社会人と高校生


〜♪


仕事帰り、夜道を歩いているとスマホから着信音
相手を確認し、電話に出る


『麗奈〜』


相手は山﨑天
私の彼女


「天ちゃん〜バイト終わり?」

『うん!明日のデートが待ちきれなくて電話かけちゃった。麗奈は仕事終わり?』

「そうだよ〜、バイトお疲れ様」

『ありがと!麗奈もお疲れ様!コンビニ寄る?』

「寄ろうと思ってた」

『ほんと!待ってる!』


ほんとはコンビニに寄る予定がなかったことは内緒

天ちゃんのバイト先は私の帰路のちょうど途中にある
よく行く1番近所のコンビニ

外で待ってるのかな
小走りで向かう

あ、いた

私を見つけて満面の笑みで手をブンブン振ってる


「待った?寒かったでしょ?」

「ううん!全然待ってない!ナイスタイミングで電話できた!家まで送る!」

天ちゃんは当たり前のように車道側を歩くし、自然と手を繋がれて、コートのポケットに入れられる
そういうちょっとした気遣いと立ち振る舞いにキュンとしてしまう


「ちょっとお姉さん、手冷たすぎ!手袋しなよ」
「天ちゃんにあっためてもらいたくて♡」
「うわ!あざとお姉さんだ!かわいい〜」
「可愛いでしょ〜」


こんな関係になるまでにはすごく時間がかかったっけ






社会人になって約半年
なんとか仕事にも慣れてきたけど残業続きで自炊の余裕なんてない
今日も夕飯はコンビニに頼ってしまおう

そうだ。明日書類も提出しないといけないんだった
身分証のコピー、会社でとってくればよかった…

一人暮らしのマンションから歩いて5分の距離にいつも大変お世話になってるコンビニがある
今のマンションを選んで良かったところは大部分がここを占めているかもしれない


「初めてコピー機使うなぁ」
たくさんボタンがあって全くわからない
5分くらいコピー機と格闘してると

「あの…」
後ろから声をかけられた

「あ、ごめんなさい!使いますか?お先に、」

「違います店員です」

コンビニの制服に身を包み、背が高くて長い黒髪を後ろで束ねた女の子だった
顔が小さくてモデルさんみたい

「店員さん!助けてください〜」

すぐに助けを求めた
丁寧にやり方を教えてくれて、なんとか免許証をコピーすることができた

「本当に助かりました!ありがとうございます!」

店員さんにお礼を言ってコンビニを後にする
少し歩いたところで

「おねえさん!おねーさん!」

後ろから声がする
誰か呼ばれてるよー

「もりやれなさん!」



「わたしだ!」

「そうですよ!これ」

手には私の免許証
さっきの店員さんが届けてくれた

「あ!やっちゃってた…本当にありがとうございます…」

「一応確認してよかったです。お姉さんは定番のやつやると思った」

美人だしモデルみたいなスタイルだしこんなに優しくて、今の日本も捨てたもんじゃない

その後は店員さんに地面につくんじゃないかってくらい頭を下げて家に帰った

次の日もコンビニに行くと、昨日の店員さんがレジをしてくれた

「昨日はありがとうございました、これ良かったらもらってください」

夕飯と一緒にレジを打ってもらったココアを渡す

「え!いいんですか!?」

「昨日は本当に助けられました。店員さんのおかげです」

「ふふ、お姉さんうっかり屋さんだから
あの、わたし山﨑天っていいます」

「山﨑さん」

「また来てください」

「近所なのでまた来ます!」

それから山﨑さんとはよく話すようになった
他の常連さんとも仲がいいみたいでおじいさんおばあさんから子連れのお母さんまで分け隔てなく仲がいい
本当によく出来た子だなぁ
学生さんだよね、本当しっかりしてる
麗奈とは大違いだぁ

