社会人と高校生

櫻が散り始め桜の木に白と緑が混じる。
天ちゃんは高校を卒業し、専門学校へ通っている。
入学式のスーツ姿はしっかりと写真に納めさせてもらった。
トキメキすぎて1週間に2回は見ている。


週5である学校は座学に実習にとっても大変みたい。
すごく疲れてるみたいで今も麗奈の家のソファでスヤスヤお昼寝してる。
寝かせてあげよう、なんて思いながらスマホをいじっていると


「締切っ!!!!!」

「うわ!なに!?!?」
「ふぇ…れなんちだ…」

天ちゃんが飛び起きた。
寝ぼけてたみたい。

「びっくりしたぁ」
「ごめん、寝てた…」


天ちゃんは、せっかくのデートなのにごめんとちょっとしょんぼりしちゃった


「ううん、いいんだよ。学校忙しい?慣れた?」
「まだ慣れない…頭も使うし体力も使うしで大変だよー、まあ自分で決めたんだけどね」
「ふふ、そっか、頑張ってる天ちゃんはえらいよ〜」


そう言って天ちゃんの頭を撫でると、んふふと気持ちよさそうに目を細めた。


「天ちゃんは麗奈ちゃんによる充電の必要があります!よろしいでしょうか!」

「うむ」

「ありがとうございます!」


天ちゃんに思いっきり抱きしめられる。
麗奈はよしよしと背中をぽんぽんしてあげる。


「……はぁー…癒し…いいにおい…すき…れな命…」
「れな命なのー?回復してる?」
「してるしてる、超してる、あ、でも充電速度はそんなに早くないから、まだかかるから」
「よしよし、分かった分かった」


ぎゅーしたまんまの体勢でお話しを続ける。
ゆらゆら揺らされるのは天ちゃんの癖みたい。


「お友達できた?」

「うん!できたできた!すんごいね、宇宙?世界観?な子なの。すんごかったよ、初日から筆箱家に忘れててさ、その子諦めてガイダンスずっと瞑想してたの。心配だから声かけてボールペン貸したら仲良くなった!」


嬉しそうな声色で学校のことを話す天ちゃん。
天ちゃんが楽しそうだと麗奈も嬉しいや。


「寝坊するしさ、課題も忘れるし、すっごい先生に怒られてんの、でもね、めちゃくちゃすごいの、夏鈴が撮る写真。まじですごい、先生も夏鈴の写真はベタ褒めでさ。かっけーの…天ちゃんにはあんなすごいの撮れない………」


ほんとにすごいんだよ?とお友達の撮る写真について説明してくれたけど、麗奈には専門的すぎてあんまり分かんなかった。


「あんな写真撮れるようになりたい」

「天ちゃんがそこまで言うなら麗奈もどんな写真か見てみたいかも。
天ちゃんは夏鈴ちゃんみたいな写真が撮れるようになりたいの?」

「んぇ、まあ………なりたいっちゃなりたいけど」

「そっかぁ、麗奈は天ちゃんしか撮れない写真が見てみたいけどなぁ」

「…………いま麗奈の言葉がぶっ刺さりました」


何気なく言った言葉だったけど、何か気に触ること言っちゃったかな
天ちゃんの抱きしめる力が少し弱まってしまう。

腕をほどかれて、両肩に手を置かれる。
あ、もうぎゅーおしまいか…とちょっとだけ、ほんのちょっとだけ寂しくなってると


「麗奈ってさ、たまに核心つくとこあるよね」

「へ?」

「本人は無自覚なんだよなぁほんとに」


天ちゃんは麗奈のほっぺたを両手で挟む


「麗奈、ありがと」


何に対してのありがとうなのか全く分からないんだけど。
それでも何となく天ちゃんの表情がすっきりしてるように見える。


「どういたしまして?」

「でもあんまり色んなことに無自覚すぎても天ちゃん困っちゃうからね?知らない人に付いてっちゃいけないよ?知らない人から貰ったものも食べちゃいけないからね?麗奈はめちゃめちゃ可愛いんだから」

「麗奈って幼稚園児?」


天ちゃんは写真の専門学校に通っている。
どうして写真なの?って聞いたら
恥ずかしいから秘密と言われてしまった。
内緒にされてちょっと拗ねたけど、麗奈は夢に向かって頑張る天ちゃんを応援する。


「…もう充電完了したの?」
「まだ!!あと40パーセント!」

手を大きく広げ、また麗奈を抱きしめる天ちゃん。

「……麗奈さん?
素直になりなよ。まだぎゅーして欲しかったんでしょ?」


麗奈の気持ちを見抜かれててすっごく恥ずかしいし、なんか悔しい。


「…天ちゃんの意地悪」

そう呟くと

「かわいい」


ゆっくりと天ちゃんの顔が近づいてきて、そっと唇にキスされた。



ドキドキしすぎて、心臓がやばい



すぐに唇が離れてしまった名残惜しさは、元気満点のいつもの天ちゃんにかき消されたけど。
逆に良かったかも。


「これで100パーセント!」

「麗奈、天ちゃんをこんな子に育てた覚えない」

「えぇーなんで怒ってるの〜?れなぁ」


ドキドキを怒ったフリで誤魔化したことはバレてないといいな
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