社会人と高校生



「麗奈さんどこ行きましょうか」


金曜日の仕事終わり
今日は大園ちゃんと飲みに行く約束をした日だ。


天ちゃんがすっごく心配してくれて
「何か嫌な事があったらぜっっっったいに呼んでね?すぐに行くから」
って言ってくれたんだ。


後輩と飲みに行くなんて普通だと思うんだけどなぁ。
天ちゃんは大園ちゃんが私を狙ってるだなんていう。
そんな事ないと思うけど。
でも、行っちゃだめって言わないところが天ちゃんの良いところだよね。


「麗奈さん」


聞いてます?と大園ちゃんが麗奈の顔を覗き込む。
普段はクールな印象の大園ちゃんだけど、今日は何だかご機嫌な気がする。


「聞いてる聞いてる!あそこ入ってみよっか」


ちょっと前から気になってた居酒屋。
天ちゃんとは居酒屋に行かないから何だか久しぶりだな。

さすが華金。
混んでるみたいだけど運良く席に案内された。
半個室みたいな狭めの座席。

注文し、飲み始める。


「大園ちゃんはもう慣れた?」
「はい、麗奈さんのおかげです」
「すぐそれ言うんだから〜」


初めは仕事の話をしていたけど、1時間も飲んでるとプライベートな話題になってくる。


「麗奈さんの恋人どんな人なんですか」
「えー、内緒」
「何でですか、やだ、知りたい」
「もー、大園ちゃん麗奈の恋人の話になると本当に頑固だよね?何で?」
「なんでって、そりゃ…いやそれはいいんです!知りたいです!教えてよ」


タメ口じゃん。
大園ちゃんは敬語とタメ口の合わせ技が上手なタイプだね。


そのあとも攻防したけどあんまりにもしつこいから麗奈が折れた。


「引かない?」
「引きませんよ」
「女の子なの」
「性別なんて関係ないですよ、年上ですか?」
「年下」
「何個?」
「4個」
「へぇ」

大園ちゃんはなんかちょっとだけ嬉しそうな顔をしてる。
なんで?


「引いた?」

「だから引きませんって
私にもチャンスあるのかなって嬉しくなっちゃいました」


チャンス?
何のチャンスだろ


「大園ちゃんは?今は恋人いないんだっけ」
「そうです」
「どんな人がタイプなの〜?」
「綺麗で可愛くてちょっと抜けてるけどガードが堅くて自分を持ってる女性です。髪は茶髪のロング」
「わぁ〜すっごい具体的だ〜」
「麗奈さん分かってやってますよね?」


その後はずーっとおしゃべりして、気づいたら終電も近い時間。


「そろそろ帰ろうか」
「はい」

立ち上がり帰りの支度をすると大園ちゃんは珍しく焦った様子だ。

「大園ちゃんどうしたの?」



「鍵…なくしちゃいました…」







〜♪

妹とリビングで録画した歌番組を見ていると、麗奈から着信がきた。

光の速さで自分の部屋へ行き、電話に出る。


『天ちゃん、ごめんね?今大丈夫かな?』

「全然大丈夫!どうした?なんかあった?」

『あのね、大園ちゃんが家の鍵無くしちゃったみたいでね、鍵屋さんも明日になっちゃうらしいの。だから麗奈の家に泊めてあげようと思うんだけどいいかな?』


「んな!?」


大園って麗奈のこと狙ってる後輩だよね
そんな奴と麗奈がひとつ屋根の下なんて、ぜっったいに嫌だ!


『…天ちゃん?』

「私も今から麗奈んち行く!!」


妹の私を呼ぶ声が背中から聞こえるけど無視して、すぐに準備して家を飛び出した。

私の家と麗奈の家は近いからそこまで時間はかからない。

麗奈のマンションに着き、部屋に入り声をかける。


「麗奈」

「天ちゃ〜ん♡」


麗奈が出迎えてくれた。
お酒が入っててほんのりほっぺたがピンクで、普段より甘い雰囲気ですっごく可愛い。


じゃなくて、今ここには悪い奴がいるんだ。


「初めまして、麗奈さんの彼女さん」


こいつが大園玲か
クールな感じの美人だな


「はじめまして!!山﨑天です!!麗奈の彼女です!!」

「天ちゃん、声大きい、いま夜だから」

「ごめん」


こいつのせいで麗奈に怒られちゃったじゃん!
大園が張り付けたような笑顔で私に話しかける。


「ありがとうございます、彼女さん、泊めてくれる許可頂いて、しかも、わざわざ、来てもらっちゃって」


なんだこいつ!!めちゃくちゃ嫌な言い方!!


「普通彼女もちの家泊まります?図々しいね」

「天ちゃん」

「麗奈ぁ、ごめん」


なんかこいつがいるとめちゃくちゃ麗奈に怒られるんだけど!
こいつ嫌い!


