社会人と高校生



中1の頃、近所に住んでたお姉さんにキスをされた。
大好きなお姉さんだったからびっくりしたけど、不思議と嫌じゃなかった。


高1の頃、彼氏ができた。
好きだったのに、先輩に盗られた。


悲しかったけど悔しかった気持ちの方が強かったから、仕返しをすると決めた。


私は幸運な事に整っている顔をしてるそうで、いとも簡単に先輩は私を好きになってくれた。
キスもしたしそういうこともした。
同性とそういう事するのに全く抵抗が無かったのは近所のお姉さんのおかげだったのかもしれない。


私には玲しかいない
そう言われた次の日は卒業式


思いっきり振ってやった。
泣き崩れてた。
あの顔は一生忘れない。
先輩も一生忘れられない卒業式になったことでしょう。

先輩から好きなものは奪うって学んだ。

やられたらやり返すことも

こっちは学んだわけじゃないけど。




過去のこんな経験から好きなものは絶対に欲しくなってしまう性格になったと踏んでいる。

可愛いものとか美しいものとか
物も人も
好きになったら絶対に手に入れる
たとえどんな手段でも


櫻が満開の季節。
大学を卒業し、新生活に向けて新たな地へ引っ越した。
散策がてら近所の大きな公園で読書をしていたら、細身でハイテンションな制服の女の子に声をかけられた。
そっか、卒業式か


「すみません!すみません!無視しないでください!あなたです!」

「はい」


写真を撮ってくれないか?という依頼だった。

もちろんそんなこと二つ返事で快諾すると、手首を掴まれて連れて行かれた。



綺麗な桜並木
高校生2人と1人の女性が和気藹々と話している。


きらちゃーん
と私の手首を掴む子が呼ばれた。
きらちゃんっていうんだ。


「すみません突然、お時間大丈夫ですか?」


1番背が高い子が私を気遣う。
うわなにこの子、顔ちっちゃ、脚長っ
すごいな

もう1人の小柄で目がおっきい子は人見知りなのかな。
目が合わない。



1人だけ私服の女性が私にニコッと会釈した。



衝撃だった。



恋に落ちる時、雷に打たれたような衝撃が〜とかよく言われるけど
そんなこと本当にあるんだ。

一目惚れだった。

その後の記憶はあんまりない
ちゃんと写真撮れてたかな



その日の夜はセフレの女の子に集中しろってビンタされて振られてしまった。


あの人のせいだ。
絶対。


それから日が経ち、4月。
新卒で入社した会社は名前が有名だったから適当にエントリーしたら受かったところだった。
特にやりたいこともなく、これから一生続く労働の日々を呪いながら社会人初日を迎えた。


そこでまた奇跡が起きた。



「守屋麗奈です。よろしくね」



櫻の木の下で会ったあの人と再会した。
こんな運命的なことある?

頭の中が麗奈さんでいっぱいになった。
何をしてても可愛い。
麗奈さんのひと言ひと言にドキドキしてしまう。
こんなに綺麗なのに優しい、明るい、ちゃんと私を見てくれる。
神は不平等じゃないか。
この人に全てを与えすぎている。


こんな感情生まれて初めてだった。


5人いたセフレの連絡先はこの時に消した。
殺されるかもしれないと思ったけど、麗奈さん以外はどうでもよかった。
麗奈さんとは綺麗なままで接したかったから。
嫌われたくないし。



麗奈さんは純粋だから、私を後輩としてすごく可愛がってくれた。
だから飲みに誘うのは簡単だった。


恋人がいることは想定内。
そんなの奪っちゃえばいいからね。
でも同性で、しかも高校卒業したばっかりな子なのは正直びっくりした。


まあ、同性OKなのは願ったり叶ったり。

気づけば終電が近い時間になっていた。

お酒が入って上機嫌でふわっふわの麗奈さんが可愛い。

嫌だな。
バイバイしたくないな。
まだ一緒にいたい。
ぎゅーもちゅーもしたい。

私も結構酔ってるみたい。
割とお酒強いのにな。


家が近所だから終電無くしたは通じないし
だから鍵を無くしたことにしよう。
麗奈さんの家に泊めて欲しいとお願いをした。
そしたら彼女に電話で確認を取ってる。


まあこれも想定内。
許可が取れれば麗奈さんの家に入れるし
取れなくても二件目に付き合ってもらってその流れでホテルに誘おう。


うん、どっちでもいいや。



「ごめんお待たせ!来るって!」

「いえ全然。へ?誰が?」

「これから天ちゃん来るって」
 


…最悪だ。
彼女を守る最適解を無自覚で導き出しやがった。
麗奈さんと2人きりになれないなら家でゆっくり寝たいんだけど、自分で言い出してしまったから仕方がない。
麗奈さんの家にお邪魔できるいい機会だと思おう。


