番外編

『遅くにごめんね、ちょっと助けてもらいたい、かも』

22時に麗奈から着信があったから駅に向かう。
麗奈のいつもと違う電話口の焦った雰囲気に何事かと思い足早に向かうと


「あ〜!天ちゃ〜ん!」

「え、どなたですか」


甘ったるい声で私の名前を呼んだのはあいつ。
普段私に向ける無愛想な表情から想像もつかないにっこにこの大園と、なんだか疲れた雰囲気の麗奈がいた。

べっっっろべろに酔っ払った大園が大きく手を広げて私にハグを求めてきた。
鳥肌が立った。


「え、なにどうしたの、ちょっと大園離れてキモいから」

「ごめんね天ちゃん、今日会社の飲み会だったじゃない?麗奈の隣に座った人がすっごい飲ませようとしてきてね、大園ちゃんが代わりに飲んでくれたの」

「そんでこんなになってんの?ばっかじゃないの?」

「大園ちゃんが飲んでくれなかったらもっと酷い目にあってたかもしれないから、許してあげて?介抱しながらここまできたんだけどね、でも流石にね、手に負えなくなってきて」


こいつ、麗奈のこと助けてくれたんだ…

普段は油断も隙もないけど、好きな人にはちゃんとしてるんじゃん
ちょっと見直したかも
私の大事な大事な麗奈を守ってくれてありがと…
……駅前なんだけどなここ、抱きついてきて離れないんだけど、やめて欲しいな、人の視線が痛いんだけど


「ちょっと大園、キモいから、うわ酒臭っ、ちょっとチューしようとしないで、待って麗奈、大園にチューされてないよね?」

「…口にはされてないよ」


あ、さっき見直したけど撤回します。


「麗奈、救急車呼んどいてくれる?こいつボコボコにするから」

「天ちゃん落ち着いて、どうどう」

「れなぁ、こいつ置いてこうよー、そこにゴミ置き場あるじゃん」

「そんなこと言っちゃだめ、大園ちゃんちまで連れてこ!」

「…はぁい…おら!いくぞ!」

「ふぇえ」

「可愛く鳴くな!」

「天ちゃん、優しくね、優しく、それ人だから」


酔っ払いを麗奈と2人で家まで送ることになった。
大園のうちは駅から歩いて15分くらい。
麗奈は初めて行くんだって。
何とか1人で歩けるみたいだけど、普段と様子が違いすぎる。
しかも50メートルおきに立ち止まって夜空を見上げてる。
やべえんじゃんか。


「大園ちゃん、大丈夫?」

麗奈は声をかけて背中をさすってあげてる。
麗奈は本当に優しいなぁ。
もう大好き。

「大丈夫です麗奈さん…ありがとうございます。あれ、これ私の家までの道ですよね?送ってくれるんですか?嬉しいなぁ。愛してます」

「今からでも遅くないよ麗奈、そこに川があるでしょ?わたしが頭を持つから」

「天ちゃん」

「だってぇ」

「2人ともうち上がってきますよね?泊まりますよね?」

「泊まんねーよ」

「やだぁあ、寂しいんだよぉーー」

「うるさっ!ああ!麗奈に抱きつこうとしないで!やめて!!」

「ほら2人とも行くよー」


そんなこんなでやっと大園の家に着いた。
40分くらいかかったかもしれない。
大園んちは綺麗なアパートの2階の部屋。
天ちゃんは遊びに来たことあるから知ってるんだ。

