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雄英体育祭
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二回戦の第一試合である 緑谷対轟戦が始まる少し前に麗日が目を腫らして席に戻ってきた。
「目を潰されたのか!!! 早くリカバリガールの元へ!!」
飯田が焦ったように目の腫れてしまっている麗日に声をかけると、麗日は何でもない!!とさらに目を擦った。
「お茶子ちゃん」
「怜奈ちゃん…」
「"
麗日を手招きし、隣に座らせ彼女の手をやんわりと退けると、氷でできた金魚がふわりと麗日の目元を覆う。
心地いい冷気が自分の目元を癒してくれるのに麗日は気付き、肩の力が抜けていく。
「お疲れ様、お茶子ちゃん」
かっこよかったよ。
微笑みながら麗日の頭を撫でれば、彼女はその優しさにまた少し瞳を潤ませる。
「うぅ、怜奈ちゃんっ…ありがとう…」
「ううん」
抱きついてくる麗日をそのままに、目元の金魚は冷やし終わりをさとりゆっくりと消えていった。
「それはそうと悔しかったな……」
「今は悔恨よりこの戦いを己の糧とすべきだ」
「タシカニ……」
「そうだね!」
「うん」
飯田が思わずこぼした言葉を間髪おかずに常闇が一刀両断するのに飯田はなす術なく撃沈した。
そのやりとりに思わず笑いをこぼすが最もな主張だと同時に同意をしめす。
大事なのはこれから。過去は過去で置いていけばいいのだ。
「常闇くん、この試合どう見る?」
気を取り直した飯田が常闇に問いかけると常闇は顎に手を当て考える素振りを見せながら口を開く。
「緑谷が轟の懐に飛び込めるかどうかだな」
「うん……、あの氷結、デクくんどうするんだ」
緑谷の個性は近接格闘を得意としているが、轟は中・遠距離戦闘タイプ。加えて近距離にも対応がきくため、対戦相手としては厄介この上ないだろう。
だが緑谷の超パワーを考えると懐には入らせたくないため必然的に遠距離からの攻撃になると考えていい。
それに対して緑谷は氷結を前に対処していかなければ勝利は見えないだろう。
「怜奈ちゃんはどう思う?」
麗日が問いかけこちらを見るのにしたがって、飯田と常闇もクラスの中で1位を争う実力者である怜奈の意見を待つ。
それぞれの視線を受け、怜奈は競技場の上の2人に目線を向けながら述べる。
「…焦ちゃんが、みっちゃんに自分でダメージを与えられるかどうかかな。」
「「「?!」」」
「え…それって………」
《今回の体育祭、両者トップクラスの成績!! まさしく両雄並び立ち、今!! 緑谷VS轟!!》
「少なくとも今の焦ちゃんじゃ、みっちゃんには勝てない…それどころか、彼に傷をつけることもできない。」
プレゼントマイクの紹介を背にはっきりと曇なく述べられた予想外の回答は、彼らの瞳を大きく見開かせた。
その言葉を追求しようとするも戦いの火蓋が切られ、会話は中断される。
開始瞬間に走る轟の氷。
だがそれを予測していた緑谷は中指を弾き迫り来る巨大な氷を粉砕してみせた。
その超パワーの威力に突風が吹き抜け、同じフィールドにいる轟は背面に氷を張り何とか突風を凌ぐ。
その際色の変わった中指を見て怜奈の顔が悲しげに歪む。
