隣にいるのに……
僕はお母さんにいれて貰ったお茶をトレイに載せて、自室のドアを開けた。
部屋には、長い足を折り畳むように座る御堂筋くんの姿。
狭いとか特に不満に思った事はない部屋だったのに、今日はやけに狭く感じるし、なんだか緊張する。
「…っわ!!」
僕はお約束の様にドアの小さな段差に躓いたけど、それを見越したかの様に立ち上がっていた御堂筋くんがトレイと僕を支えてくれて、事なきを得た。
「ご、ごご…ごめん!」
そのままトレイを取ると、御堂筋くんは何事もなかったかの様にローテーブルに湯飲みを置く。
「あ…あの…お母さんに京都から友達が来るって言ったら、上等なお茶を用意してくれたんだ!だから、きっと美味しいと思う!」
自分で用意もしていないお茶を勧める僕に、御堂筋くんが微かに笑った。
「友達?」
「…っ!それはっ…」
僕は真っ赤になって口ごもる。
御堂筋くんと僕は所謂お付き合いをしていて、正解に言えば、今日僕の部屋にいるのは友達ではなく彼氏。
お母さんにそれは言い出せなかったけど、かと言って友達として紹介するのは御堂筋くんに失礼だったかな。
お付き合いなんてものをしたことない僕は、そこまで頭が回らなかった。
「ごめん…えっと…僕お母さんに友達じゃないって言っ…」
「冗談やよ?」
御堂筋くんは僕の言葉を遮る様に言うと、呆れた顔をしてお茶を一口すする。
「いきなりこんなん連れてきて彼氏ですーって、お母さん驚いてまうわ」
「じ…冗談かー」
アハハと笑ってごまかすと、御堂筋くんはフイと目を細めて言う。
「正式な挨拶はボクが坂道養えるくらい賞金稼いでから来させてもらうわ」
それは、プロポーズ…なのだろうか。
真っ赤になった僕の手に御堂筋くんの手が重なる。
窓からの光が陰ったかと思うと、御堂筋くんの顔が近付いてきて僕は思わず目を瞑った。
『バン!!』
突然、けたたましく開けられるドアの音。
「御堂筋くんがお土産に持ってきてくれた八つ橋持ってきたわよー!あとピーナッツ煎餅!御堂筋くんのお家の分もあるからお土産に持って帰ってね!」
お母さんの声に目を開けると、そこに御堂筋くんの姿はない。
「気ぃ使わせてしもうてすみません、おおきにぃ」
振り返ると、お母さんからお茶菓子を受け取る御堂筋くんが満面の笑みを携えていた。
遠距離恋愛の僕達は普段なかなか会えないというのにタイミングが悪すぎるにも程がある。
「お母さん!呼んでくれたら取りに行くから!」
「え?いいわよ!お母さん、御堂筋くんみたいなお行儀いい子好きなんだもの!」
「お母さん!!もういいから!」
僕は御堂筋くんとお母さんの間に割って入って、お母さんを部屋から追い出す。
「背も高くて格好いいし、お母さんまた見に来ちゃうわー」
閉めようとするドアの隙間から、お母さんの声が聞こえて恥ずかしくなった。
呆気にとられた顔をした御堂筋くんは、お母さんから受け取ったお皿から八つ橋を一つ取り、一齧りしてから残りを僕の口に押し込みつつ言う。
「ボクの事好きって…そういうDNAなん?」
「でも、ウチのお父さんは御堂筋くんみたいじゃないよ?」
「そらそうやろな…ボク、坂道のお父さんになりたないし」
…と、御堂筋くんの長い指が僕の唇をなぞる。
多分、唇に付いていた八つ橋の粉を取ってくれただけなんだろうけど、ドキドキしてしまっていた僕に見せつける様に自分の指に付いた粉を舐めてみせる御堂筋くんは意地悪だと思った。
またいつお母さんが嵐の様にやってくるか分からないこの部屋では、さっきの続きをせがむこともできないのに。
「早く邪魔されなくなりたいから…あの挨拶…なるべく早く来てくれる?」
友達ではなく恋人ですと紹介したら、少しは気を使ってくれるかもしれない。
そう思った僕が頼むと、御堂筋くんはへたり込んで呟いた。
「挨拶したとこでお母さん達の前じゃ出来ない様なコト我慢してるんやから、今そんな可愛ぇこと言わんでくれる?」
「え!!えーと…えーと…」
僕は真っ赤になってワタワタと無駄な動きをしてから、小さく咳払いをして御堂筋くんの隣に座る。
そして、いつドアが開いても見えない様に隠しながら、御堂筋くんの小指に自分の小指を絡ませた。
「今は、これで我慢してくれる?」
「・・・・・・・・・・おん」
せっかく隣りにいるのに、キスさえも出来ない。
END
