🦉と🧀の話



「そんな急いで食べんでもええよ?なんなら住所教えてもらえれば自力で行くで?」


パフェをもりもり食べるまりのに田村さんは気づかう。
パフェはうまい。


「もうちょっとで食べ終わります」


積もる話がありすぎるみたいで
玲ちゃんの家に場所を変えることになった。
まりのは遠慮しようとしたのに「茉里乃ちゃんもいて」と玲ちゃんが言うもんだから、気乗りしないけど付いていくことになった。

「茉里乃ちゃん、付いてる、口」
「ん?どこ?」
「逆」

玲ちゃんに口についた生クリームを拭かれた。
田村さんが見ているので恥ずかしいからやめてほしいのに。


「パフェなぁ、昔はいけてたんやけど、ほのはもう胃もたれするから一個が限界や」

「早くない?保乃さんだって若いでしょ」

「ほんまに、突然来んねん、胃もたれは。茉里乃ちゃんはいくつなん?」

「今年19になります」

「てことはまだ18なん!?若いなぁ!大学1年?」

「そうです」

「そうなん!赤ちゃんやん!かわええなぁ」

「赤ちゃん…」

「ちょっと保乃さん、赤ちゃんはないでしょ」

「ごめんなさい!」

「あ、はい」

「ほら、茉里乃ちゃん食べ終わったし行きましょ」


玲ちゃんの家に徒歩で移動してる間、田村さんはずっと喋っている。
仕事の出張でしばらくの間この辺りにいるようだ。
たまたま仕事が休みでフラフラしていたらファミレスの窓から玲ちゃんとまりのが見えたらしい。

田村さんは人当たりがよくて明るいけど、なんとなく目がこわい。
なんか、観察されてるというか、見透かされてる感じがする。

そんな気がする。

ま、気のせいか


玲ちゃんのうちに着き、大人たちの酒盛りが始まった。

なんか玲ちゃんいっつも酒飲んでない?
ほんまどうなっても知らん。

田村さんと玲ちゃんは昔話に花を咲かせる。
玲ちゃんはなんだかあんまり乗り気ではないみたいやけど。


「しかし玲ちゃん久しぶりやなぁ?全然連絡してくれへんねんから!」
「あー、すみません」
「あれは?居酒屋で口説いた子。気に入っとったやん。その子にも連絡してへんの?」


ほおん、玲ちゃん大学生の時チャラかったんや。
玲ちゃんが死んだ魚みたいな目でまりのを見てくるから、続けてどうぞ、と手のひらを向けジェスチャーをした。


「連絡先消しましたね」
「え!?じゃああの子は?バイト先の下の階のドラッグストアの子」
「その子も消しました」
「ほんま!?大学のコンビニでバイトしてた子も?」
「消しました」
「サークルの後輩も?」
「消しました」


「いや何人女おんねん」


思わず突っ込まざるを得なかった。


「ちがうの!」と玲ちゃんがまりのの肩を揺する。


「違うん?」
「保乃さんは黙ってて」
「あはは、ごめんな茉里乃ちゃん。何の話か分からんくてつまんないよな」
「玲ちゃんの昔の話もっと聞きたいです」
「ほんま?いくらでも話せんで?」


「玲ちゃんはなー?」
田村さんはふわふわした話し方で玲ちゃんの過去を洗いざらい教えてくれた。

どうやら玲ちゃんと田村さんは学生時代、かなり女の子で遊んでいたらしい。


ふーん


「1週間で何人持ち帰れるかとか勝負したもんな?懐かしいなぁ」
「いや、まあ」
「どっちが勝ったんですか?」
「ほのやで!」
「田村さんなんや」
「もう許して」


丁度インターホンが鳴り、荷物が届いたみたいだ。
その場から逃げるように玲ちゃんは玄関へ向かった。

印鑑と一緒にタバコも持ってったの、まりのは見逃さへんかったからな



「なあなあ、茉里乃ちゃんは玲ちゃんとどんな関係なん?」

田村さんが不思議そうに問いかける。
そういえば説明してなかった。


「えーと、玲ちゃんの同僚の恋人の友達でしたね」
「なんかめっちゃ遠いなw」
「たしかに、今は普通に友達です」
「ほんとに友達なん?」
「え?」
「付き合ってるんやないの?」


田村さんは真っ黒な目で真っ直ぐにまりのの目を見つめる。


「誰と誰が?」
「茉里乃ちゃんと玲ちゃん」
「いやいやいや、ほんまに付き合ってませんよ」
「あ、そうなん?ほのの勘も鈍ったなぁ、玲ちゃん茉里乃ちゃんの事好きやと思ったんやけど」
「ええ?ないですよそれは」
「なんかな、全然昔とちゃうねん、玲ちゃん。こんなに柔らかい雰囲気やなかったんよ」


田村さんはうーんとアゴに手を当て考える。


「どう違うんですか?」

「ほのが知ってる玲ちゃんはな、冷めてる子やったんやで?来るもの拒まず去るもの追わずを徹底してて情もないし。あ、でも人の恋人取る時とほのと遊んでる時は楽しそうやったな」

「最低どクズ野郎やったんですね」

「あはは!そうそう。年下の子の口のクリーム拭いたり過去晒されて言い訳しようとするようなキャラやないんよ」

「最初に会った時から優しいお姉ちゃんやったんですけどね…」


2人で玲ちゃんに何が…と首を傾けたところで、玲ちゃんが戻ってきた。


「2人して何で同じ顔してんの?」

「あ、最低どクズ野郎おかえり」
「あはは!茉里乃ちゃんおもろいな!最低どクズ野郎おかえり」
「おい!茉里乃ちゃんに何を吹き込んだ!」


田村さんがまりのを気遣ってくれたんだろう。その後は話題が大学の単位の取り方やサークル飲み会での立ち振る舞いなど、お姉さん方が色々と教えてくれた。


「あ、玲ちゃんごめんなティッシュある?」
「あ、寝室に持ってっちゃったんだ。取ってきます」
「ええよ!ほの取ってくんで」
「したらそこの奥の扉です」
「ほいよー」


