番外編


高校を卒業して数ヶ月、天ちゃんが違う進路に進んでしまってほんの少しだけ悲しかったけど、3人のグループラインは定期的に動いていたからそこは嬉しかった。

まりのたちは大学の話、天ちゃんは専門学校の話をしたり、見つけた面白い動画とか日常の写真が送られてくるグループライン。
ある朝目が覚めると


『綺良!茉里乃!足を手に入れたよ!』


意味の分からないLINEが天ちゃんから来ていた。


『足?なんの?🤔』
『おはようございます。足は何本あってもいいですもんね🐙🐙🐙』
『違うわ、3人で古民家泊まりたいって話してたじゃん』
『うん』
『そんな話もしましたね』
『誰も車運転できなくて断念したじゃない?』
『そうやったな🚙』
『そうでしたね🚓』
『運転手見つけました!!』


天ちゃんのこのLINEから予定が決まるのは本当に早かった。
久しぶりに3人で揃えるのが嬉しかったんだと思う。
麗奈さんも来るみたいで久しぶりに会えるのが本当に嬉しい。

全部で5人になるって聞いてたけど、あと1人は誰なんやろう。

そう思って当日の集合場所になった天ちゃんのコンビニに着くと、しばらくしてから綺良ちゃんがやってきた。

「おう幸阪」
「おう綺良ちゃん」
「お泊まりの支度ちゃんとしよったか?」
「したで、綺良ちゃんもパンツ忘れてへんか?」
「忘れてへんわ!花も恥じらう乙女がパンツとか言うなや!」
「ごめんて」

10分くらいだろうか。
綺良ちゃんと戯れているとレンタカーが止まった。
5人乗りのわナンバーのボックスカー。
天ちゃんが後ろの座席から降りてきた。

「きらまりーー!」
「天さーーん!」
「天ちゃーーん!」

久しぶりに揃ったから3人で抱き合って喜んだ。
綺良ちゃんは天ちゃんに高い高いされていた。

「茉里乃もする?」
「ううん。ええわ」
「幸阪もやってもらったらええのに」

3人でわちゃわちゃしていると助手席から麗奈さんが降りてきた。

「きらまりちゃんたち〜〜!」
「「麗奈さーーん!」」

両手を広げて駆け寄ってきてくれた。
だけど天ちゃんがストップをかける。

「待って麗奈、天ちゃんも入れて」

「うん!分かった
天きらまりちゃんたち〜〜!」

「「「わ〜〜〜〜」」」

4人で抱き合う。

すると、運転席から

「え…全員こんなノリなの…?」

と、引き気味の顔で女の人が降りてきた。
どこかで見覚えのある女性やな
どこで見かけたっけな

「あーーー!!!」

突然綺良ちゃんが叫んだ。

「写真撮ってくれたお姉さんじゃないですか!!」

「そうでーす」

なんでこの人が?とハテナマークが浮かぶ私たちをよそに、麗奈さんが
「みんな、飲み物とかお菓子買お!麗奈のカゴに入れちゃってね」
と仕切ってくれる。
飲み物とお菓子を買って出発した。
お金は全部麗奈さんが出してくれた。

運転席にはお姉さん。
助手席は麗奈さん。
後部座席に3人で座る。

綺良ちゃんとまりのでお姉さんに
「「よろしくお願いします」」と言うと
「うん、こちらこそよろしくね」と爽やかに返してくれた。

高速道路に乗り、普段見慣れない景色が広がる。

そして普段の倍テンションが高い綺良ちゃんのマシンガントークが始まった。

「お姉さんは皆さんとどんな関係なんですか?謎が多すぎます。あ、増本綺良です!綺麗のきに良い子と書いてきらです。名前の由来も綺麗で良い子で綺良なんです。呼び方は何でもいいですが、あだ名はたくさんある方でして、きらちゃん、きらこ、キラ坊、ますも、どろかつ、のどんなど沢山ありましてお好きにお呼びください!」

