Happy Birthday For…
ソファに座り、膝に置いたノートPCで航空券の予約をしている御堂筋の足元でパスポートを眺めていた坂道は言う。
「ねぇ?本当にイタリアのレース出ないの?」
御堂筋は、またその話かという顔で坂道をチラリと見ただけで、すぐにPC画面に視線を戻した。
二人はプロとして同じ海外チームでロードの世界に身を置いている。
今は年間契約はあるものの、怪我でもすれば契約解除もあり得る厳しい世界。
慣れない海外の上、先はどうなるか分からないという綱渡りな生活だから節約の為…という名目で一緒に暮らしているが、実際は恋人同士であった。
念入りに隠すわけでもなく堂々とイチャイチャしていたりもするが、そのイチャイチャはどこまでいっても日本人基準であって、海外のそれからしたら大したことはないし、日本語で交わされる甘い会話は周囲には伝わらないから、二人はただのチームメイトとして常に帯同してる様にしか映らず、周囲は事実を多分知らない。
御堂筋は、一年近く前から3月に行われるイタリアのレースの欠場を坂道の分も含めてチームに申し入れていた。
当初二つ返事に受け入れていたチーム側だったが、予想以上に飛躍する日本人二人の勝率にイタリアのレースが近づくにつれ、その申し出は無かったことにされかねない状況にある。
そうは言っても御堂筋は押せば折れるような日本人ではなく、チームはレース中以外の時は押さずとも折れる坂道にターゲットを絞ったようだ。
「マネージャーさん怒ってたよ?」
坂道は御堂筋の無視に負けじと話しかけるが、暖簾に腕押し。
「窓際と通路側どっちにする?」
そうお構い無しに御堂筋に問いかけられ、坂道は「窓際」と渋々答えた。
話を聞いてくれる気がない態度に、坂道は不貞腐れる様に床に転がって、上目遣いに御堂筋を見る最終手段に出る。
「僕、あの金色のフォーク欲しいなぁ…」
「…三叉槍や」
「そう!その三叉槍。アレ御堂筋くん似合うと思うなぁ」
「…どういう意味で?」
「王者って感じ?」
「悪魔の間違いやなくて?」
「うーん…そうとも言える…かな?」
金の三叉槍は3月にイタリアで開催されるレースでの優勝者の証。
それを気楽にねだるのは坂道が御堂筋の力を信じているからこそ出てくる言葉だったが、それをねだる理由がマネージャーによる圧力と知っていた御堂筋は、子供騙しの坂道の作戦には掛からなかった。
「どうせ乱気流の度に便所に駆け込むんやし、キミは通路側やね」
わざとらしく悪魔の様な笑みを浮かべた御堂筋は坂道からパスポートを取り上げると、慣れた手付きで必要事項を打ち込み、航空券の予約を完了させる。
そしてPCをテーブルに置くと、代わりに転がっていた坂道拾い上げ、膝に乗せた。
「なに言われてもレースには出んよ。金の三叉槍より大事な物があるやろ?」
何故レースに出ないのか。
理由を知っていた坂道は諦めて御堂筋の肩に額を寄せるも、試しに違うワガママを言ってみる。
「二人でレースお休みするなら、二人っきりでどこか行きたいなぁ」
普段なら二回に一回のワガママは通るのだが、今日は勝手が違った。
御堂筋は駄々っ子をあやすように坂道の頭を撫でると、自分の方を向かせてからしっかりと目を合わせ、噛み砕くようにゆっくりと言う。
「ダメや。坂道の誕生日は、日本に帰るんよ」
「ねぇ?本当にイタリアのレース出ないの?」
御堂筋は、またその話かという顔で坂道をチラリと見ただけで、すぐにPC画面に視線を戻した。
二人はプロとして同じ海外チームでロードの世界に身を置いている。
今は年間契約はあるものの、怪我でもすれば契約解除もあり得る厳しい世界。
慣れない海外の上、先はどうなるか分からないという綱渡りな生活だから節約の為…という名目で一緒に暮らしているが、実際は恋人同士であった。
念入りに隠すわけでもなく堂々とイチャイチャしていたりもするが、そのイチャイチャはどこまでいっても日本人基準であって、海外のそれからしたら大したことはないし、日本語で交わされる甘い会話は周囲には伝わらないから、二人はただのチームメイトとして常に帯同してる様にしか映らず、周囲は事実を多分知らない。
御堂筋は、一年近く前から3月に行われるイタリアのレースの欠場を坂道の分も含めてチームに申し入れていた。
当初二つ返事に受け入れていたチーム側だったが、予想以上に飛躍する日本人二人の勝率にイタリアのレースが近づくにつれ、その申し出は無かったことにされかねない状況にある。
そうは言っても御堂筋は押せば折れるような日本人ではなく、チームはレース中以外の時は押さずとも折れる坂道にターゲットを絞ったようだ。
「マネージャーさん怒ってたよ?」
坂道は御堂筋の無視に負けじと話しかけるが、暖簾に腕押し。
「窓際と通路側どっちにする?」
そうお構い無しに御堂筋に問いかけられ、坂道は「窓際」と渋々答えた。
話を聞いてくれる気がない態度に、坂道は不貞腐れる様に床に転がって、上目遣いに御堂筋を見る最終手段に出る。
「僕、あの金色のフォーク欲しいなぁ…」
「…三叉槍や」
「そう!その三叉槍。アレ御堂筋くん似合うと思うなぁ」
「…どういう意味で?」
「王者って感じ?」
「悪魔の間違いやなくて?」
「うーん…そうとも言える…かな?」
金の三叉槍は3月にイタリアで開催されるレースでの優勝者の証。
それを気楽にねだるのは坂道が御堂筋の力を信じているからこそ出てくる言葉だったが、それをねだる理由がマネージャーによる圧力と知っていた御堂筋は、子供騙しの坂道の作戦には掛からなかった。
「どうせ乱気流の度に便所に駆け込むんやし、キミは通路側やね」
わざとらしく悪魔の様な笑みを浮かべた御堂筋は坂道からパスポートを取り上げると、慣れた手付きで必要事項を打ち込み、航空券の予約を完了させる。
そしてPCをテーブルに置くと、代わりに転がっていた坂道拾い上げ、膝に乗せた。
「なに言われてもレースには出んよ。金の三叉槍より大事な物があるやろ?」
何故レースに出ないのか。
理由を知っていた坂道は諦めて御堂筋の肩に額を寄せるも、試しに違うワガママを言ってみる。
「二人でレースお休みするなら、二人っきりでどこか行きたいなぁ」
普段なら二回に一回のワガママは通るのだが、今日は勝手が違った。
御堂筋は駄々っ子をあやすように坂道の頭を撫でると、自分の方を向かせてからしっかりと目を合わせ、噛み砕くようにゆっくりと言う。
「ダメや。坂道の誕生日は、日本に帰るんよ」
1/5ページ