社会人と高校生



「あいたたたたた、天ちゃん力強すぎ」
「え〜?全然力入れてないよ、脚パンパン」

ほら、こんくらい
と私の腕を押してみせる。

本当だ…全然強くない…

ベッドにうつ伏せになり、天ちゃんに脚のマッサージをしてもらう。

「あのね!聞いてほしいの」
「うん、なあに」
「麗奈に後輩ができたの!」
「おお!麗奈先輩だ!どんな人なの?」
「うんとね」





新卒で入社して、あっという間に1年が経った。

会社には今年の新卒が入ってくる。
こんな麗奈でも先輩にならざるを得なくなってしまうのが怖い。

うちの会社は1人の先輩に1人の新卒が付き、マンツーマンで仕事を教えるスタイルだ。
麗奈の隣の席も既に用意してある。

どんな子が入ってくるんだろう
怖い子だったらどうしよう…
緊張するなぁ

自分のデスクでそんな事を思っていると人事の人がやって来た。

「守屋さん、守屋さんはこの子の担当ね」

「はい」

新卒の子を紹介すると、人事の人は戻って行った。

立ち上がり、挨拶を交わす。

「守屋麗奈です、よろしくね」

「大園玲です。よろしくお願いします。」

大園玲ちゃんかぁ
背が高くて美人さんだぁ
なんか見覚えあるけど気のせいかなぁ

「大園さんは会社の中は案内してもらった?」
「いえ、まだです」
「じゃあさっそく行っちゃおっか」

麗奈の会社はオフィスビルの全ての階がグループ会社だ。
やり取りが必要になる部署に挨拶回りをしながら、コピー機の使い方や備品の場所など基本的な事を教えた。
うちの会社はかなり大きいから説明だけでも一苦労。
普段こんなに歩かないからいい運動だよ。

「大園さんはきちんとメモしててえらいねぇ」
「えへへ、ありがとうございます」
「麗奈なんて初日にそのメモなくしたよ?」
「それは大変でしたね」

大園さんはクスクスと笑ってくれた。
緊張ほぐれたかな?

「あの、守屋さん」
「なあに?」
「守屋さん、あの時公園にいました?櫻の写真の」

櫻の…?写真…?
必死に記憶を辿る

「あ!!あの時写真撮ってくれた!!」
「ですよね!」
「すごい偶然!後輩だったんだ〜!」

嬉しくて思わず大園さんの手を取ってぶんぶんと上下に振ってしまった。

「守屋さん紹介される時にん?って思ったんです。お綺麗だったんですごく印象深くて」

「またまた〜褒めても何も出ませんよ〜もう〜」

「本当ですもん!また会えて、しかも直属の先輩だなんて嬉しいなぁ」

あの時の子だったんだ
こんな運命的な事中々ない
新年度、いいことあるかもしれないぞ

そのあとはデスクに戻り、マニュアルを読み合わせる。

「〜で、こういう時はこうしてね」
「はい」
「ん?これなんて読むんだ?ひゃく?かい?」
「ページ、です」
「ああ!ページ!大園ちゃんすごいね〜」
「い、いえ」
「ん?ぶい、じ」
「ビジネスです」
「………これは?」
「カスタマーです」
「大園ちゃんって頭いいね!」
「えー……と、勉強は得意でした」
「すごくオブラートに包んだね!」

和気藹々とした雰囲気で研修は進み、大園ちゃんもたくさん笑顔を見せてくれるようになった。
こんなに出来る子が後輩に付いてくれて本当に嬉しいな。

初日は挨拶と会社の案内で終わり、今日は簡単なお仕事を実際にやってもらおうかな。
お茶出しをお願いすることにした。
なぜか麗奈にはお茶出しの仕事がよく回ってくるんだ。

大園ちゃん、大丈夫かな?
ちょっと遅い?かも?

