🦉と🧀の話



「決まった?」

ファミレスの向かいの席には大園さん
いや、玲ちゃん

社員旅行中に出し忘れたゴミ出しを頼まれた。
そのお礼でファミレスで好きなものを食べていいって。


「うーん…」
「何と何で悩んでるの?」
「こっちのいちごのパフェも食べたいんやけど、チョコのパフェも食べたい」
「可愛い悩みだね」
「貧乏学生には大きな悩みやねん!」
「そしたら私も頼むから二つ頼めばいいじゃん」
「ほんまに!?ええの!?最高!」
「すっごいいい笑顔…」


玲ちゃんの会社では2泊3日の社員旅行やったらしい。


「社員旅行どうやった?ずっと麗奈さんと行動しとったんやろ?」

「うん!」


麗奈さんを独り占め出来たみたいで玲ちゃんは嬉しそう。


「部屋も一緒やったんやっけ?」
「そうなの!なんでも知ってるね!」
「あんたが逐一嬉しそうに報告してくるからやろ」


そう、この三つも歳が離れている社会人に、まりのは大いに懐かれている。



「本当に幸せなひとときだった…」


玲ちゃんは胸に手を当てて噛み締めていて気持ち悪い。


「でもなんか泣きそうな声で電話かけてきたやん」


確か2泊目の夜21時頃。
まりのが家で録り溜めたドラマを消費してると、玲ちゃんから電話がかかってきた。
すぐに出ると『茉里乃ちゃぁ〜ん』って情けない声が聞こえてきた。
また弱音が始まるって思ったら『麗奈さん帰ってきた…またね…』と電話が切られた。


「ああ、すぐ切ってごめんね。麗奈さんが電話してくるねって、部屋出てったの」

「おん」

「天ちゃんに電話しに行ったの」

「やろうね」

「社員旅行なんて本当は全く行きたくないよ?でも麗奈さんがいるだけで幸せなイベントになるの」

「うん、分かっとるよ、玲ちゃんの麗奈さん愛すごいもんな」

「そんな幸せの最中、天ちゃんの存在が現実に引き戻してくるんだ」

「玲ちゃんは眼中にないってな」

「ねぇひどい!!言わないでよ!」


玲ちゃんは顔を手で覆ってしまった。

過去のまりのは言い過ぎたかも…と反省していたと思う。
しかし、毎日LINEか電話で麗奈さんの可愛いエピソードを聞かされ、だいたい月3で行われるお泊まり会ではべたべたに甘えられ、もうこの人に対して全く遠慮をしなくなった。
ちゃんとはっきりと言ってあげることも優しさやと思う。


「玲ちゃん、パフェきたで、ほら、拗ねてないで食べーや」

まりのの元へ来たいちごパフェのいちごをスプーンですくって玲ちゃんへ向ける

「ん?いいよ、茉里乃ちゃんが食べな」
「ええの?うんま!」
「良いって言う前に食べたじゃん、ほら、これも食べな」


玲ちゃんはチョコパフェのブラウニーをまりのに差し出した。


「うまっ」
「よかったね」
「なんか玲ちゃんっていっつも美味しいとこまりのにくれるな」
「可愛いんだもん。茉里乃ちゃんおいしそうに食べるから」
「本音は?」
「餌付けしてるみたいで可愛い」
「ぼこぼこにすんで?」


玲ちゃんもまりのに全く遠慮しなくなったな。
これは心外やけど。


「まりの考えてん」
「何を」
「玲ちゃんの幸せになる方法」
「お」
「まず麗奈さんを諦めてください」
「うう」
「あ、泣かんで。次に新しい好きな人を見つけてください」
「…」
「以上」
「簡単に言うけどさぁ」


難しいんですよ、と玲ちゃんはパフェに目を落とす。


「やったらどんな人がタイプなん?」

「茶髪のロングで肌が白くてふわふわしてて天然っぽいのに芯がある美人」

「麗奈さんのこと言えって言うとんとちゃうねん」

「本当にタイプなの」

「見て、外歩いてるお姉さんみたいな見た目ってことやんな」

「え」

「めっちゃ綺麗な女の人。なんとなく麗奈さんに似とるなあ、目合った、こっち来るやん」

「…」

「むっちゃ手振ってんで?知り合い?」

「……知り合い…」

玲ちゃんは机に突っ伏した。

流石にお店の中の人も通行人もまりの達に注目をしてるからどうにかしてほしい。


「玲ちゃんどうにかして」
「はい」


渋々立ち上がり、外に向かって歩き出す。
麗奈さんに雰囲気が似てる女の人が玲ちゃんに抱きついて思いっきり頭をわしゃわしゃしてる。

どんな関係やねん

玲ちゃんが女の人をファミレスに招き入れた。

まりのの隣に玲ちゃんが座り、元々玲ちゃんが座ってた向かいの席にお姉さんが座る。


「こんにちは!おめめくりくりでお人形さんみたいやなぁ。お肌真っ白やん!」


ハキハキと通る声でまりのの見た目を褒めてくる。


「保乃さん、茉里乃ちゃんが怯えてます」


机の下で玲ちゃんの服の裾を思い切り握りしめてしまったから、玲ちゃんが察してフォローしてくれる。


「ほんま?ごめんな?人見知りなん?それも含めて可愛いやん」

「玲ちゃん、この人だれ…」

「ああごめんな!自己紹介が遅れたわ!田村保乃です!よろしくな!」

「幸阪茉里乃です…」


ハキハキと快活に喋り、見るからに明るい陽キャ。
めちゃめちゃ顔が小さくて美人。
しかも茶髪のロング。

何者…?

「お?茉里乃ちゃん、お前何者?って顔しとるな?
玲ちゃんとはなー?大学の先輩後輩でな?ほのが2つ上やねん。バイトも一緒でなー、むっちゃ遊んだよな?あと元セフ…」

「ちょっと!ばかばかばかばか!」

「セフ?」

「まりのちゃん、忘れて?ね?」


ちらっと玲ちゃんの顔を盗み見ると
なんだか少し遠い目をしていた。
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