そこから数日経ち

昨日は珍しく自炊をしたので今日はコンビニは通り過ぎる
山﨑さんいるかなーなんて少しだけ目を向けてみたり

すると

「おねーさん、可愛いねぇ、家近いの?」
ベロベロに酔っ払ったおじさんに声をかけられた

ああ、最悪だ

「間に合ってます」
そう言って通り過ぎようとしたけど、目の前に立ち塞がられた

「お姉さんかわいいね」
そう言われて腕を掴まれる
めっちゃきもい

しつこいからどうしよう、警察呼ぼうかななんて考えてたら

「ちょっと!佐藤さん何してんの!」

山﨑さんの声だ

「天ちゃんじゃないか、お姉さんとお話ししてたんだよ」

「嫌がってるじゃん!どんだけ飲んだのさ、早く帰った帰った!奥さんに告げ口するからね!」

酔っ払いおじさんはしょんぼりしながら帰っていった

「大丈夫でした?こわかった?」

「大丈夫です。また助けられちゃいましたね」

「すみません、うちのお客さんなんです…あの、よかったら家まで送ります…」

「そんな悪いですよ!家近いんで大丈夫です!」

「じゃあ途中まで!麗奈さんと話したいんです」

あまりにも真っ直ぐに目を見て伝えてくるもんだから

「じゃあお願いしちゃおっかな」

夜道を2人で歩き始めた

「山﨑さんは何歳なの?」

「18です!麗奈さんは?」

「何歳だと思う?」

「その答えで20歳越えてることはわかりました!」

「おい」

18歳か
麗奈は22だから4歳差
高校生、キラキラしてるなぁ

そんなたわいもない会話をしてると、すぐに麗奈のマンションの前についた

「ここなんで、もう大丈夫ですよ」

「はい、あの、麗奈さん」

「ん?」

「連絡先…知りたいです…」

「え」

「キモかったですか!?すみません!!忘れてください!」

「いいよ」

「へ」

「LINEでいい?」

「はい!!!!」

山﨑さんはガッツポーズして喜んでた
なんだか可愛い
山﨑さんを見てると麗奈は味わってこなかった青春を思い出すっていうか、なんだろう
手放したくない気持ちになる

「連絡していいですか?」

「もちろん!仕事の時とかは返すの遅れちゃうと思うけど」

「やっったぁ」

それから山﨑さんとラインでやり取りをするようになった

帰り道にいた猫の写真とか、校庭に咲いてた花の写真とか、お弁当を取り違えてごはんだけだったとか、たわいもない日常を連絡してくれた
麗奈は変わり映えしない毎日だから、山﨑さんからのラインにほっこりして癒されたし、山﨑さんからの連絡を楽しみに待ってる自分もいた

なんの気もなく話の流れで

山﨑さんとお散歩したら楽しそう☺︎

と送ったら

麗奈さんがよければ散歩しませんか?

と返事

することもないしすぐに返事をした

次の土曜日初めてコンビニ以外で山﨑さんと会う

待ち合わせ場所に向かうと山﨑さんは既に着いていた

「麗奈さん!私服めちゃくちゃ可愛い…」

「山﨑さんも制服以外見るの初めてで新鮮だぁ」

その日は本当に本当に楽しくて、ずっと笑わせてくれてた
それはもう口角がずっと笑顔の角度で固まっちゃうんじゃないかってくらい

「楽しかったぁ」
「私も楽しかったです!」
「そろそろ帰ろうか」
「えー、やだぁ」
「未成年はおうちに帰る時間です」
「何も言い返せない…あの、麗奈さん」
「ん?」

山﨑さんはそう言って立ち止まった

「わたし、駆け引きとか全然分かんないから、直球で伝えます」

「?」

「麗奈さんのことが好きなんです!」

え…
びっくりしすぎて言葉が出てこない

「何してても麗奈さんのことばっかり考えちゃって!学校にいてもバイトしてても家にいても、麗奈さんちゃんとご飯食べてるかなぁとか、会社で嫌なことないといいなぁとか…コンビニ寄ってくれるかなとか………ずっと考えちゃうんです…最初にくれたココアも大事すぎてまだ飲めてません!」

「…そうだったんだ…でもほら、年上のお姉さんが珍しいだけだよ…きっと、すぐに慣れるよ」

山﨑さんは眉毛を八の字にして悲しそうな顔をしていた

「自分の気持ちは自分がいちばん分かってます。そんなんじゃありません、麗奈さん」

右手を取られて両手でぎゅっとされる

「好きなんです。女だし高校生だけど………誰よりも麗奈さんのことが好きです。だから…ちょっとだけ向き合って欲しいです…」

すみません…と山﨑さんは小さな声で言った
あんなに明るくて溌剌としてる山﨑さんが耳まで顔を真っ赤にして勇気を出して告白してくれたことに、正直すごくキュンとした自分がいた