「麗奈お風呂入ってくるね、2人で仲良くしててね♡」


地獄の時間が始まってしまった。

大園は先にお風呂をもらってソファに座ってスマホをいじっている。
大園には私が泊まる時用のスウェットを着てもらってる。
麗奈の服なんて絶対着させないんだから。

私は床に座り大園の様子を伺う。

スマホに目を落としたまま大園は話し始めた。



「…そんな睨んでも取って食ったりしないよ、天ちゃん」

「気安く呼ぶな」

「随分と嫌われてるなぁ、ただの麗奈さんの後輩だよ」

「嘘つけ!!お前麗奈のこと好きだろ」

「…」

「ニヤってすんな!!否定しろよ!麗奈は私のだぞ!」

「もうヤッた?」

「お前何言ってんの!?話聞けよ!」

「その感じだとまだ?」

「うるさい!えっちなことは20歳までしない約束なんだよ!!」

「へぇ!すごいね!身体なしなんだ。天ちゃんはしたいの?」

「わかんないよ!!」

「まだお子ちゃまだもんなぁ。天ちゃんは経験あるの?」

「ないよ!!!」

「そうなんだ、天ちゃんはしたことないからいいとして、麗奈さんキツいんじゃないかな?麗奈さんは経験あるでしょ?」

「もうやだお前…こっちにはこっちのタイミングがあるんだよ!」

「ふーん、麗奈さんホテルにでも誘っちゃおっかなー」


ムカついたからソファに乗って大園を組み敷いてポカポカ殴ってると


「いつの間に仲良しさんになったのー?」


バスタオル一枚の麗奈が登場したから、すかさず大園から見えないように私の体で隠して、脱衣所に回れ右させる。

「麗奈!ちょっと!お客さんいるから!」

「普段のお泊まりのテンションで出てきちゃった」

「麗奈さーん!私は気にしませんー!」

「大園うるさい!!!」


大揉めしながらやっと就寝時間
ここでまた問題が発生する。

そう、誰がどこで寝るか問題だ。

麗奈の家にはベッドと来客用の布団が一式しかない。


「大園お前が布団で寝ろ、私が麗奈とベッドで寝る」

「こっちはお客さんだよ?天ちゃんが布団で寝なよ。私が麗奈さんとベッドで寝るから」

「いやあのこっちは恋人同士なんだわ、分かる?なんで人の恋人と添い寝しようとしてんの?しかも堂々と私の前で」

「天ちゃんはいつも麗奈さんと寝てるんでしょ?じゃあたまにはいいじゃん後輩に譲ってくれてもさ」

「お前倫理観どうなってんの?」


大園と揉めてる間、麗奈は我関せずで寝る前のパックや保湿をしてた。
あなたの事で揉めてるんですけど…
しばらく揉め続けてると、とうとう麗奈が静かに爆発した。


「もう、うるさいなぁ…麗奈ベッドで寝るから2人で布団で寝て」

「えぇ麗奈でも」

「返事」

「はい」

「大園ちゃんも」

「はい」


ケンカは収束した。
最悪の結末になってしまったけど、大園と麗奈の添い寝にならなかったから良しとする。

1人用の布団でお互いにギリギリまで離れて背中を向ける。


「絶対こっち向くなよ」
「こっちのセリフだよ…何が嬉しくてせっかく美女とひとつ屋根の下なのにガキンチョと寝なきゃいけないんだ」
「3つしか離れてないだろ!私が寝ちゃっても絶対に麗奈に手出すなよ?」
「…」
「ねぇだから否定して!?」


ベッドからはスヤスヤと麗奈の寝息が聞こえてきた。
声のボリュームを落とした大園がひそひそ声で話しかけてくる。


「天ちゃんはさ、麗奈さんのどこが好きなの」
「全部」
「ああ、もういいや、この惚気ガキ」
「大園はどこが好きなんだよ」
「顔」
「うわぁ、最低だぁ」
「あのね、1日8時間週5日、私は麗奈さんと一緒にいるんだよ。君より一緒にいる時間長いの。君が見たことない麗奈さんを見てるんだよ」
「…」
「だから油断しないでね」


宣戦布告された。


「私、お前のこと大っ嫌い」
「お揃いじゃん、私も」
「悪夢見てうなされろ!おやすみ!」
「ちゃんと挨拶するんだ…いい子だな…」


大園が寝るのを確認してから寝ようと思ったけど、目を閉じたらあっという間に意識を手放してしまった。



カーテンの隙間からの朝日で目を覚ます。
やばい、爆睡してた。


「おはよ」


超至近距離に大園の腹立つくらいに綺麗な顔があった。


「うわ!近!きもちわる!」

「失礼だなぁ、見てみなよ、体勢」


私がガッツリ大園に抱きついてた。


「麗奈と間違えた!!」

「そんなことある?天ちゃん寝ついてからすぐに寝ぼけて抱きついてきたよ?起きるまでずっと」

「…………このまま背骨折ってやる」

「いだだだだだ!!は!?何この馬鹿力!!離れろクソガキ!!痛い痛い痛い!!」



「んん…おはよ」


麗奈が起きてきた。
麗奈は寝起きでも可愛い。


「2人ともいつの間にそんな仲良しさんになったの?」

「「なってない!!!」」

「わぁ、相性ピッタリだぁ」


その後は麗奈が作ってくれた朝ごはんを3人で食べて、帰る支度をする。
今日は午前中少しだけバイトだから麗奈とはちょっとだけバイバイ。

麗奈が私と大園をマンションの入り口まで送ってくれた。


「麗奈さん、昨日はありがとうございました。また月曜日からよろしくお願いします。」

「うん!また月曜日ね!気をつけて帰ってね!」

「…」

「天ちゃんもバイト頑張って!」

「うんっ!」


大園とは家が近いみたいで不本意だけど途中まで一緒に歩く。


「あれ、鍵屋さんは?」

「あー」

そう言うと大園はカバンから鍵を取り出した。

「は…鍵…」

「無くすわけないでしょ、普通」

大園はニヤリと笑った。


「やっぱお前大っ嫌い!!!!!!」

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