社会人と高校生


「天ちゃんは何か欲しいものはないのー?」

誕生日まで定期的にしてきた質問はいつものらりくらりと曖昧な回答ばかり。

ある時は
「うーん」
その次は
「なんだろう」
またある時は
「麗奈ちゃんがいれば何もいらない!」


嬉しいよ?嬉しいんだけどね?

あんまりにも物欲がない恋人も困りものだ。

9月に差し掛かかった。
これで答えてくれなかったら諦めるかぁと思い、麗奈の家でくつろぐ天ちゃんにダメ元で質問する。


「天ちゃんはなにほしいー?」

「んー?麗奈」

「はぁーい」


ヒント無しかぁ
天ちゃんの誕生日どうしようかなぁ
妹ちゃんに欲しいもの聞いてみようかな


「ちょっと、麗奈ちゃん、ごめんって」

機嫌が悪くなったと勘違いした天ちゃんはさっきまで弄っていたスマホをポイと投げ、麗奈を膝に乗せ抱きしめた。

「ん?」

「ん?って、麗奈怒って…ない」

「怒ってないよ」

「怒らせちゃったかと思ったよ〜」


ホッとしたのか天ちゃんは「ん〜」と麗奈のほっぺたに何度もちゅーをする。


「わぁ〜ちゅーが沢山だぁ。
ねぇ本当に欲しいものないの?」

「特に思い浮かばないかなぁ」

「行きたいとこも無いの?」

「う〜ん…」


行きたいとこ…、とれなの肩におでこをグリグリと押しつけてくる。

可愛い


「あ!したらさ!あんま誕生日関係ないんだけど」

「うん」



ーーーーーー


誕生日当日

天ちゃんとショッピングモールで買い出しをし、麗奈の家でケーキ作りがスタートした。


この日のために天ちゃんは必死で課題を終わらせたらしい。

「麗奈、んちさ、フードプロセッサー、とかさ、ないの?」

「そんな素敵アイテムないよ!天ちゃん頑張って♡」

「頑張っちゃう〜〜!!」


天ちゃんが頑張ってくれたおかげでおいしそうなチーズケーキが出来上がった。

完成した料理をテーブルに並べるとなんだか豪勢だ。

「おお〜天ちゃんの好き好きセットだぁ」

「天ちゃんの誕生日だからね」

「麗奈!あれないよ!持ってきてあげる!」

「う、うん…」


冷蔵庫に小走りで向かう天ちゃん。

「はい!飲んで!」


天ちゃんの手にはお酒

もちろん天ちゃんには飲ませないけど

天ちゃんの欲しがった誕生日プレゼントは
『麗奈とお酒飲んでる気分味わいたい』
だった。


「ここは私が」
「そういうのどこで覚えてくるの?」

なんだか未成年にお酌をさせるのは悪いことをしてる気分になる。

「れなも注ぐね」

天ちゃんのグラスにシャンメリーを注いだ。

「ありがと!じゃあ〜、私、19歳のお誕生日おめでとう〜!」
「おめでとうー!」

大人数に祝われるのがあまり好きじゃない天ちゃん。
ささやかな2人だけのパーティーが始まった。


「うんま!麗奈天才!」
「本当?よかった♡」
「ねえ、お酒っておいしいの?」


半分くらい飲み進めたれなのコップを見て、天ちゃんは問いかける。


「味が美味しいってわけじゃないけど…」
「じゃあ何で飲むの?」
「ストレス発散?酔うのが気持ちいいから?」
「ふーん、天ちゃんも飲んでみたい」
「20歳になってからねー」
「ぶーぶー」


普段は大人っぽい天ちゃんだけど拗ねた顔は年相応で愛おしい


「そういえば誕生日プレゼントこんなのでよかったの?お酒飲んだ気分味わいたいって」
「うん!嬉しい!」
「ならよかったんだけど」
「いっつも大園ばっかり羨ましかったんだー。
可愛い麗奈を独り占めさせませーん」
「ふふ、天ちゃんが20歳になったら一緒に飲もうね」
「うん!」


夕飯を食べ終わり、天ちゃんと一緒に作ったチーズケーキを食べ始める。


「天ちゃん…天ちゃん?天さん!」
「ん?」
「注ぐの早すぎ!一回もれなグラス空いてない!」
「だって空になる前にそそぐんでしょ?こういうの」
「だからどこで教わるの?」
「んー?ケーキもう一個食べていい?」
「いいけど!」


天ちゃんに三回目を注がれた時にはれなの酔いも大分回ってきていた。


「麗奈顔赤い」
「天ちゃんのせい」
「えへへ、隣いっていい?」
「だめって言っても来るでしょ」
「行っちゃう〜」


天ちゃんが麗奈の隣に座り直した。

「すご、麗奈顔あっつ」

手の平をれなの頬に当て、上がった体温に感動してる。

「れなで実験しないでよ」
「お酒ってこんなんなっちゃうんだね、麗奈はお酒飲むとどうなっちゃうの?」
「いつもの100倍可愛くなる」
「すげー!ちゃんと酔っ払ってる」
「肯定して?」


おしゃべりしながら飲んでいるからか、天ちゃんに乗せられて早いペースで飲んでいるからか、それとも天ちゃんがいてリラックスしてるからなのか
正直体がすごく熱いしふわふわしてきた。


