短編



「花火行きたくね?」


まつの思いつきで、バイト先の仲良しメンバーで日曜日の花火大会に行くことになった。

ひかるとまつと私の三人で話してると、前の時間のシフトに入っていた麗奈が更衣室から出てきた。


「麗奈も行くっしょ?」


四人で行くことが決まった。


集合時間と場所を決めている時の私に向けられた舌をぺろっと出した分かりやすすぎるウインクが鬱陶しかったけど、まつには本当に感謝している。


「人すごいなぁ」


集合場所に早めに着いた私は思わず独り言を漏らす。

祭囃子に提灯、もちろん花火も楽しみだけど皆んなその前の出店を一番楽しみにしてるんだろうな。

浴衣で来てる人も沢山いる。
ちょっとだけ迷ったんだよな。
浴衣で行くか。
普通にTシャツで来ちゃったけど。


もしも麗奈が浴衣で来たら…


ふとそんな事を考えてしまう自分がいた。

なんて褒めればいいんだろう?
そんなもしもにニヤける口元を手で隠しながら妄想していると


「天ちゃーん」


麗奈がやって来た。


「おー!麗奈〜」

「二人はまだ着いてない?」

「もう着くって」

「そっか。花火楽しみだね!」

「うん!」



真っ白なワンピース姿の麗奈にちょっとだけほっとした。



「お二人さんお待たせ〜!」
「ごめん遅くなったー」

少し遅れてまつとひかるがやってきた。

「は!?浴衣じゃん!」

「夏祭りといえば浴衣でしょ〜!」
「天ちゃんも麗奈ちゃんも浴衣でくると思ったんやけど」
「え〜!ふたりとも浴衣でくるなら誘ってよ!れなも浴衣で来ればよかったかも」


こいつら、二人で示し合わせたな?


「天ちゃん、うちらの浴衣姿どう?」

「めっちゃくちゃ似合ってる!超可愛い」

可愛すぎたのでベタ褒めしたら、二人はハイタッチをして喜んでいた。


全員揃ったので皆んなで出店を楽しんだ。

わたあめを食べたり、ヨーヨー釣りで勝負したり。
射的、麗奈と同じチームになれなかったことがちょっと残念だった。
かっこいいとこ見せたかったんだけど。


「天ちゃん天ちゃん」


肩をぽんぽんと叩かれる。


「なあに麗奈?」

「あんず飴あるよ!」

「食べたいの?」

「うん!」

「いいよ!買おっか」


あんず飴にキラキラと目を輝かせてはしゃぐ姿に、胸が苦しくなる。

ちょっとだけ
ほんのちょっとだけ
麗奈を独り占めしたくなった


「ねぇ、麗奈」


麗奈を手招きし、耳元で囁いた。


「ちょっとだけ駆け落ちしない?」


キザすぎたかも
キモかったかな
少し自信を失いながら麗奈の表情を見ると、心配のしすぎだったみたい


「待ってた」


麗奈は笑顔で頷いてくれた。



神社の階段を登った先に花火を見れる穴場スポットがある。
まつとひかるが遊んでいる時に見つけたらしい。

二人に飲み物を買ってくると伝え、麗奈と歩き出したすぐ後に

『ひかるが人の波に流された🌊🏄見つけてから行くから先に神社行ってて!』

とまつからLINEが入っていた。



「ここすごいね〜!街が全部見える!花火も見やすそう〜」

「ね!人もいないしいい場所見つけたよね」



麗奈と横に並び、2人の到着を待つ。



「ふふ、天ちゃん、飲み物買ってくるって」
「うん?」
「駆け落ちしようって誘ったのにちゃんと報告するの面白かった」
「えぇ?そんなに面白かった?急にいなくなったら心配しちゃうじゃない」
「ふふふ、そういう真面目なところ好きだよ」
「もー、からかわないでくださーい」


この好きは、ちがうやつ
あんまりそういうこと言わないでほしい
調子に乗っちゃうから


「あ、始まった」


細くて弱々しい光から、夜空に大きな大きな花火が打ち上がった。


「…綺麗」


隣から耳に入る思わず漏れた感動の声に、ちらりと横顔を盗み見る。

夜空と花火に照らし出されたあんまりにも綺麗な横顔に、思わず見惚れてしまって。

夢の中にいるみたいだった。


「……ちゃん

てーんちゃん」

「あ、ごめん」

「今のすごかったよ?見てなかったでしょー」

「見てなかった…」


大きな花火を見逃してしまった悔しさは全くない。
麗奈と2人きりの夢みたいなこの時間。
悔いを残したくなかった。


「麗奈」

「なあに」

「来年は二人で来よう」





ーーーー


「天ちゃん見て!綺麗〜」

「ほんとだ!おっきいねぇ!去年のリベンジできた」

「そうだそうだ。天ちゃん見てなかったんだ」



高台にある神社。
去年と同じ場所で並んで空を見上げる。



「…麗奈、今年は浴衣なんだね」

「ふふ、可愛いでしょ?」

「うん…すごく可愛い」

「去年、まつりちゃんとひかるちゃん浴衣で来て天ちゃんにすごく褒められてたじゃない?」

「そんな褒めてたっけ」

「褒めてたよ。ベタ褒め。
れなも天ちゃんに褒められたかったなーって。だかられなもリベンジ」

「ふーん、そっ…か」

「れな的には結構恥ずかしい告白だったんだけどな〜」


なんだ。
この私も恥ずかしい告白をする流れは。

麗奈は期待した目で私の顔を覗き込む。


「嬉しいよ。浴衣も、麗奈も独り占めしたかったから…」


麗奈は満足そうに微笑み、花火の上がる夜空を見上げたまま、私の手をぎゅっと握りしめた。
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