返事はすぐじゃなくていいからと伝えられ

そのあとは無言で麗奈の家まで歩いた

「今日はありがとうね」
「はい、あの、最後に」
「うん」
「高校生とか社会人とか、そういうのじゃなくて…山﨑天として…考えてくれたら嬉しい…です」
「分かった」

そう言葉を交わして山﨑さんと別れ帰宅する

「いやいやいやいやいやいや、えーーーー」

叫びながらぬいぐるみを抱きしめる

一旦冷静になろう

山﨑さんは麗奈のことが好き

ふふ、嬉しい

じゃなくて

告白されたからにはお付き合いするかしないかを答えないといけないわけだけど

麗奈は山﨑さんをどう思っている?

嫌い?

嫌いなわけない
嫌なところどこもなかった

むしろ好き

じゃあなんで告白にすぐ返さなかった?

それは、山﨑さんが高校生で麗奈は大人だから

大人は高校生と付き合わないから

「だよね…麗奈、世間体ばっかり気にしてた…」

山﨑天として…か…

うん


『もしもし』

「山﨑さん」

『麗奈さん、どうしたの?』

「ごめんね、こんな時間に、寝てた?」

『まだ22時だよ?子供扱いしすぎ!それで…どうしたんでしょうか…さっきの返事でしょうか…』

「麗奈ね、あの後考えたの」

『うん』

山﨑さんの声色がだんだんと暗くなる

「麗奈ね、山﨑さんのこと好きかどうか考えたんだけどね?麗奈もね、気づいたら山﨑さんからのライン楽しみにしてたし、山﨑さんシフト入ってるかなって覗いちゃうし、さっきのお散歩もすごく楽しかったの、あんなに笑ったの久しぶりだったんだ」

『お、お散歩…デートのつもりだったんだけどな…』

「麗奈、山﨑さんのこと好きなのかな?」

『それ私に聞く!?麗奈さんらしいけど』

「麗奈あんまりこういうの分かんなくて…」

『ふふ、そしたらさ、こう考えたらいいんじゃない?』

「うん」

『もし私が他の人と付き合ったら麗奈さんどう思う?』

「え、すっごく嫌」

『返事はやいな 麗奈さん!明日また告白するんで!覚悟しててください!』

勢いで山﨑さんに電話しちゃった

ふふ
決心がついたよ


次の日、仕事帰り
山﨑さんとの待ち合わせ場所に向かう

なんだか緊張するなぁ
そのせいか眉間に力が入ってしまう

「麗奈さん」

山﨑さんは先についていた

「なんでそんな険しい顔してるのw寒い?」

「緊張しちゃって」

「わたしも」

向かい合って、ほんの少しの沈黙

山﨑さんは小さく うん と頷き深呼吸をした

「麗奈さんが好きです。付き合ってください」

山﨑さんはまっすぐ麗奈の目を見る
緊張のせいか手を固く握りしめている

麗奈の答えは決まってる

「よろしくお願いします」

そう言って山﨑さんの手を握った

「っ!わああ緊張したー!!」

「答えわかってたでしょ?」

「分かってたけど、麗奈さんってよく分かんないから分かんなくて」

「何言ってるの?」

「これも手のひらで転がされてたのか…?」

「麗奈はピュアだよ」

「麗奈さん麗奈さん」

「はい」

「あの、お願いがあって」

「うん、なに?」

「天って呼んで欲しいです」

「山﨑さん♡」

「ねえ!!天って呼んでってば!!」







「麗奈?」

天ちゃんが麗奈の顔を心配そうに覗き込む

「んー?何でもないよ、麗奈も明日のデート楽しみなんだぁ」

「そうなの!嬉しいなぁ、あのね、パーカーお揃いしたいの」

「いいね、白のやつ?黒のやつ?」

「白!」

天ちゃんと付き合って毎日が本当に幸せになったんだ


1/13ページ
スキ