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歯ブラシ

御堂筋くんと一緒に暮らすことになった。
実家を出ると言う不安より御堂筋くんとの生活への期待の方が大きくて、なんだか申し訳ないけどホームシックにはならなそう。
僕は実家から送った荷物の荷ほどきもそこそこに、これを機に新しく買い揃えた日用品の中から真新しい黄色の歯ブラシを取り出す。
ベタだけど、僕と御堂筋くんの二本の歯ブラシが並ぶシチュエーションは二人暮らしの醍醐味だと思う。
僕が早速洗面所に向かうと、ちょうど御堂筋くんも新しい歯ブラシのパッケージを開けているところに出くわした。
「歯ブラシ置くん、ここでえぇ?」
洗面所脇の棚を指差して、鏡越しに僕を見てくる御堂筋くんと長らく遠距離恋愛をしていたせいか、そんな一挙手一投足にドキドキさせられてしまう。
僕は「うん」とだけ答えて、棚に置かれたばかりの歯ブラシ置き場に黄色い歯ブラシを差そうとしたのだが、すでに立てられていたピンクと紫の歯ブラシに疑問を抱いた。
「これ、僕の?」
「ボクのや。坂道のは自分で持ってるやろ?」
何をボケているのかと言うように、御堂筋くんは僕の手から歯ブラシを取ると、すでに立てられていた二本の歯ブラシの隣に差す。
「え?待って。なんで御堂筋くんの歯ブラシ二本あるの?」
「全体用と部分用や」
「えええっ!?」
当たり前の様に言う御堂筋くんに、僕は驚愕した。
育った環境が違うし、関東と関西だから味覚とか一緒に暮らし始めたらズレの様な色んな気付きがあるだろうけどは思ってはいたけど…。
「なんか、思ってたのと違う…」
僕の心の声は、ボソッと外に出ていた。
「なに?二本並んだ歯ブラシ的なアレ想像してたん?やらしいなぁ…」
ニヤニヤと僕の顔を覗き込んでくる御堂筋くん。
いつもなら、真っ赤になって否定していたと思うけど、実家を出て、御堂筋くんと二人暮らしとはいえ一応自立らしい事をした僕は言い返す。
「これじゃ、家に居た時と変わらないじゃないか!」
両親と僕。三本並んだ歯ブラシは見慣れた光景すぎて、二人暮らしをしてる感じがしない。
御堂筋くんが“萌え”を理解してくれないなんて!
僕は打ちひしがれた。
「坂道も二本使ったらえぇんやないの?そんなら坂道の家の本数とも違うし、偶数ならえぇんやろ?」
僕は御堂筋くんの提案にぽかんとする。
偶数なら…いいのか?
そうかもしれないし、そうじゃない様な気もする。
いや、やっぱり何か違う気がする。
混乱していると、御堂筋くんは僕にキスをしてからニヤリと言う。
「これからは毎日こーいう事するし、歯磨き大事やろ?」
僕は真っ赤になって、再び打ちひしがれた。
僕にとっての最大の“萌え”は御堂筋くんであって、そうである事を僕以上に理解してるのは御堂筋くんだと。

それから、僕達の家には四本の歯ブラシが並んでる。



END
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