「ひっろ…大園ちゃんって本当に新卒?」

「ふぇえ!?麗奈さんひどいよぉ。わぁ、うちだぁ、すごい」

「ねえほんとお前大丈夫?」

「麗奈も心配だよ。お風呂で溺れるんじゃないかとか、寝たまま吐いて詰まらせるんじゃないかとか考えちゃう」

「うーん…仕方ないから泊まろっか…」

「天ちゃんありがとう!麗奈んちから天ちゃんの服取ってくるよ、あとこの子の家の冷蔵庫何もないからポカリとか買ってくるね!」


麗奈が買い出し係。
私がちょっとの間大園の面倒を見ておくことになった。

酔っ払いにも優しいし、テキパキしてるし、麗奈は本当にいい子だ。
好き。お嫁さんにしたい。


ああ、酔っ払いの面倒を見るんだった。
大園はいつの間にかソファと机の間の地面に座って瞑想してる。

「おい、大丈夫?」

ソファに座り大園に話しかける。
フラッフラの大園の顔面は蒼白でしんどそう。
いや、普段も顔色が良い方じゃなくて真っ白だから普通なのか?
わかんないや。


「大丈夫…」

「それ大丈夫じゃないよ。シャワー1人で入れる?」

「………………………いけりゅ」

「それいけない人のやつだから、ちょっと横になれば」

「ん」

素直すぎてキモい

「待って待って待って待って違う違う!!私いるから!!」

大園は立ち上がると私が座ってるのにも関わらずソファに横になろうとしてきた。

「うわ!あぶな!」

大園の両腕が私の顔の横。
覆い被され押し倒される形になってしまった。
すごい、ドラマとか少女漫画みたいな体勢だぁ。
ああ、現実逃避してる場合じゃない。


「ねえキモいキモいキモい私のこと見えてないの?」

「……ねぇ、今日わたしのことキモイって言いすぎ」


酔っ払ってるから覚えてないのかと思ってた。
あと私の脚の間に膝立てるのやめて欲しい。なんかめちゃめちゃ嫌なんだけど。


「あのー、大園さん?どいてもらえません?顔近いんだけど」

待てよ、こいつ実は悪いやつだからこれ酔っ払ってるフリとかなんじゃない?
そんな考えも思い浮かんできたぞ

大園は何も言わずにゆっくりと私との接地面をゼロにした。
私はいま大園に上に乗られて頬擦りされながら抱きしめられている。

「えへへ、こんなに人とくっつくの久しぶりぃ。あったかいね」


わぁ〜こいつ笑うと目が糸みたいになっちゃうんだぁ

前言撤回。マジでただの酔っ払い。


「麗奈ー早く帰ってきてー」

「天ちゃんってさ、よく見ると可愛い顔してるよね」

急に何、本当にキモいんだけど
私の顔を指でぷにぷにしながらそんな事を言い出すから鳥肌がたった。

「ありがとうございます。起き上がって自分のやることを済ませていただけませんか。お願いします」

大園は冷たいなぁと、ケラケラ笑っている。

「もう麗奈さんとえっちした?」
「してねぇよ!!うるさいなぁ!!お前に関係ないだろ!!」
「あははw怒んないで〜」
「もうほんと嫌」

「ねぇ、えっちの練習する?」

「は?」

「天ちゃん可愛いし、いける」

「いやしねぇよ、おい、起きあがんな、ずっとわたしの上で寝てろよ、目覚めなくていいよ」


大園が起き上がり、わたしの腰の上に跨ってわたしの着ているTシャツの裾に手をかけて、捲り始めた。


「っ!ねえ!!やだやだやだ!!服脱がそうとしないで!!」

「大丈夫だよ、私上手いって評判だよ」

「誰にだよ!?!?」

「セフレの方々に」

「えっ、待って最っ低」

「もー、うるさいなー」


大園は抵抗するわたしの腕を掴み身動きを取れないようにする。
抵抗しようと腕に力を入れるが
は?なにこいつめっちゃ力強いじゃん。
酔っ払い怖っ


「優しくするから」


気色悪いセリフを吐いた大園の顔がゆっくりと近づいてくる。

「え!?冗談だよね?やだやだやだやだ、初めては、初めては麗奈がいいの!!!」

あ、これ、ほんとにキスされる

限界まで顔を背けてぎゅーーと目を瞑った。


目を瞑り数秒が経つが
………あれ、なんもない

右目だけ目を薄めで開けると
超至近距離で瞑想してる大園がいた。

「……無理、眠すぎ」

ぼそっと呟くとさっきみたいにまた私に全体重を預け、すやすや寝息を立ててしまった。


「…ほんとにされるかと思った…」


なぜだろう、少しだけ涙が出た。

ガチャと玄関の扉が開く音がした。


「ただい…ま」

唖然とした麗奈の声

「麗奈ぁ、助けて…」

麗奈は驚いてるみたいだ。
そりゃそうだよね、お腹が全部出てる天ちゃんの上で大園がスヤスヤ寝てるんだもん。
そりゃ訳わかんないよ、私も分かんないもん。


「何もしてないよね?」


この言葉を絞り出した麗奈の顔は
口元は笑顔だけど、目は全く笑ってなかった。

その後は麗奈に大園の下から引っ張り出してもらい、大園を起こしてシャワー浴びさせたりポカリを飲ませたりして2人で介抱した。
その間私はずっと麗奈に事情を説明していた。
あんなに冷たい目を向けられたのは初めてで、絶対に麗奈を誤解させるようなことはしないと心に誓った。

大園をベッドに転がした後、自分たちもシャワーを浴びて、バカ広い大園のベッドで三人で寝た。
麗奈に大園の隣で寝てほしくなかったんだけど、今日は絶対にダメと大園の隣は麗奈になった。
有無を言わせない感じだったので素直に麗奈の言う事を聞いたらわしゃわしゃしてくれた。

次の日に大園が生きてるかを確認して、大丈夫そうだったので二日酔いで苦しんでる酔っ払いを部屋に置いて帰宅した。


平日、大園からLINEが来た。

ねえ、なんか麗奈さんが冷たい気がするんだけど私何かした?

だから

うるさい!!おまえなんかきらい!!

とだけ返した。


そしたらその日の夜に麗奈から電話で

『麗奈があの日のこと説明したら、オフィスで土下座しようとして大変だったよ〜。天ちゃん欲しいもの何でも買ってくれるって!考えときな!』


めっちゃ高いやつにしようと思う。


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