田村さんが席を外した。


「…」
「…」

静かにしている玲ちゃんを見るが、目が合わない

「…」
「…タバコ吸ってたやろ」
「い、一本だけだよ」
「ほんとは?」
「二本…」
「タバコ臭い」
「ごめん…」

玲ちゃんはしゅんとしてしまった。
まりのに嘘をつくのが悪いのでいじめてやる。


「玲ちゃんあのベッドまだ使うてたんやな!」


田村さんが元気よく戻ってきた。
ティッシュはすぐに見つかったみたいだ。


「あれ?あのベッド田村さんのやったんですか」
「そうやで〜懐かしいわ、いっぱいお世話になったのになぁ?結構丈夫なんやなマットレスって」
「あれ20万くらいするやつでしょ?そりゃもちますよ」


待ってまりのがいつもダイブしてるあのベッド20万もするん!?


「あのベッドそんな高かったんですか!?」
「ホテル代のが高くつきそうやったから奮発してん」
「ホテル?」
「ラブホ」
「ラブホ…」
「おい田村、茉里乃ちゃんにラブホとか言わせるな」


ふと田村さんの言い回しが気になってしまった。


「ん?お世話になったって?」
「茉里乃ちゃん、もうやめない?」
「えっちなことをするのに。な?玲ちゃんともいっぱいしたもんな」

玲ちゃんが顔を手で隠す。

そういえばファミレスで玲ちゃんが遮っとったな。


「……へ、へぇ、いっぱい…」


気の抜けた返事しかできひんかった。
玲ちゃんが遊んどったのはなんとなく察してたけど、改めて体の関係があった2人を目の前にすると、ちょっとだけ動揺する。

し、なんか美人同士でしてたなんて


なんかえろい


「茉里乃ちゃんちょっと想像したやろ?」
「し、してへんわ!」


助けを求めようと玲ちゃんの方を見たが、なんだか泣きそうな顔になっていた。

これは本当にまりのがいない方がいいかも
と改めて思ったし、えろい話題を上手く躱せる方法も分かんないから帰ろうと思う。


うん、それがええ
そうしよう


「ぜんぜん気まずいからとかじゃないんですけど、まりのそろそろ帰りますね」

「切り上げ方下手すぎやな」


田村さんに突っ込まれながらカバンを肩にかけると
「送る」とだけ言って玲ちゃんがスマホをポケットに入れる。

「保乃さんは大人しく留守番してて」
田村さんは「はいはい」と呆れた顔で手を振り「茉里乃ちゃんまたな!」と明るく挨拶してくれた。



ーーーーーーー


もうすっかり夜も遅くなってしまった。

駅までの道を玲ちゃんと並んで歩く。


「茉里乃ちゃんごめんね、わがまま言っちゃって」

「ええよ、まりのも面白かったよ」

「あの…引いた?」

「なにに?」

「私の過去」

「びっくりはしたけど引いてへんよ」


驚いたのも引いてないのも本当。
だけどちょっとだけ胸がチクチクしたのは言わないでおく。

引いてないって言ってるのに、玲ちゃんの眉毛はハの字から戻らない。


まったくこの人は…



玲ちゃんの腕を掴み、歩みを止めさせ正面で向かい合う。


「玲ちゃんなに?言いたい事あるんなら言って」


ちょっと不貞腐れたような表情で黙っている玲ちゃん。
でもまりのが言うまで黙っていると、渋々口を開いてくれた。


「…茉里乃ちゃんに嫌われると思った」


心底くだらない理由でこの人は泣きそうになってたんやな。


「嫌いになるわけないやろ。うじうじしてる方が嫌いやで」


玲ちゃんのほっぺたを両手で挟んでムニムニする。


「こないだの仕返し」


本を返した時の仕返しをしたら「んー」なんて鳴き声を出しながら嬉しそうな顔をしてる。

ドMなんかなこの人。


駅に向けてまた歩みを進める。


「保乃さん泊まってくのかなぁ」
「そうなんやない?」
「そうだよねぇ」
「嫌そうやん」
「うちお客さん用の布団ないからさぁ。ソファに転がしとけばいいか」
「今度買えばええやん」
「そうするよ」
「…田村さんとえっちしちゃあかんで」
「しないよ。嫌なの?可愛い」
「調子乗んな」
「はい」


おしゃべりしてるうちに駅まで着いた。


「ありがとうな。気をつけて帰るんやで」
「うん、茉里乃ちゃんもね」

ぺちぺちとハイタッチしていたら手を玲ちゃんに握られて左右に振られる。

ずっと気になっていたことを思い出した。


「そういえば」

「ん?」

「なんでまりのも一緒におらしたん?田村さん久しぶりやったんやろ?」

「あー、なんかね」


玲ちゃんはさっきまでのへなちょこな表情じゃなくなってた。


「保乃さんとずっといたら昔の自分に戻っちゃいそうだったから怖かったんだよね。だから茉里乃ちゃんがいてくれてよかった。ありがとう」


なんか感謝されてるけど何でか分からんくて「ほーん」と返したら「分かってないでしょ」と分かってないのがばれてた。

もうすぐ電車が来るからとバイバイした。

玲ちゃんはまりのが見えなくなるまで手を振ってくれた。

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