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割れた星

総北高校を卒業後、俺と鳴子、小野田の三人はバラバラの大学へと進学した。
俺は当初希望していた静岡の大学の進学を家庭の事情で諦め、東京の大学へ。
鳴子は大阪。
そして、小野田は京都の大学を選んだ。
てっきり、三人で静岡の大学へ行くものだと思っていた俺は大学で自転車競技部に入ったものの、ポッカリと穴の空いた様な気持ちでロードに乗っているせいかタイムも縮まらないまま、授業と課題に追われる生活。
たまに大会で一緒になる鳴子や小野田はいい成績を出していて、置いていかれる様な感覚だった。
そんな最中、降って湧いた話。
「俊輔…会社を継ぐ気はあるか?」
夕食時、珍しく食卓についた父親に言われ、俺は嫌な予感がして持っていたナイフを落とした。
理由を聞けば、父親の持病が悪化したらしい。
俺が東京の大学を選んだのも、すでに父親に見つかっていた持病の不安から経営に関する事を学ばなくてはならなくなったからだったが、漠然と大学在学中はロードに乗っていられると思っていた。
父親が早々に引退したい理由がもっとふざけた物だったら良かったのに。
相談も何もないが、俺は誰かに話を聞いてほしかったんだと思う。
大会に何をしにきたんだと高校生の俺なら言い放つだろうが、俺はスタート前の会場で小野田を探していた。
あの小さな体を群衆の中で見つけるのは至難の技。
しかし、俺には見つけられる。
小野田の放つ夜空に輝く星の様なオーラを感じとればいいだけの話。
「小野田っ!」
群衆に埋もれる小野田を見つけて、すぐに声を掛けたのを後悔した。
叫んだ後になって、小野田の向こうに御堂筋の姿を見つけて。
「わぁ!今泉くん!久しぶり!」
小野田は俺を見て笑顔で言うが、俺はその笑顔より、小野田が隠すように触れていた御堂筋の腕からさっと手を離す瞬間に目を奪われていた。
小野田がわざわざ京都の大学を選んだ理由。
それをまざまざと見せつけられた様だった。
御堂筋は、小野田に一言二言耳打ちすると、俺を一瞥してその場から離れていく。
小野田から離れた御堂筋は猫背で相変わらず不気味な雰囲気だったが、小野田の隣にいた御堂筋はスタート前の熱気が溢れる群衆から小野田を守る様にも見えていた。
「この前の大会も一緒だったんだよね?会えなかったけど」
思わず御堂筋を目で追う俺に、小野田が話しかけてくる。
「あ…あぁ、そうだな。小野田は準優勝だったよな、表彰式見た」
「山で御堂筋くん引いてて、気が付いたら準優勝してただけなんだけどね」
小野田は謙遜しながらも、フフっと照れた様に笑う。
どこか誇らしげなのは、御堂筋が優勝したからだろうか。
思えばこの前の表彰式でも小野田は自分の順位を喜ぶでも悔しがるでもなく、真っ直ぐに温かい目で一番高い表彰台に上がる御堂筋をずっと見上げていた。
「鳴子もスプリント獲ってたしな」
俺は御堂筋の話から離れたくて鳴子の話を振ったが、完全にやぶへびだったと思う。
「今泉くんは…」
ほら、こうやって俺の話になるから。
「俺は入賞すらダメだったよ。最近忙しくて練習出来てなくて…」
俺は当たり前の様に言ったが、それは完全な言い訳。
練習はしていた。
ただ、それが惰性でしているような、何の役にも立たない練習だっただけ。
父親は、幼かった息子に買い与えたロードを今だに続けていることを喜んでくれていた。
だから、地元の県立高校を選んだ時の様に、静岡の大学へ行く事も反対はしなかった。
けど、俺は家庭の事情として東京の大学を選んだ。
それを決めたのは、小野田から京都の大学へ行くと聞いた日。
鳴子は早々に大阪の大学への進学を希望していたから、すでに三人で同じ大学へは行けないと知っていたし、俺だけ静岡に進学する道だってあった。
でも、小野田の進学先を聞いた時、何かが終わったんだと思う。
かといって、小野田のせいにするつもりはないが。
今回だって、会社を継ぐことを強制されている訳じゃない。
だけど俺は、また今日決めた。
「親の会社、継ぐことになったんだ」
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