心配になって給湯室に走って向かうと大園ちゃんが何かを探していた。

「大園ちゃん、大丈夫?」
「麗奈さ〜〜ん、お茶っぱが教えていただいた所にないんです〜」

大園ちゃんは困った顔をこちらに向けてきた。

「ここに無いってことは、こっちだ」

食器棚の奥底に押しやられたお茶っ葉の缶を取り出す。

「おお〜!」
「佐藤さんが給湯室を使ったあとはいっつもここなんだーぐいーってうっかり押し込んじゃうみたい」

そうだった。
その罠があるんだった。
麗奈の会社でのいっちばん最初のピンチはこれだった。

「ありがとうございます!」

玲はお茶を出し終え、席に戻ってきた。

「麗奈さん本当にありがとうございました〜もうちょっとで泣いちゃうところでした」

「ごめんね、教えておけばよかった。困ったことがあったらすぐ麗奈を頼ってくれていいからね!ミスの隠し方なら任せて!」

冗談で言った言葉で大園ちゃんは声が出せないくらい笑っていた。
本気にしてないよね?麗奈そこそこ仕事できるんだよ?

「麗奈さんが先輩で幸せ者です!」

この子はなんて可愛いことを言ってくれるんだ。

それから数日が経ち、大園ちゃんもかなり慣れてきてくれたみたい。

「麗奈さんお昼はお弁当でしたっけ」
「そうだよ〜」
「ご一緒したいです」
「いいよ〜ご一緒しちゃう〜?」

お昼ご飯のお誘いまでされてしまった。
なんだかすごく懐かれてしまった気がする。
可愛いな。

お昼休み
デスクにお弁当を広げる。
昨日天ちゃんがお弁当を作ってくれたんだ。
一生懸命に海苔をハサミで切って作ったニコちゃんマークがご飯に乗ってる。

写真撮っちゃおっと
そういえばデートの時天ちゃんも麗奈のお弁当撮ってたっけ

スマホを取り出して写真を撮る。

「麗奈さん、お弁当手作りですか?」

大園ちゃんも隣でコンビニで買ったご飯を広げる。

「そうだよ〜」
「自分で作ったんですか?」
「ううん〜違うよ〜」
「誰が作ったんですか?」

なんかすごい食いついてくるな

「気になるの?」
「気になりますね、すっごく」

大園ちゃんの表情がなんとも読めない
笑ってるけど目は笑ってないというか

「えと、恋人」
「麗奈さん恋人いるんですね、ふーん」
「ふーんって、大園ちゃんは?」
「私はいませんよ」
「意外、モテそうなのに」
「全然モテませんよ、近寄りがたいってよく言われます」
「そうかなぁ、麗奈は大園ちゃん、愛嬌たっぷりに見えるけど」
「え」
「笑顔もキュートだし♡」
「はぁ」

そうですか
って言って大園ちゃんは目線をご飯に落としちゃった

なんかまずい事言ったかな?

「麗奈さん、仕事のこと相談したいんで、連絡先聞いてもいいですか?」

予想してなかった言葉が突然投げかけられたから、ぽかんとしてしまった

「だめですか?」

玲は眉毛をハの字にして顔を覗き込んでくる
天ちゃんもこの顔するんだよな〜

「もっちろんいいよ!」

大園ちゃんと連絡先を交換し、そのあとはたわいもない話をして午後の仕事に取り掛かる。


「んんん」

なんだこれ
いつも思うけどエクセルって難しいよね

頭を抱えていると、大園ちゃんが声をかけてくれた。

「どうしたんですか?」

「ここがね、わかんなくて」

「あー、これ私も詰まったことあります。ちょっと失礼します」

大園ちゃんはそう言うと立ち上がり、麗奈のマウスを握る手の上から、手を重ねて操作を教えてくれた。

「こうすると、直ります」
「わ〜〜!ありがとう!大園ちゃんパソコン得意なの?」
「割と得意なんです。麗奈さん手冷たい」
「そうなの!冷え性なんだよ〜」
「私、手あったかいんです、いつでも暖とってください」
「ほんと!大園ちゃんは優しいな〜」







「こんな子だよ」

「待って待って待って待って」

天ちゃんはマッサージを止めて、麗奈の体勢を起こして、ベッドで正座で向かい合う。

「麗奈それそいつに狙われてる!」

「いやいやそれはないでしょ〜」

「ぜっっったいそう!!!そいつと絶対に2人っきりになっちゃいけないよ!?」

「来週飲みに行く約束しちゃった」

「…」
「…」

「ふぇえ、麗奈ぁあ」

「本当ごめん!!全然気にしてなかったの!!天ちゃん泣かないで!」


天ちゃんが泣き止むまで2時間かかった。
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