幸せな夢から目覚めた朝
味噌汁の匂いが鼻をくすぐる。
台所からパタパタと音が近づいてきたかと思うと、ボクは重い瞼を開けた。
「翔ぁ!はよ起きんと。この子はもう!」
ぼんやりした視界の中、母が困った様な表情でボクを見ている。
ボクは母を困らせたくなくて、パッチリと目を開くとボクを眠りに誘い込んでくる布団を勢いよく剥いだ。
「早う着替えてー、朝ごはんもちゃんと食べて行かなあかんよー」
壁には京都伏見の学ランが掛かっている。
ボクは何か違和感を感じながらも、その学ランに早く袖を通さなくてはならないのは理解して、ふわふわとした感覚で制服を着ると、台所へ向かった。
食卓には、ゆっくりと湯気をあげる味噌汁と目玉焼きと幾つかのばんざいが添えられた皿が用意してあって、それがボクの朝食なのだろう。
「はよ起きないから、完熟になってしもたんよ」
母の声に皿を見るが、皿の上の目玉焼きは半熟で箸を入れたら黄身が零れ出しそうでボクは意味が分からなかった。
「だから、失敗作はおかんのや」
台所に置かれた皿には、完熟になったらしい目玉焼きの乗った皿。
でも、母はまだパタパタと動き回っていて、一緒に食卓を囲む気はないらしい。
一緒に食べたらいいのに。
そう思ったが、ボクは忙しそうな母に声を掛けずに「いただきます」と手を合わせ味噌汁に箸をつける。
そうしていると、母は食卓にドンと大きなお弁当を置くと、慣れた手付きで包んでいた。
「ほんま毎日がお重やわー」
一つ愚痴を吐くが、ふんわりと母は笑っている。
「でも、これで翔が自転車頑張れるなら、安いもんやね」
母の声や笑顔は、ふんわりと黄色い幸せな色だった。
焦げ臭さが鼻をくすぐる。
「どひゃぁぁあ!」
そんな叫び声と鍋蓋を落とす音でボクは目を覚ました。
ベッドから見えるローテーブルの上には何枚もの皿が並べられていて、ボクはその皿の中身を確認しようと身を起こす。
「あぁ!ごめん!起こしちゃった?」
また新たな皿を持って現れた坂道。
皿を確認すれば、テーブルに乗った皿にも坂道の持った皿にも、全ての皿には目玉焼きが乗せられていた。
「何回やっても上手く半熟に出来なくて…」
卵焼きは、黄身が破れていたり、焦げていたり。
坂道の言うとおり半熟の目玉焼きは一つも無さそう。
「水入れとらんやろ?少し水入れて蒸すんやで?」
「え?そうなの!?じゃあ、作ってくる!失敗作は僕が食べるから、食べなくていいからね?」
そう言われ、用意されていた箸に手を伸ばしていたボクの手は宙を迷ってから、再びキッチンに戻ろうとする坂道へ。
「いらんよ。ボクこれでええ」
ボクは、小さい頃にそう言って怒られたのを思い出す。
“で”は作った人に失礼だと、烈火のごとく怒られた。
「そう?じゃあ、一緒に食べよう?次は上手く出来るように頑張るよ」
隣に肩を並べる様に座った坂道は「いただきます」と手を合わせ、どうやら烈火のごとく怒ることはないらしい。
「それがええ」
ボクは小さく呟いてから、さっきまで見ていた夢を思い出そうとした。
どんな夢だったか、ハッキリと思い出せない。
ふんわりと黄色いイメージは残っていたが、夢と現実の境目はとても曖昧すぎて…。
END
台所からパタパタと音が近づいてきたかと思うと、ボクは重い瞼を開けた。
「翔ぁ!はよ起きんと。この子はもう!」
ぼんやりした視界の中、母が困った様な表情でボクを見ている。
ボクは母を困らせたくなくて、パッチリと目を開くとボクを眠りに誘い込んでくる布団を勢いよく剥いだ。
「早う着替えてー、朝ごはんもちゃんと食べて行かなあかんよー」
壁には京都伏見の学ランが掛かっている。
ボクは何か違和感を感じながらも、その学ランに早く袖を通さなくてはならないのは理解して、ふわふわとした感覚で制服を着ると、台所へ向かった。
食卓には、ゆっくりと湯気をあげる味噌汁と目玉焼きと幾つかのばんざいが添えられた皿が用意してあって、それがボクの朝食なのだろう。
「はよ起きないから、完熟になってしもたんよ」
母の声に皿を見るが、皿の上の目玉焼きは半熟で箸を入れたら黄身が零れ出しそうでボクは意味が分からなかった。
「だから、失敗作はおかんのや」
台所に置かれた皿には、完熟になったらしい目玉焼きの乗った皿。
でも、母はまだパタパタと動き回っていて、一緒に食卓を囲む気はないらしい。
一緒に食べたらいいのに。
そう思ったが、ボクは忙しそうな母に声を掛けずに「いただきます」と手を合わせ味噌汁に箸をつける。
そうしていると、母は食卓にドンと大きなお弁当を置くと、慣れた手付きで包んでいた。
「ほんま毎日がお重やわー」
一つ愚痴を吐くが、ふんわりと母は笑っている。
「でも、これで翔が自転車頑張れるなら、安いもんやね」
母の声や笑顔は、ふんわりと黄色い幸せな色だった。
焦げ臭さが鼻をくすぐる。
「どひゃぁぁあ!」
そんな叫び声と鍋蓋を落とす音でボクは目を覚ました。
ベッドから見えるローテーブルの上には何枚もの皿が並べられていて、ボクはその皿の中身を確認しようと身を起こす。
「あぁ!ごめん!起こしちゃった?」
また新たな皿を持って現れた坂道。
皿を確認すれば、テーブルに乗った皿にも坂道の持った皿にも、全ての皿には目玉焼きが乗せられていた。
「何回やっても上手く半熟に出来なくて…」
卵焼きは、黄身が破れていたり、焦げていたり。
坂道の言うとおり半熟の目玉焼きは一つも無さそう。
「水入れとらんやろ?少し水入れて蒸すんやで?」
「え?そうなの!?じゃあ、作ってくる!失敗作は僕が食べるから、食べなくていいからね?」
そう言われ、用意されていた箸に手を伸ばしていたボクの手は宙を迷ってから、再びキッチンに戻ろうとする坂道へ。
「いらんよ。ボクこれでええ」
ボクは、小さい頃にそう言って怒られたのを思い出す。
“で”は作った人に失礼だと、烈火のごとく怒られた。
「そう?じゃあ、一緒に食べよう?次は上手く出来るように頑張るよ」
隣に肩を並べる様に座った坂道は「いただきます」と手を合わせ、どうやら烈火のごとく怒ることはないらしい。
「それがええ」
ボクは小さく呟いてから、さっきまで見ていた夢を思い出そうとした。
どんな夢だったか、ハッキリと思い出せない。
ふんわりと黄色いイメージは残っていたが、夢と現実の境目はとても曖昧すぎて…。
END
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