波しぶき
海沿いの道を走るのは気持ちがいい…けど、風が強いのは難点。
特に今日は暴風注意報も出るんじゃないかという強い風が吹く。
平坦が得意とは言えない僕は「こんな時やからこそ足鍛えられるんと違う?」と言われたら走る事を拒否出来るわけもなく、たまに「遅っ」と呟く御堂筋くんに煽られながら海岸線を行く。
左手に広がる海からの強風に車道側へと車体が寄ってしまい、車通りが少ない事に感謝した時だった。
ザッパーン!
と、波が防波堤に叩きつけられる音。
後続する車の有無に気をとられていた僕がその音の方へと視線を動かした時には、僕のバイクの左側に御堂筋くんのバイクの前輪が捩じ込まれていた。
僕が余りに遅いから?と思った矢先。
バシャン!
という水音と共に、防波堤を越えた波しぶきが御堂筋を襲う。
「うぇえ!?」
僕は思わず変な声を上げながら、ペダルを止める。
頭から波しぶきを被ってしまった御堂筋くんに運が悪い…と一瞬の同情をしてから、全くと言っていいほど濡れていない自分の姿と遅い僕を抜くなら右側から抜けばいいものをわざわざ狭い路肩にバイクを捩じ込んだ不自然な御堂筋くんの立ち位置に波しぶきから僕を守ったのだとやっと理解が追い付いた。
「あ!えっと…ごめんなさいっ!」
僕は咄嗟に謝るけど、僕の為に第二の防波堤となってくれたんであろうびしょ濡れになった御堂筋くんに差し出すタオルの一枚すら持ってはいない。
散々自分の汗を拭ったグローブで拭く訳にもいかないしでワタワタしていると、御堂筋くんは口に入ったらしい海水をぺっと吐き出た。
「し…しょっぱい?」
居たたまれず僕は馬鹿な質問をしてしまう。
「海水やしね」
御堂筋くんが髪をガシガシと乱暴に解いて海水を振り落とすと、頬にも一筋海水が流れる。
「濡れとらん?」
「え…うん」
「ほな、早よ行くで」
また前を走れと目配せをする御堂筋くん。
僕はイライラとした表情をする御堂筋くんのジャージを掴む。
「待って!あの…ありがとう。帰ったら洗車僕がするからね?」
「そないなことより早よ行け!」
やたらに急かす御堂筋くんの手がふいに僕の背中に延びる。
そして、僕はバイクごと引き摺られるようにすっぽりと御堂筋くんの胸に収まった刹那。
ザッパーン!
と、再び…先程より大きな波音が響いたかと思うと、バケツをひっくり返したような波しぶきに包まれた。
「せーやーかーらー早ーよー行ーけーとー」
僕は御堂筋くんのお陰でまた濡れずに済んだけど、御堂筋くんは見事にびしょ濡れ。
「ご…ごごごめんなさい!」
御堂筋くんの腕の中から逃げる様に離れた僕は、御堂筋くんを引いて家までペダルを回す。
帰ってからサイコンを見たら、今まで見たことのない速度を記していたのは、御堂筋くんが怖かったのではなくて風邪をひいて欲しくなかった…んだと思うことにする。
END
特に今日は暴風注意報も出るんじゃないかという強い風が吹く。
平坦が得意とは言えない僕は「こんな時やからこそ足鍛えられるんと違う?」と言われたら走る事を拒否出来るわけもなく、たまに「遅っ」と呟く御堂筋くんに煽られながら海岸線を行く。
左手に広がる海からの強風に車道側へと車体が寄ってしまい、車通りが少ない事に感謝した時だった。
ザッパーン!
と、波が防波堤に叩きつけられる音。
後続する車の有無に気をとられていた僕がその音の方へと視線を動かした時には、僕のバイクの左側に御堂筋くんのバイクの前輪が捩じ込まれていた。
僕が余りに遅いから?と思った矢先。
バシャン!
という水音と共に、防波堤を越えた波しぶきが御堂筋を襲う。
「うぇえ!?」
僕は思わず変な声を上げながら、ペダルを止める。
頭から波しぶきを被ってしまった御堂筋くんに運が悪い…と一瞬の同情をしてから、全くと言っていいほど濡れていない自分の姿と遅い僕を抜くなら右側から抜けばいいものをわざわざ狭い路肩にバイクを捩じ込んだ不自然な御堂筋くんの立ち位置に波しぶきから僕を守ったのだとやっと理解が追い付いた。
「あ!えっと…ごめんなさいっ!」
僕は咄嗟に謝るけど、僕の為に第二の防波堤となってくれたんであろうびしょ濡れになった御堂筋くんに差し出すタオルの一枚すら持ってはいない。
散々自分の汗を拭ったグローブで拭く訳にもいかないしでワタワタしていると、御堂筋くんは口に入ったらしい海水をぺっと吐き出た。
「し…しょっぱい?」
居たたまれず僕は馬鹿な質問をしてしまう。
「海水やしね」
御堂筋くんが髪をガシガシと乱暴に解いて海水を振り落とすと、頬にも一筋海水が流れる。
「濡れとらん?」
「え…うん」
「ほな、早よ行くで」
また前を走れと目配せをする御堂筋くん。
僕はイライラとした表情をする御堂筋くんのジャージを掴む。
「待って!あの…ありがとう。帰ったら洗車僕がするからね?」
「そないなことより早よ行け!」
やたらに急かす御堂筋くんの手がふいに僕の背中に延びる。
そして、僕はバイクごと引き摺られるようにすっぽりと御堂筋くんの胸に収まった刹那。
ザッパーン!
と、再び…先程より大きな波音が響いたかと思うと、バケツをひっくり返したような波しぶきに包まれた。
「せーやーかーらー早ーよー行ーけーとー」
僕は御堂筋くんのお陰でまた濡れずに済んだけど、御堂筋くんは見事にびしょ濡れ。
「ご…ごごごめんなさい!」
御堂筋くんの腕の中から逃げる様に離れた僕は、御堂筋くんを引いて家までペダルを回す。
帰ってからサイコンを見たら、今まで見たことのない速度を記していたのは、御堂筋くんが怖かったのではなくて風邪をひいて欲しくなかった…んだと思うことにする。
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