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3月14日

翌日の放課後。
「おつかれ、御堂筋」
石垣は、坂道に会ったお陰で御堂筋の機嫌がすっかり良くなっているものと気楽に部室に顔を出すが、御堂筋の心中は複雑で機嫌が良いとは行かなかった。
特に石垣に対しては。
「暇やね、石垣くぅん…学ラン預かっとるよ?ゴミ箱に捨ててあるから、拾てけば?」
実際、御堂筋がゴミ箱に入れていた石垣の学ランは、朝練の時に気がついた山口が拾って石垣が使っていたロッカーに避難させられていたが、隣で話を聞いていた山口はそれを言い出せないまま、自分も避難する様に部室の外へ出ていった。
「ゴミ箱って…まぁえぇけど…さ、御堂筋。昨日小野田くんからその学ランのお礼にってマシュマロ貰ったんや」
「知っとる。食ってえぇよ」
御堂筋の表情は食べても良いと好意的なセリフを言う顔ではなかったが、石垣は気にしないように努めてから、本題に入る。
「でさ、その袋の中にコレ入ってて…御堂筋のかなって」
そう石垣が御堂筋に差し出したのは、御堂筋のグレーのスヌードと、小さなメッセージカード。
御堂筋は、スヌードとそのメッセージカードを奪い取るとカードの中を確認して真っ赤になる。
「見たんか?」
「み…見てない見てない見てない!」
全力で否定する石垣だったが、石垣は嘘が吐けないタイプ。
相手が御堂筋とくれば、それが嘘だとはバレない訳がなかったが、御堂筋が「ほか」と納得した様にスヌードとメッセージカードをロッカーの中にしまいこんだのは、多分ロッカーの扉で顔の赤さを隠したかったからだろうと石垣は思った。
本当は中を見ていた石垣が読んだ真っ直ぐ過ぎる『大好きだよ』というメッセージは、真っ直ぐすぎて自分宛ではないとすぐに理解したが、ぎくしゃくとカードを閉じて御堂筋と同じ様な反応をしてしまったから。
部員達は昨日に引き続き機嫌の悪い御堂筋に怯えていたが、真っ直ぐな感情を惜しみ無く伝えられているせいか随分と人間らしくなった…と石垣はつい笑ってしまって、それに気がついた御堂筋はドリンクを煽るように飲んで空になったボトルを石垣に投げつけ、呟く様に言う。
「マシュマロ喉に詰まって思いっきり噎せてまえ」
「そう言わずに一緒に食べんか?」
「いらん!」
ライバルによって人は強くなる。
大事な人が出来ても人は強くなる。
だから、ライバルであり恋人である坂道を得た御堂筋は、これからも強くなるであろう。
頼れる後輩に、石垣は心配で卒業後も来てしまっていた部室を安心して離れる事が出来そうだと思った。


坂道がバレンタインのお返しを受け取ったのは、京都から夜行バスで家に帰った15日の朝。
坂道に届いたプレゼントは、瓶いっぱいに詰まったレモンキャンディー。
飴なんて月並みすぎると思っていた御堂筋に、ユキは言う。
「飴は“あなたが好き”って意味だよ」と。



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