約束



「なあなあ、これなにしとるん?」

よく覚えてる。
10年前に妹から投げかけられた素朴な疑問。

何とも答えにくい質問だったから

「好きな人同士がすることだよ」

なんて目を合わせずに曖昧に答えた。

「やったらまりのもおねえちゃんとできるな!」

ほぼ突進に近い衝撃で抱きつかれ、頭を壁にごちんとぶつけたっけ。

その言葉の後のキラキラした目も、嬉しそうな表情も、私の心臓の高鳴りも

昨日のことみたいに覚えてるよ。


ーーー


「…ふ」

10年前に始まった寝る前の習慣。

リビングで2人でテレビを観ていた時だった。
家族あるあるだと思う。
予想外のキスシーン。
気まずくなるやつ。

妹はやっぱり興味津々。

あの時はお姉ちゃん困っちゃったよ。


「ん」


どうしてもと聞かなかったから。
っていうのは建前に近くて
自他共に認める大のシスコンの私は妹のお願いを聞いてあげる優しいお姉ちゃんになるしか選択肢はなくて。


だって6つも離れてるし、くりくりのお目めにもちもちで雪みたいな真っ白な肌で、お姉ちゃんお姉ちゃんってどこに行くにも後を追いかけられたらそりゃあ可愛くて可愛くて仕方ないでしょ。


最初はほっぺたにちゅーくらいかなと思ってほっといたら、リビングで、しかも親のいる前でほぼ頭突きに近い勢いで口にキスしてくるもんだから


すぐに私の部屋に連行。
一つ目の約束ができた。


『チューする時はお姉ちゃんの部屋』


その日だけかなと思っていたら、茉里乃は次の日もトコトコとやってきてちゅっと唇にキスをしてくれた。

茉里乃のファーストキスはお姉ちゃんがもらったからね。


「ん…お姉ちゃん」
「…もうおしまいする?」
「まだ」



数年経って茉里乃の周りの友達も彼氏ができたり学校でそういう話を良くするようになったみたい。

キスの話とか、その先の話とかもね。

お姉ちゃんはしたことあるの?なんて不安そうに聞かれた。
お姉ちゃんの第二の試練。
頭フル回転。

ないよ

って答えた。
本当はあるけど。

その日から寝る前のキスの時間が長くなって、練習って名目で深くもなった。


へたっぴで本当に可愛かった。
ちょっと私が舌を絡めると涙目で睨んでくるんだ。


私も馬鹿ではないので二つ目の約束をした。



『このことは誰にも内緒』



茉里乃との約束はもう一つある。


電気を消した私の部屋。
カーテンを少し開けてるから
茉里乃といるベッドが月明かりに照らされている。

「…ふ」
「んぅ、…ちょ、タイム」


茉里乃に肩を押される。


「今日どうしたの、長いじゃん」

「…なんで、そんな、余裕なん」


肩で息をする茉里乃に腕を殴られる。

なんかいつもと違う
なんか言いたそうな茉里乃


「………」

「なーにー茉里乃ちゃん」


おいで、と手を両手を広げると珍しく素直にすっぽりと腕に収まってくれた。


「うん、どした?」

「クラスの男子が、お姉ちゃんのこと好きなんやって」

「はぁ」


茉里乃ももう高校生。
同じ高校に中学も一緒な子は当然いるわけで
地元も広くはないから私と顔見知りの同級生も少なからずいる。


「告白するから会わせてほしいとか言われてん」

「はぁ」

「はぁってなんなん」

「それで何で今日のキスが長くなるの?」

「は?」

「え?」

「嘘やろ…」


鈍すぎやろ…と若干イラついてる。

茉里乃は私の腕から抜け、私の首に腕を回し至近距離で私の目を見つめた。


「まりののお姉ちゃんやもん」

「嫉妬してたのね」


図星で恥ずかしかったのか、イラつきもあったんだと思う。

かぶりつくように唇を塞がれ、ぬるぬるの舌を入れられる。


もちろん主導権は渡しませんけどね。
お姉ちゃんなので。


お互いに肩で息をするくらい長い長いキスをしていると

茉里乃の目がトロンとしてる。

絶対気持ちよくなってるよねこれ。

そんなのどこで覚えてきたんだろ。

まあ、私のせいか。

酸素が足りなくて私の頭もぼーっとしてきた。



「おね…ちゃん、っ」

「…ん?」



「っ…お姉ちゃん、すき」




ああ、言っちゃった




私は茉里乃から唇を離した。

「あ、」

茉里乃も気づいたみたい。

「ごめん、なさい」

怒られるって
おしまいにされるって
今にも泣きそうな顔。



その二文字はお姉ちゃんをお姉ちゃんじゃなくしちゃう言葉なんだよ。



「茉里乃ちゃん、ごめんね?」



私は茉里乃をそっと押し倒した。


ずっと昔から、茉里乃のその雪みたいに白い肌を誰かに取られるなんて嫌だった。

ましてやぽっと出のその辺の男なんかに触れられるなんて死んでも許さない。

触れると顔だけじゃなくて、全身も同じように真っ赤になるって。

それを知ってるのは私だけでいい。


「お姉ちゃん、もっとして」

「いつの間にそんな子になっちゃったの」

「っ…お姉ちゃんからやん」

「茉里乃ちゃんが約束守れなかったのがいけないんでしょー」



三つ目の約束

『お姉ちゃんとキスしてる時に好きって言っちゃだめ』
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