「じゃあ、綺良ちゃんで」

お姉さんすごい、さっそく綺良ちゃんのあしらい方法を分かってる。

「大園玲です。よろしくね」

大園さんはルームミラーでまりのに目配せをして、自己紹介を求めた。

「幸阪茉里乃です。よろしくお願いします。」

「茉里乃ちゃんもよろしくー」

大園さんは機嫌良さそうにニコッと笑った。
クールな見た目の人やから怖い人なのか少し心配だったけど、優しそうな人で安心した。

「大園さんと皆さんはどんな関係なんですか!?」

まりのも気になってたから話を戻してくれた綺良ちゃんに感謝。

「大園ちゃんはね〜麗奈の会社の後輩なの!すごい偶然だよね〜!あの時綺良ちゃんが連れてきてくれたのは運命だったのかも〜」

「え!?麗奈さんの会社の後輩さんなんですか!?」

「そうだよ、麗奈さんの一個下」

「綺良ちゃんお手柄やん。
でもいいんですか?運転してもらって、みんな免許持ってないから運転変われないですよね」

「あー、いいんだよ、みんなと遊びたかったんだぁ」

大園さんはなんとなく遠い目をしている気がする。

「なんか綺麗な感じに言ってるけど、こいつは私に逆らえないだけだから」


大園さんは天ちゃんに対してなにかやらかして、天ちゃんのお願いを何でも叶えると約束したらしいので、運転手になったそう。
そこで古民家へのお泊まりを提案してくれる天ちゃんは流石だ。
やらかしの内容を説明しようとした天ちゃんは麗奈さんに止められてた。
めっちゃ気になるけど、触れちゃいけない気がしてまりのと綺良ちゃんは追求しなかった。

それからの道中は前と後ろで別れておしゃべりしながら車は進んで行った。

時々天ちゃんが

「うぉおい!大園!しれっと麗奈の手握ろうとすんな!!」

と大園さんを威嚇していた。

麗奈さんに眠気が無くなるツボを押してもらってただけですーと大園さんは返していたが、あれは確実に握ろうとしていた。
まりのは見とったから。

2時間くらい進んだところでサービスエリアで休憩を挟むことになった。

大園さんは速攻どこかへ1人で消えていった。

「あれ?大園は?」
「消えましたね」
「やんな」
「適当に見て合流しよっか」

大きなサービスエリアだったので見るところが沢山あって楽しかった。
気付いたら天ちゃんと綺良ちゃんと3人で周っていて、いつの間にか今度は麗奈さんが消えていた。

「あ〜、麗奈はいつもだから大丈夫。しばらくしたら現れるよ」

あ、デートの時も各々見たいものを見る感じなんやね

飲み物を買いたかったので2人と離れて外の自動販売機へ向かうと、喫煙所で大園さんがiQOSを吸っていた。
スモッグがかかっているガラスの喫煙所だったけど、1番通路に近い灰皿で吸っていたので少しだけ姿が見えた。

ほえータバコ吸うんやーくらいに思っていたら

麗奈さんが自販機で買ったブラックコーヒーを手に喫煙所へ入っていくところを見かけた。


これはスクープや!
そう思って声が聞こえる位置まで歩み寄る。
なんかまりのこんなんばっかやっとるな。


「大園ちゃん運転ありがと!これどうぞ。
吸うんだね!普段は見かけないけど」
「麗奈さん!ありがとうございます〜。集中した後は吸いたくなるんです。
ダメですよこんな汚い空気のところに来ちゃ」
「ふふ、一口ちょうだい」
「えっ!」

どうやら麗奈さんが大園さんのiQOSを吸ったみたいだ。

「…めっちゃ様になってますね」
「すっっごく久しぶりに吸ったよ〜、学生の時吸ってたんだ〜」
「いまギャップにときめいて眩暈がしてます…」
「え?大園ちゃん何言ってるの〜?」

