社会人と高校生



新幹線の中
動き始める風景。
窓際に座る天ちゃんはやっと大人しくなった。


「卒業祝いなに欲しい?」
「旅行行きたい」


天ちゃんの希望で高校卒業祝いとして一泊二日で旅行に行くことに。
麗奈の家でのお泊まりは何度もあるけど、旅行は初めて。
麗奈も久しぶりの旅行だからワクワクしてる。

天ちゃんもかなりのハイテンションで楽しみにしてくれていることが伝わってきて嬉しいな。


「麗奈!麗奈!富士山!見て!」

大興奮の天ちゃんが窓の外を促す。


「んー?どこー?」


通路側の私の席からは見えなくて天ちゃんの席に乗り出すと

「あそこ!」

肩を抱き寄せてもっと見やすいようにしてくれた

「ほんとだ〜」
「こんなおっきいの初めて見たの!綺麗だね〜」
「うん!おっきい〜」

天ちゃんはリアクションがいちいち可愛くて本当に旅行に連れて行き甲斐がある。

「えへへ、麗奈、楽しいね〜」
「まだ着いてすらないよ〜?」

ニッコニコの天ちゃんは本当に可愛い。

2時間ほど新幹線に乗って目的地に到着。
今日は水族館に行って旅館でゆっくりする予定。

先に荷物を旅館に預けて水族館に到着。

「麗奈?なんか旅館めっちゃ凄かったんだけど…」
「ね!凄かったね!ほら!天ちゃん!水族館だよ!ペンギン!」
「う、うん」

水族館に来るのは本当に久しぶりで麗奈もすごくテンションが上がっちゃった。
麗奈はペンギンとかラッコとか可愛い動物が見たいんだけど、天ちゃんは爬虫類とか両生類が見たいみたい。


「麗奈見て、めっちゃ魚でっかくない?どうする?海とか川に落ちちゃってさ、あれが目の前に来たら」
「麗奈必死で逃げると思う」
「天ちゃんが絶対に助けるから麗奈は安心してね。天ちゃんがさ、でっかい魚に襲われてたら麗奈どうする?」
「天ちゃんを食べないで!って魚に言う」
「助けてよ!もう!」


そんな会話をしながら水族館を回る。


でもなんか…
なーんか
既視感がある
この水族館
どっかで見覚えがあるというか
記憶の片隅にあるというか
この通路を曲がった先には
たしかおっきなモニュメントがあった気がする