部屋には、長い足を折り畳むように座る御堂筋くんの姿。
狭いとか特に不満に思った事はない部屋だったのに、今日はやけに狭く感じるし、なんだか緊張する。
「…っわ!!」
僕はお約束の様にドアの小さな段差に躓いたけど、それを見越したかの様に立ち上がっていた御堂筋くんがトレイと僕を支えてくれて、事なきを得た。
「ご、ごご…ごめん!」
そのままトレイを取ると、御堂筋くんは何事もなかったかの様にローテーブルに湯飲みを置く。
「あ…あの…お母さんに京都から友達が来るって言ったら、上等なお茶を用意してくれたんだ!だから、きっと美味しいと思う!」
自分で用意もしていないお茶を勧める僕に、御堂筋くんが微かに笑った。
「友達?」
「…っ!それはっ…」
僕は真っ赤になって口ごもる。
御堂筋くんと僕は所謂お付き合いをしていて、正解に言えば、今日僕の部屋にいるのは友達ではなく彼氏。
お母さんにそれは言い出せなかったけど、かと言って友達として紹介するのは御堂筋くんに失礼だったかな。
お付き合いなんてものをしたことない僕は、そこまで頭が回らなかった。
「ごめん…えっと…僕お母さんに友達じゃないって言っ…」
「冗談やよ?」
御堂筋くんは僕の言葉を遮る様に言うと、呆れた顔をしてお茶を一口すする。
「いきなりこんなん連れてきて彼氏ですーって、お母さん驚いてまうわ」
「じ…冗談かー」
アハハと笑ってごまかすと、御堂筋くんはフイと目を細めて言う。
「正式な挨拶はボクが坂道養えるくらい賞金稼いでから来させてもらうわ」
それは、プロポーズ…なのだろうか。
真っ赤になった僕の手に御堂筋くんの手が重なる。
窓からの光が陰ったかと思うと、御堂筋くんの顔が近付いてきて僕は思わず目を瞑った。
『バン!!』
突然、けたたましく開けられるドアの音。
「御堂筋くんがお土産に持ってきてくれた八つ橋持ってきたわよー!あとピーナッツ煎餅!御堂筋くんのお家の分もあるからお土産に持って帰ってね!」
お母さんの声に目を開けると、そこに御堂筋くんの姿はない。
「気ぃ使わせてしもうてすみません、おおきにぃ」
振り返ると、お母さんからお茶菓子を受け取る御堂筋くんが満面の笑みを携えていた。
遠距離恋愛の僕達は普段なかなか会えないというのにタイミングが悪すぎるにも程がある。
「お母さん!呼んでくれたら取りに行くから!」
「え?いいわよ!お母さん、御堂筋くんみたいなお行儀いい子好きなんだもの!」
「お母さん!!もういいから!」
僕は御堂筋くんとお母さんの間に割って入って、お母さんを部屋から追い出す。
「背も高くて格好いいし、お母さんまた見に来ちゃうわー」
閉めようとするドアの隙間から、お母さんの声が聞こえて恥ずかしくなった。
呆気にとられた顔をした御堂筋くんは、お母さんから受け取ったお皿から八つ橋を一つ取り、一齧りしてから残りを僕の口に押し込みつつ言う。
「ボクの事好きって…そういうDNAなん?」
「でも、ウチのお父さんは御堂筋くんみたいじゃないよ?」
「そらそうやろな…ボク、坂道のお父さんになりたないし」
…と、御堂筋くんの長い指が僕の唇をなぞる。
多分、唇に付いていた八つ橋の粉を取ってくれただけなんだろうけど、ドキドキしてしまっていた僕に見せつける様に自分の指に付いた粉を舐めてみせる御堂筋くんは意地悪だと思った。
またいつお母さんが嵐の様にやってくるか分からないこの部屋では、さっきの続きをせがむこともできないのに。
「早く邪魔されなくなりたいから…あの挨拶…なるべく早く来てくれる?」
友達ではなく恋人ですと紹介したら、少しは気を使ってくれるかもしれない。
そう思った僕が頼むと、御堂筋くんはへたり込んで呟いた。
「挨拶したとこでお母さん達の前じゃ出来ない様なコト我慢してるんやから、今そんな可愛ぇこと言わんでくれる?」
「え!!えーと…えーと…」
僕は真っ赤になってワタワタと無駄な動きをしてから、小さく咳払いをして御堂筋くんの隣に座る。
そして、いつドアが開いても見えない様に隠しながら、御堂筋くんの小指に自分の小指を絡ませた。
「今は、これで我慢してくれる?」
「・・・・・・・・・・おん」
せっかく隣りにいるのに、キスさえも出来ない。
END
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