🦉と🧀の話


「大園さーん、まりのですー!まりのー!」

天ちゃん、綺良ちゃん、麗奈さん、大園さんと5人で遊びに行った後、何故か馬が合ったようで大園さんとよく遊ぶようになった。

大園さんは本をよく読むみたいで、家のおっきい本棚が全部文庫本で埋まっていてとってもかっこよかったのを覚えている。


大園さんはかっこいい。
優しいし面倒見がいいし大人の女性って感じ。
まりのたち学生組もちゃんと相手をしてくれるから、まりのは大園さんが大好き。
仲良くなれてとっても嬉しい。


本を読む女性に憧れて借りたはいいものの全く読むことができなかったので、今日は本を返しに大園さんの家に来た。


インターホンを鳴らしたけど、なかなか出てこない。
いつもならすぐに出てきてくれるのに。

電気は付いとるから絶対におる。

おーい、と呼びかけていたら
プッとインターホンの接続音がした。

『いま行くから静かにしてて』

すぐに玄関の扉が開いた。

半袖のTシャツに長ズボンのジャージ姿だった。

「寝てたんですか?」
「んー、まあ」
「なんやまあって」
「本返しに来てくれたんでしょ?ありがとね」

そう言って手を差し出す大園さん。

でもまりのは本を渡したりしない。

「やだ、遊ぶ」

「そうくると思ったよ…」


大園さんの家は本当に広い。
何度も来てるけどいつも感動してしまう。
ソファもテレビもおっきい。
本当に一人暮らしなんですか?って聞いた時は「そうですー」とちょっとだけ不貞腐れてたっけ。


「でね。こういう話なの…ねえ、聞いてないでしょ?」

今は大園さんちのリビングにあるでっかいソファにまりのは正座、大園さんは胡座で向かい合って座り、まりのが読むことを諦めた小説のストーリーを解説してもらってる。


「聞いとったよ」
「じゃあ説明してごらん」
「今はできひん」
「それを聞いてなかったっていうの」


まったくもー、と呆れる大園さん。
でもなんかいつもの大園さんじゃない。
トゲトゲしてる感じ?
なんかあったのかな。


「まーりーのちゃん」
「ふぁい」

ほっぺたを両手で挟まれる。
しかも思いっきり。

「おおぞのふぁん、なんかへんや」

まりののほっぺたをムニムニしていた両手が一瞬ピクリと止まった。

「何でそう思うの?」

「んー!やーや!やめて!」

大園さんの手を剥がすと、ごめんねと頭を撫でられた。

「なんか………顔が変?」

「わー失礼でびっくりしちゃったよ」


いつもと顔が違うんよ。
ちょっと暗い?というか。
とにかく普段の大園さんと違う。
これは確信やった。


「なんか嫌なことでもありました?」
「ありませんよ、そんなの」
「絶対嘘や」
「嘘じゃないよ」
「じゃあまりの当てますよ」
「当てなくていいよ」
「やーだ!大園さんが冷たい!」
「もー、騒がないでよ」


だいたい駄々をこねると大園さんが折れてくれるのに、今日は全然相手にしてくれなくてつまんない。

「今日大園さんち泊まる」
「何で急にそうなるの?」
「酔わせて喋らせる」
「こーわ」

嫌そうな様子を見せながらも、パンツ持ってないでしょ?と気遣ってくれる。
なんだかんだお泊まりすることを許してくれた大園さん。
やっぱり大園さんはすごく優しい。

一回家に帰りお泊まりセットを準備してから再度大園さんの家に向かう。

時刻はもう21時。
すっかり準備に時間がかかってしまった。

電車に乗っていると

夕飯ないからコンビニで買い出ししよっか*
天ちゃんとこおいで

とLINEが来ていた。
ちょっとだけ夜道が怖かったからとっても安心した。


「あんたらほんとに仲良いね」

レジを打ってる天ちゃんが呆れた表情をしている。

「この酒まさか茉里乃は飲まないよね?」
「飲まへんよ。大園さんの分」
「私、飲まされるみたい」

茉里乃が大園さんのお酒を選んだ。
お酒のことは何も分からないので、なんか可愛いパッケージのやつにした。
茉里乃はオレンジジュースにした。

「おい大園。茉里乃のこと襲ったら本当に許さないからな。ポイントカード出して」
「ああ、ありがと。襲いませんよ」
「茉里乃、大園めちゃくちゃ酒癖悪いからね?なんか嫌な事されたらすぐ私に言うんだよ?」
「え?そうなんですか?」
「いやいやいやいや、お酒に酔ったことありません」
「ここに大嘘つきがいまーす!!」

喋りながらも天ちゃんはテキパキと袋詰めして、何も言わずとも割箸を2本入れてくれた。

「茉里乃ちゃんに余計なこと言わないでくださーい。あ、それ袋入れなくていいよ。天ちゃんにあげる」

大園さんがカゴに入れてたコーラは天ちゃんのためやったんや。

「まじ!?ありがとう!」

天ちゃんはにっこにこで茉里乃たちを送り出した。

天ちゃんは素直でかわええな


「大園さん酒癖悪いんですか?」

コンビニ袋を手にもつ大園さんに話しかける。

「えぇ?そんなことないよ〜」
「天ちゃんになんかしました?」
「し…てない」
「やらかしたんや。やって天ちゃんがこんなに人にツンツンすることないもん」
「大園さんを疑うの?寂しいなあ、まりのちゃんは大園さんチームだと思ってたのに」
「チーム?闘うの?」

何を言ってるのか全く分からなかったけど、お酒を飲み始めた大園さんからこの時の言葉の意味がなんとなく分かった。


まりのは今、大園さんの背中をさすっている。

初めてみんなで遊んだ日のサービスエリアのかっこよかった大園さんはどこにもいない。
目の前にいるのは、

誰や?