「めんどくさくなっちゃう前に一旦片付けよっか」

酔っ払いの麗奈をよそに、相変わらず天ちゃんはしっかり者のお姉さんだ。
食器を片付ける流れで、お酒のグラスも片付けようとすると「とりあえず置いとこ?」とグラスを片付けることを許してくれなかった。


食器を片付け終わり、まったりとした時間を過ごす。
天ちゃんは普段から人との距離が近い。
2人で横並びになりながらテレビを見ているが、肩同士がくっつく距離だ。

ぼーっとテレビを見ていると天ちゃんがぼそっと呟いた。


「茉里乃たちもうキスしたんだって」


大園ちゃん手出すの早いなぁ


「そうなんだ」

「そうなの」


茉里乃ちゃんに先越されたくないのかな

少しだけ酔いが覚めてきた気がする


「麗奈、天ちゃん今日誕生日だよ」
「うん」
「19歳です」
「そうだね」
「大人です!」
「うん」
「麗奈ぁ」
「なあに」
「…えっちしたい」


いつのまにか天ちゃんは正座をしてれなの方を見つめていた。


「二十歳までしない約束でしょ?」
「そうだけどさぁ、でもさぁ、もう19歳だよ?」
「うん、おめでとう♡」
「ありがと、じゃなくて!なんで!?」
「なにが?」
「麗奈は天ちゃんとしたくないの!?」
「天ちゃんはとっても魅力的だよ」
「魅力的って、わかんないよ…私が子どもだから?」
「ちがうよ」
「じゃあなんで」
「ダメなものはダメなの」
「他の子たちはもうしてるよ」
「それでもダメなの」
「したい!」
「だめ!」
「やだ!」
「だめ!」


こんな押し問答を数分続け、お互いに息が切れる。


「せっかくの誕生日だよ、天ちゃんとケンカしたくないよ」

「だって麗奈がいけないんだもん。麗奈頑固すぎ」

「でもこれは約束だから、天ちゃんもしつこい」

「んーー!!!誕生日なのにぃ…」


天ちゃんに我慢してもらっているという自覚はある。
この約束は麗奈が決めた麗奈のわがままだから。
だけど、これだけは譲れない。


しょんぼりとしている天ちゃんを見ると心が痛んだ。

こんなにしつこく食い下がられると思わなかったから、さすがに罪悪感が芽生える。

お酒の力は本当にすごい
普段なら絶対に言わないようなことを簡単に口走ってしまう


「そんなに言うなら触ってみる?」


酔いが覚めたのは気のせいだったようだ
やっぱりれなもすごく酔っていたみたい
そう、お酒のせい


「へ?」


驚く天ちゃんの腕を取り、手のひらをれなの胸にあてた。

胸には天ちゃんの手のひらの感触。

お酒のせいなのか、天ちゃんのせいなのか

天ちゃんの手のひらからドクドクと脈打つ音が伝わってしまうんじゃないかってくらい心臓の鼓動がとても速い

全身の血液が顔に集まってくる


天ちゃんを見ると

「………」

無言でカチコチに固まっていた


「天ちゃん、顔耳まで真っ赤」

「ハイ」

「…どうでしょうか」

「し、し、心臓が爆発しそうです!!!」


見たことないくらい真っ赤な顔をした天ちゃんはそっと反対の腕でれなの腕を掴み、胸から手を離した。


「わがままいって申し訳ありませんでした」


天ちゃんはカーペットに頭がつくくらい深く頭を下げた。

「れなもびっくりさせてごめんね。もうちょっと待っててほしいな」

天ちゃんの頭を上げさせてほっぺたを撫でた。


「ん、麗奈の言うこと聞く、ちゃんと待てる」
「ありがと、いい子」
「でもさ、ちゅーならいいでしょ?」
「いつもしてるよ」
「大人のやつ」
「大人のやつもしてるでしょ」
「たしかに」
「まー、19歳は大人なんだもんね?いいよ」


ニヤっと笑った天ちゃんはれなの頬に手を添え唇を塞ぎ舌を差し込んできた。
れなも目を閉じ、舌を絡ませるキスに集中する。

初めてのガチガチに緊張してた天ちゃんとは比べ物にならないくらいキスが上手になったなぁ
なんか感慨深いや
ああなんか気持ちいい

しばらく濃厚なキスをしながらそんなことをふわふわする頭で考えていると、唇が離された。


「麗奈いま違うこと考えてるでしょ」

「ばれた」

「天ちゃんのこと考えてくれないともっとちゅーしちゃうよ」


天ちゃんのこと考えてたんだけどね


「じゃあ天ちゃんのこと考えない」

「…あのさぁ、可愛すぎ
そういうの絶対わたし以外に言っちゃダメだからね」


頭に手を回され、ぐっと引き寄せられる。


「苦しいって言っても辞めないんだから」

「今日の天ちゃんはちょっといつもと違うね」


普段はしっぽの幻が見えるくらいの大型犬感満載の甘えん坊だけど、今日はなんだかかっこよさも少しだけある。


「もうお子ちゃまじゃないんで」


とびっきりのドヤ顔が返ってきて
やっぱり天ちゃんは天ちゃんだった。


「ねえ、天ちゃん
来年の誕生日も祝わせてね」

「何言ってんの?ずっと麗奈が祝うに決まってんじゃん」

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