺も特訓付き合ったりはしてるが、本気はないな)
(…………攻撃できますかね…?)
(…何よりもまず俺たちは怜奈に攻撃されるんだな……)
((((…………………))))
(俺、終わった後嫌われないかな…)
(…縁起でもねぇ事言うなマイク)
(気持ちを引き締めておかないと、精神的ダメージを喰らうな……)
(そ、そうですね)
普段から目に入れても痛くないほど可愛がっている怜奈と戦闘する場面を想像し、4人は改めて気合を入れ直した(ただ単に嫌われないか心配)