「うううう」

大園さんは泣いている。

「そんなに好きやったんやな、麗奈さんのこと」

「ううう…すきぃ…」


大園さんは一本飲み終わり、ニ本目に突入したところ。
ちょっとお酒が回ってきてるみたいで、ほんのりほっぺたがピンク色になっていた。


まりのは大園さんが暗い理由を知りたくて
一つずつ思い浮かぶ質問をあげてった。

「偉い人に怒られた」
「ちがう」
「誰かとケンカした」
「ちがう」
「ペットが逃げた」
「飼ってない」
「ええ、もうわからん、まりのがうっとおしい」
「そんなわけない」
「えへへ」
「もう飽きてきてるね?」


うーん、と考えてるフリをしながら
何となくついてるテレビを見るとジュエリーショップのCMが流れており

「あ、そういえば天ちゃんと麗奈さん、指輪買ってましたよね!ほんまラブラブで羨ましい」

「…………」

「?、大園さん?」

「ね………指輪………」


そう呟いた大園さんの瞳から、大粒の涙がぼろぼろ落ちてきた。

本当に突然だったからぎょっとしてしまった。
大園さんの隣に座り、ティッシュを渡す。

「ご、ごめんな?大園さん、まりのなんか悪いこと言った?ごめんなさい」

「ちが…う」


背中をさすると、大園さんがぽつぽつと泣いてしまった理由を話してくれた。

櫻の木の下で初めて会った時、麗奈さんに恋をしたこと。
同じ会社の直属の先輩で天にも昇るくらい嬉しかったこと。
そんな大好きな麗奈さんの恋人が天ちゃんだったこと。


指輪を買ったことを麗奈さんに話され、悲しい気持ちが溢れてしまったみたいだった。


「そうやったんですね…大園さんもしんどかったですね…」

背中をさすりながら大園さんを宥める。
だけど涙は止まらない。

「今まで……好きになった人に、恋人がいてもどうでもよかったのに…」

「え?我慢してたんですか?」

「ううん……奪ってたから……」

「うわ、最低」

「うううう…だっ、てさぁ…てんちゃん、だよ」

「天ちゃんめっちゃいい奴ですもんね。まりの分かりました大園さんの気持ち。天ちゃんと仲良くなっちゃったから裏切れないんですよね」

「は、い」

「でも麗奈さんのことも好きなんですもんね」

「はいぃ」

「困りましたね」

「ううううううう」

止まりかけてた涙の堤防がまた決壊してしまった。
これはまりののせい。
まりのはとりあえず大園さんを抱きしめて、落ち着かせるために背中をとんとんした。


しばらくしてから

「大変、お見苦しい姿を見せて、申し訳ございませんでした」

とくぐもった声がまりのの肩のあたりから聞こえてきた。

「ううん、なんか意外な姿見れてよかったです。一旦寝ましょ!夜だから余計暗い気持ちになっちゃうかもです」

「うん」

大園さんの目は真っ赤だ。

「あれなんで、まりのソファで寝ますよ」

「やだ、だめ、一緒に寝る」


なんか今日最初に会った時と立場が逆転してる気がしてならない。

わかりました、と大園さんちのバカでかいベッドに移動する。
まりののTシャツの肩の辺りは大園さんの涙で色が変わってた。


「ベッドめっちゃ広い」

大人三人でも並んで寝れるくらい大きなベッド。
なのに大園さんにぴったりくっつかれている。
せっかく広いのに。

「泣き止みました?」
「うん、ごめんね」
「大丈夫ですよ。距離近ない?」
「うん」
「うんやなくて」
「さみしい」
「まりのいるやないですか」
「いなくなっちゃうかもしれない」
「いなくなりません」
「絶対?」
「絶対」
「朝起きても隣にいてね?勝手に帰らないでよ?」
「えっ重っ、絶対いますから」
「んー!重いって言ったぁ!」
「わかりましたから、もう寝ましょ」

やっと満足したのか
仰向けで寝るまりのの肩に顔を乗せ、おなかに腕を回される。

この人こんなに甘えるタイプの人やったの?
天ちゃんと喧嘩してる姿と今の姿のギャップで頭痛になりそう

かっこよかった大園さんはもういない
いま隣で寝てるのは恋に悩むただの女の子やった

「なんか、大園さんってよりかは玲ちゃんって感じですね」

「ええ?何それ」

「玲ちゃんって呼びますね」

「うん」


まりのは決めた。
この人が幸せになれるように。
最後まで見届けよう。

おもしろそうやしな。
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