🦉と🧀の話

「えーと…?」

課題への集中力がゼロになり、ペン回しで世界を獲ろうかと考え始めた時、いいタイミングで着信がきた。

『助けて』

気だるそうな大園からの電話だったので無視しようかと思ったが、気晴らしに丁度良いと思い、綺良と茉里乃とよく来るショッピングモールのフードコートへ足を運んだ。


窓際のソファ席に大園と茉里乃と綺良が座っている。


なにこの謎メンツ


「勉強中だった?これで好きなの買ってきなよ」

大園は自分のスマホのQRコード決済画面を開き、私にスマホごと差し出した。

そんな大園の隣には大園の腕を絡めピッタリとくっ付いている綺良がいた。


茉里乃なら分かるけど何で綺良?


疑問はあるけどせっかくの奢りなので遠慮はしない。

ポテトとシェイクを買い、茉里乃の隣に座る。

「天さんもポテトにしたんですか?」
「ポテトばっかになってもうたな」
「幸阪が私のマネするんやろ」
「してへんわ、ほんまボコボコにすんで?」


なんだかきらまりが揉めてる気がする。


「どうしたの?」


バチバチ火花が散ってる気がするきらまりは一旦置いておいて、疲れ切ってる目をした大園に話しかける。


「茉里乃ちゃんが綺良ちゃんに私と付き合ったことを報告したんだって。そしたらキレられたって。そんで私が呼び出された。何で呼び出されたかは分かんない。ずっとケンカしてる」


普段賢い大園の説明の仕方がなんか頭悪い。


「やから、何度も言ってますよね?大園さんと幸阪が付き合って、天さんと麗奈さんが付き合って?私1人じゃないですか!勝手に恋人作るな!」

「なんで恋人作るのに綺良ちゃんの許可がいんねん!理不尽すぎやろ!綺良ちゃんも作ればええやん!」

「ワシはみんなの綺良ちゃんやから!それに作れたらとっくに作っとるわ!」

「綺良ちゃんがモテへんだけやろ!まりのが悪いみたいに言うなや!」

「初めて恋人出来たくせにどの面で言うとんねん!ワシやって恋人くらいおったわ!」

「それ幼稚園の時やろ!」

「い〜〜!!もう幸阪には愛想がつきた!絶交や!」

「願ったり叶ったりや!綺良ちゃんなんかもう知らん!」


大喧嘩をするきらまりをよそに、大園が私をガン見してくる。


「ああ、大丈夫大丈夫。これはいつものやつ」
「ほんと?」
「この2人私が知ってる限り100回は絶交してる」
「超仲良しじゃん」

「「仲良くないわ!!」」

「わあ、息ピッタリ」


高校時代から何百回と見た光景なので何とも思わない。


「ねー、大園はさー、茉里乃にどこで告ったの?」
「天ちゃんまで話し始めるんだ。止めてほしくて呼んだのに。私2箇所で繰り広げられる会話に対応しないといけないんだ」
「いいじゃん教えろよ」
「あそこの川のとこ」
「嘘でしょ待って。私そこで麗奈に告ったんだけど」
「ええ…最悪」
「きんも、真似すんなよ」
「してねーよ、いいからケンカ止めて」
「はーい」