「麗奈!でっかいペンギン!」

天ちゃんがフォトスポットであろう大きなペンギンのモニュメントを指差し、なんとなく感じてた既視感が確信に変わった。

「………」

麗奈が言葉を返せなくて、天ちゃんは心配そうに顔を覗き込んだ。

「ん?麗奈?どうした?疲れちゃった?」
「ううん」
「楽しくない?」

ああ、天ちゃんが眉毛をハの字にしてしまってる。
ちがうんだよ、そんな表情させるつもりじゃないの。


「ちがうの、天ちゃん」
「麗奈ちゃん、ちょっと休憩しよ」


ベンチに導かれ、座らされる。
天ちゃんが飲み物を買ってきてくれた。

天ちゃんは隣に腰掛ける。


「水族館退屈になっちゃった?つまんない?」

「ううん!違うの!麗奈も忘れてたんだけど、ここ来たことあったみたいで…」

「そうだったの?2回目になっちゃったか…ごめんね…」

「謝らないで!天ちゃんは何も悪くないから」

「麗奈、誰と来たか聞いてもいい?」

「………元彼」

「そっか」

「でもほんとに忘れてたの。それくらいの元彼だったの。信じて欲しい…」

「ここにいて辛くない?」

「麗奈は平気…天ちゃん…」


天ちゃんのこと傷つけちゃったかな
麗奈のこと嫌になってないかな
不安な気持ちをぶつけるように
天ちゃんの手を握る


「えへへ、手握ってくれた可愛い」

心配をよそに天ちゃんはデレデレな表情

「天ちゃん?」

「麗奈、安心して。天ちゃんと来てる今日が1番楽しくなるし、幸せになるから。
元彼さんと来た時よりもね。
上書きしよ。」


ああ、もう、心配も過去も全部吹っ飛ばしてくれる。
ああ、やっぱり麗奈はこの人が好きだ。


「麗奈、返事は?」

「ふふ、うん!」


その後は水族館を楽しんだ。
天ちゃんと手を繋ぎながら。


「水族館やっぱり楽しかったな〜」
「私も!ヘビもかっこよかったしラッコかわいかったな」
「カワウソでしょ」
「あ。ペンギンじゃないんだ」

水族館を後にし旅館へ移動。


旅館は麗奈が調べて予約した。
ちょっとお父さんの力も借りたけど。

「すっげぇ…」

ちょっとだけいい旅館にしてみた。
天ちゃんはずっと目をまん丸にしてあたりをキョロキョロ。

「なにこれ…建物の中に庭がある…水も流れてる…」

「ちょっと、天ちゃん!こっちおいで」


フラフラ色んなところに興味津々な天ちゃんの手首を捕まえて受付を済ます。

部屋の鍵を受け取り、部屋に入ると本当に立派なお部屋だった。


「すごい!!和室ある!ベッドもでっかい!露天風呂だ!」


天ちゃんも大興奮で楽しんでくれてるみたい。

部屋で夕食を済ませ、2人で温泉に入った。

浴衣に着替え、先に支度を終わらせた天ちゃん待つ部屋に戻ると、天ちゃんは畳の部屋で大の字に寝転び、ぼーっと天井を眺めていた。


「ふふ、からだ痛くなっちゃうよ」


天ちゃんの頭を自分の太ももに乗せ、膝枕をしてあげるとふにゃっと笑顔になった。

「何してたの?」

頭を撫でながら聞くと

「おなかいっぱいだし、温泉も気持ちよかったし、水族館もめっちゃ楽しかったし、いま人生で1番幸せだーって思って天井みてた」

天井を見つめたまま答える天ちゃん
麗奈とだからだ、と付け加える


「楽しんでくれてよかったよー、心残りはないですか?」

「あ、いっこお願いある」

「ん?なに?」

「キスマーク付けてほしい」

「ん?なんて?」


天ちゃんは起き上がり、麗奈と向き合う形に座り直す。


「キ、キスマーク」


ほんのりほっぺたを赤らめてる。
恥ずかしいみたい。

麗奈も昔は付けられたことも付けたこともあった。
分かりやすい愛の形みたいに思ってたこともあったな。
でも今はあんまりキスマークに価値は感じてない。
ただの内出血。
シミになったりしたらむしろ嫌。


「あ、でも、麗奈が嫌ならいいの!」


ちょっと興味あっただけだから!と天ちゃんは言うけど、麗奈があんまりしたくないの伝わっちゃったのかな…

でも、麗奈がしてあげなかったら
天ちゃんが一生経験出来なくなっちゃう事も出てきちゃうんだ

ふとそのことに気づいた。

ああ、それは絶対に嫌だな。



「いいよ」

「ほんとに?やじゃない?」

「やじゃないよ、
改めて聞くけど、天ちゃんってそういうことしたことない?」

「ないよ!!キスも麗奈が初めてだったしえっちはおろかキスマークもないよ!!」

「彼氏彼女いっぱいいたって綺良ちゃんと茉里乃ちゃんに聞いたよ?」

「バイトばっかりしまくってたからすぐにフラれるの!恥ずかしいなぁもう!」

何となく、確認しちゃった。
全部知ってたけど。

「ふーん、じゃあ麗奈が初めてのキスマークもらっちゃうね」

「は、ハイ」



和室で天ちゃんと向かい合い、浴衣の襟元に手をかけ首元を緩め、鎖骨を露出させる。

どこにしよっか、と目だけで天ちゃんを見上げると耳まで真っ赤だった。

「ここにする?」

鎖骨の少し下のあたりをつんと触る

「ハイ」


緊張してて可愛い


肌に唇を寄せ、吸うと真っ赤な痕がついた。
久しぶりにやったけど上手くできてよかった。
初めて天ちゃんの顔より下に口付けをしたんだ。
そう思うと、少しの罪悪感と関係が一歩前に進んだ嬉しさが同時にやってきた。


「できたよ」

「うわぁ、ありがとう!なんかえろい!」


鎖骨の下に付いた痛々しい麗奈の痕に喜んでくれたみたい。
よかった。


「ねえわたしも付けてみたい!」

「えー!」


四苦八苦しながら一生懸命麗奈の肌に吸い付く天ちゃんは可愛かったけど、浴衣はだけさせすぎだよ。もうブラまで見えちゃってるよ。
そんなツッコミを頭に浮かべながら天ちゃんのなすがままになっていると


「できたけど、うーん、上手にできない」


鎖骨にうすーいキスマークが付いていた。


「麗奈は天ちゃんとおそろい嬉しいよ?」

頭をなでてなだめるけど天ちゃんは不服そう。
どうしたらもっとちゃんと付くか考えてるみたい。


「うーん、麗奈、やっぱり天ちゃんに傷、付けたくないなぁ、だってこれ内出血だし」

「そう?私は気にしないけど」

「麗奈は嫌なの、だからさ」

「うん?」

「今度お揃いのリング買いに行こっか」

「えっ!!!!ほんとに!!?!?」

「うん♡」

「やったぁ!!麗奈大好き!!」


キスマークじゃなく、2人の形になるものを買いに行こう。
麗奈も欲しいし。


「わ〜指輪買いに行くの楽しみだな〜」

「麗奈も楽しみ」

「あ、もういっこお願いある」

「なんでしょう」

「天ちゃんがもういいってなるまでチューしたい」


にやけを抑えるのに必死だった。
なんならバレてたと思う。
麗奈もしたかったから。

「じゃあ、体痛くなっちゃうしベッド行こっか」

「えへへ、やったー」


天ちゃんの手首を引っ張りベッドへ導いた。


次の日
昨日はたくさんキスした後2人で寝落ちして、チェックアウトギリギリの時間に旅館を出た。


帰りの新幹線。
今度は麗奈が窓際。
麗奈は帰りも天ちゃんが窓際のつもりだったけど、
「今度は麗奈の番」
って麗奈を座らせてくれた。

天ちゃんは麗奈の肩に寄りかかりすやすや寝息を立ててる。


これからもっとたくさん思い出をつくろうね。


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