元々個性を持っていなかったために個性の扱い方はまだまだムラがあり理解もしきれていない緑谷。
加えて強大すぎるその力は身体への順応も足りていない。
それにより出されるリスクは、大きすぎた。
二度目の氷結で人差し指。
三度目の氷結で薬指。
このままでは、いくつ身体があっても足りない。
「ゲッ、始まってんじゃん!」
控え室から戻った切島が観戦席に駆け戻ってきた。
「お!切島、二回戦進出やったな!」
「そうよ、次おめーとだ爆豪!よろしく!」
「ぶっ殺す」
「ハッハッハ、やってみな」
あしらわれてもめげない切島だったが、少しだけ声のトーンを下げる。
「……とか言っておめーも轟も神風も、強烈な範囲攻撃ポンポン出してくるからなー……」
「しかもタイムラグなしでな」
広範囲に対応可能な個性である彼らに対して悔しげに言う切島とそれに同意する瀬呂。
「ポンポンじゃねぇよ、ナメんな」
「ん?」
「えっと、…例えば、筋肉を酷使すれば筋繊維が切れるし、走り続ければ息切れもするでしょう?"個性"はあくまで身体機能。みんな何らかの"限度"はあるし、リスクもある」
ポツリと爆豪がこぼした言葉に怜奈が具体例を出しながら説明するように付け加えると、周りの人達は納得したようにうなづいた。
「考えりゃそりゃそっか……じゃあ緑谷は瞬殺マンの轟に……」
「──耐久戦か、すぐ終わらせてやるよ」
同じ結論に辿り着いた轟が巨大な氷の壁を緑谷に向かわせる。
ついに右手残り一本、小指が粉砕した。
それを視界に入れるとすぐさま氷の柱を伸ばしてそれを駆けのぼる轟。
今度は左手で対応する緑谷。
氷が粉砕すると共に轟が飛びあがる。
「……みっちゃん…」
激しい攻防戦の中、力なく垂れ下がった緑谷の腕を視界に映し彼の名をこぼす。
「緑谷、ぼろぼろじゃねぇか……」
「無理もねぇよあれじゃあ…」
両腕をボロボロにしている緑谷の姿に、会場の至るところでエンデヴァーの息子に対する高評価が騒がれる。
「でも…………」
「怜奈ちゃん…?」
「─────焦ちゃんがつけた傷じゃない。」
「「「「!!!!!」」」」
ただ真っ直ぐに2人だけを見つめる怜奈に、全員がハッと目を見開き同じように彼らを見つめる。
もう緑谷には反撃する"手"が残っていない…はずだった。
氷は、壊れたはずの指で再び砕かれた。
「震えてるよ、轟くん」
僅かに聞こえてくる緑谷の声は、何かを堪えるような。
「"個性"だって身体機能の一つだ、君自身冷気に耐えられる限度があるんだろう……!? で、それって左側の熱を使えば解決できるもんなんじゃないのか……?」
怒りのような
「みんな……本気でやってる、勝って……目標に近付く為に……っ、一番になる為に! 半分の力で勝つ!? まだ僕は君に傷一つつけられちゃいないぞ。……──全力でかかって来い!!」
様々な感情を織り交ぜながら、曲げた指を力強く握りこみ歪な音を立てる。
緑谷の言葉が轟を揺さぶっていく。
避けたはずの近距離戦を轟はあえて試みるが、自らの個性により轟の動きは確実に鈍くなっている。
それに緑谷が素早く懐に入り込み拳を叩き込み、さらにぼろぼろになった腕を使い攻撃へと繋げる。
「何でそこまで……」
無茶な戦いを仕掛けてくる緑谷に、苦しげに轟の声が疑問を纏う
なぜそうまでするのかと、彼には理解出来なかった。
「期待に応えたいんだ……!