なんだかすごい現場を目撃してしまったみたいだ。
天ちゃんは麗奈さんが元喫煙者だって知ってるのかな?
知らなそうだな。
何となくだけど、内緒にしておこう。


「茉里乃ちゃ〜ん、出ておいでー」


突然麗奈さんに名前を呼ばれた。
どうやらバレてたみたいや。
呼ばれた瞬間めっちゃビビったことは内緒。

「あー、悪い子だー」
煙を吐きながら大園さんが近づいて来て、まりのの肩を抱いて喫煙所の中へ導かれる。

「もうちょっとで吸い終わるから待ってね」
そう言ってまりのの頭をぽんぽんした。

「茉里乃ちゃん、麗奈が吸ってるとこ見たでしょ〜」
「み、見ました」
「これはただでは帰せないなぁ」
「茉里乃ちゃんを買収しましょう」
「ば、買収!?」

大園さんが吸い終わった後、麗奈さんと大園さんがジュースと串焼きを奢ってくれた。
「天ちゃんには秘密にしてね♡」と、まりのは買収されてしまった。
麗奈さんも本当に秘密にしてほしいって感じではなくて、別にバレてもいいんだろうなと思った。


喫煙所の灰皿を囲みながらお姉さん達とお話しした時間は悪い事をしているみたいで、少しドキドキしたけど楽しかった。
3人だけの秘密もなんか嬉しかった。


そのあと3人で天ちゃんと綺良ちゃんを見つけると案の定、茉里乃だけずるい!!と騒がれてしまい2人も好きな食べ物を買ってもらっていた。


「よっっし!行くぞ!」
大園さんは気合を入れた。
今度の助手席はまりのになった。
天ちゃんと綺良ちゃんと3人でジャンケンして勝ったまりのが隣になることに。

優しい人なのは分かるけど、それでも隣の席で何話せばいいかよお分からん。
緊張するし。

「大園、茉里乃のこと口説いたら椅子蹴るからな」
「口説かないよ、そんな乱暴なことしたら車から降ろすからね」
「トイストーリーみたいにするからいいもん」
「1人でウッディとバズやるの?」

天ちゃんと大園さんは仲が悪いように見えて本当は仲がいい気がする。


「ごめん茉里乃ちゃん、これ開けてもらっていい?」
大園さんはキャップタイプのブラックコーヒーをまりのに渡してきた。

開けて渡すと、ありがとーと受け取って飲んでいた。
話すきっかけを作ってくれたんだと思う。

後ろの3人は綺良ちゃん考案のゲームをしていて、声量がとんでもなかったから、ゆっくり喋るまりの達の声が掻き消されることがよくあった。

「いつもこの声のデカさなの?天ちゃんと綺良ちゃんは」
「そうです。すごい声量と速度で話が進みます。スピードタイプです。」
「会話にも属性ってあるんだぁ。大園さんは何タイプ?」
「毒タイプ」
「おい」

大園さんを退屈させちゃうかもと思っていたけど、沢山話しかけてくれてくれたおかげで目的地に着くまでずっと途切れずお話しできた。
まりのがボソッとボケても大園さんは拾って突っ込んでくれたので面白かった。

「幸阪!これ大園さんにもあげてください!」
後ろの綺良ちゃんからサービスエリアで買ったポテトを渡された。
後ろ組はたらふく食べたので残りは2人で食べちゃってください!めっちゃ美味しいですよ!との事。