「はいはーい!きらまりーケンカやめてー」
綺良と茉里乃の視線の間で弾ける火花をチョップで消す振りをする。


「お姉さんに話してごらんよ」
「「同い年やろ」」

「ほんとにすごいねぇ」


大園が息ぴったりなきらまりに感動してキラキラした目をしてる
こんなのいつものことなのに


「何で綺良は大園にくっついてんの?とりあえず茉里乃も私にくっついとく?」

「そうやな…ああ、玲ちゃんが見たことないくらい悲しそうな顔しとるから止めとくわ」


茉里乃と私で見つめると


「…大園さんと幸阪がいちゃつかないように捕まえてるんです」


綺良はしぶしぶと答えた。

綺良は至って真剣な顔だがいつも嫉妬の矛先が謎だ。


「綺良は茉里乃が取られちゃって悲しいんだよね」

「ちゃうわ!要約すな!」

「茉里乃は綺良に相談とか何もしてなかったの?それは綺良も悲しいんじゃない?」

「恋愛相談はせえへんかったけど、でも玲ちゃんちに遊び行く時は全部報告しとったやん。途中からいらへんって言ったの綺良ちゃんやで?」

「アホみたいな頻度で遊び行くから鬱陶しくなったんや!」

「そんなんまりのはどうしたらええねん!!」



高校時代もケンカしたきらまりの間に私が入って3人並んで移動教室してたっけなぁ

懐かしい



「綺良はね、大園と付き合ってもちゃんと私とも遊んでねって言ってるんだよ、茉里乃」

「やったら素直に言えや!アホ!」

「あー!!アホって言う方がアホなんや!もうええわ!大園さん行きましょ!!」

「え?え?」


意識を遠くに飛ばしてた大園が組まれていた腕を引っ張られ、綺良に連れられて行ってしまった。

「1時間後またここねー!!」

ふんっと顔を背けられてしまったが多分ちゃんと戻ってくると思う。


「天ちゃんあん時は麗奈さん貸してくれてありがとな」


ケンカをすることが日常茶飯事になりすぎていて茉里乃は普段通りの様子。


「ううんー、麗奈が決めたことだからぜーんぜん平気」

「でも嫌やったろ?麗奈さんに告白されるの」

「んー?殴ったから大丈夫。あ…ごめん大園のこと殴って」

「ん?何で?全然殴ったって」

「茉里乃ってそんなふわふわしてる見た目なのにかっこいい性格してるよねぇ」

「えー?可愛いがええなぁ」


茉里乃とポテトを食べながら楽しくおしゃべりをした。



ーーーーーー



「あのー」

「……」

「あの…」

「……」

「綺良さん?」

「…なんですか」


目的地も聞かされず、ショッピングモール内を二人で歩く。

腕は組まれたままだ。

普段一番賑やかな綺良ちゃんが静か過ぎて不安になる。


「あの…まりのち」

「大園さん大園さん!!ゲーセンありましたよ!行きましょ!!」

「ああ、うん」


綺良ちゃんは目を輝かせながらUFOキャッチャーを物色している。


「大園さんってUFOキャッチャー得意ですか?」


大学時代はゲーセンに通い詰めていたのでUFOキャッチャーは大の得意だ。


「割と好きだよ」

「じゃあこれ取ってください」


指さされたのはおっきなピクミンのぬいぐるみ


「いいけど」

「これは大園さんへの試練です。
このピクミンが取れぬのならば幸阪は渡さん」


綺良ちゃんは組んでいた腕を解き、手を腰にあて踏ん反り返っている。


「いくらかかろうとも絶対に取ります」



1000円で取れた。


「大園さんすごいすごい!ほんとに取れちゃいましたね!」


綺良ちゃんは大はしゃぎだ。


「はい、どうぞ」

「いいんですか!可愛い!見てください大園さん!可愛いです!」

「はいはい、ほら袋」


こんなに喜んでくれるとUFOキャッチャーのしがいがあるな


「もー、こんなにすごいんなら言ってくださいよ。これだけで満足しちゃいました。ああ待ってくださいガチャガチャも見たいです」

「うん、いいよ」


しばらく2人でガチャガチャとゲーセンを楽しんだ。


「そろそろ1時間ですね。戻りましょう」

「ちゃんと時間は守るんだ」

「当たり前です」

「あ、腕も組むんだ」

「何ですか!?幸阪と組みたいってことですか!?」

「いや、そういう訳じゃないけど」


フードコートへ歩みを進めながら、気になってることを尋ねる。


「あのー、綺良さん、ピクミン取れましたけども…」

「まあ、仕方ないですね。約束は約束です。幸阪は大園さんに差し上げます。幸阪のことで困ったことがあれば私になんでも相談してください。腐れ縁なので」



正直綺良ちゃんの気持ちが一番心にひっかかっていた。
親友の茉里乃ちゃんを突然私に奪われてしまったんだ。
嫌な気持ちにもなるだろう。
嫌われてしまう覚悟もしていた。
それなのに綺良ちゃんは私とも普通に接してくれて、なぜか密着されてはいるけど。
安心した。
本当によかった。



「ありがとう、綺良ちゃん」

「でも調子に乗らないでくださいね?幸阪のことを一番笑わせられるのは私です。幸阪のこと泣かせたら私が許しません。あと私とも遊ぶように幸阪に伝えておいてください。大園さんも私と遊んでください。」

「分かりました。師匠」

「約束ですよ。弟子よ」


ーーーーーー


「幸阪!天さん!見てください!これ大園さんに取ってもらったんです!どうや、羨ましいやろ!」

「あー!綺良ちゃんばっかずるい!玲ちゃんまりのにも取って!」

「大園!天ちゃんにも取れ!」


「こ、子守り…」


総額 12,000円UFOキャッチャーに費やした。

でもまあ嬉しそうだしいっか。
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