彼女の隣に立てるような…
笑って、応えられるような……カッコイイ人になりたいんだ!!」
幼い日の誓いを思い出しながら、緑谷は使えなくなった腕の代わりに体当たりで轟を突き飛ばす。
「だから全力で!やってんだ、みんな!君の境遇も君の決心も僕なんかに計り知れるもんじゃない……でも……」
よろけながらも倒れず、目の前の轟をまっすぐに見据える。
「全力も出さないで一番になって完全否定なんてフザけるなって今は思ってる!」
体に霜を張り付けながら何度も氷結を繰り出す轟。
引き結んだ唇の震えは…寒さからではない。
「そんなこと君はっ、怜奈ちゃんの前でも言えるのか!!?」
本当は、わかってる
─────焦ちゃん─────
それでもどうしたらいいのか、わからなくて。
──────大丈夫─────
自分だけ楽になるのが、怖かった。
1度は凍らされ、それでも彼女によってゆっくりと溶けだした轟の心を、止めとばかりに全力で打ち砕く、緑谷の叫び。
──あなたは、この世に一つだけの存在なんだよ──
「君の! 力じゃないか!」
桜の下で微笑みながら言う怜奈の姿と幼き日の母の姿が脳裏を駆け巡る。
自分だけ許されるのが怖くて、柔らかく優しい記憶に蓋をした。
いつでも優しく寄り添ってくれる彼女の言葉に、フィルターをかけていた。
轟の目が、目をそらし、忘れていたつもりになっていた情熱の色を宿した
その色を表すかのように、彼の半身に纏わるは──封じていた赤。
「(っ………!)」
轟の姿に感極まったエンデヴァーの激励が響き渡る中、今までの戦いを思い出しこの後を想定した怜奈がたんっと飛び上がり手摺に足をかける。
二人が同時に構える。
轟の氷結、緑谷の超パワーと共にセメントスのセメントとミッドナイトの眠り香が競技台を縦横に走るのを見ながら叫ぶ。
「 民を守れ!!"
「っ怜奈!!」
爆豪が自身の名前を呼ぶのを聞いたが、そのまま両手を前に突き出せば、盾がぐるりと観客達を覆う。
下にいるセメントスとミッドナイトの周りにも盾が張られているのを確認すると同時に冷気と熱気により膨張した空気が壁となったセメントを噛み砕きながら盾の中で螺旋状に暴れ回る。
「うわっ!…ってあれ?」
「何ともないぞ……?」
が、爆風と飛び散った破片が見えない壁に弾かれるのに観客達は首をかしげた。
《大爆発ーーーーー!!!!何も見えねぇ!!!
だが破片がこっちまで届いてねぇな…???》
《さっき怜奈が何かをやっているのが見えた。おそらくあいつの個性で守られたんだろう。》
「くっ…!」
「怜奈!!」
"
「「怜奈ちゃん!」」
「神風!」
「大丈夫か神風くん?!」
「無茶すんじゃねぇ!」
「ごめんね勝己くんっ……2人は……………!」
爆発が落ち着き蒸気か土埃かの白いモヤが競技台を覆うのに盾を解く。
次第にモヤが晴れ、競技台を見渡せば入場ゲートに近い壁に打ち付けられ動かない緑谷の身体が見えた。
「──緑谷くん……場外。轟くん……三回戦進出!!」
担架で運ばれる緑谷。
それを見て怜奈が爆豪に一言いってから駆け出していくのに飯田たちも立ち上がりあとに続く。
リカバリーガールの出張保健所の扉を開け飛び込めば、両腕を布でぐるぐるに巻かれ、足まで固定されている緑谷の満身創痍な姿があった。
手術するというリカバリーガールにそれなら自分がと前に出るが、その手は彼女の手に掬われ届かなかった。
「おばあちゃん………」
「お前さんは次の試合があるんだ。今は我慢おし」
「でも………」
「ありがとう怜奈ちゃん、僕は大丈夫だから…」
痛みに顔を歪めながら言う緑谷にこれ以上粘るわけにもいかず仕方なく引き下がれば、リカバリーガールは怜奈にハリボーを数個握らせると、みんなと共に外へと彼女を出した。
「デクくん、大丈夫かな…」
「ケロ…心配だわ…。それと怜奈ちゃん、さっきはありがとう」
「流石だな、神風くん!あれだけの人達を衝撃から守るとは…」
「やっぱすごいな怜奈ちゃん!」
「ううん。みんなに怪我がなくてよかったよ…」
緑谷の容態を心配しながらも、観客席へと戻るという麗日達に自分は試合があるので控え室へ行くと伝えれば、
腕がとれそうなほど頑張ってと熱い激励を送られるのに手を振り反対の道へと進んだ。