「大園さんポテト食べます?」
「うん、食べる、ちょうだい」

そういうと大園さんはあーと口を開けた。
食べさせてって事ね。
ほぼ初対面なんやけどな。

口元にポテトを持っていくとぱくっと食べてくれた。
なんか餌付けしてるみたいでおもしろかった。

「これうま!茉里乃ちゃんも食べな!綺良ちゃんありがと!」

たしかにほんまに美味しかった。

まりのの口元と大園さんの口元に持っていく作業を交互にして、あっという間に食べ終わった。

もっと食べたかったな。

そうこうしてる間に目的地に到着した。

今日の宿は古民家。
自分で料理をするタイプの宿で、天ちゃん麗奈さんカップルが夕飯の準備をしてその間綺良ちゃんと2人で大園さんのマッサージをしてあげることにした。

この組み合わせになったのは、2人の時間を作ってあげたかったから
とかではなくまともな料理を作れるのが2人しかいなかったから。

「大園さん運転お疲れ様でした!マッサージしますよ!得意なんです!すごく凝ってますね。これは運転疲れです。すぐに治しましょう。」
「そうですか?なんで2人がかりなんですか?すごく怖いです。」
「まあまあまあまあ、お客さん、うつ伏せになってください。」
「リラクゼーションサロン ますみんにお任せなさい。私は増本、助手の幸阪です」
「幸阪です。先生よろしくお願いします」
「幸阪、きちんと私の施術を見ておきなさい」
「あ、師弟関係なんだ」


2時間後くらいかな。
天ちゃん達が料理を作り終え、まりの達のいる部屋に戻ってくると

「えーと、殺人事件?」

畳の部屋でうつ伏せになり、よくある探偵ドラマの殺人現場の人型の輪郭のようなポーズで、うんともすんとも言わなくなった大園さんを見て麗奈さんがそう言った。

「…」

天ちゃんは無言で大園さんの背中に跨って座った。

そこで突っ込まざるを得なかったのか
「なんか言ってよ!無言で乗んな!」
と大園さんが叫ぶ。

天ちゃんは「ご飯できたよ」と言った。

「「わーい!!」」

「何なのこのガキンチョたち…全身痛いし、もうやだ…」

「まあまあ大園ちゃん、大人組はちょっとだけお酒飲もうよ」

「はい!!!やったー!!!」

「うわ!!急に立とうとすんな!」


その後はみんなで食卓を囲んで、夕飯を食べた。
交代でお風呂に入ったあとに、綺良ちゃんが持ってきたジェンガとかをして遊んだ。
ジェンガはもちろん罰ゲーム付き。
ジェンガを倒した人は、なんかする、という綺良ちゃんが考えた罰ゲームだ。
麗奈さんが驚異の強さで唯一罰ゲームを回避していた。
それと、大園さんが罰ゲームで披露した怖い話が怖すぎて、誰も1人でトイレに行けなくなってしまって大変だった。


あとは、寝室で麗奈さんの隣を巡って天ちゃんと大園さんが揉めていた。
最終的に麗奈さんが全員の寝る布団を決めて、麗奈さん、綺良ちゃん、天ちゃん、まりの、大園さんという順番で落ち着いた。
なんだかんだで麗奈さんが1番大人やって思った。


楽しい時間はあっという間に過ぎた。

もう帰りの高速道路の車内だ。

帰りも途中のサービスエリアまで麗奈さんが助手席、休憩を挟んで次はまりのが助手席になった。

天ちゃんと綺良ちゃんが立候補していたけど、声がデカすぎるというのと、どうせ寝るでしょ、という理由で大園さんから却下されていた。
2人はプンスカ怒っていたけど、案の定後部座席の3人はすやすや眠っている。

「まりのちゃんも眠かったら寝ていいからね」

「ありがとうございます、でも大丈夫です。またまりのが隣で退屈しませんか?」

「ぜーんぜん、まりのちゃんは3人の中で1番テンションが丁度いいから」

多分失礼なことを言われてるけど、それでもなんか嬉しかった。

「大園さんは1人で運転する時何か流すんですか?」
「うーん、ラジオとか聞くかも」
「そうなんですね」
「…」
「…」
「さぁ始まりました。幸阪茉里乃のオールナイトニッポン」
「やっぱりね!やると思ったよ。大人しそうに見えてボケたがりなんだよなぁこの子」


5人でのお泊まりはとっても楽しかった。
天ちゃんと綺良ちゃんとまりのの3人でスマホをいじっていた大園さんの背中に乗った写真、あとで麗奈さんに送ってもらおうと思う。
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