そんなこんなで麗奈さんの家に来た。
白とピンクの女の子らしい部屋だ。
何から何まで可愛いな。

私たちが着いたすぐ後に彼女がやってきた。



「はじめまして!!山﨑天です!!麗奈の彼女です!!」


いきなりマウントを取られた。
超警戒されてる。

あ、この子あの子だ。
写真撮った時にいた背が高い子だ。
あの時から付き合ってるのかな。

しかしこの子めちゃくちゃ突っかかって来るな。
麗奈さん普段私のこと何て言ってるんだ?
大人しめの子だったら簡単に奪えるのに。
あ、でも突っかかる度に麗奈さんに怒られてる。
ざまあみろ。


先にお風呂をいただき、麗奈さんの番。
彼女とサシの地獄の時間だ。
ずっと私を睨みつけてる。
犬みたい。


「…そんな睨んでも取って食ったりしないよ、天ちゃん」

「気安く呼ぶな」

「随分と嫌われてるなぁ、ただの麗奈さんの後輩だよ」

「嘘つけ!!お前麗奈のこと好きだろ」



やっぱりバレてる。
ええ、好きです。



その後言い合いしながら話を引き出すと
どうやらまだセックスはしていないらしい。
20歳までしない約束なんだって。


はい?そんなことある?


純愛にも程があるでしょ。
自分が経験してきた事と、天ちゃんの恋愛が真逆すぎて憎い。
こいつ、人間の汚い部分とか絶望とか何にも知らないんだろうな。
ほんと、突然来るから、絶望。
少しずつ大人になれよ、クソガキ。



「ふーん、麗奈さんホテルにでも誘っちゃおっかなー」


9割本気で言ったら馬乗りされてぽかぽか殴られた。
この子でかいから力では負けてしまう。
結構痛かった。


最悪に最悪は重なるものだ。
天ちゃんと1人用の布団で一緒に寝る羽目になった。
隣に麗奈さんがいるのに何でこんなクソガキと。


お互いにギリギリまで端により背中を向ける。
天ちゃんと言い合いをしている間に麗奈さんの寝息が聞こえてきた。


声をひそめて天ちゃんに話しかける。


「天ちゃんはさ、麗奈さんのどこが好きなの」
「全部」
「ああ、もういいや、この惚気ガキ」
「大園はどこが好きなんだよ」
「顔」
「うわぁ、最低だぁ」
「あのね、1日8時間週5日、私は麗奈さんと一緒にいるんだよ。君より一緒にいる時間長いの。君が見たことない麗奈さんを見てるんだよ」
「…」
「だから油断しないでね」


歳下のガキンチョには本当に申し訳ないけど、こっちも本気なんで。


「私、お前のこと大っ嫌い」


嫌われた。


「お揃いじゃん、私も」


私も大っ嫌いだからどうって事ない。



天ちゃんは私が麗奈さんを襲うんじゃないかと一生懸命頑張って起きてるみたいだけど、5分もしないうちに隣からスヤスヤと可愛らしい寝息が聞こえてきた。


枕が変わるとあんまり眠れないからスマホでも弄ろうかと、体勢を変えたら天ちゃんと向き合ってしまった。
いつの間にか寝返りをうってたらしい。


なんか、ちゃんとガキンチョなんだけど。
麗奈さんもこんなガキンチョより私の方がいいんじゃないかな。
もっとドキドキさせてあげる自信があるんだけど。

「……んぅ…」

隣で赤ちゃんみたいな寝顔で寝てる子どもが寝ぼけて私に思いっきり抱きついてきた。
それはもう、寝息が顔に当たるくらいの距離感で。

「ちょっと、お姉さん」

呼びかけても全く起きる気配がない。

「おーい」

返ってくるのは寝息だけ。
どんだけ爆睡してんの。
しかも恋敵の目の前で、抱きつきながら。
こいつの危機管理どうなってる?

「…うぅ…」

ほっぺたを思いっきりつねっても全く起きなかった。

なんなの本当に。

ああ、天ちゃんの体温が本当にあったかい。
人と寝るの久しぶりだからなんだかこっちも眠たくなってきた。

普段は布団に入ってから寝るのに1時間はかかるのに、あっという間に眠ってしまった。

目が覚めて、また天ちゃんと一悶着し、麗奈さんの家を後にする。

「あれ、鍵屋さんは?」


うん、至極真っ当な質問だ。
ま、天ちゃんにならネタバラシしてもいいか。


「無くすわけないでしょ、普通」

「やっぱお前大っ嫌い!!!!!!」


これから君に大人のずるさを教えてあげよう。
いつでも麗奈さんを奪う準備は出来てるからね。
油断しない事だよ。
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